Guided by Voices

"Faulty Superheroes" Robert Pollard (2015:Guided By Voices Inc.)

Producer, Engineer, Recorded By, Bass, Guitar, Keyboards - Todd Tobias
Written-By, Vocals, Guitar, Layout - Robert Pollard
Bass On "What A Man" - Steve Hopkins
Drums - Kevin March

 GbV再稼働を踏まえ、創作態勢をジワリ変えたキー・ポイントの盤。

 アルバムの一ヶ月前、先行両A面シングルで(7)と(8)を15年4月に発表。翌5月に本盤をドロップした。
 トッド・トバイアスがプロデュースと伴奏すべてを行う体制で作り始めたのは"Fiction Man"(2004)以来。多作で細かいことにたぶん拘らないロバート・ポラードにとって、どんどんお膳立て整えてくれるトバイアスの存在は重宝だったはず。
 
 さらにトバイアスの特徴は、マルチ・ミュージシャンでエンジニアまで務められる上に、バンド的なダイナミズムを多重録音で作ることがとても旨かった。これは疑似的なバンド・サウンドを作り出す。さらに固定編成に囚われぬセンスを施し、アレンジが画一的なギター・ロックに陥ることも無い。

 その一方で、一人の演奏である以上は固定したノリが産まれる。これにボブは本盤で、とうとうメスを入れた。
 GbVとソロでボブの曲作りなスタンスは大きく変わらないそう。だがセッションならではの化学変化と、パワフルな疾走感の点で結果的にGbVとソロは大きく変わった。この10年以上、ボブのソロはトバイアスが純粋培養していたから。

 ボブがGbVを停止させたのは04年。まさにトバイアス体制が始まったときと符合する。たぶんトバイアスとの制作環境の手軽さも、GbV解散の一因だろう。
 
 ボブはコントロール・フリークなふしがある。気に入らなかったらメンバーをすぐ首にするという。アルバムごとにメンバーが変わる、結成から第一回解散までのGbVで見せた姿勢からの想像だ。
 その一方で、Suitcaseで示したように、バンド・マジックも信じていそう。他人と音を合わせることで盛り上がる何か、を。
 よくもまあトバイアスとこんなに長く創作態勢が続いたものだ、とも思える。

 ボブはGbV解散後、様々なコラボ・ユニットを行いバンドの妙味を味わおうとした。Boston SpaceshipsやRicked Wickyを結成し、Circus Devilsで受け身にもなってみた。得るものも、物足りなさもあったろう。
 そして2012年ではついに、GbVを再結成した。しかも2年後に再解散ってオマケつきで。
 
 これらすべてを経験した後の2014年末か2015年頭に、おそらく本盤は録音された。

 本盤で大きな特徴は、ドラムをすべてKevin Marchが叩いてるところ。初期GbVから再結成GbVにも参加したボブの盟友。時計の針を先に進めると、再々結成GbVでも叩いてる。よほどボブと馬が合うようだ。

 なお(1)でベースを弾くSteve HopkinsはTeenage Guitar"More Lies From The Gooseberry Bush"(2014)でInvaluable Assistanceと、このあとにRicked Wicky"Swimmer To A Liquid Armchair"(2015)でスタジオのアシスタントでクレジットされる男。地元の新しい音楽仲間で、遊びっぽいノリで録音に参加ってとこだろう。

 つまり、本盤のドラムはトバイアスの手から外れた。ぎすぎすした意味でなく、もっとバンドらしい方向性へ舵を切った。
 これはボブがGbV本体でツアーを重ね、上手くいかなかった経験を踏まえて、新たにソロも心機一転でバンド風味を入れたかったのだろう。

 本盤でソロも新たな方向へ向かった。どんなにバンド的なノリが出せようとも、多重録音の限界なのか、ここ10年のボブのソロはライブ的なダイナミズムと少し違う方向を向いていた。
 そのせいかボブの曲も実験的なアプローチをソロで強く見せた。

 けれども本盤ではポップなロックンロールがずらり。本当の意味で、GbVとソロの境目がわかりづらくなった。
 まだ本盤はGbVでのライブを意識した溢れんばかりのパワーが満ちていない。どこかトバイアス流の落ち着いた雰囲気を持つ。
 だがケヴィン・マーチのドタバタしたドラミングが、ボブの慣れ親しんだリズムが、メロディやノリに張りと艶を与えた。
 もっともGbVDBによると本盤からライブで披露した曲は無いようだ。惜しい。ライブ映えするのに。

 曲もメロディアスなものがずらり。歳を取って若干は動きが丸くなったボブだが、ステージ映えする曲が並んだ。久しぶりの元気に満ちた傑作ソロ、だ。
 実験作とポップ色を交互に並べたボブのソロで言うと、本盤はばりばりポップ寄り。30分で13曲。短めの収録時間だが、中身は充実。
 一分の曲が並ぶような小品詰め込みでなく、ボブにしてはじっくりな数分間のロックを揃えた。

 そしてボブは本作のあと、自分の多重録音でGbV名義を出すという荒業に出ることになる。ソロとGbVを本当の意味で合体させた。

<全曲感想>

1 What A Man 3:35

 フェイドインで幕を開ける軽快なロック。サビの"and atomizer"ってフレーズを筆頭に、歯切れ良いビート感と、ドライブ感が格別。Steve Hopkinsはいい仕事してる。ベースがメロディアスだ。せっかくなら全曲でベース弾いても良かった。
 平歌で畳みかけ、サビで開放する流れがばっちり。間奏でコード・チェンジも効果的だ。
 ギターのオブリがとってつけたようで、ドラムと微妙にノリが違うとこが興味深い。

2 Cafe Of Elimination 2:07

 中抜き3連から16分の中抜き刻みへ。跳ねる譜割のギター・リフがカッコよく決まった。オルガンがさりげなく厚みを付与し、彩りを添える。ベース・ラインは着実に決め、ギターと鍵盤で曲を磨くアレンジをトバイアスは選んだ。

3 Faulty Superheroes 3:09

 ちょっとテンポを落としメロウさを漂わす和音感。ここでも鍵盤で曲にふくらみを持たせた。
 この曲はサビでの甘酸っぱさが格別。しかも甘さに雪崩れず、すっとサビの途中で楽器を弾いて乾かし、鍵盤ソロで再び鮮やかさを出すという細かなアレンジがバッチリ。
 バンド風味を生かしつつ、アレンジは緻密にコントロールされている。トバイアスの技が光った。

4 Faster The Great 1:59

 乾いたロックンロール。二本のギターでシンプルにリフを刻み、オブリはベースが務めた。さらに細かいオブリを背後にギターでミックスする。
 これも勢い一発っぽいノリだが、アレンジは精妙だ。ブレイクを入れテンポを揺らす芸もあり。ハイトーンのボーカルをメインに任せず、コーラスで補完するような音使いは、わざとなのかボブの喉の都合か、どちらだろう。

5 The Real Wilderness 1:29
 
 エコー感をたっぷり。スペクター・サウンドまで行かず、楽器数はぐっと少ないしパーカッションの付与も無いけれど。
 コンボ編成で残響とオルガン音色で厚みを表現した。メロディは柔らかく甘みが強い。大サビに行かず、一筆書きメロディで放り出した。

6 Photo-Enforced Human Highway 3:25

 シンプルなギター・ロックのアレンジ。ドラムを一節置いてから配置し、メリハリを付けた。
 サビでの和音と跳躍が素晴らしい。GbVで魅せためくるめく鮮やかな世界の転換と、同様の手法で本曲はきれいなメロディを溢れさせた。
 アレンジは凝りまくり、間奏ではグッとサイケ色を増す。ドラムも叩きっぱなしでなく、パターンを変えさせた。細かく指示した上でのサウンドづくり。

7 Take Me To Yolita 2:49

 "I am Yolita"ってフレーズが"I am your leader"に聴こえる。シングルへ切るには、ずいぶん地味目でしっとりした曲だ。あえてドラムを強調し、ビートの色を混ぜたけれど。本来は弾き語りで作ったような作品。
 Yolitaって検索すると、いくつか出てくる。英語圏ではありうる呼称で、完全な造語ではないらしい。

8 Up Up And Up 2:49

 これもフェイドイン気味に始まる(1)と同パターンの幕開け。3分弱の曲ながら、30秒もの時間をイントロのギター・ストロークに時間配分した。
 ちょっと覇気がないけれど、この曲もボブのメロディ・センスが炸裂してる。ここ何年かのソロやGbV盤の中でも、本盤のメロディの味わいは格別だ。
 少し優しく、柔らかく。ボブはそっとロックを演奏してる。

9 You Only Need One 2:15

 抑えたテンポに、エッジを機械加工したボブの声。ドラムが途中で震えるような、ちょっと奇妙なノリを聴くたびに感じてしまう。これも甘く仕上げられたはずだが、トバイアスはシンプルなパワー・ロックにアレンジした。
 ボブのメロディ・センスはやむことなく、次々に魅力的な旋律を投入してくる。あっさりした小品イメージだが、メロディは味わい深い。

10 Bizarro's Last Quest 2:54

 イントロのイントロ、そしてイントロ。そんな印象の冒頭に導かれ、ボブは静かに歌う。これも弾き語りっぽい曲調ながら、ベースを野太く配置してコンボ編成へうまく仕立てた。
 サビの滑らかな響きにやられ、さらに大サビのような曲展開に惹かれる。一筆書きメロディながら構成も意識した楽想で、さりげないが印象深い佳曲。

11 Mozart's Throne 2:38

 テンポが曲中で変わる。メインはパワフルなロックだが、まずドライな響きでボーカルを強調して、背後はシンセがさりげなく涼しい空気を吹かせる。次第にボーカルの立ち位置が緩やかになった。
 トバイアスは曲ごとにボーカル・バランスをガラガラ変えるが、この曲はひときわボーカルの配置で遊んでる。伸びやかなギターに導かれ、すっと伴奏に溶け込ますボーカル処理が楽しい。

12 Parakeet Vista 1:28

 アルバム最後はアコギ中心の爽やかな響き。アコギのネックを指が動くノイズも混ぜた。
 一筆書きメロディそのままの幻想性を、トバイアスはシンプルなアコギでまとめた。オブリも変えて唐突さを残しアルバムは呆気なく終わる。そしてもう一度、頭から聴きたくなるわけだ。   (2017/10:記)
 

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