Guided by Voices
"Fiction Man" Robert Pollard(2004:Fading Captain Series)
All songs written by Robert
Pollard
Producer Todd Tobias
Instrumentation And Noises Todd
Tobias
Vocals Robert Pollard
ソロ量産体制の分岐点な重要アルバム。
トッド・トバイアスに多重録音のバッキングを任せ、ロバート・ポラードは作曲と歌のみ。独特で大胆な役割分担レコーディングの初ソロがこれ。
プロデュースとエンジニアもトッドが兼ねている。
GbVdbによれば"Earthquake Glue"と同時期のアコースティック・ギターのデモが元という。歌詞とメロディはボブで、アレンジはたぶん全てトッドのアイディア。ロバートとしてはボツ曲を自由に遊ばせる程度の、軽い気持ちだったんじゃなかろうか。
だがこれは素晴らしく吉と出た。あらゆる楽器を巧みに操るトッドの演奏は、バンドっぽく見事にグルーヴする。さらにGbVだけでなくボブのソロでもあまり使われなかった鍵盤を巧みにアレンジに取り入れ、サウンドの幅を広げた。
本盤のイメージは複数に分かれる。パンキッシュでギター弾き殴りのライブっぽさ、メロウな歌モノ、ボブの歌も素材としたスタジオ作業を前面に出したロック。これらが混在した。そしてボブの歌声できれいに一気通貫させる。
もっともアレンジの妙味がそこかしこで強調され、トッドのアルバムとも言えそうだ。
(1),(10),(14)は04年のGbVツアー"The Electrifying Conclusion Tour"で幾度か演奏された。
<全曲紹介>
1. Run Son Run
バンドアレンジを軸に、さまざまな楽器が挿入される。
ドラムが凄まじく下手くそだが、ワザとだ。本盤を聴き進めると分かるが、トッドのドラムはもっと上手い。がっつりハードな演奏を基軸だが、ブレイクの速やかなキメやシンセっぽい唸りの挿入など、一ひねりした技をアレンジに加えた。
ボブが丁寧に歌ってるのも、本盤の特徴。
2.
I Expect A Kill
冒頭のシンセ、メカニカルなリフと、ボブの作品では新鮮なアプローチだ。小刻みだがスカスカのオケで浮遊感を出し、ボブが涼やかに歌を載せる。
3. Sea Of Dead
デモを生かしたアレンジか。生ギターの柔らかなバラード。奥にシンセを配置し、透明な拡張性を演出するセンスが良い。
なかなか歌が現れないが、この辺の作曲はボブとトッド、どちらのものだろう。
ダブル・トラックのボーカルは、ほんのり無機質でクールに響く。
ボブの鮮烈で優しいメロディ・センスが光る一曲。
4. Children Come On
名曲。これもキュートなアコースティックのミドル・テンポ。ちょっとボブの歌をざらつかせ、アコギのストロークにシンセやマリンバ風の音色を載せて、ドリーミーな雰囲気を演出した。メロディが素晴らしい。
5. The Louis Armstrong Of Rock and Roll
余韻を振り捨て、ハードな一曲に。ボーカルとギターのエッジを立たせ、ドラムは背後に沈める極端なミックスを施した。
たぶんアコギでも成立する甘やかな旋律を、あえてトッドは鋭く演出した。
6.
Losing Usage
とっ散らかったサイケ。小節線を酔っぱらって跨ぐがごとし、奇妙に不安定さが漂う。
ギター数本をリズムばらばらにまき散らし、複数トラックの歌声を飾る。
だが終盤でいきなり整理され、シンプルなギターと歌の構成に。そしてエレキギターが太くメロディを紡いで幕を下ろす。
トッドの構成が生きた一曲。
7. Built To Improve
切々と歌いかけるボブが印象に残る。エレキギターの弾き語り。だが1コーラスあとで、歪んだ響きのバンド・サウンドを載せ、さらに重たさを強調した。
サビでダブル・トラックになったり、薄くシンセで風を吹かせたり、アレンジがすごく丁寧だ。
8. Paradise Style
キャッチーなギターバンド・アレンジ。GbVのアルバムに入っておかしく無いポップさと勢いあり。ボツったのが不思議だ。ドラムをヘタ気味にバタつかせ、ギターとベースリフを同じ譜割でスピード感を強調した。
9. Conspiracy Of Owls
ボブのメロディがきれいな一曲。この曲も良い。ギターのストロークで厚みを出し、鍵盤でノリを作る。ドラムなどバンド編成のアレンジだが、スタジオで作りこんだ印象が強い。
最後の大サビから、ドラマティックさが強調される。ハイハットが閉じる音が連打され、シンセが伸びやかに膨らむ。牧歌的な穏やかさが堪らない。
10. It's Only Natural
バンド・アレンジ。リフでメリハリつけてるが、基本はGbVのライブよろしく勢いで疾走の曲だ。他の曲に比べれば、だが。ボブの歌はいくぶんラフ。とはいえ丁寧さは残してる。
こうして聴き進めると、ボブは楽曲はトッドに任しても、歌自体はきちんと吹き込んでいる。
11. Trial Of Affliction And Light Sleeping
歌を汚し歪ませ疾走しつつ、サビで声質の加工を変えてシンセで高らかに飛ばす。アレンジの勝利だ。荒っぽく聴かせつつ、細かく構成されている。
投げっぱなしの断片っぽいボブの曲を、あえてプログレ的に場面転換の多さに切り替えたトッドのアイディアが光る。
12. Every Word In The World
数本のアコギに甘いメロディ、スロー系でボブの得意技。サビ前で一瞬音を止め、ふわりと着地さす演出が良い。
もっともこの曲は中盤でリズム隊が重ねられ、よりポップに盛り上がる(9)と同様、ボブの歌とトッドのアレンジが良い感じの距離で寄り添った。
13. Night Of The Golden Underground
バンド・サウンドだがハイハットの代わりにタンバリンをさりげなく鳴らす、アレンジの良さ。
くっきりとビートを提示しつつ、サビ前で譜割を変えて変化をつける。1分半あまりの小品だが、もっと長尺で聴きたい。
14. Their Biggest Win
イントロでちょっとリズムが揺れるとこあるが、バンド全体がぶれたような響きが妙に耳に残って面白かった。
最後は賑やかにバンド風アレンジでまとめた。ただしライブ風の勢いを残しつつ、ハイ強調のバランスで音色に気を配り、スタジオ加工の要素も残してる。
エンディング間際で、音を歪ませ揺らすバッキングにクリアなボブの歌が載る、なんともサイケな流れを取る。1〜2分台の小品な本盤で、唯一の4分台。
フェイドアウト間際でギターの速弾きまで飛び出した。