Guided by Voices

"Mist King Urth"/Lifeguards(2003;The Fading Captain)

Robert Pollard - Vocals
Doug Gillard - Instruments
 
 バンドっぽさより、曲の完成度を追求が本ユニットの路線だろうか。なにせオケを作ってるのはダグ一人だ。

 ロバート・ポラードとダグ・ギラード(ex:コブラ・ヴェルデ〜GbV)によるコラボ・ユニット第二弾。
 前作とは違い、バンド名をライフガーズと設定した。

 だが制作方法は前と一緒。
 バックの演奏をダグが多重録音し、ロバートがボーカル(詩とメイン・メロディを担当)乗っけるスタイルだ。
 ロバートはこういう「歌だけ」ってパターンが多い。やりやすいの?

 ダグはクリーブランド、ボブはホームグラウンドのデイトンにて録音した。両方ともオハイオ州。
 オケは4チャンか8チャンで録音とある。こもり気味だが、ローファイさを狙ってはいないようす。
 ロバート側のエンジニアは、おなじみジョン・ショウが担当してる。

 ところどころにドラマティックなリフを入れ、プログレっぽい場面すらも。
 インストでも鑑賞に堪える音楽、をダグが意識したようだ。
 もっとも偏執的に作りこんだ様子はなく、スタジオ志向の音ながら野暮な重たさはない。

 ・・・うーん。これ、ぜひ製作の模様を知りたい。どういう順番で音を作ったんだろ。
 ・いきなりダグがオケを全部作ってロバートに送った。
 ・ロバートが曲とコード譜くらいをダグへ先に送った。
 ・ダグが曲のデモをロバートに送り、ボーカルをかぶせたマルチへダグがオケをオーバーダブ。

 ざっと考えただけで、これらの可能性がある。密に意見交換しながら作ったなら、もっとパターンは多彩だ。
 そこまで深く考えず、えいやって録音した可能性もあるなぁ。なにせGbVだし。
 さぞかし面白いドキュメンタリーになると思うぞ。

 ダグがさまざまな楽器を使い分け、演奏は単調にならない。
 曲もあえてバラエティに富ませたようだ。
 ロバートのメロディは、固いところが散見。だけど悪くないアルバムだ。
 あとは"ライフガーズ"として、個性を出せればばっちり。
 
 ちなみに。ロバート得意の限定アナログ盤ってのも千枚だけ発売された。

<全曲紹介>

1.GIFT OF THE MOUNTAIN

 鈍く唸るギターのリフが連なる、ある意味では威勢のいい曲。フレット移動のとき、ネックに擦れて出るような音がかぶせられている。
 いや、これはスクラッチのつもり?

 一本から二本、ギターをユニゾンで重ねて厚みを増す。
 最後までインストのまま。
 階段をよじ登る風景が頭に浮かんだ。

 エンディング間近でカウンターの旋律が、わずかにきらめく。
 これも膨らませたら、かっこいいロックのイントロになるはず。
 だけどアルバムの幕開けに、あっさりと使うのみ。いさぎいいな。

2.STARTS AT THE RIVER

 アコギのひらめくイントロから、唐突にエレキなバンド・サウンドへ。
 あのイントロはなんだったんだ。冒頭の世界観で、1曲聴いてみたかった。
 
 うわずり気味にロバートはメロディを綴る。
 実際の作業はともあれ、かなりダグよりの曲に聴こえる。
 ロバートが主導権とったなら、もうちょい歌を生かしそうなもんだ。

 一見ライブで映えそう。でものぺっとしたボーカルが開放感をせき止めた。
 音楽はボリュームを下げ、次曲のイントロのシンセ音とクロスフェイドする。

3.FIRST OF AN EARLY GO-GETTER

 高音シンセで後ろの空間を埋め、ゆったりとコード弾きの鍵盤で支える。荘厳でひしゃげた空気。
 頭打ちリズムにそろえ、ギターやドラムが入る。アレンジがかっこいい。
 70年代後半のプログレとか売れ線ロックがやりそうな構成だ。

 メロディはどこか調子っぱずれ。キーボードで作った曲っぽいが、かなりロバートの個性が出てる。
 やりっぱなしの吟遊詩人ぶりなメロディ・ラインとかね。

 エンディングまでアレンジはじっくり練られてる。名曲。

4.SOCIETY DOME

 一転して素朴なアコギの弾き語りムード。メロディ・ラインがロバートっぽくて好き。
 唸るベースが唐突に大きくミックスされ、アコギを後ろへ吹き飛ばす。
 この強引なミックスが楽しい。

 次第にいろんな楽器がダビングされてゆくものの、厚化粧って感じはまずしない。
 アコースティックな空気を大事にしてるせいか。

 シングル切れるほどキャッチーではないが、いぶし銀の存在でアルバムを締めるには欠かせないタイプの曲だ。
 
 リコーダーがぴーぷー調子っぱずれに鳴る。なんでこの楽器、ピッチが合わないんだろうね。

5.SHORTER VIRGINS

 スタジオ録音色が強い本作の中で、かろうじてライブで映えそうなロックだ。
 威勢良くギターが吠え、ドラムが刻む。
 ちょっとドラムがモタって聴こえるのはぼくだけか。

 一人多重録音にしては、リズムが疾走してる。
 だけどロバートの歌が生々しくミックスされたため、逆にライブっぽさが減っている。
 甘めの声で悪くない。・・・でもなあ。

 単調な構成で、ちょっと物足りない。

6.NO CHAIN BREAKING

 スロー気味の素敵な曲。
 エレキギターとベースがからむシンプルなアレンジに、あとはドラムが入るくらい。厳密に言えばオーバーダブもちょっとあるか・・・。
 すべてダグの多重録音ながら、バンドっぽい音作りに仕上げてる。アンサンブルが気持ちいい。

 きれいなメロディは、朗々と歌ったらクサくなるかもしれない。
 だがロバートはエコーをうっすらかけつつ、細かく息継ぎをすることで生々しさを選んだ。

 ・・・ちょっと言葉を選びました。実際には「酔っ払って声が出ないんじゃないの?」ってくらい、たどたどしいブレスの部分もある。
 ときには声の出が遅れたり。なんでこんなラフな歌をOKテイクにしたのやら。

 きちんとアレンジを煮詰めて作ったら、もっと曲は輝きそう。
 ただしここで聴ける気安さや親しみやすさは薄れて、そこらにころがる、ありきたりのポップ・ソングになっちゃうか。
 GbVによくある「原石」の魅力を秘めた一曲と評価した。

7.SEA OF DEAD

 幕間のようなインスト。
 シンセの白玉で空間を広げ、エレキギターがゆったりと空間を泳いだ。
 ソロじゃない。あくまで書き譜のメロディを奏でる。たまにフェイクさせるくらい。

 この曲もつるつるのエコーをかけて磨いたら、華やかなイージーリスニングになりそうだ。旋律が力強い。
 だが性根はロックンロール。ダグは飾ることをよしとしなかった。

 バックにエレキギターを数本かぶせ、音像をさりげなく汚す。
 そしてまっすぐにエレキギターを弾いた。

 インストだし、作曲は完全にダグ。いいメロディ書くなあ。
 コブラ・ヴェルデでのセンスは頷けなかったが、こういう音楽も作れるんだ。 

8.SURGEON IS COMPLETE

 ロバートにありがちな、複数の要素をごちゃ混ぜにした曲。
 冒頭のブロックは、ぼくが苦手なアレンジだ。ハードロック崩れと言えばわかりやすいか。

 リズムがなんだかへんてこ。サビ前のエレキギターのリフは半拍か一拍、ぐにゃっとタメて、普通にリズムに乗ってたら戸惑う。
 刻んでるとこも、微妙にノリが走ってる。
 拍のタメは意図的なもんだろうが、リズムが走るところはダグの手癖なのかもしれない。

 ボーカルのキーはぐっと落とし、ほんのり凄みを利かせる。
 演奏はドラムがばたつくとはいえ、一体感があって上手い。
 とはいえこのアレンジだったら、単純に嫌いになってたろう。

 ところが中盤で一瞬、サイケにふわっとメロディが浮かぶんだよ。
 その部分だけに魅力を感じた。

 あと、欠かせないのがため息のような多重コーラス。2:26あたりから、かすかに聴こえる、
 べらぼうにいいセンスだ。すごく好き。
 野暮を承知で言うが、このため息コーラスだけを生かして一曲作って欲しいぞ。

9.THEN WE AGREE

 ひしゃげたエレキ・ギターによるストロークがあふれる。ラフな音なのが残念。
 クリアにリバーブ効かせたら、素敵にドリーミーな音像になったろう。
 
 ロバートもきれいなバックの演奏にがっちり応え、斜め上を見上げた力強いメロディを組み合わせた。
 中盤のギターソロもいい。両チャンネルにくっきり分かれ、ユニゾンで同じフレーズを提示。あとはキュートなオブリで絡む。

 パーカッションはタンバリンがメイン。ラストでちらっとドラムが入る。
 低音はギターかシンセで代用みたい。

 後半はめろめろサイケで腰砕け。だけどアルバムを代表する名曲だ。

 冒頭の小文で「バンドの個性が・・・」って書いたけど。そうか、これだよ。
 この路線を煮詰めて、アルバム作って欲しい。

10.FETHER HERD

 フェイドインする打ち込みっぽいドラムがイントロ。というか、最後までずっと続く。
 ときどき左右チャンネルへ広がり見せるミックスで、目先を変えたか。

 メロディはリコーダー数本でひょろろんっ。
 ダグのお遊び?2分くらいの小品だ。

 ちなみにドラムは後半でリズムパターンを変える。
 すべてダグの自演なら、けっこう上手い。

11.RED WHIPS AND MIRACLES

 アルバム最終曲のイントロはピアノを使う。
 GbVのアルバムだとキーボードって、前面に出にくいから新鮮さがある。
 同じリフを繰り返す、なんてことない演奏なんだが。

 8分以上にわたる大曲で、場面ごとにさまざまな表情を見せる。
 ロバート流に考えるなら、いくつかのメドレーってとこ。

 鍵はピアノのリフ。ロバートはまず、透き通ったメロディを与えた。
 低いため息のようなコーラスが効果的だ。
 このコーラスがずずいと前へ出て、次のブロックへいざなう。

 ピアノは延々と同じリフ。きっちり8ビートをドラムが刻み、ベースは単音を拍頭で弾き続ける。
 ギターソロにかき消されたと思わせて、どっこいピアノはまだ続いてる。
 長いインスト部分が、やはりプログレみたい。
 きらめくキーボードのおかずもうまい。ダグってすごいマルチ・プレイヤーだ。
 つんのめり気味にピアノのリフが変化して、ブレイクをはさみ次のブロックへ。

 今度はロマンティックな風景に。カウンターをぶつけるベースのフレーズが美味しい。
 エレキギターが加わって、親しみやすいロックへ表面を彩った。
 そしてゆっくりフェイドアウト。
 ピアノが綺麗に後ろで響いた。 

 ロバートの役割はほんのちょっと。
 ダグが趣味全開で暴れた曲。
 しかしダグって、コブラ・ヴェルデではこういう音を作らない。不思議だ。

 いずれにせよ、アルバムの幕を下ろすにふさわしいドラマティックさだ。

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