Guided
by Voices
"Jack Sells the Cow"
Robert Pollard (2012:Guided By Voices Inc.)
Producer, Engineer, Recorded By, Bass, Drums, Guitar, Keyboards - Todd
Tobias
Written-By, Vocals, Guitar, Layout - Robert Pollard
めっちゃポップ。でも、どっかエッジが甘い。たるんとわずかに弛緩してる。
前作から半年後、作曲と歌がボブで製作と楽器が基本的にトッドの二人三脚な体制で本作も録音した。全12曲、小品の実験曲連発でなく、比較的ジックリ曲をまとめた方向性の作品だ。
前のソロ・アルバムから本作の間に再結成GbV本体の2nd"Class Clown Spots A UFO"、本作発売の2ヶ月後に、本体の3rd"The
Bears For Lunch"がリリース。ほんらいはバンドのほうへ集中すればいいものを、ボブはソロも旺盛にリリースをやめない。
本盤発売の2012年9月は、GbVの"Class Clown Spots A UFO"ツアー真っ最中なのに。
逆に実験的なのをソロでってわけでもない。前述のとおり本作はきっちりとポップなロックンロールが詰まってる。どうせならわざわざ発表名義を変える必然性は今一つわからず。
録音時期がもう少し細かく判明すれば、製作の必然性が想像できるかも。例えば単に、前ソロからポップな曲をまとめて、段階的に出したとか。
本作からはシングルは無し。ほんとうにひょこっとリリースされた印象だ。
GbVdbを見ても、本盤がライブで演奏の記録は無い。ポップでライブでも映えそうな曲が詰まってるのに。何とももったいない話だ。
<全曲紹介>
1. Heaven Is A Gated
Community 3:30
ザクッとしたギターのストローク。緩やかにボブがメロディを提示する。どこか崩れそうなギターだ。おもむろにドラムが加わり、バンド的に盛り上がる。本作でも多重録音ながらバンド的なグルーヴを出す、トッドの手腕が楽しめる。
リタルダンドしたりとテンポが揺れる、多重録音でめんどくさそうなアレンジを採用しながらきっちりサウンドはまとまってる。
テンポはゆっくりめだが、着実にサビは強くメロディを作った。だが単純には盛り上がらない。抜けを入れたりメリハリつける。
その一本調子でいかないとこが、妙に寂し気で危うい。中盤のダブル・トラックのハーモニーはオフ気味にミックスされた。
最後に広がりあるシンセでスペイシーな風景を漂わせるアイディアが見事。
2. Take In 2:14
メロウなメロディが淡々と繰り返される。シンプルでキャッチー。これこそアップテンポにして派手なギター・ストローク決めたら往年のGbVにつながる良い曲なのに。
なぜかボブはグッとテンポを落として、じわじわと楽曲を紡ぐ。ハイトーンを織り交ぜる跳躍する歌いかたもかっこいい。盛大に盛り上がりそうな曲。埋もれてるのが惜しい。
3. Who's Running My Ranch? 3:29
早回しかアジ演説か。テープ処理の短いイントロを経て、がっつりシャープでタイトなギター・リフにつなげる。リバーブやディレイ処理のボーカルがサイケに揺れるけれど。サビでいきなりクリーンに鳴り、どんどん切れ味増す楽曲が良い。佳曲が詰まった本盤だが、中でもこの曲はシングルに似合う。もちろん、ライブにも。
録音技術が凝ったアレンジながら、素なバンド編成も似合う。ただ何故か、本テイクは少しばかりこじんまり。多重録音のせいか。発散せず小奇麗にまとめた。
数本のギターが飛び交い、SE含むもわもわとかき回す音作りはずいぶん凝っている。
4. Up For All That 2:39
ほのぼのしたミドルテンポのロック。のどかなメロディが広がる。ギター・ストロークも滑らか、ちょっとモタるドラムがいなたい味わいを強調した。薄く鍵盤をかぶせて厚みを出すアレンジ・センスがベタながら効果的だ。
ベースの低音がサウンドを支え、サビ後のギターも低いところから緩やかにメロディをあまり崩さぬソロで盛り立てた。派手さはないが、寛げる良い曲。
5.
Pontius Pilate Heart 3:30
せわしなく刻むハイハット、ドライブするベース。ロックンロールを素直に決めた。あまりギターのストロークをゆがめず、すっきりヌケのいいサウンドに仕上げてる。
メロディはボブ節でクッキリしつつ、ちょっと煮え切らぬ甘さを持った。サビでさっとハイトーンに飛ばす節回しが滑らかだ。地味な作りながら、ライブで盛り上がる潜在力を持つ。アルバム収録に留まるポジションは惜しい。
6. Big Groceries 2:04
Aメロ冒頭を少しばかり単調に流し、一気にポップに展開するメロディ・ラインがにくい出来。ちょっと調子っぱずれの気の抜けたボーカルだ。演奏はかっちりタイトなパワー・ロックなのにな。
その割に、フェイクはきれいに決まる。どうにももどかしい歌声。
7. Fighting The Smoke 2:25
重たく歪んだギター・リフ。低く這う歌声。不穏なムードで突き進む。シンバル連打の激しいドラムがビートをあおり、ベースは拍頭でぐいぐい刻んだ。
メロディも途中から下降気味、鈍く太いギターが歌を支える。サビのフレーズはポップながら、あまりいじらず。
しかし大サビのブレイクで多重ボーカルで、サクッと盛り上げた。もっと華やかにもできたと思うが、渋いムードはそのままに。これもライブのムードを変えるハードな色合いで、いい感じに聴けると思う。
8. The Rank Of A Nurse 2:41
しっとりなスロー。ギターのストロークに鍵盤を足すアレンジで、リズムを抜いた。隙間の多い伴奏の上を、堂々とボブは歌い上げた。素晴らしくかっこいい。メロディも綺麗だ。
そこで静かに終わらず、重厚なギターとドラムにベースを加えてハードに展開するのが一筋縄でいかないセンス。
さらに終盤では冒頭に戻って、クリアにまとめる。3分弱の間で、ドラマを一気に展開した。
9. Tight But Normal Squeeze
2:40
単音のギター・リフにベースが絡み、シンプルで起伏の無いAメロディで幕を開ける。きゅっとサビ。そこからBメロが華やかに動く。その鮮やかさが味わい。基本的にシンプルなロックンロールだ。
10. Red Rubber Army 2:05
うっすらリバーブをかぶせた甘いムードのミディアム。硬質なエレキギターのアルペジオだが、ロールするスネアに緩やかなベースと、ギター・トリオできっちり成立したアレンジ、弾き語りっぽさは希薄な曲。
さらに鍵盤が白玉やオブリを重ね、サウンドは厚みを出す。メロディ構造は繰り返しであり、派手ではないけれど。うっすらサイケでしっとりムードが意外と耳に残る。
11. The March Of Merrillville 2:15
テンポを落としてつぶやくような歌。逆にこれは前曲と違い、ギターを弾き殴るアレンジでも成立しそう。ドラムやギター、ベースをダビングしてバンド・アンサンブルに仕立てた。ベースの確かな動きがアレンジの芯を支えてる。
語るようなメロディだが、サビへのコード・チェンジと確かに強く見つめる視線、大サビへじわじわと着実に上昇する雰囲気がカッコいい。
平歌へ終わらず上がりっぱなしで終わる一筆書きな曲。
12. Winter Comes To Those Who Pray 2:41
アルバムを締めるには地味な曲。単音ギターにオブリ二本。エレキギターのダビングでアンサンブルを作った後、おもむろにリズム隊や鍵盤を入れて厚みを出していく。
これも一筆書きなイメージで、メロディの展開は希薄。アレンジがどんどん派手に鳴っていく。いきなり中空へ放り出すように歌が終わってしまうため、余韻を作るべく鍵盤の白玉が強引に鳴り続けるようなコーダが面白かった。
(2017/1:記)