Guided
by Voices
"Coast To Coast Carpet Of Love" Robert Pollard (2007:Merge
Records)
Producer - Todd Tobias
Bass,Drums,Guitar.Keyboards,Percussion -
Todd Tobias
Vocals - Robert Pollard
同時発売の"Standard Gargoyle Decisions"と差別化するならば、"Standard 〜"が技で、"Coast To Coast Carpet Of Love"が力、か。一曲の中でガラガラ変わる曲想は控えめで、よりキャッチーな楽曲を集めた。
Mergeは当時、宣伝ページで本盤を"Beatles side"、"Standard
〜"を"Stones side"と表現した。やはり60年代ブリティッシュ要素を両作に感じたか。
ちなみに比喩は逆だと思う。本盤がいうなれば"Stones
side"。シンプルなロックの魅力を素直に提示した。"Standard
〜"のほうが、ビートルズ的な凝った技が詰まってる。
ただし本盤でもストーンズ的なブルーズ感は、すごく希薄だ。もともとボブにブルーズ感って無いが。
"Standard
〜"同様に演奏は全てトッドで、ボブは作曲と歌のみ。
トッドのプロダクションはいよいよこなれ、本盤で気負ったところは無い。さりげなく小技を混ぜつつも、ボブの色合いを素直にギター・アンサンブルに仕立てた。
同時発売の"Standard
〜"で凝ったのと対照的に。
<全曲紹介>
1. Our
Gaze
冒頭から3分強の長尺でポップな楽曲だが、なぜかこれはシングルカットされず。
ギターもベースもドラムも、どれも歯切れ良い。さらに一本調子に留まらず、中間部でいちどググッとブレーキ踏むような緩急もあり。
名曲にはあと一歩、何かのパンチが足りない。とはいえキャッチーな曲だ。
2. Count Us In
"Standard Gargoyle
Decisions"と共同で月例シングルシリーズにて、6thシングルとし発売された。
微かに背後で鳴り続けるシンセをアクセントに、ストレートなロックをぶちかます。
サビでタイトルを連呼し、ゆったり畳み掛けるとこが良い。
3. Exactly What Words Mean
サビの甘酸っぱいメロディやコードの印象を、ビートルズに例えたい気持ちが良くわかる。
テンポはゆったり、弾き語り要素を生かした。小節感も希薄で、ドラムが中盤で入るも基本は歌の流れをギターで追認するかのよう。
さりげなく愛おしい良曲だ。
4. Current Desperation (Angels Speak Of Nothing)
3rdシングル。音程を変えながらシンプルなリフを繰り返す、単純だが耳を弾くアレンジを施した。オブリでギターがうっすらとノリを補完する。
ボブの歌はサビに向かってどんどん高まる、小気味よさ。奇数拍キックのせいか、各小節の冒頭にノリが集まり蹴り飛ばされるようなビート感だが、もっと裏拍強調で盛り上げたら、ぐっとキャッチーさが増したと思う。
歌の盛り上がりを、バック・トラックが抑えるような感じ。
5. Dumb Lady
曲もアレンジも良い7thシングル。アコギの和音感が瑞々しい。確かにこの響きもビートルズに例えたくなる。
ゆったりバラードだが、ドラムがきっちり刻んでビート感を残した。美しいメロディをふんだんにボブは投入する。構成とかあまり気にしないまま。
トッドは音色を甘く仕立て、オブリやダビングで工夫を細々してるが、あくまでも歌の引き立てを意識した。
6. Rud Fins
1stシングル。リフレインのメロディが異様にキャッチーで、他のGbV曲を連想するが思い出せない。
冷静に考えると、ボブはなんで「既にこのメロディ書いたな」って悩まないのか。過去の膨大な曲を全て覚えてるなら、すさまじい記憶力だ。
前半は地味だが、どんどん高まりサビで炸裂する構成と、メロディの求心力が抜群な曲だ。
7. Customer's Throat
ギターがほぼ同じ譜割で刻み、ベースが歌うことでスピードを意識させるアレンジ。ドラムが所々、躓くようなアクセントを入れる。付点を上手く使ったリズムだ。
終盤で大サビのメロディも意外と唐突だが、トッドのアレンジ妙味で違和感感じさせない。
8. Miles Under The Skin
12thシングル。ゆったりしたギターのフォーク・ロック。この盤は牧歌的な印象の穏やかな曲調が多い。たとえアップでも、どこか寛いだ余裕あり。
この曲はハーモニーの支えが心地良い。さらにサビで歌がシングルになり、シンセがサポートに回る。こういう丁寧なアレンジが気持ちいい。
最後でシンバルのクローズな音が鳴る。リズムは決してタイトじゃないが、その素朴さが味になる。
9. Penumbra
LPではここからB面。タイトルは英語で陰影、天文学用語では半影をさす。
バンド・アレンジからサビ前でいったんアコギに着地、再びバンド編成へ戻る。
一声、ドライな掛け声が入りサーフ風に変わるという。クリアな一曲だが、意外に凝ってる。
10. Slow Hamilton
好きな曲。サビでの甘酸っぱさがツボなんだ。イントロで盛り上げてサビで花開く、綺麗な展開を持つ。繰り返しのように見せ、細かく譜割や音程が変わる作曲ぶりも良い。
ギターに合わせハイハットを叩くが、微妙にモタってる。ワザとかな。
11. Looks Is What You Have
ゆったりとボブが歌い、奇数拍にリフを集めた。ひとしきり歌ったとこで加速する譜割。サビでギターがストロークに変わる。一曲でさまざまなビート・パターンを取り入れた。
本盤も後半は"Standard 〜"同様のブロックを組み合わせる曲が続く。あまり楽想を変えず、同一アレンジで押すから違和感っぷりは少ないが。こうまで続くとトッドの手腕より苦労がしのばれる。ボブはほんと、一筋縄ではいかない。
12. I Clap For Strangers
このイントロ・パターンは何かで聴いたが思い出せず。ドライな空気感でバンド・サウンドが盛り上がる。シンプルなキックをあえて後ろの方にミックスし、コケ脅かしを見せない。フレーズを弾くギターの音色が明るく、すらっと鳴った。
バッキングのパターンは一つだけ、ボブが歌ってあっさりと幕を下ろす。
13. Life Of A Wife
06年ツアー時点で既に一度演奏あり。甘やかなボブの弾き語りパターンだが、ギターは数本ダビングして厚みを出す。鍵盤やドラムも加わるフル体制のアレンジだ。曲が進むにつれ、どんどんシンフォニックに盛り上がっていった。
こういう音色だと、弾き語りが切々と盛り上がる。
さらに歌声も妙に大人っぽく作って歌うボブがユニークだ。
14. Youth Leagues
8thシングル。二小節のコンパクトなイントロで、ストロークとドラムの対話はシンプルながらキャッチー。二小節目にバスバス鳴る音は、なんの楽器だろう。
ぐしゃっと声をつぶした加工で、サビから急にメロディアスさを増した。
15. When We Were Slaves
これも弾き語り風からサイケ・ポップに盛り上がるアレンジな、10thシングル。
フレーズの後半で辛そうに喉を軋ませる歌いかたが、妙に生々しい。意外とボブはハイトーンまで素直に歌い上げるが、こういう小技もたまに挿入する。
聴いてるうちに引き込まれた。とっつきにくい一筆書きソングだが、個々のメロディがきれいだな。
16. Nicely Now
くいくい上下するヴォードヴィル的なアレンジ。ボブの歌はドライにミックスされ、ほんの一節だけダブル・トラック加工された。だんだん分厚く鳴るアレンジで、物語めいたサウンドだ。右奥で静かに鳴るタンバリンがキュート。
ずいぶんフェイド・アウトのスピードが速く、じわじわと音が消えていく。