Guided by Voices

WAVED OUT /Robert Pollard(1998:Matador)

Robert Pollard - everything
Jim MacPherson - drums on 1,4,7,11 & 12
Johnny Strange (John Shough) - bass on 1,4,7,11 & 12
Doug Gillard - guitar on 5
Tobin Sprout - high hat & piano on 8
Kattie Dougherty - trumpet on 7
Brett Owesly - organ on 13
Stephanie Sayers - all instruments on 10

 ロバートの二作目はポップな感触が全面に感じられる好アルバム。
 このアルバムは、なぜか日本で先行発売された。しかもボーナス曲を一曲つけて。

 本盤では前作の一種いいかげんなまとめ方がすっかり影を消し、一曲一曲に工夫を凝らしたアレンジをつけて、アルバム全体のメリハリをつけようとしているのがよくわかる。
 ゲストが何人か参加しているものの、基本的にはロバートの多重録音。
 
 無造作に作品を放り出した前作は、かえってロバートのソロ作品なのを強調していた。
 ところが今作では、作品としてまとめ上げられているがゆえに、GbVとソロとの違いがますますわかりにくくなる、皮肉な結果になっている。
 強いてあげれば、自分自身のパーソナルなノリでつくってるから、リズムがちょっとゆるいかな。
 だけど、4曲ほどでつくりあげたダグ・ギラードとジョニー・ストレンジのリズム隊によるバンドサウンドが、このアルバムのノリをすっきり締めている。
 この構成力は見事だ。自分のアルバムを客観的に見ることができている。
 
 ロバートの多才なアレンジの引出しを、かたっぱしからあけて見せたおもちゃ箱のような作品だ。

<全曲紹介>

1)Make Use

 ギターとドラムでたたみかける、とってもいかしたロックンロールでアルバムが始まる。録音もヌケがいい。
 ヴォーカルはちょっとパワーを押さえ気味なのが残念。
 中盤でヴォーカルが歌い上げていくところと、その後しばらくして挿入される、ぐにゅ〜っとしたシンセの音がとても好き。
 隅から隅まで目配りがゆきとどいた名曲だ。

2)Vibrations In The Woods

 こもった録音で、間を生かした曲。リズムボックスのチープなリズムが、この曲にぴったりと合っている。
 曲の感触は、前アルバムと似てるけど、色々な音をかぶせて作っているから、アレンジの印象は豪華な感じがする。録音はとってもローファイなんだけどね。
 メロディがちょっと単調なのが残念。

3)Just Say The Word
 
 この曲も重たくじっとりと進んでいく。リズムボックスのチャカポコした音が、めいりそうに重たいギターから救い上げてくれる。
 時たまロバートのヴォーカルの生々しく響き、「おおっ」て耳をそばだてる。でも全体的には、もうちょっと華が欲しいアレンジだ。

4)Subspace Biographies

 やさしいギターの爪弾きが重なり合い、ドラムが楽しく飛び出してくる。
 ギターの明るいリフが、とてもいとおしい。シンプルなのフレーズなのに、わくわく耳に響いてくる。
 中盤で聞こえるハーモニーはさりげないけれど、効果ばっちり。
 小粒なところはあるけれど、明るくて気持ちのいいアップテンポのロックだ。
 きっちりまとまったバンド風のサウンドが生み出す、爽快感がたまらない。

5)Caught Waves Again

 この曲は元コブラ・ヴェルデ、元GbVメンバーであるダグ・ギラードとの競作曲。
 ダグの地元のクリーブランドと、ロバートの本拠地デイトンの二箇所で録音されている。
 その割に、この曲は素朴な生ギターの弾き語りだ。
 たぶん生ギターを弾いたダグのテープに、ロバートがヴォーカルをダビングしたんだろう。
 二箇所に分けて録音する意味があるのかなあ(笑)贅沢と褒め称えるべきか、「大げさだな〜」と笑い飛ばしてしまったほうがいいのかな。

6)Waved Out

 リフを聴いているとナックの「マイ・シャローナ」を思い出してしまう。
 弾むベースがリズムをがっしりとつかみ上げて支えている。
 これから盛り上がるかな、と期待をもたせてメロディが展開したところで、あっさりと終わってしまう、一分少々の小品だ。

7)Whiskey Ships

 ミドルテンポの佳曲。僕自身はこういうリズムが大好きなので、頭のドラム一発ではまってしまう。
 テープの逆回転風に、バスンとはまるバスドラもかっこいいな。
 ライブ仕立てに、中盤で観客の歓声やビール瓶がのSEがかちゃかちゃ挿入される。
 メロディだって、いかしてる。派手さはないけど、じわじわ染み込むいい曲だ。
8)Wrinkled Ghost

 キーを上げて歌うロバートの声を堪能できる曲。
 ハイハットとピアノをトビンが弾いてる。ピアノはエンディングにさりげなく和音で叩かれる。
 メロディがころころ流れていくのを聴いていると、心が弾んでくる。
 アレンジの要はシンセの和音。中盤でバックに挿入されると、そのまま最後まで延々と高らかに鳴りつづける。

9)Artificial Light

 エコーで膨らませたギターの爪弾きに乗って、ポエトリー・リーディング風につぶやき、歌っていく。
 一分足らずの短い曲だけど、さりげないメロディの起伏には何ともいえない味がある。

10)People Are Leaving

 ステファニー・セイヤーズとの共作で、バックはすべてステファニー。
 この曲は大好きだ。ソフトロック風に付点を生かしたギターが曲全体を覆いつくす。
 雨の中に立ち尽くしているような寂しさと、繭に包み込まれるような優しさが同居している。

 この曲はヴォーカルがめちゃくちゃかっこいい。
 最初から最後まで、二本のヴォーカルがつかず離れず、違うメロディを歌っていく。
 不協和音的に響くことはないけれど、お互いのメロディラインがあっちこちに飛ぶさまが爽快だ。
 そして、曲の中盤で二つのヴォーカルが寄り添う。
 サビでぴったりと同じメロディをユニゾンで歌う瞬間のかっこよさといったら!
 この曲の中で、二つのメロディラインが重なり合うのはたった一瞬だけ。
 二度と繰り返されることはない。その美学が美しい。 

11)Steeples Of Knives

 ザクザク刻むギターを、ドラムがあおる。ベースはリフを下から底支えする。
 この曲もジム・マクファーソンのドラムに、ジョニー・ストレンジのベース。たぶんギターはロバートだろうな。
 4)や7)、そしてもちろん1)のように、一体感をしみじみ感じさせるすてきな演奏が流れる。
 メロディも演奏に負けることなく生き生きと歌われる。
 あと一歩、前に踏み出せる特徴がメロディにあればなあ。惜しいところで個性を作りそこねてる。

12)Rumbling Joker

 メロディが甘く漂う。スローテンポで演奏はかぎりなくシンプルに。バックの編成は11)同様のメンバー。
 なのにリズム隊は淡々とリズムを刻むだけ。メリハリの効いたいい演奏だ。
 シンセかなにかで作ったノイズが、ヴォーカルの後ろでひよひよと浮かぶ。
 歌声を生かすのを優先させている。
 もっとも、ただシンプルな演奏だけで終わらない。
 エンディング近くなると楽器がさりげなく自己主張をしてくる。その対比が面白かった。

13)Showbiz Opera Walrus

 タイトルどおりの曲・・・。
 それだけでこの曲の紹介を終わらせたくなる。
 ヴォードビルを思わせる古めかしいメロディ・ラインに、エコーを効かせてたどたどしく進むあたりが、セイウチを思わせる。
 曲のアレンジを思いついたから、このタイトルをつけたのか。それともタイトルが先かな?どっちだろう。
 所々でテープ操作がアクセント的に挿入される。10)のフレーズも一秒程度だけど、カットインしてたな。

14)Pick Seeds From My Skull

 やさしいギターのカッティングではじまり、エフェクト処理をしたヴォーカルがハーモニーをつける。
 ロマンチックなメロディなのに、バックの甲高い声が奇妙な味付けを付け加えている。一分ほどで終わってしまう小品だ。

15)Second Step Next Language

 オリジナル・アルバムでは最後の曲。
 静かにボーカルが探りを入れて、歪んだギターがバックを埋めていく。
 歌声が高らかに歌い終わると、ギターノイズが音像を埋め尽くす。
 ハードに聞かせようとしているのかもしれないが、どこかにポップな感触が残っている。
 一分程度で歌声は消え去り、残る数分はギターによるフリーなリズムのフィードバックがうごめく。
 ここまでポップな趣味を前面に出してきたロバートの情念が、最後にきて噴出したようだ。
 4分15秒くらいのところで、一瞬メロディアスなフレーズが顔を出すのが、メロディメーカーのロバートの面目躍如・・・と見るのはうがちすぎか。

16)Aim Correctly

 日本盤にのみ収録されたボーナス・トラック。
 深いエコーに包まれたヴォーカルが、メロディアスな旋律をはっきりと歌う。
 バックでファズを聴かせたギターが唸るのが、前曲とのつながりを感じさせる。
 いきなりカットアップですぱっと終わっちゃう。
 アルバム全体の構成で言えば、この曲は最後に持って来るべきじゃなかったな。
 やはり、15)のギターノイズで終わってこそ、ロバートの本意が伝わるってものでしょう。

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