Guided by Voices

"Half Smiles Of The Decomposed"Guided By Voices (2004/Matador)

Vocals : Robert Pollard
Bass Guitar : Chris Slusarenko
Drums And Percussion : Kevin March
Guitar : Doug Gillard
Guitar : Nate Farley
Noises And Atmospheres : Todd Tobias

 黄金時代なGbVのラスト・アルバム。2004年4月に解散を宣言し、同年8月に発売。見事にすっきりしたロック・アルバムを仕上げた。前作からちょうど一年後の発売だ。
 全14曲、スタジオ録音でライブ風の勢いを上手く封じ込めてる。気負いのない傑作アルバムだ。キャッチーな曲もあるがシングルは切られなかった。

 メンバーは前作からまた変わった。最後を締めたメンバーは、ベースがティム・トバイアスからクリス・サルサレンコへ変わった。
 クリスはのちにボブとのユニット、テイクオーバーズでコンビを組む。そして次のバンド、ボストン・スペースシップスでも邂逅。結局はまたボブから離れていく。

 整ったサウンドはローファイ寄りでもリック・オケイセックの厚塗りでもない。ギターを前面に立てつつ、キーボードを上手くなじませたトッド・トバイアスの手柄だろう。
 トッドは録音・ミックスだけでなく共同プロデューサーとしてクレジットされた。GbVのメンバーにもかかわらず、プロデュースのクレジットは「Guided by Voices & Todd Tobias」だ。よほど録音の場でトッド色が強かったに違いない。
 ただしオーバー・プロデュースに感じさせないのがトッドの凄いとこ。きっちりバンドの音だ。
 マスタリングはNYに持っていき、傑作"Under The Bushes Under The Stars"(1996)ぶりにGreg Calbiへ任せた。甘酸っぱく過不足ない大人なサウンドに仕上がったと思う。

 収録曲は(12)と(13)以外はどれも、発売後のライブツアーで演奏記録あり。アルバムのプロモーションも兼ねてか、積極的に取り上げられた。逆に言うとどれもライブ演奏を意識した曲ってこと。
 曲の一部は発売前のツアーで披露されており、ボブはツアーしながら曲を書きためてたようだ。また解散ライブでもほとんどが演奏され、最後のライブを盛り上げに一役買った。

 発売前後にGbVは活発にツアーしていた。
 まず前作の直後、03年8月より長期の米ツアーに出る。断続的に休みつつもツアーは実質、04年3月の中ごろまで続いた。
 そして同年4月末からツアー再開。数本ごとの細かく短いツアーを行い、6月末に終わる。本盤発売は8月。合間縫って録音したのが伺える。
 GbVDB.comにツアー・メンバーの記載がなく、どこでベーシストが変わったかは不明だ。なおトッド・トバイアスもツアーに出ていないようだ。最初からか途中からかは分からない。

 そして本盤発売直前の8月中からライブ再開、(再結成前としては)GbV最後のツアーに出る。そして同年12月31日、シカゴのMetroでの2days二日目にGbVは解散に至った。

<全曲紹介>

1.   Everybody Thinks I'm A Raincloud (When I'm Not Looking)

 フェイドインで余韻残したギターのイントロ、リズムが炸裂。すぐさま歌が入ってくる。穏やかなミックスのためパンチ力に欠けるのが惜しい。ダブル・トラックのボーカルを左右に定位させ揺らぎを出す。ギターをしばしば左右にパンさせ、加速させる味付けつき。
 シングルにも似合うキャッチーな曲で、スマートに歌い上げるボブがかっこいい。 

2.   Sleep Over Jack

 ドラムのみのイントロ。ギターとベースが同じ譜割で積み重なる。奥行あるアンサンブルを演出なミックスで、ボーカルはエコー無く素直に歌った。サビ前でメガホン風のやりとりで不穏さを煽る。
 この盤ではボブのシャウトがほとんど無く、呟きっぽいアプローチ多くて残念。ずいぶん大人になった。
 バンド・サウンドだがハウリングっぽい音色で味付けや、背後のコーラスを色々入れたりと、スタジオ録音ならではのアレンジでもあり。

3.   Girls Of Wild Strawberries

 大きなギター・ストロークのアコースティックな佳曲。のびのびとボブはきれいなメロディを歌う。ここでもダブル・トラックを左右に飛ばす定位なミックス。中央のギターを押し広がりを強調が狙いか。ちょっとそっけない感じもするのだが。
 ハイトーンの歌声ながら、ボブの声ははじけない。丁寧にメロディを歌った。

4.   Gonna Never Have To Die

 これもシングル似合いのスピード感ある名曲だ。ドラムを全面に出し、ベースを目立たせ疾走っぷりを強調。中盤からギターを前に出す。さらにアコギでソロを取る工夫もあり。次々に新しい楽器が増えていくが、すっきりと分離してメリハリあるミックスのためうるさくない。
 ミキシングの工夫が目立つ。そしてあっという間に曲が終わる。一筆書きだなあ。

5.   Window Of My World

 大好きな曲。ギターの弾き語りでしみじみと語りかける。コロコロと畳み掛け、続いて伸び伸びと歌いあげる平歌が切なくて良い。
 そしてシンプルに終わらせないのが、本盤の特徴だ。過剰さが好きなボブとトッドらしい。サビはバンド・サウンドに切り替わりリバーブどっぷりのサイケなムードへ。中間部のシンセによるストリングスが美しい。
 弾き語りに終わらせぬオモチャ箱なアレンジと、それに負けぬさり気ないが芯の太いメロディがあってこそ。

6.   The Closets Of Henry

 ザクッとギターが削り、ゆるやかな高音アルペジオを別のギターが奏でる。二面性を畳み掛けるドラムが紡ぎ、きれいなメロディのサビへ。良くできた曲だ。
 ここではサビのダブル・トラックな歌声もセンターに定位し、滑らかに存在を主張した。
 アウトロでギター数本が暴れるけれど、くっきりしたミックスでごちゃまぜにならない。

7.   Tour Guide At The Winston Churchill Memorial

 弾き語りが似合う一筆書きの曲だが、敢えて冒頭からがっつりとバンド・サウンドに仕立てた。平歌は厚化粧気味だが、サビの雪崩れる風景はアンサンブルの色合いをしっかり支える力強さ。
 あっちこちへ浮遊するメロディを、しっかりアレンジされたバンド・サウンドが囲い込んだ。

8.   Asia Minor 

 鍵盤とベース主体で転がってく曲。ライブ映えしそうなのに、記録上は04年8月19日のNYのライブでしか演奏されてない。
 ギターが前面に出るのはサビ前くらい。呟き気味に寂しげな歌声だ。サビの上下するメロディもシャウトが似合いそう。なのにボブははじけず、淡々と歌を紡ぐ。

9.   Sons Of Apollo 

 ところどころに遊び心のアレンジが見られる。キックの4つ打ちから演説風の声が入るイントロから、終盤にラフな音質で別の曲を挿入するあたり。
 メロディはつかみどころ無く、淡々と積み上がっていく。二拍三連っぽい旋律はバックと相まって切なく響くのだが。

10.  Sing For Your Meat 

 二つの曲をつなげた感じ。
 いきなり弾き語りで始まる。軋むギターの音や微かなハウリングも構わず録音に残す、ラフな感じのサウンドだ。ただし昔の安っぽい音質では無く、きっちりレコーディングされている。
 次の場面は語りかけるよう。バンドのバックあるものの、実際は弾き語りに近い。メロディアスなベースは効果的だが。
 コード進行につれてジワッと切なさを増してく和音感も素敵だ。

11.  Asphyxiated Circle 

 ボブの歌なの?やけに甲高く響く。サビでの上下する感覚が普段のボブと違い、けっこうキュートだ。線の細いボーカルだが、甘酸っぱさ過多にさせぬ抑えにちょうどいいかも。
 終盤のハーモニーもピッチが甘く、変にふらつく調子っぱずれな響きが面白い。

12.  A Second Spurt Of Growth 

 これも印象に残る小品。アコギ二本で畳みかけるイントロからしてきれいだ。シンセのうっすらパッドを配置し、ボブは緩やかに歌う。一筆書きのメロディは展開し、軽く浮かぶ。
 すかさず再びイントロのアコギが現れた。牧歌的なアレンジに寛いだ。バンド・サウンドを全くハズし、ソロ作品っぽく仕上げてる。ライブで外したのも、わからないでもない。とはいえ、ひとしきりバカ騒ぎした息抜きに良い曲では。

13.  (S)mothering and Coaching 

 ザクッとハード目な曲。中盤はギターのストロークとシンセが入り、明るく盛り上がる。このへんのとっ散らかりぷりは、のちのボブのソロを連想する。前曲に続きGbVのアルバムに敢えて、こういう一筆書き曲を入れるあたりがボブのワンマンか。
 アルバム単位で見た場合、あまり座りがよろしくない。ソロなら面白い曲、で終わるのに。

14.  Huffman Prairie Flying Field

 いよいよ本編最後の曲。パンチあるザクザクなギターリフのロックで締めた。サビのメロディがきれいだ。
 メロディは雄大に、最後は全音符3つの緩やかな盛り上がりを見せる。しみじみと、しかし凛々しく。GbVはアルバムの幕を下ろした。

15.  The Mind Refuser [Bonus Track]

 日本盤限定のボートラ。ダグ・ギラードの作曲で、演奏もダグの多重録音。ダグ自身が4chのテレコに録音した。97年か98年の作品らしい。"Do The Collapse"(1998)のアウトテイクかな?
 こう考えると、蛇足以外の何物でもないボートラだが。まあ、気は心。

 ピアノが和音を弾き、ギターが時折激しく鳴る。静かでカッチリしてるが、デモテープの域を超えない曲だ。何も考えずにアルバム聴いてたら、最後は静かにインストで幕を下ろしたと誤解しそう。
 ちなみに中盤からおもむろにダブル・トラックの歌声が出る。これがまた切なくて甘いキャッチーなメロディでタチが悪い。切ないメロディはボブの専売特許な気分にGbV聴いてると思い込んでしまうが、そんなことないんだよな。

 最後にいったんクロスフェイドのように、バンド・アレンジの楽曲が姿を現す。なんなんだ。締めのクロージングでダグの自己主張が全開になったぞ。
 
 ボートラと言いつつ本編の楽曲より長い5分半にわたって、じっくりと聴ける、良い曲だ。蛇足だが、良い曲。
 

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