Guided by Voices

"From A Compound Eye" Robert Pollard (2006:Merge Records)

Producer Todd Tobias

Bass,ds,per,g,key :Todd Tobias
Dobro,g,Steel Whistle,vo :Robert Pollard

 構成もバラエティに富む、非常に力のこもったアルバム。アバンギャルドの色合いをポップさへ強引に混ぜた。

 トッド・トバイアスに演奏を任せ、ロバート・ポラードが曲と歌を乗せる。コラボで無く、ボブのソロとして。これが"Fiction Man"(2004)以降、ソロ作の特徴だ。本盤でもアレンジに凝った曲がいくつもあるが、あえてボブは"ソロ"と定義した。
 クレジットのとおりトッドがベーシック・トラックを作成。だがロバートも歌に留まらず、ドブロやホイッスルなど味付けにも関与する。

 総収録70分強で26曲入り。ちなみに本作以降、ボブは小品と数分くらいのキッチリ構成な曲の2パターンを意識的に分けていく。
 本作をひっさげた06年のソロ・ツアーで、本盤の収録曲が何曲か取り上げられた。GbV解散を踏まえ初のソロ。ここから猛スピードでボブは作品を重ねていく。

<全曲紹介>

1.   Gold 

 RobertPollard.netで本曲のデモが発売当時、公開されていた。歪んだギターのフレーズまで、きっちりデモには存在する。こういうの聴くと、トッドのアレンジはボブのアイディアを膨らませる役割で、かなりサウンドもボブの嗜好かとも思える。 
 
 トッドはギターの揺らぎへ、静かにパーカッションを加えた。奥行深くサウンドを弾ませる。
 シンプルなリフでボブの歌が譜割でリズムを作るさまが興味深い。中盤以降、ハーモニカやドラムが入り、もっとわかりやすく鳴るけれど。デモより10秒ほど長く、ドラマティックに仕立てた。

2.   Field Jacket Blues

 未だに新鮮な譜割のトラックだ。アルペジオから連打へ。連打は11拍子じゃなかろうか。歪んだ響きの歌に誘われるパワー・ロックだが、イントロのフレーズがとにかく印象深い。このアバンギャルドなセンスは、なかなかボブの作品で聴けない。
 最後に半分のテンポで、リフが演奏され締めた。
 
3.   Dancing Girls And Dancing Men

 明るく盛り上がるロック。ダブル・トラックの歌声がポップだ。だんだん階段上るような曲が良い。シンプルだが着実にフレーズを刻むベースの音もきれいに鳴る。
 隙が無い。甘酸っぱいコードとメロディの絡みが親しみ安い。06年のツアーでもたびたび演奏された。フェイドアウトが惜しかった。きっちりコーダも欲しい。

4.   A Flowering Orphan

 シンセ・ストリングスでシンフォニックなイントロ。マリンバ風の音色を添わせ、味付けを忘れないトッドのセンスが光る。きっちり硬くキメず、どっか手弾き風の揺れるマリンバ風音色が、生々しさを強調した。
 一種類のリフで成立する曲だが、不思議と飽きない。
 
5.   The Right Thing 

 ざくっとエレキギターの弾き語り。ヒスノイズまで聴こえる、デモっぽい仕上がり。へにゃへにゃな力無いボーカルだが、メロディは力あり。なぜまともにアレンジしないのか。そんな不満を塗り替えるがごとく、途中から安っぽいリズム・ボックスにバンドサウンドと、アレンジがロックに進化していく。リズム・ボックスのチャカポコを残し続けるのが、トッドの茶目っ気。
 これもライブ映えする曲で、06年ツアーにて幾度も取り上げられた。

6.   U.S. Mustard Company

 名曲。ギター・アルペジオとふくよかなシンセで、滑らかにボブが歌う。アレンジも練られており、スタジオのつくりこみとバンド的なノリの双方が上手い具合に調和した。
 シンバルの音色がきれいに録音されている。
 
7.   The Numbered Head

 一転、重たいムードのパワー・ロック。改めて本盤は、妙にイントロが長い。
 5分位かけて演奏されるが、メロディがオケと今一つ調和しておらず、正直ぼくはもっとポップな作品を長尺にしてほしかった。

 だがステージを意識したら、こういう楽曲が全面もやむなしか。ギターリフにドラムのフィルがかぶるさまは、バンドそのもの。自然なアンサンブルを多重録音で施す、トッドのセンスと演奏力をこの曲で実感できる。
 ドタバタとグルーヴする伴奏は、録音の順番に興味ある。ドラムが先とは思えない。ギターが先?でも、うねうねするギター・ソロもあるしなあ。

8.   I'm A Widow

 シンプルでキャッチーなギター・リフが印象に残る。とにかくギターがいっぱいのアレンジ。バンドっぽくアレンジされ、さりげないベースの音が魅力的だ。
 ボブの歌は控えめっぽいが、サビではきっちり歌い上げる。これもシングルにふさわしい。
 間奏での複数ディストーション・ギターによる剛腕ソロも聴きもの。

9.   Fresh Threats, Salad Shooters And Zip Guns 

 きらびやかなエレキ・ギターの爪弾きによる弾き語り。語りかけるボブの歌声がひとしきり続き、中盤でドラマティックに一瞬だけ盛り上がる。
 多重コーラスの歌声で教会風に行くことも可能だったろうが、ぜいたくにトッド(もしくはボブ)は、あっさりと弾き語りに戻してしまう。

10.  Kick Me And Cancel 

 バンド風アレンジ。ボブの声をちょっと加工し、場面ごとに鈍かったりスペイシーにと使い分けた。
 構成も一捻りしており、同一リズムで進まない。所々、大胆にブレイクが入る。ライブで再現したかは知らないが。
 ポップへ行きそうに見せかけて、ひねり技でひっかける。

11.  Other Dogs Remain 

 陰りあるボブの歌を飾るアンサンブルは、これまた変てこ。途中でシンフォニックなシンセを足して、強引に歌を引きずり上げた。 
 サビだけ抜き出したらキャッチーだが、冒頭部分のためらいが曲のムードを混沌とさせている。これも、ボブの味。

12.  Kensington Cradle

 デモ風のとっ散らかった音質で、楽曲も演奏もどしゃめしゃ。隠し録りみたいでリズムも不安定に鳴る。どういう構成か読みとろうとするうちに、曲が終わってしまう。
 投げっぱなしな一曲だ。繰り返し聴きたいタイプと違うが、このローファイでめちゃめちゃな所は、不思議に他の曲のアクセントになる。

13.  Love Is Stronger Than Witchcraft

 ちょっと大味だがスタジアム級の会場でも映えそうな、エコー感が気持ちいいロック。リズムはゆったりとじっくり攻める。ボブのシャウトも手慣れたもの。
 シンプルなリフが、ボブの叫びで重厚かつサイケに雪崩れる。しかしこういう曲ほど、本盤では長尺だ。これも4分強の作品。コーダのリフレインをボブが一人対話状態で歌いあう。

14.  Hammer In Your Eyes

 か細いボブの歌声が、ギターリフとしゃっきり絡んだ。ハイトーンの伸びやかなパワー・ロックで、ステージを意識した作品。個人的にメロディが今一つ単調で、乗りづらい。

15.  50 Year Old Baby

 奇妙な響きの和音アルペジオにシンセが乗り、思い切り歪んだボブの歌声が鳴る。
 一瞬、ブレイクで笛が鋭く鳴る。なるほど、この場面の笛がボブの演奏か。
 一気に疾走せず、スタート&ストップを多用して混沌さを強調した。ひよひよとシンセが舞うあたり、トッドが楽しみながら録音してるっぽい。

16.  I Surround You Naked

 このあたり、ライブ映えする曲が続く。オープン・ハイハットの連打とギターがザクザク鳴るパワー・ロック。ボブの歌はキャッチーだが、ちょっと物足りない。きれいすぎる。

17.  Cock Of The Rainbow

 リバーブの効いたエレキギターのアルペジオが交錯し、奥でシンセがゆったりと羽を広げた。呟くような歌い方だが、きっちりメロディあり。ベースが煽り、じわじわと加速するさまがかっこいい。
 ところが最後は、テープをブチ切ったような変なノイズと空気感あり。なんだろ。

18.  Conquerer Of The Moon

 これまたライブを意識した曲。歌い上げから歪み、歯切れ良いメロディ。ブロック毎にボーカルの音質効果を変えており、中盤でゆったりしたインスト・パートを短く入れて再びギターで盛り上げるあたり、妙にプログレ的なアレンジだ。

19.  Blessed In An Open Head

 重たいギターとシンバル連打のロック。背後にうっすらとエコー成分強いハーモニーいれるとこが個性か。シンセも彩りを添える。
 キャッチーと思うが、メロディがシンプルすぎるだけに途中で飽きる。ビール片手に盛り上がるには良いかも。

20.  A Boy In Motion

 ギターとドラムが対話するシンプルなアレンジで、ボブの声がきれいに響く。このまま最後まで行っても良かったが、さらにエッジ鋭いエレキギターの賑やかな鳴り。
 こういうキャッチーさを付け加えるのが、ボブやトビーのバランス感覚で、ライブを意識した点だろう。

21.  Denied 

 ノイジーなSEを突き抜けて、二本のギターがリフを組み立てる。歪んだボブの歌声は、前曲とがらりイメージ変えた。キャッチーさで盛り上げがライブ映えの一手段としたら、こちらは混沌なクラブ・スタイル。ドラムが途中で力強く加わり、怒涛に向かう。
 演奏こそきっちりだが、音色作りはラフかつグランジでローファイ。

22.  Lightshow 

 これはむしろシングル狙いか。実際にシングル切られてはいないが。ミックスで明らかにボーカルを立てている。数本のギターとシンセでミドル・テンポのロックだが、ポップにもワイルドにもライブでアレンジできる可能性を残しつつ、歌声を鮮明に前へ出した。

23.  I'm A Strong Lion 

 実際のシングルがこれ。前曲と比べ、サビのキャッチーさがひときわ際立つ。前曲とミックスの肌触りが似ており、同時期に録音された音源かも。
 しかしあっという間に終わってしまう曲だ。せっかくの良い曲なのに。

24.  Payment For The Babies 

 アルバムも終盤、アコギを基調に数本のギターで厚みを出したバラード。ストロークと爪弾き、歌が語りかける。ひとつながりのストーリーを歌い、満足したかのようにギターのかき鳴らしで、幕。
 小品で味わい深い、こういうボブが好きだ。

25.  Kingdom Without

 不穏なムードをベースの単音連打で煽り、コード・チェンジで盛り上げる。
 バンド・アレンジの妙味が伺える。各楽器を分離良くミックスした。シンバルの叩き分けで盛り上げるニュアンスの使い分けが聴きどころ。
 パワー・ロックの連打に慣れてきた耳には、こういう丁寧な演奏の工夫が楽しい。

26.  Recovering 

 冒頭は静かにボブが弾き語りで、ブレイクからバンド編成に行く黄金パターンのアレンジ。途中にアコギのみの場面チェンジもはさむ。この曲も歌をきっちり前にミックスした。フィードバックの高い音色が味付け。
 シャウトするでもなく、丁寧に歌うボブの姿が浮かび上がる。
 

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