Guided by Voices
"Motivational Jumpsuit" Guided by Voices (2014:Guided By Voices Inc.)

Robert Pollard: vo
Tobin Sprout : g,key
Mitch Mitchell ; g
Kevin Fennell : ds
Greg Demos : bass

 若干メロウに寄り、しだいにアンサンブルが固まってきたような盤。それだけに、惜しい。

 再結成初期の点でバラバラな個人プレーから、すこし統一感が出てきた気がする。少し、だけど。小品20曲を38分に叩き込んだ。

 矢継ぎ早にリリースされる復活GbVの5枚目なアルバム。前作から少し間を置いて10ヵ月後の14年2月に発売された。録音のストックが無くなったということか。
 13年のGbVはリリース面だと静かだった。そして14年の1月に、本盤から先行シングルで1/21に(1)(7)(5)(16)(20)を一挙に5枚が7"で発売。B面はアルバム未収録とおなじみのスタイルだ。
 さらに本盤のあと3ヶ月後の5月に"Cool Planet"をリリースした。同じセッションで録った楽曲をアルバム2枚やシングルに振分けか。

 ステージのほうは12年にツアーを夏に行った。だが13年はGbVDBによると、9月にシカゴのRiot Fest And Carnivalで二回のギグを行ったのみ。それとも地元のクラブで散発的にライブをやったのかな。
 ともあれGbVは再始動。"Cool Planet"ツアーを14年5月に開始する。そして・・・9月18日のライブで解散を発表。その後の11公演はキャンセルされた。
 そんな、破綻に向かっての一枚。もちろん当時はそんなことを知るよしもない。

 14年のツアーでは本盤から(1)(2)(5)(9)(13)(14)(16)(20)をセット・リストにあれこれ組み入れた。要はシングル切った曲が中心だ。
 なお(7)(15)はトビン・スプラウトが17年のソロ・ツアーで取り上げてる。
 シングル5曲のA面のうち、トビンの(7)だけ14年のツアーで演奏しなかったもよう。このへん、ロバート・ポラードの強烈なリーダーシップが透けて見える気もした。
 この時期のGbVはボブとトビンの2トップによる黄金メンバーって売り方もできたろうに。

 個々のエコー感は録音時の仕事だろうか。凄く綺麗で、ふわりと残響が広がる箇所が幾つもある。
 最終マスタリングはデイブ・デイビスが担当。GbVと同じオハイオはシンシナティにあるデイブの自社スタジオ、The All Night Partyにて。なお今のところGbVがらみで担当の仕事は本盤のみになる。
 他にプロデュースは立てず、ボブとトビンでそれぞれに録音して、あとはボブがまとめたってとこか。

 ボブ側のエンジニアはPhil MahaffeyやJohn ShoughなどGbVでは馴染みの顔触れが並ぶ。曲によってはミッチ・ミッチェルやトビンとバンド・メンバー自身がクレジットされ、宅録も含めてあっさり録音の曲もありそう。
 トビン側は録音も自分で行うスタイル。(6)(9)(12)(15)(17)がトビンの曲だ。
 
 ただし冒頭に書いたように、再結成GbVのあからさまなチグハグで寄せ集め感は薄い。それぞれに微妙なメロウさが漂って、アルバムの流れが自然なのとマスタリングの見事さが功を奏した。

<全曲感想>

1 The Littlest League Possible 1:18

 冒頭からいきなりキャッチーなロックで幕開け。平歌だけで終わってしまうような1分強の小品だが、前置き無しに始まってじわじわ盛り上がるさまが魅力的だ。
 いかにもボブらしい作品。これに強力なサビを付けず、あっさり終わらせるあっけない潔さも含めて。

2 Until Next Time 1:29

 ロックで押さず、フォーク調の柔らかな世界観でいきなりメリハリを付けた。ギターの爪弾きで弾き語りっぽい仕上がり。終盤でエレキのストロークでアクセントつけた。
 これまたサビでの切ないムードが良い。
 やはり一分半の短い作品。装飾をつけすぎず、デモテープみたいな荒っぽさでも終わらない。見切りの良さがボブの魅力とあらためて気づく佳曲。

3 Writers' Bloc (Psycho All The Time) 2:43

 ワンコードでバンドが疾走し、単語を淡々とボブがつぶやく平歌。がっとサビで明るく風景を広げるスタイルのロックンロール。ライブ映えもしそうだ。
 大サビでいきなり全く別の世界観を付け加える極端な大胆さもユニーク。
 アイディア一発で曲を仕上げておきながら、オマケというか一ひねりを忘れない。

4 Child Activist 1:22

 ドラムからギターが加わる。だがバンド的なダイナミズムは希薄で硬質なムード。ほんのり重たい。どんどん音が加わり、ボーカルはどんどん声が割れてくる。
 すっきりした世界観から充満へ。わずか1分半で変貌の色合いを演出した。
 楽曲そのものはシンプルなメロディを転がすよう。

5 Planet Score 1:41

 シンプルなギターリフで始まる、これはバンドっぽい仕上がり。隙間なく音を詰め込んだ音像だが、過剰な一方ですっきりと抜けがいいのはマスタリングの見事さか。
 メロディを一筆書きで展開していくボブのスタイルで、つかみづらい。途中からグレッグ・デモスのベースがリフを取ってアレンジにメリハリもつけた。

6 Jupiter Spin 2:24

 甘酸っぱいトビン節の作品。ダブル・トラックでみずみずしさを強調した。ストリングス風のシンセを入れたりと、ドリーミーな工夫に余念がない。演奏もトビンの多重録音かな。ちょっとドラムがドタバタしてるような。
 やはり本盤の統一感はマスタリングのおかげかもしれない。トビンは変わらず、好きなようにやっている。ハーモニーも多重録音して、どんどん美しいサイケ・ポップを描いた。

7 Save The Company 2:22

 名曲。アンプの唸りか、それともヒス・ノイズか。ローファイな幕開けから、エレキギターの弾き語りっぽく、ボブが歌う。ときおりバンド・アレンジでメリハリを付けて。
 ボブの美しいメロディが炸裂した。アップテンポで押さず、しっとりとじっくり歌うのはやはり年齢を重ねたせいか。昔ならパンキッシュに疾走してそう。
 たっぷりとリバーブを広げた響きだが、スケール感はさほど拡大しない。こじんまりと丁寧な印象を受けた。

8 Go Without Packing 1:15

 アコギのデモっぽい弾き語り。トビンとPhil Mahaffeyがエンジニアでクレジット。トビンとデモ風に録音かもしれない。場所もトビンの地元っぽい、ミシガンのLelandだし。 歌はボブの多重録音だが、旋律の絡み方はちょっとトビンっぽい。

9 Record Level Love 1:16

 駆けていくトビンの曲。甘いメロディで抑え気味なのがトビン流で、ボブのように開放感が希薄だ。歌手としてスタイルの違いか。
 目まぐるしくメロディを溢れさせ、いっきに曲をまとめた。こちらのドラムは(6)と違ってきっちり叩いてる。GbVとして仕上げたのかも。
 ただしボーカルはトビンの多重録音で、メインを追いかけるように遠慮がちにコーラスをダビングした。

10 I Am Columbus 2:55

 引きずり気味に気だるげなムードの曲。これもトビンとPhilがエンジニアで、Lelandで録音したボブの曲。
 タンバリンがアクセントをつける素朴な仕上がり。いちおうバンド・スタイルでアレンジされた。
 ほとんど一つのメロディを繰り返す仕上がりで、3分弱と長尺な割に展開は薄い。もどかしい楽曲だ。
 ここまで次々変化するアイディアの曲が続くだけに、3分が耐えられないという。最後にギター・ソロが入ったりと別に単なる繰り返しではないのだが。

11 Difficult Outburst And Breakthrough 1:42

 イントロ無しで蹴飛ばすように始まる。妙にローファイな録音だ。これもライブ映えする。
 いっきにバンド一丸で走らず、ぐっと音を減らしてドラムやベースを目立たせたり、きちんとアレンジに凝っている。途中でボブの譜割が変わるメロディだったり、サビでハーモニーを足したり。良い曲だと思う。

12 Calling Up Washington 1:12

 トビンの曲。ギターの爪弾きからバンド・サウンドに。これまたエコー感が強い。ボブのほうはリバーブで広がりを出すが、トビンの方は密室感が先に立つ。
 ドラムがぎこちなく、トビンの多重録音かな。あまり展開がなく一場面を切り取ったかのよう。甘酸っぱさがいかにもトビン流だ。

13 Zero Elasticity 2:07

 ザクッとするどいギターがバンドと噛み合う。一筆書きメロディで行き当たりばったりに曲が展開し、それに無理やりバンドをかぶせたかのよう。
 いまひとつメロディや歌いぶりに華が無い。ボブらしい触感ではあるのだが。途中でハーモニーを入れたり、工夫はそこかしこに。それでも2分間が長く感じてしまう。

14 Bird With No Name 1:24

 アコギとベースのシンプルなアレンジでメロディがネロッと絞り出される。これまた一筆書きメロディな感じ。ダブル・トラックでボーカルに太さを付けた。
 しかし切ない空気やベースのメロディアスな動き、途中で荒くギターが切り裂くなど、立ち止まらず単調にも行かない。
 前曲が単調気味としたら、こちらは奔放な創作力が風景をくるくる飽きさせず変えていく。

15 Shine (Tomahawk Breath) 3:03

 トビンの曲。抑え気味のテンポでバンド・サウンドを充満させた。鍵盤で厚みを埋めるように。
 すみずみまでトビンの自意識が広がってる。ストリングス風のシンセが背後を分厚く塗って隙を見せない。最後はギター・ソロで余韻も飾った。
 きれいな曲だがトビンの線が細いボーカルが惜しい。トビン流の美学として完成はしている。だが敢えて、これをボブに歌わせたら爽快感が増したのでは。

 トビンのソロとして良い曲とは思う。甘酸っぱいサイケ・ポップだ。しかしせっかくのGbVのブランドなんだから。そういえばボブは頑なにトビンの曲でボーカルを取らない。逆に、トビンが自分の曲は自分で歌うってスタンスか。

16 Vote For Me Dummy 2:21

 ぽおんと投げっぱなしにするボブの歌声が気持ちいい。きれいなメロディが広がり、高まったところで唐突に数音で落とす。この急降下な落差も楽しい。
 サビでの爽快感がこの曲の肝だな。佳曲。どたばたな録音スタイルも含めて。
 過剰に作りこまず、アイディア一発を次々に展開していく、いかにもGbVっぽい魅力がある。

17 Some Things Are Big (And Some Things Are Small) 2:09

 トビンの曲。あきらかにボブと異なるスケール感を持つ。ぐっと内省的に展開した。ただしバンド・サウンドはきっちり出来上がった。その一方で破綻やだらしなさがなく、縦の線を揃える丁寧さもあり。
 途中でピアノが現れ、美しく綺麗にサウンドは飾られる。メロディが良く、しっとりサイケできれいな小宇宙が出来上がった。もっともっと聴いていたい。トビンもボブに負けず劣らず、アイディアをあっさり使い捨ててしまう。

18 Bulletin Borders 1:23

 がっつりバンドで疾走する曲で、ボブはダブル・トラックを使いボーカルに太さを足した。
 淡々とメロディを連ねるスタイルだが、ときどき音程を変化させた。さらにキャッチーなサビで目先を変える。例えば(1)とこの曲を加えて3分間ポップスにまとめるとか、そういう発想はボブに無いんだよな。それぞれのアイディアで一曲を作ってしまう。

19 Evangeline Dandelion 1:16

 いちおうドラムやベースも聴こえるが、エレキの弾き語りっぽい仕上がり。どっぷりとエコーを混ぜた。ボブのデモにあとからリズムやギターを足したような感じ。
 終盤でパーティ風にSEを入れたり、唐突で脈絡のないアイディアがしっかり入った。

20 Alex And The Omegas 2:16

 アルバム最終曲もキャッチーなロックンロール。乾いて分離の良いバンド・サウンドを採用した。あちこちばっさり切り捨てるような平べったい音質で、一筆書きメロディの勇ましくも鮮やかな構造だ。
 スタート&ストップも取り入れて、力技でないスピード感のメリハリあり。      (2017/9:記)
 

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