Guided by Voices

"Let's Go Eat The Factory" Guided by Voices (2012:Guided by Voices Inc.)
 
Robert Pollard: vo
Tobin Sprout : g,key
Mitch Mitchell ; g
Kevin Fennell : ds
Greg Demos : bass

 with Jim Pollard : g

 そしてGbVは復活した。旺盛な創作力とちょっとは大人になった落ち着きの双方を携えて。自己レーベルから完全な自由をひっさげて。
 2004年の解散から約8年。黄金期と言える1992-1996年のメンバー(通称、クラシック・ラインナップ)で、凄まじい勢いの新譜発表を続けることになる。
 新生GbVの結成動機は創作欲と取るか、懐古趣味と取るか。ぼくは前者30%、後者70%と想像する。ボブのワンマン路線を鷹揚に受け入れる度量を、メンバーもボブ本人も得たがゆえの再結成だと。
 本盤はトビンの自作曲もふんだんに、ボブとメンバーの共作も色々収録した。ソロをいつでも出せるゆえに、ボブもメンバーとのバンド・マジックを新生GbVで期待したのかも。
 
 GbVはアルバムごとにメンバーが変わる。見方を変えると結束力に欠けるってこと。だが新生GbVはケヴィンが少々ごたついたが、ほぼ一定メンバー。つまりはバンド仲間が過酷なツアーでも続けられたってこと。金目当てかは知らない。どのていど儲かるもんなのか。でも旺盛な創作力をソロで存分に吐き出しつつ、ある程度の動員を意識したGbV再結成がボブの本音だったのでは。ボストンの失敗を踏まえて。

 新生GbVのアルバムは、ざくっとローファイな味わいあり。全21曲もの小品をたっぷり投入した。ただし玉石混交。アルバム自体はリハビリっぽさを感じる。とりあえずバンドを意識しさまざまな曲を取り上げたがゆえに、ピンボケになった。
 
 創作過程は謎だ。プロデューサーはChief RunningmouthとThe Soft Spoken Trout。後者はトビンの変名と思われるが、前者は不明。ボブかな?なお"Chief Running Mouth"ならば映画"Bedtime Stories"(2008)登場のキャラクター名らしい。
 録音に関するクレジットは一切ない。トビンが録音も担当か。
 なおマスタリングはトビン人脈でRoger Seibel。トビンのソロ"The Bluebirds Of Happiness Tried To Land On My Shoulder"(2010)をマスタリングした人だ。
 
 発売の経緯も慎重だった。ツアーでいったんバンドの継続性を確かめて、おもむろにCDに至ったように見える。
 そもそも2010年6月にボブから再結成の発表有り 。このときは同年10/3の"Matador At Twenty-One"フェス、古巣レーベルの祭りに華を添える格好だった。
 さらに7月、再結成ツアー"The Hallway Of Shatter-Proof Glass Tour"の駆動を追発表 。一過性の再結成じゃないとアピールした。ツアーは9/29が皮切り。断続的に翌11年9月まで続く。

 11年11月22日に両A面シングル第一弾"The Unsinkable Fats Domino/We Won't Apologize For The Human Race"。一週間後の11月28日に第二弾シングル"Doughnut For A Snowman"を立て続けに発表した。B面4曲はアルバム未収録だ。
 そして約半年後の2012年1月1日に満を持して本盤を発表。シングル以外は全て新曲、ツアーでは事前披露が無かったようだ。
 第三弾のシングルは(14)。同月1/17にすぐさま切られた。このシングルB面はアルバム未収録。このへんはGbVの伝統を踏襲してる。

 さらに3/20に次なるシングル"Keep It In Motion"を発売。これはアルバム未収録。3ヶ月後の6月発売となる、再結成2ndアルバム"Class Clown Spots A UFO"に収まる。
 再結成の余韻はどこへやら。怒涛のリリース・ラッシュが、さっそく始まった。

<全曲紹介>

1.   Laundry & Lasers 

 アンプの唸りをディレイ処理っぽく鳴らし、おもむろにギターを数人がかき鳴らす面持ち。たっぷりもったいぶって、ぐしゃっと潰れたボブの歌声。意外とドラマティックな再結成の幕開け曲だ。
 イントロをじっくり聴かせてバンド炸裂させたは良いものの。ドラムやベースが奥まったローファイ感がイマイチ。盛り上がりって意味で。ミックスが悪い。いったん始まったら細かいことは気にしない、GbV路線をアピールか。
 楽曲はボブ節ながらも、ちょっと引っかかり弱い。するするっとメロディが流れてしまう。

2.   The Head 

 ボブとジム・ポラード、ミッチ・ミッチェルの共作。ザクッとギターとベースが寄り添う重たいリフのロック。途中からシンプルにシンセ足すのはトビン・スプラウトのセンスか。
 ボブの歌声はやたら奥まりザラついたエフェクトをかけた。この曲もメロディのみずみずしさはいまいち。一筆書き作曲をセッションに載せたって感じ。

3.   Doughnut For A Snowman

 瑞々しいボブ節の佳曲で第二弾シングル曲。シンプルな3リズムで成り立つが、敢えて鍵盤で白玉を鳴らし厚みを出した。冒頭には安っぽいリコーダーも付け加えて。過剰アレンジで暑苦しさを感じないのが、彼らのセンスか。
 オンマイクで息継ぎすら生々しいボーカルの録音。曲としてはデモっぽい詰めの甘さも。
 
4.   Spiderfighter

 今度はトビンの曲。ボーカルもトビンか。平板なメロディをダビング重ねてサイケにきめた。密室的な独自路線は相変わらず。
 一本調子なメロディを飾るハーモニーの和音はところどころ気持ちいい。もっとボーカルを前に出すミックスが欲しかった。
 中盤でピアノの連打がアレンジの肝と伺わせ、そのまま静かにピアノの独奏に変化。柔らかなボーカルを載せてメロウに変化した。つまり2曲メドレーの方式。

5.   Hang Mr. Kite 

 弦数本のイントロは生?歌後の弦はシンセっぽいが。シンプルなドラムのエイトビート以外は、ボブが歌うのみ。途中でボーカルをダビングして透明感を出した。
 きれいな曲ながら、GbVでの必然性を感じない。ソロでいいじゃん。こういう中途半端なところが、本盤はもどかしい。
 本盤収録曲は、この後のライブで演奏されてる。でもさすがにこの曲はライブで取り上げられず。

6.   God Loves Us 

 ジム、ミッチ、トビン、ボブの共作曲。ジャムセッションを煮詰めたか。ベースが淡々と弾き続けるとこが曲の肝と思うが、グレッグは作曲にクレジット無い。
 ざくっとかき鳴らすエレキギターのリフに、トビンの歌声。ハーモニーがボブか。ボブがドラムって噂もある。ジムがベースかもしれない。ロバートの存在感は薄い。

7.   The Unsinkable Fats Domino 

 両A面の第一弾シングル曲。もう片面が(21)だ。
 ぐっと浮かんでふわんと着地する、ボブ節だ。甘酸っぱい味わいとかき鳴らしエレキギター・バンド。ある意味GbVのパブリック・イメージ通りの曲がようやく表れた。
 メロディの終わり際でギターなりのオブリが無いため、浮かんでは下がり、のイメージが浮かぶ。ちょっと炸裂さや連続したノリに欠ける。悪く無い曲だけど。

8.   Who Invented The Sun

 トビンの弾き語り曲。ライブで演奏された気配はない。ドラムがすぐに加わり、シンセのストリングスが空間を埋めていく。この完成されたインテリアっぽさがトビンの味わいだ。
 ファルセット気味に切なくかぼそく、トビンは世界を描いてく。GbV解散後にトビンはあまりリリース無かったため、この手の曲を改めて聴けたのは嬉しかった。
 
9.   The Big Hat And Toy Show 

 グレッグとジム、ボブの曲。ぐずぐずローファイ。背後でベースが静かに奏でる。
 クリアでブルージーな左のギターに、歪みまくったギターが右。ボブは中央で猫なで声からドスを効かせまで使い分け歌った。アイディアを膨らませ、そのまま曲に。こういう豪快さもGbVだったっけ。

 第一期の最後、ある意味整ったバンド・サウンドを噛ませたGbVでは消え気味な路線だったな。こういう曲を無造作に収録も、黄金時代GbVメンバーのおかげか。

10.  Imperial Racehorsing

 さまざまな要素が混ざったサイケな一曲。背後はシンセとギター以外に色々と潰れるほどダビングしてるようにも聞こえる。ボブの一筆書きでは無く、キメラのように混ぜた感じ。中期ビートルズ趣味な展開は、トビンの意向を強く感じた。
 
11.  How I Met My Mother 

 ダブル・トラックのボーカルで迫りくるロック。キャッチーな二つのフレーズを繰り返し、積み重ねて曲にした。サビに行くかと思いつつ、そのままザラリとギターノイズのみ残して曲が終わってしまう。このあっけなさもGbVらしいなあ。

12.  Waves 

 トビンの曲。分厚いバンド・サウンドだ。ハイハットとギターの刻みを併せてグルーヴを賑やかに出した。歌もトビン。オケに埋もれ気味にミックスし、一丸となってサイケなムードをつくる。ハーモニーもどぶどぶ溢れるが、全ては団子で芳醇に広がった。

 ポップなロック。3分とけっこう(GbVにしては)長めの曲。しかしきれいにまとまってるため逆に拍子抜けなとこもあり。途中で破綻したり別の曲に向かったりしないのか。変な期待だが。

13.  My Europa 

 揺らぐエレキギターの弾き語り。ふわふわとメロディが浮遊し、係留しないまま展開無く終わる。あっさりとした一筆書きの曲。やわらかで甘いムードが漂うボブの世界が広がった。
 サビでギターは明確にかき鳴らしを強め、力強くピントが合う。すぐに平歌に戻ってしまうのだが。

14.  Chocolate Boy

 第三弾シングル。じりじりとアンプノイズを全く気にせず、そのまま演奏に入る。軽やかなポップさの佳曲だ。アコギ風のギターが刻みに徹する爽やかなアレンジで、シンセのストリングス風な響きが軽快なビートに載って膨らみを出した。

15.  The Things That Never Need 

 トビンの曲。冒頭でノイズが小さく鋭く左右に跳んだ。呟く子供や女性風の声で飛び交い、リバーブ感強い鍵盤が淡々と響く。幻想的な小品。バンドの色合いは無く、トビンのソロな趣きだ。

16.  Either Nelson 

 バンド風のサウンドだがアレンジが微妙にコラージュめいた凝り方をする。キック連打のリズムがアクセントでブルブルと提示され、ピアノはホンキートンクに鳴りつづける。
 切なげなメロディを素直に盛り立てず、屈折してサイケに膨張させる。ラフなセッションっぽい音像ながら、細かくダビングして構成を複雑に仕立てた。

17.  Cyclone Utilities (Remember Your Birthday) 

 ミッチとボブの曲。一本調子のリフがじっくりと太く鳴る。ドラムとベースは淡々と刻み、ギターが主役のアレンジ。このへんがミッチの手柄か。
 演奏とメロディが不安定に絡み、浮遊する雰囲気を強調した。最後にギターがひときわ力強く響いて、幕。

18.  Old Bones 

 トビンの曲。逆回転っぽい響きが全編を覆う。トビンの歌声もフィルター処理され歪んだ。オルガンとシンセの鍵盤が荘厳に熱く厚く空間を埋め尽くす。
 やはりこれもトビンの趣味全開で一人多重録音っぽい作風。敢えて今、GbVでこういう曲を投入するセンスが良くわからない。ソロでやればいいのに。
 曲そのものは、キュートな曲。素朴な肌触りが常に残り、厳粛さは親しみを奪わない。

19.  Go Rolling Home 

 グレッグとボブの曲。デモ風の仕上がりだ。素朴で潰れた和音を無造作に鳴らすギターを背後に、切なく伸び伸びしたメロディをしっとりと聴かせる。ボブのメロディセンスが光る。わずか30秒の小品が惜しい。もっと膨らませて名曲にしてほしかった。

20.  The Room Taking Shape 

 これもグレッグとボブの曲。アコギの軽快なストロークでデュオながら互いにピッチあってなさそうな、いい加減な雰囲気が魅力だ。メロディは柔らかいのに。緩やかな楽曲を大真面目に音痴に歌ってるかのよう。フェイドアウトであっというまに終わる。これまた43秒の掌品。

21.  We Won't Apologize For The Human Race

 両A面で第一弾シングル曲なこの曲は、バンドサウンドできっちり決めた。ただしテンポは抑え気味。さらにトビンの鍵盤ダビングがたっぷりで、ライブよりスタジオ作業の妙味が味わえる。ところどころつぎはぎ風の展開は(16)に通じるものがある。
 甘酸っぱいメロディがハーモニーで補強される、良い感じのGbV色が漂う良曲だ。
 

GbVトップに戻る