Guided by Voices

Kid Marine/Robert Pollard(1999:LUNA)

Robert Pollard - vocals,guitars,keyboards
Greg Demos - bass
Jim Macpherson - drums
Jim Pollard - Feedback on 2
Tobin Sprout - piano on 14
Kim Pollard - Scream on 5
Huff Winka - percussion on 10
Lord Lanternhead - violin on 4

 「イン・ザ・フェイディング・キャプテン・シリーズ」の一作目にあたる。
 このシリーズはロバートの個人レーベルって所かな。
 GbVでできない音楽を演奏するのがコンセプトだろうか。

 とはいえ、GbVとは何が違うのか、今ひとつわからない。
 今回の演奏メンバーも、GbVで見慣れた名前ばかり。
 メジャーレーベルと契約して好き勝手にリリースできなくなったから、こちらで創作意欲を満足させようって腹かも。

 あえてGbVとの差を見つけるならば、こちらの方はより室内的な手触りの曲が多いくらいだろうか。
 アイディア一発で作った曲が多い、って言ってもいいかな。
 ただ、特筆して大騒ぎするような違いでもないけれど。

 メンバーは基本的にロバートのギターを、グレッグとジムのリズム隊が支える構成だ。
 ゲストは曲の味付けにささやかに貢献する程度。
 メンバー構成はシンプルなのに、曲調はバラエティに富んでいるのはさすがだ。

 「永遠の名曲!」って大騒ぎするような曲は入っていないけれど、ある水準は軽く越えた曲ばかり。
 GbVは今後、さらにビッグになっていくだろう。
 それにともなって、ライブを意識したタイトな曲が多くなるような気がしてならない。
 だとしたら、今までの一筆書き風のロバートを楽しめるのは、ソロアルバムばかりになるのかもしれない。

<曲目紹介>

1)Submarine Teams

 ハミングのようなうわずる声をひっさげて、軽快なビートのロックンロールが始まる。かるくあおるギターリフが、耳をひきつけてかっこいい。
 メロディは特筆するようなきれいなものじゃないのに、雰囲気をころころ変えるアレンジのおかげか、聴いていて退屈しやしない。
 軽く弾むドラムの音がここちよい。
 約5分くらいある、ロバートにしては長い曲なのに、時間の経過を感じさせない。あっというまにエンディングになだれ込んでしまう。
 エンディングのアコギによる静かなパートが、テンションをなだらかにさげていく。

2)Flings of the Waistcoat Croud

 まず耳を引くのが、多重録音によるヴォーカルの美しさ。
 メロディも甘く響く。二分あまりで、あっというまに終わってしまうのがもったいない。
 アコギのシンプルなコード・ストロークに乗って、歌声がやさしく跳ね回る。

3)The Big Make-Over

 イントロのギターは、どこか調子っぱずれだ。
 特に耳を引くような派手なところはない、ミドルテンポのささやかな曲。
 だけど、優しいメロディが、耳の中にしみ込んでくる。
 ばたばたするドラムのリズム感がいまひとつだけど、聴いていてリラックスしてくるのはまちがいない。

4)Men Who Create Fright

 エコーをたっぷり聞かせ、サイケなイメージを前面に出した曲。
 ロード・ランターンヘッドのバイオリンが、神経質にきこきこ鳴っている。
 メロディはちょっと単調かな。
 でも曲の単調さが、神秘的とは言わないまでも、緊張したイメージをかもし出すのに一役かっている。

5)Television Prison

 ざっくりしたギターのアレンジが印象的な曲。
 ブルーズ感を味付けとして、ぱらりと振りかけている。
 GbVはローファイの代名詞と呼ばれることもあるが、ロバートはこういう荒っぽいアレンジを、それほど多用しない。
 あくまで手法の一つとして使用し、ローファイなサウンド自身を好んではいないと僕は推測する。
 
6)Strictly Comedy

 基本的には単調な歌なのに、メロディが思いのほかポップな瞬間がある。
 ただ、演奏が妙にへたくそだ。歌声もところどころでピッチが外れる。
 そのせいで損をしている。
 タイトな演奏で固めたら、ちょっとはいかしたポップスになるだろうに。

7)Far-out Crops

 前曲に続き、この曲でも歌のピッチがずれているところがあるのに。
 こちらの曲はすんなりと耳に流れ込んでくる。
 調子のはずしかたが「ロバート風のはずし方」になってるせいだろう。
 ・・・意味をつたえにくい表現だけど、GbVをいっぱい聴いた人にはピンとこないかなあ。
 メロディの作り方や歌い上げ方に、ロバートくささをしみじみ感じてしまう。
 いわば、ロバートの手癖があからさまに出た曲ってところかな。

8)Living Upside Down

 歯切れのいいカッティングに乗って、ロバートが軽快に歌う。
 透明感があって、いさぎよい歌い方がナイスだ。
 さざ波のように淡々と流れていくギターソロも、なかなかかっこいいぞ。

9)Snatch Candy

 この曲はメロディがいい。一分半で終わるのがもったいない素敵な曲だ。
 高音をやさしく伸ばすロバートの歌声がすばらしく魅力的。
 ミドル店舗のゆったりしたリズムで、漂うように演奏が続いていく。
 終盤のぶっといシンセ・ソロも心地よい。単音でしとやかに流れていく。

10)White Gloves Come Off

 ブレイクを多用した弾き語り感覚の曲だ。
 ハフ・ウインカのボンゴが、左右のチャンネルから軽快に鳴る。
 ハーモニーのアレンジも見事だし、全体的にもサイケ・フォークのかっこいい雰囲気になっている。
 もうちょっとメロディが優しかったら、とびきりの名曲になったのにな。

11)Enjoy Jerusalem!

 陰鬱な雰囲気で進んでいく。ダブル・ヴォーカルをところどころに配したあたりの構成は、ぴったり僕のツボにはまってしまう。
 シタール風に響くギターのフレーズが耳を引く、危うさを秘めた曲だ。
 何度も聴いていると、奇妙なテンションの高さが耳に迫ってくる。

12)You Can`t Hold Your Women

 イントロのへたくそなホンキートンク風のピアノは、ロバートの演奏かな。
 キーボードの抑えた演奏で雰囲気を静かに盛り上げていき、いきなりサビでギターが爆発する。
 ドラマチックで面白い曲だ。
 たどたどしいギターソロが始まった瞬間に、フェイドアウトしていく尻切れとんぼぶりが、いかにもロバートらしい。

13)Toen Of Mirrors

 バックの演奏は、ヴォーカルに擦り寄るように展開していく。
 妙に危なっかしい演奏なのは、なんでだろう。
 静かに弾き語りのままで、終わるかと思いきや。
 この曲もエンディングで、バンドが爆発する。
 エコーをばりばりに聞かせて、たった一つのリフを繰り返し歌う。

 もしかしてこのエンディングだけで一つの曲だったのかな。
 それでもって、このアイディア一つで一曲にするのは、さすがにしんどいから、この曲とむりやりくっつけてみたとか。
 さもなきゃ、この唐突なアレンジは納得しづらいなあ。

14)Powerblessings

 13)のエコーを引きずったまま、アコギのコード・ストロークが滑り込んできた。
 シンセによる数本の長いフレーズが、静かなサイレンのように響く。
 ダブル・ヴォーカルのメロディは、ところどころで屈折しつつも、つねに優しい。
 サイケなもやもや感たっぷりのわりに、落ち着ける佳曲だ。 

15)Island Crimes

 アルバムのトリを取るのは、引きずる重たいナンバーだ。
 フェイド・インでハイトーンなロバートの声が現れ、消えていく。
 ところが曲の雰囲気はがらっと代わり、螺旋を描くようなイメージが全体を覆いつくす。
 組曲のように様々な要素を結びつけた曲だけど・・・ううむ。
 僕の好みとはちょっと離れてしまっている。 

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