Guided by Voices

"Elephant Jokes" Robert Pollard (2009:Guided By Voices Inc.)

g,vo:Robert Pollard
Instruments:Todd Tobias

 ソロ・アルバムごとでボブはアプローチを微妙に試してる。本盤はアイディアを詰め込んだおもちゃ箱みたいだ。
 ぱっと聴きでデモテープ風の荒い曲ですら、きっちり作りこまれてる。トッドの趣味が増えたか、ボブはシャウト一辺倒でなくファルセットやウィスパー風など、多彩な歌唱法を投入した。意外と奥深い聴き応えある。

 演奏をトッドへすべて任せず、ギターでもボブのクレジットあり。ただしボブのギターがどれか、明確に聴き分けづらいが。
 3分前後の曲が3曲。あとは小品19曲を積み上げた22曲入り。投げっぱなし作曲術寄りのアルバムだ。

 本盤に伴うツアーは行われなかったが、(1)と(8)だけは、一度だけライブ演奏の記録あり。発売から約1年後の2010年7月9日、地元デイトンでのイベントHeedfestの時のこと。
 このフェスはいまいち趣旨不明だが、GbVマニア向けのイベントでもあるらしい。当日ボブはソロとしバンド編成で登場、16曲を演奏した。

 セットリストによると、本イベント前月に発売のソロ"Moses On A Snail"収録曲をアルバム曲順のままで全曲を披露してる。さらに本盤から(1)と(8)を奏で、"Moses〜"の一枚前のソロ"We All Got Out Of The Army"から1曲。
 最後にビーチ・ボーイズ"God only knows"のカバーで終わる、けっこうユニークなライブだったようす。聴いて見たいが、音源残って無いものか。
  
 タイトルの"Elephant Jokes"とは60年代にアメリカで流行った不条理ジョークのトレーディング・カードの商品名らしい。多分同世代のアメリカ人なら、ピンとくる言葉なんだろう。http://en.wikipedia.org/wiki/Elephant_joke
 ボブにしては珍しい言葉選び。既存の言葉を使うんだ。全く無意味な言葉の連なりを独自で見つけ出しては、それらが醸す何気ないユーモアをタイトルや歌詞に込めるのが、ボブの言語センスなのに。
 そもそものボブの言語的なルーツが"Elephant Joke"なのかも。それでおもむろにこの言葉をアルバムに冠したか。
 
<全曲感想>

1.   Things Have Changed (Down In Mexico City) 

 重たく引きずるムードで幕開け。呟くようなメロディがじわじわと炸裂する瞬間を伺った。ドラムが入りバンド的な盛り上がりを見せる。サビでいかにもボブっぽい和音感が鳴った。
 2分あまりの曲だが、サビと平歌がきっちり作られたギター・ロック。ライブ演奏されたわりに、暗めの曲だ。

2.   Johnny Optimist 

 名曲。歯切れ良いギター・リフが裏拍で煽る。ベースが絡みグルーヴを作った。杭打ちみたいに強靭なベースがアンサンブルをガッチリと支える。
 アルペジオとストロークを組合せ、数本のギターで厚みを出したアレンジだが、曲想のヌケは良い。すっきりとボブの滑らかなメロディを味わいだ。
 もっとアップで盛り上がる曲と思うが、比較的テンポを抑えた。

 バッキング・ボーカルでジム・ポラードのクレジットあり。サビあとの掛け声部分かな。
 後半ではシンセまで加わり、ポップさを強調した。歌とギターとシンセが絡まる長めのエンディングで聴けるアンサンブルがかっこいい。

3.   When A Man Walks Away 

 前曲から余韻残したまま、強打するドラムに誘われたロックンロール。サビでタイトルを連呼するが、いまいちメロディは平板な感じ。和音にへばりつくような旋律は不安感をうっすら漂わせる。
 多重ボーカルのコーラスが厚みをわずかに演出した。

4.   Parts Of Your World 

 テンポ感は前曲のまま。ただしエレアコの弾き語り風にムードを変えた。この辺の流れ作りの凝り具合が、本盤はとても巧妙だ。サウンドはシンセで柔らかく支えた。
 一応の構造は有るけれど、聴いた感じはボブ流の一筆書きっぽい印象も受ける。小品のはずだが、ドライからウェットまで加速する歌のエコーが、ドラマティックさを強調して引き込まれた。

5.   Symbols And Heads 

 大仰なギター・ロック。これもライブで映えそうだが・・・。サビの"Oh Year"ってリフレインなんて、特に。でも今のとこライブで演奏された様子は無い。
 数本のエレキギターで、がっつりとリフを組み立てた隙の無い曲。その割に平歌は起伏が少なく、語りっぽい印象も。終盤でメロディに引きずられ、コーラスつけて甘みを出すアレンジが好きだ。

 たっぷりと余韻を持って、幕。

6.   I Felt Revolved

 イントロのリフが良い。緩やかなエレキギターの海でしばらく漂ってると、付点と8部音符のパターンを微妙に変えた一連の譜割で、歯切れ良くシンプルなギターがイントロを奏でた。
 もっとシャウトした方が映える曲に思えるが、今一つボブははじけない。さりげなくメロディをなぞる程度。エコーの無いドライな歌声を、シンセで静かに厚みを出した。
 メロディの変奏を続け、盛り上がりそうなところであっという間に幕。ボブらしい投げっぱなしの曲だ。
 
7.   Epic Heads 

 不思議な和音感のアルペジオ気味なギターリフに導かれた歌声は、バック・トラックへ埋め込み気味にミックスされた。どんどんエレキギターが増えてきて、シンプルなリズムだが分厚いサイケな雰囲気を描く。
 曲もさりながら、アレンジの手法が聴きものだ。

8.   Stiff Me 

 一転してポップに変わった。シングル向けのシンプルなメロディを積み重ねる、ボブ流のロックンロール。これもライブで映えそう。平歌からサビで爽やかに風景変わり、畳み掛けるとこもいかしてる。
 惜しむらくは今一つリズムに覇気がない。ドラムが重たい。ギター数本のリズム感は良いのに。トッドの宅録バンド・サウンドは確かに一体感ある。でもこういうアレンジ聴くと、ドラマーを別にたててはじけて欲しかったと思う。

9.   Compound X 

 作曲家クレジットのSarah Zade Pollardはボブの奥さん。ミュージシャンかは知らないが、ちょっと意外なコラボだ。薄暗い雰囲気で畳みかけるアコギのカッティングは、初期ビートルズを連想した。長く伸びるエレキギターのオブリやシンセで音像に深みを出した。
 スネアの連打も譜割を併せて厚みを加える。ちょっと調子っぱずれのボーカルが妙な雰囲気出してるが、面白い曲だと思う。
 
 なおサラはボブのこの後のソロ・アルバム"We All Got Out Of The Army"(2010)でも3曲を提供する。GbVの"Half Smiles Of The Decomposed"(2004)から撮影でクレジットされており、なにげにさりげなく創作にかかわってる。
 
10.  Accident Hero

 綺麗なメロディを素直に歌い上げず、喉を締め気味に声を絞った。シンセのオブリがさりげなく温かい響く。リフはシンプルだがドラムのアクセントに工夫して、ちょっとひねった裏拍強調のビートだ。
 
 
11.  Tattered Lily
 
 ゆったりテンポで高らかに広がる。サビでダブルトラックのハーモニーがきれいだ。サビ終わりで上下にメロディが動く瞬間が切ない。
 エレキギターを数本重ね、微妙にフレーズを変えて深みを出した。重たく歪みかけたギター・ストロークが、どっしりとポスト・ロック風に盛り上がる。トッドの趣味かな、このアレンジは。

12.   Hippsville (Where The Frisbees Fly Forever)

 アナログではここからB面。GuitarでSteve Five(Gold Circles)が参加した。
 平歌はバックを同じ和音で刻み、歌声を動かす。浮ついた演説みたいな。0不思議な効果を出した。サビで一気に膨れて空間を埋め尽くし、ギターがその中央で暴れはじめる。かっこいいスタイルなので、もっと長く聴きたかった。

13.   Newly Selected Dirt Spots 

 ベースが連打で突っ込むパワー・ロックと、ギターリフの書きまわしで軽やかに鳴る、二種類の場面が幾度も変わる曲。サビにもう一度行くかと思わせて、あっさり終わるのがボブらしい。
 サクッと叫ぶサビのフレーズも良い。意外に本盤は凝った曲が多いため、この手のシンプルなロックはほっとする。旋律の終わりあたりとか、今一つ煮え切らないとこもあるのだが。

14.   Jimmy 

 凝った録音構造の曲。囁き気味の声で幾層も重ねた。裏拍強調でシーソーのようにノリが揺れる。甘酸っぱい味わいだがリズムがシンプルゆえに、どこかカラッと冷えた香り。
 終盤のギターアンプ・ノイズも複数の音を切り貼りして次々重ねた。

15.   Pigeon Tripping 

 手間かけてるわりに、デモテープみたいな肌触りのアレンジだ。タム回しとキックが輻輳し奇妙なポリリズム風のビートを作った。ギターリフがサイケに鳴る程度で、サウンドは一見薄く見せかけた。ドラムを強調が狙いか。
 実際には多層にボーカルをダビングし、次々に折り重なる。ドラムの波打ちと彩りをそろえた。

16.   Spectrum Factory 

 これも(9)と同じくサラの曲。リズムとちょっとずれる譜割の歌い方で、後ろ髪惹かれるような、少々変わったグルーヴを出す。サウンドはリバーブたっぷりに聴こえる。実際はシンセっぽい音色が白玉を後ろで鳴らし続けてのせいか。
 ギターとシンセの絡みはホーン隊でもハマりそう。ちょっと暗めの曲だ。

17.   Perverted Eyelash 

 ペラペラのギターが左でリフを作り、さらなるダビングのギターで4拍めを厚み出す。メロディラインがボブ流の一筆書きだが、バックはきっちり構築を目指した。歌と演奏、二つの世界観が重なって異世界の風景を描く。
 ほとんど和音進行が無く、ひたすらシンプルな一発勝負で淡々と進む。

18.   Cosmic Yellow Children 
 
 ギターでトッド・トバイアスの兄弟Tim Tobiasが参加した。
 逆にこれは歌の美しさを、バックが凝り過ぎてややこしくした。ダメにはしてない。あくまで、ややこしく。聴きどころをつかみづらい、変にいわくありげな曲に仕立てた。

 ボブは裏声でフラフラと歌う。綺麗なメロディを不安定に揺らす。背後でシンセがふっくらと鳴り、ギターと調和した。神秘的なサイケ・ポップ。

19.   Blown Out Man 

 鳴りつづけるシンセが風を吹かす。重心低いバンド・アンサンブルは、イントロのギター・リフの存在感が強くて一気に最後まで引っ張った。
 後ろから力強く、しかし優しく押すかのよう。歌メロはアレンジの世界観に埋もれた感あり。淡々とメロディが紡がれる。サビ前でちょっと音程揺れて、生々しい人間らしさが出た。

20.   Desiring 

 歌いっぱなしのアコギ弾き語りな小品を、サビ前のシンセを足すことでポップに仕上げた。あれが平歌とサビのメリハリつけ、曲をカッチリまとまらせてる。
 もっともアレンジは丁寧に施されており、アコギの裏でもギターのダビングが静かに鳴っている。
 ブレイクでドラムも一緒にユニゾンでアクセントを決め、ギターのストロークで加速するドラマティックな構成がかっこいい。
 
 意外な佳曲だ。繰り返し聴いてると、じわじわ胸に切なく来る。

21.  (All You Need) To Know

 コーラスで兄弟のJim Pollardが参加した。ヘッドフォンで聴いてたら、ギターの末尾に併せて残響のように鳴るシンセが心地良かった。
 低音で呟き気味に歌うメロディはしごくシンプル。4分弱と本番でももっとも長尺な曲。大味なロックだが、こういう頼もしさをじっくりボブは歌いたかったのか。
 サビの音程は低く、呟きのフレーズが執拗に繰り返される。

 2分半ほどこの音像が続き、おもむろにカウンターのコーラスが出てくる。ミニマルな展開だな。

22.  Architectural Nightmare Man

 最終曲はエレキの爪弾きで、フレーズを吐き出す弾き語りっぽい曲。コード展開無くひとしきりボブが呟いた後で、バンドが炸裂。ダブル・ボーカルでサイケに溶けた。アイディア満載の本盤を締めるにふさわしい・・・かどうかわからないが、とにかく個性的にとっ散らかった楽曲だ。
 二分半でここまでドラマティックに展開できるのも、一つの才能だ。終盤ではまた別のロックっぽくガシガシ盛り上がった。フェイドアウトで強引に締めてしまうが。今一つ、達成感の無いアルバムのエンディングだが。
 

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