Guided by Voices

Howling Wolf Orchestra 「Speedtraps for the Bee Kingdom」(2000:Fading Captain Series)

Bass, Drums, Guitar, Piano - Jim Pollard, Nate Farley
Drums, Guitar, Piano, Vocals, Cover - Robert Pollard
Lead Guitar - Greg Demos on 8  

 Guided by Voiceのロバート・ポラードによるソロ・ユニットの一つ。彼は数々のユニットを活動させたが、これは比較的初期にあたる印象だ。珍しく混沌かつ不透明なムードで、サウンドを構築した。
 当時はCDが500枚限定の発売。入手できず悔しい思いをしたが、今はAmazon Music Unlimitedで容易に聴ける。嬉しい。

 メンバーはボブに弟のジム・ポラード、そしてネイト・ファーリィ。(8)でだけギターでグレッグ・デモスも参加した。要するにGbV周辺の仲間うちによる突発的なユニットっぽい。

 結局本名義の活動は、本盤のみに終わった。ハウリング・ウルフってバンド名に冠したところから、ブルーズ寄りと誤解してた。実際には思い切りサイケ寄り。しかも録音アイディアがけっこう似通っている。
 ディレイや逆回転エコーっぽい加工を多用する点が。

 たぶん短期間、ひょっとしたら一日でパパっと本盤を録音して、そのまま直観的にリリースしたのでは。結局00年に本盤をリリース後、20年たった現在まで続く活動は無かった。
 
 ボブにしては分かりやすいサイケがちょっと意外なアプローチ。曲も極端にアヴァンギャルドなアプローチが目立つ。ポップさを求めたら向かないが、実験的なサイケを楽しむのに良いのでは。
 とはいえどっぷりドラッギーな酩酊感は無く、ローファイDIYっぽい素朴なムードが強いけれど。

<全曲感想>

1 You Learn Something Old Every Day 2:22

 ディレイを含んだフロア・タムにスティックを投げては反発してって打音を背後に、ボブが緩やかに歌う。やがて残響たっぷりのピアノの中みたいなノイズが広がり、覆いかぶさっていく。
 ボブにしてはずいぶんアバンギャルドな展開の曲。

2 I.B.C. 0:47

 これまたエコー成分多め、フィードバック・ノイズもアクセントなエイト・ビートのミディアム・テンポなロック。僅か45秒。ボブ流の一筆書きメロディが、ザラリと並んで曲が終わる。
 ボーカルにディレイをかけて揺らぎをだした。最後で唐突にリズムがバタつく。

3 I'm Dirty 2:16

 しゃくるギターとボブ流の軽快なメロディのキャッチーな曲。気に入ったらしく、01年のツアーではけっこうな回数で演奏された。
 3枚組LPで2010年に発売のライブ盤、"Live In Daytron ? 6°"に本曲も収録されている。このライブ盤の音源は01年7月12日に、地元オハイオのデイトンで行われたもの。

 本盤のテイクはずいぶん軽い雰囲気のアレンジ。あまりギターを歪ませず、シンプルなストロークに留め、すっきりとヌケが良い。なぜかやたらと、フェイドアウトが長い。
 これもサイケなムードを演出の試みか。ギリギリまで普通のバランスで、最後にギュッとボリューム絞ればいいのに。

4 It's A Bad Ticket 1:10

 ネイトとの共作曲。籠ったデモっぽい雰囲気だが、音は意外とクリア。リズミックかつ前のめりに押し寄せるため性急なイメージあるが、酩酊感あるサイケデリアが狙いではないか。
 冒頭から聴こえる、跳ねるようなシンセっぽい音が妙にコミカル。ボブのメロディは歌と言うより語りに近い。ラップってほどリズミカルじゃないし。

5 Satyr At Styx & Rubicon 1:59

 テンポ感と弾む感じは前曲と同様。こちらはエレキギターと電子ノイズに背後のムードを変え、ボーカルは残響と逆回転エコーっぽい効果を施し、ますますサイケさに加速がかかった。
 なおボーカルは芝居のセリフみたいな調子。もっとも曲そのものは、中間部以降のギター・ノイズを中心にしたインストが主体っぽい。荘厳さより手作りな素朴さがあるものの、ポストロック風の面持ちだ。

6 Is It Mostly? (It Is Mostly) 2:10

 作曲クレジットはメンバー三人。ジャム的に録音か。ピアノと籠ったキック・ドラムがちょっと引っかかるテンポ感で対話の中、パーカッションも混じる。
 やがてデカい音でエコーたっぷりのスネアが、ディレイをまとって打ち鳴らされるという。テンポ感は曲が進むにつれ、あいまいになった。
 これまたサイケで前衛的なインスト曲。

7 Where Is Out There? 1:10

 (3)と双璧のポップな曲。やはりエコー処理が強めでモヤのかかった世界観だ。しかし曲調はアコギのアルペジオに導かれる、穏やかなメロディの柔らかい曲。
 ディレイかつ逆回転風のボーカル処理が勿体ないな。もっと素直に味わいたい。もっとも、この幻想的な風景こそ、本盤の狙いだろうけど。

8 Fruit Weapon 1:59

 ほんのりジミヘン風味のギター・ソロがイントロ。ドラムがランダムに打ち鳴らされ、フリーな風景だ。さらに加わる歪んだ音色のエレキギターも含め、曲としては威勢が良く混沌で楽しい。
 こういう分かりやすいサイケなアプローチは、ボブらしく無いけれど。          (2020/4:記)
 

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