Guided by Voices

"Blazing Gentlemen" Robert Pollard (2013:Guided By Voices Inc.)


Producer, Engineer, Recorded By, Bass, Drums, Guitar, Keyboards - Todd Tobias
Written-By, Vocals, Guitar, Layout - Robert Pollard

 手早く、しかし内に籠った創作意欲を溢れさせたような盤。アレンジの妙味がそこかしこで炸裂した。ボブのソロだがトッドのアレンジ・センスも聴き逃せない。

 前作"Honey Locust Honky Tonk"が7月発売から約半年後、同年12月に本盤がリリース。録音の構成はバック・トラックをすべてトッド・トバイアスが作成し、ギターとボーカルをボブが重ねる。前作と同じ構成であり、同時期の録音かもしれない。

 というか、この構成はもうずっとボブのソロのパターンだった。しかし蜜月は本作で終わる。次作"Faulty Superheroes"(2015)では奏者に別のミュージシャンを起用。さらに次のソロ"Of Course You Are"(2016)でボブはNick Mitchellと組むのだが。
 トバイアス兄弟とのサーカス・デヴィルズも同時期に最終盤を出す。色々と人間関係が変わったのかもしれない。
 もっともトッド・トバイアスとの二人三脚なボブのソロは"Fiction Man"(2004)に遡り、アルバムだけでも本作で17枚目か。いい加減、心機一転したかっただけかも。

 本盤のサウンドは過去と特段変わりなし。32分で16曲と短い曲を叩きこむ。比較的、実験性の薄いポップな曲が並ぶかな。ボブのメロディは一筆書きの要素が高まり、手なりでどんどん曲を溢れさせた感あり。

 しかしステージ映えする派手な曲は本盤に無い。むしろ内省的なムードが強い。トバイアスがガッチリとコンボ編成でアレンジしておりわかりづらいが。GbVに持って行けない楽曲をソロで並べたか。昔ならお蔵入りしてたろうが、今はたぶん自由にリリースできる環境をボブは整え済みだし。

 本体のGbVは本盤の数か月後に"Motivational Jumpsuit"、"Cool Planet"と矢継ぎ早にアルバムを出す。この年はツアーが無かったが、翌2014年は"Cool Planet Tour"も始まる。その前にどんどんと楽曲を放出した格好か。
 GbVdbによれば本盤収録曲をライブで演奏した気配はない。あくまで小宇宙として本盤は存在している。

 なおシングルは(5)が本盤発売の一か月前に切られた。B面は(10)。珍しくアルバム未収録曲ではない。曲がネタ切れってわけでもなかろうに。そしてこのシングルもヒットチャート狙いじゃなく、マニア向けグッズの色濃いと想像するが。

 アルバムの覇気はあるが、けっこう地味。切ないメロディも弾けるまで行かず、全体としては少しばかり煮え切らない。

<全曲感想>

1 Magic Man Hype

 威勢のいいギター・リフで幕開け。だが歌声は語り掛けるようなシンプルなラインをなぞる。少し声を歪ませてローファイなムードを作った。サビでドラムに蹴飛ばされるような、強引に煽るアレンジ。
 メロディのテンションは音域が上がるものの、静かなままであまり変わらない。しかしアレンジとコード進行で華やかさとメリハリを出した。コード進行はボブとトッド、どっちの手柄か知らないが、風景の鮮やかな転換は気持ちいい。

2 Blazing Gentlemen

 これもシンプルなギター・リフがまず煽る。ボーカルがメロウさを保ちながら静かに流れるのと対照的。ただしこの曲は、サビでの明るく広がっていく和音感が素敵だ。むしろドラムは抑え気味で、メロディ・ラインの力で華を咲かせた。
 サビでちょっと譜割が大きくうねるところと、大サビでもう一段ひねるとこが良い。無理やり盛り上がる曲ではないが、さりげなく練られた作曲だ。一筆書きのようにどんどん場面が変化していく。

3 Red Flag Down

 鈍く重たいリフにばしゃばしゃとシンバルがラフに重なる。トッドは多重録音でバンド的なダイナミズムを出すのが本当にうまい。楽曲はとりとめない一筆書きで進む。メロディも起伏が希薄なため、アレンジのメリハリで聴かせた。
 多重ボーカルも効果的に使い、サイケな絵を描く。
 中盤ではブレイクも挟み、曲に区切れを出した。ブレイクの瞬間、わずかに積み重なるメロディは意外と耳を惹くのだが。

4 Storm Center Level Seven

 イントロ無しでキャッチーなメロディをばら撒いた。10年前のボブならもう少しポップに仕上げたと思うが、ここでは旋律の動きをそのまま一筆書きっぽく展開させるのみ。
 空間を埋め尽くさず、ユニゾンのキメで空間生かしたアレンジはこの楽曲にも似合ってるし、その前曲までの弾き倒しとも異なるアクセントを作った。

5 Return Of The Drums

 イントロがわずかに切なく展開し、歌かと思わせて数小節インストが続く。低く鈍いボーカルが乗り、そのままじりじりと進んだ。これをシングルにするセンスが凄い。(2)や(4)のほうが似合いそうなのに。
 タイトルに引っ掛けてドラムの打音をアレンジの主軸に置いた。楽曲としては地味と思う。 

6 Piccadilly Man

 ストローク中心だったギター・リフが続いたが、ここで爪弾きを生かしたエレキギターに。フォーク調でボブの弾き語りっぽさを生かした。メロディも生き生きと瑞々しいボブ節。
 トッドはシンセのダビングやギターのオブリ、ベースを乗せる程度でメロディをグッと目立たせた。このアレンジ・センスがいい。そして楽曲は次へ滑らかに繋がる。

7 Professional Goose Trainer

 いきなりの歌いだしに追いかけるような打ち鳴らし。中盤まで隙間の多いフレージングでじっくり進む。シンプルな歌い方そのままに涼し気に進み、中盤以降でバンド的なアレンジに。
 波打つようなディレイの余韻が寂し気な空気を煽る。メロディの赴くまま紡いだ楽曲を、トッドが上手いことアレンジしてアンサンブルに仕上げた。
 弾き語りでもない、無伴奏で歌いそうな歌か。いや、サビでのかき鳴らしっぽさでもアレンジは成立する。やはりトッドの冴えが本曲を特徴ある印象に仕立てる手柄か。

8 Extra Fools' Day

 甘酸っぱい雰囲気をギターのストローク一発で描く。ぐっとボーカルを前に立てたミックスで、もう一本のギターをオブリで重ね、ボブ節のセンチメンタリズムを丁寧に仕上げた。 
 メロディはやはり一筆書き仕様。それを譜割に合わせて演奏を跳ねさせたり、一気に雄大な世界を作ったり。短い楽曲の中でバラエティかつドラマティックな世界を広げた。
 最後はしんみりと冒頭に戻して収斂させる。楽曲の料理具合がおみごと。

9 1000 Royalty Street

 シンプルなロックンロールでボブのメロディを仕上げた。メロディはむしろ一本調子気味だが、アレンジのアクセントや楽器の音数を調整してダイナミズムを作った。
 この辺のメロディや歌い上げるセンスは、ボブの弾き語りでも成立するだろう。しかし終盤で唐突にコーラスを足したり、バンド・アレンジながら単なる弾きまくりで仕上げないところに、トッドの非凡なセンスが光る。

10 My Museum Needs An Elevator

 性急に畳みかけるイントロ。歌が切れたとこでグッと溜めて、テンポを調節した。一呼吸置いたボブの歌は、四分音符をくっきり強調する大きな旋律。
 平歌のせわしなさとサビのおおらかさが特徴的な曲。それをアレンジがしっかり補強する。この楽曲は比較的シンプルな構成と思うが、演奏でずいぶん濃さを足して3分強と本盤にしては長めにまとめてる。
 シングルB面に入れるあたり、ボブなりトッドなりが気に入った曲なのだろう。ぼくとしては次の曲のほうが好きだけど。

11 Tonight's The Rodeo

 さりげなく本盤を代表する佳曲と思う。ボブ節で平歌をセンチメンタルにまとめ、サビでカラッと空白を生かし、畳みかけるタイトルのフレーズ。このせわしないフレーズと突っ込み具合がカッコいい。
 なんというかな、アイディアの斬新さが良いんだ。本盤でもっとも印象に残る曲。

12 Tea People

 一転して60年代風のゆったりしたテンポでざっくり刻む。跳ねるビート感が古めかしくも耳馴染み良い。ボブ節のメロディもばっちり生き生き。瑞々しい雰囲気が、サビの掛け声で効果的に映えた。
 これもわかりやすくシンプルな楽曲。サビの裏でシンセを右チャンネルでうねらせたり、単なるバンド・サウンドに終わらせぬトッドの味付けもさすが。
 「Stop」って歌に合わせて急転直下の切り落としで終わる。

13 Faking The Boyscouts

 ウッドブロックのぽこぽこ素朴な響きが面白い。無くても成立するアレンジなのに、このひと振りなアクセントが本曲を奇妙に寛いだ雰囲気にした。
 メロディは一筆書き風味。ボブが心の赴くままに作ったかのよう。しかしリズミカルでもない、とぼけた木魚みたいなウッドブロックと、丁寧な多重録音のハーモニーの大胆さと繊細さが同居するアレンジの細やかさが、この曲を引き立てた。

 "C'mon!"とボブが一声叫び、かすかなギターソロとともにフェイドアウトするエンディングもムードあって良い。

14 Triple Sec Venus

 元気よく畳みかけるアレンジ。言葉遊びのようにボブのメロディが次々溢れ、いきなり途切れてスローに変わった。普通に聴いてたら別の曲かと思うくらい。空白をぐっと秒単位で作る大胆なアレンジの技だ。
 エンディングはシンセの炸裂で思い切り豪快かつ強引に終わる。凄い力技だ。

15 This Place Has Everything

 ゆったりしたギターのストロークをバックに弾き語り風に幕を開け、そのあとはリバーブを思い切り効かせたバンド・サウンドで後半をまとめる。アイディア一発の曲を、アレンジの妙味でキラリと光らせた。

16 Lips Of Joy

 最後もバンド・サウンドでシンプルに決めた。あえて変化球でなく、王道のロックで締めるかっこうか。サビでブレイクを入れたり、多重ハーモニーを混ぜたりと工夫はアレンジに凝らした。
 率直なところメロディが一筆書きのとりとめない楽曲なため、きちんとしたコンボ編成でまとめたおかげで曲もアルバムも無難にまとまった。カタルシスはないが、なんとなくきれいに着地してる。           (2017/6:記)
 

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