Guided
by Voices
"Class Clown Spots A UFO" Guided by Voices (2012:Guided by Voices
Inc.)
Robert Pollard: vo
Tobin Sprout : g,key
Mitch Mitchell
; g
Kevin Fennell : ds
Greg Demos :
bass
Jim Pollard : g
Organ : Darryl Robbins on
7
Piano : John Shough on 12
Acoustic Slide Guitar : Darryl
Robbins on
16
魅力的な楽曲こそあるが全体では、とっ散らかった散漫なアルバム。
そもそものGbVはメンバーこそ安定しなかったが、ボブのリーダーシップが強烈に存在し、ギター・バンドとしての勢いは有った。ここへじわじわとトビン・スプラウトらの個性が滲む、せめぎ合いがスリルになった。再結成GbVはボブの統制力が希薄になり、雑多や混沌が先に立つ。トビンが多重録音のパーソナルな世界に籠ったため、なおさら勝手ぶりが漂った。
前作"Class
Clown Spots A
UFO"が12年1月1日の発売で、本盤が5月18日のハイペースぶり。21曲もの作品を詰め込んだ。楽曲のアレンジはバラバラで、あまりバンドっぽさは無い。
メンバーは前作と変わらず。これってGbVにとって、意外と快挙だ。アルバムのたびに微妙なメンバーチェンジが常だったから。というより前作のアウトテイクっぽい面持ちすらある。本盤も数か所でバラバラに録音をまとめた、コンピレーションみたいなアルバム。バンドの一体感より、多様な価値観を混ぜ込む包容力を、バンドの結束力か鷹揚さに象徴させてる。
発売初日の12年5月18日を皮切りに断続的なライブを敢行。そのまま"Class Clown Spots A UFO Tour"ツアーとして同年9月末まで行われた。このツアーでは本盤収録曲をいくつも取り上げた。 販促グッズみたいな勢いで多発されるシングルの時間軸は、こんな感じ。
3/20 "Keep It In Motion"
(本盤(7)、B面2曲はアルバム未収)
4/17 "Jon The
Croc" ( 〃(15)、B面1曲は 〃
)
5/15 "Class Clown Spots A UFO"
( 〃(4)、 B面2曲は 〃 ,その内1曲は別テイク)
5/18 【本盤"Class Clown Spots A
UFO"発売】
〜 5/18 - 9/29 〜"Class Clown Spots A UFO Tour"(後半の数本はキャンセル)
10/29 "White Flag" (3rdの先行シングル、B面2曲はアルバム未収)
11/13
【3rd"The Bears For Lunch"発売】
先行シングル、アルバム発売でツアー。間をおかず次の先行シングルとアルバム。王道路線ではある。けれども日本から見たらツアーの様子が伝わらず、もどかしい。あまりバンドやアルバムを大事にせず、無闇にどばどば出し続けてる風に感じてしまった。
そして本盤発表時は、3rdの録音も既に完了とアナウンスされていた。
<全曲感想>
1. He Rises! Our Union Bellboy
勇ましい幕開けの曲。ダブル・トラックの歌声がふらつき、ドタスカと落ち着かないバンド・アンサンブルが支えた。この中途半端な感じは、なんとなく往年のGbVっぽい。
ギターストロークのシンプルなリフに甘酸っぱいメロディ。中盤でドラムを抜いて軽やかに浮かすアレンジも、どこか重心は低めだ。
その後の炸裂するバンド・サウンドも無骨な限り。けれども楽器は鳴らしっぱなしじゃなく、緩急効かせたアレンジが見事。ハイハット抜いてハーモニーで厚み出す後半の響きがきれいだ。
2. Blue Babbleships Bay
鈍いキックのゆったりした4つ打ちに、ギターとひしゃげた歌声が無造作に乗る。テンポがぐらりと揺らぎつつ、ノリは途切れない。いかにもガレージ・サイケ。
盛り上がりそうなとこで、あっという間に終わってしまう。
3. Forever Until It Breaks
トビン作。多重録音の一人な世界のため、GbVのアルバムではペース・チェンジの役割になってしまう。バンド、である必然性が無い。楽曲も煮詰めたポップ寄りで、投げっぱなしのボブとは少々路線が違うし。
この曲では鍵盤や弦で厚み出しつつも、わずかに調子はずれで奇妙な響きを持ったミドル・テンポ。ペタンコに潰れたドラムの響きがチープな可愛らしさを出す。
メロディは地を這う平坦さながら、どこか親しみやすさをそらさない。このへん、トビンの味わいだ。
4. Class Clown Spots A UFO
第三弾シングルは過去のリメイク作。一番最初は"Crocker's favorite song"("King Shit
& the golden
buys"(1993)所収"まで遡る、らしい。この時点ではギターのストローク中心の、まさにデモっぽい音だった。鮮やかな和音の響きと進行が魅力。
これがRoyal
Canadien Mustard名義の演奏曲"Class Clown Spots A UFO"として、"Suitcase
3"(2009)で発表された。手拍子も軽やかな、ちょっと日本の音頭っぽいユーモラスなダンサブルさをまとって。
今回はSuitcase版の味わいはそのままに、ギター数本で丁寧にフレーズが彩られた。2拍めの頭から鳴るリズム・パターンはスネアに置き換えられた。
じわじわっと迫る、穏やかながら開放的なポップ・ソングだ。だがオブリでガツンと単音を響かせるエレキギターを混ぜたり、アレンジはさらに細かく丁寧に仕上がった。
5.
Chain To The
Moon
グレッグとボブの作。アコギの弾き語りでメインのボーカルを、ダブルのハーモニーが彩る。むしろハーモニーが前面に出た、ユニークなアレンジだ。いつしか主旋律を完全に押しやる。
わずか一分の小品が惜しい。他の曲と一体化させたリフとして盛り上げて欲しかった。
6. Hang Up And Try Again
がっつりギターが鳴るアレンジだが、ドラムが今一つ重たい。トバイアス風のアレンジに聴こえる。歌は幾度も重ねられフレーズ毎に寄り添ったり、てんでに跳ねたり。自由で楽しい歌いっぷりだ。
リズムこそはじけないが、歌のとっ散らかりっぷりが初期GbVを連想させて嬉しい。
7. Keep It In Motion
第一弾シングル。リズム・ボックス風のキックのイントロで、ボーカルはどっぷりエコーがかかってる。音圧あるから違和感ないが、演奏はシンプルなアレンジだ。リズムを中心にギターのストロークや弦が丁寧に重なっている。
歌もさまざまにハーモニーが工夫されてるが、基本はほとんど変わらない。デモを丁寧に飾り立て、一曲に仕立てたかのよう。
最初のアイディアをこね回さず、ふうわりと彩りを足してきれいにまとめた。だんだん音が増えていく趣向なため、繰り返し聴くたびに気づきがある曲だ。
8. Tyson's High School
ミッチとボブ作。前曲のコーダかと思わせて、実は次の曲に変わってる。とっ散らかったアンサンブルの豪快なロック。ただしデモ風のチープな音使いが、強烈にサイケな色合いへと重心を移した。
歌へもたっぷりとエフェクタを掛け、思い切り夢幻な世界に向かってる。ドラッギーな飛びっぷり。サウンドも歪み、跳ね、舞う。凝った音使いの楽曲だ。曲はシンプル。
9. They And Them
トビン作。前曲と一転してシンフォニックな小品。シンセの弦や管で厚みを出し、同じフレーズを繰り返す。中盤で音を減らし、やたら長めのコーダを静かにテンポを落しながら披露した。そのままクロスフェイドで、次の曲へ。
10. Fighter Pilot
トビン作。つまりはメドレーか。安っぽいドラムをドタスカ鳴らし、鍵盤を使い分け密やかなパーティ・ロックに仕上げた。もっとも密室的なムードが勝ち、覇気は無いまま。
それでも寂しげに鳴らないのが、この曲。どこか突き抜けてる。
11. Roll Of The Dice, Kick In The Head
キャッチーなロック。ほんのりパンキッシュな匂いを漂わす。以前のアウトテイクかと思うくらい、瑞々しいパワーにあふれてる。シンバル連打の喧しいドラミングを基本に、ギターをかき鳴らすシンプルなアレンジだ。
滑らかなメロディを高らかにボブは歌い上げる。たった47秒で終わってしまうのが惜しいロックンロールだ。
12. Billy Wire
しゅわしゅわと加工された空気が歌声を覆う。これもアップテンポのギター・ロック。しかしブロックごとで微妙にノリが異なり、キメラみたいなムードもあり。サビでビートが無くなり混沌へ。
ボーカルは重ねられ厚みとサイケさを強調した。
13. Worm w/ 7 Broken Hearts
3rdシングルB面とは別テイク。重厚で厳かなムードをシンプルなリズムとギターのフレーズで作った。一応メロディもあるが、ほとんどアイディア一発な50秒の小品。
中世の王宮を聴くたびに連想する。
14. Starfire
トビンの作。ここまでの荒々しい雰囲気をなだめるように、穏やかなポップス寄りの楽曲。サビでの多重ボーカルによる軽やかなメロディがキュートだ。ハイトーンのほうは、妙にピッチが頼りなく不安定な味わいだ。
だんだんハーモニーが凝ってきて、厚みと柔らかさを出した。
15. Jon The Croc
2ndシングルで腰を据えて向かい合う、重心の低いノリな曲。サビでのコーラスが無鉄砲に音程危うく、ふわふわと響いた。
大サビへの歌い上げるボブのメロディが好きだ。本曲に限らず、本盤はやたら高音を強調したミックスで、ジェットマシーンが全編にかかってるような気になる。
エンディングで現れる数本のギターが織りなす、畳み掛けるリフの組み立てもかっこいい。
16. Fly Baby
グレッグとボブ作。(5)と同様にアコギへ歌がそっと乗る穏やかな楽曲だ。一筆書きのようにメロディが展開していく。リバーブがどっぷりと掛かった夢見心地の世界に、やがてダブル・トラックやオブリのギターがダビング。じわじわと音楽のつぼみを開いてく。
しかし開放はせず、静かに幕。
17. All Of This Will Go
トビンの曲。緩やかなエイトビートで、ほんとに独自の世界を作る。ボブと真逆の現実離れした穏やかさだ。これらの楽曲は、確かに本盤でペース・チェンジの役割は果たす。しかしバンドとして、この独立独歩ぶりはいかがなものか。ソロでやればいいのに、とも思ってしまう。
完全にワンマンな録音で、トビンは甘くサイケなポップスを披露した。もちろんこの曲も、緩やかなメロディが魅力的な佳曲だ。けれどもボブとの結節点はどこだ。
18. The Opposite Continues
とはいえボブも好き放題は変わらない。本盤はジャム・セッションの一節を切り取ったかのようなムード。テンポ感は前曲と変わらないが、もっとダルいムードを追求した。
この曲、サビの甘酸っぱいメロディとコード進行が最高だ。アイディア一発に思わせて、次々に魅力的なメロディが溢れだす。一筆書きの極致。
最後はディストーション効いたエレキギターも現れ混沌に終わるけど。こんな曲でこそ、きっちりとアレンジしてアップテンポのロックに仕上げて欲しい。贅沢にメロディを使い潰す、ボブならではの名曲。
19. Be Impeccable
冒頭はエレキギターの弾き語りっぽいバラード。ハイトーンで呟くような歌声が奏でる旋律は、穏やかで心地よい。だんだんストロークの比重を増して、リズムの輪郭が現れた。
中盤にギターのアタックが強まり、変てこな和音を鳴らしだした。小品に収めそうなアレンジだが、実際には3分弱と本番でも長尺(?)な楽曲。こういう奇妙なバランス感覚こそ、往年GbVの魅力ではある。こういう曲聴いてると、再生GbVも悪くない。
20. Lost In Spaces
トビンの曲。鍵盤はピアノかな。かなり音質が潰されてるため、シンセっぽくも聴こえる。上ずり気味でピッチの怪しい歌声を幾本も重ね、淑やかに歌ってく。たった50秒のひととき。デモめいた仕上がりだが、トビンも本盤でメロディや曲を無駄遣いしてる。もっと盛り上げて曲にまとまりそうなのに。
21. No Transmission
クロスフェイドでエレキギターのイントロが繋がり、勇ましいロックを繰り出した。
シンプルなメロディを幾度も繰り出す"Glad
Girls"みたいなアプローチ。いったん耳に残るフックをつかんだロバートは無敵だ。
展開は全くないが、サビのテンポ・ダウンでメリハリ出して疾走を続ける。ここでのバンド・アンサンブルはカッチリまとまってる。バンドのわりに本盤では、ノリがずいぶん楽曲によって違うなあ。