Guided
by Voices
"The bears for lunch" Guided by Voices
(2012:Guided By Voices Inc.)
Robert Pollard: vo
Tobin Sprout : g,key
Mitch Mitchell ; g
Kevin Fennell : ds
Greg Demos : bass
復活GbVの3rdアルバム。今一つ散漫で、統一感に欠ける。楽曲も、演奏も、楽想も。溢れるアイディアをてんでにまとめ、特にトビン・スプラウトが個人プレーに走り、オムニバスみたいなアルバムに仕上がった。
良い曲もあるけれど、まとめきれずアイディアのデモのみで終わった感あり。
このバンドであってバンドでない感じが、復活後のGbVを象徴してる。GbVのブランドを使用しつつ、うまく乗りこなせてない。
1st"Let's Go Eat The
Factory"が1月、2nd"Class Clown Spots A UFO"が6月。そのまま9月末まで"Class Clown Spots A
UFO"ツアーに出て、本盤は11月に発売。怒涛のリリースな一年だった。
さらにボブはこの合間に"Mouseman
Cloud"と"Jack Sells the Cow"とソロも2枚発表まで行う。激しく怒涛のリリースな一年だ。
とはいえ順番にレコーディングではないのかも。
本盤"The bears for lunch"
は7月時点で曲順まで決まった形で、リリースの事前発表あり。2ndと3rd、もしかしたら1stも同じ時期に録音して、順番にCD1枚づつ出してたとも思える。
本盤の発売前に、先行シングル3枚で(4)、(10)、(19)の同時リリースあり。B面はすべてアルバム未収録だった。
録音場所は数か所に分かれ、全員が一斉にというよりソロもしくは数人で集まった録音を一枚にまとめたって感じ。トビン・スプラウトとロバート・ポラード、二人のエゴがぶつかり、一体感でなくとりあえずっぽさがどうしても抜けない。ボブのソロでバンド映えしそうな曲が散見されるだけに、なおさら。
本盤は43分で19曲。アイディアはいっぱい、詰まってる。実際の音源は数か所で録音された。具体的には以下の通り。曲順は録音場所ごとに固めず、ばらけるようにバラエティ持たせたのがわかる。音像が異なる曲がくるくる入れ替わり、少しばかり散漫ともいえるが・・・。
Todd Tbias at Waterloo sound
(1),(4),(6),(7),(10),(12),(15),(16),(17),(19),
Tobin Sprout at Tobin Sprout's house
(2),(8),(11),(14),
Mitch
Michell's house (3),(5),(13),
Greg Demos's house (9),
Robert Pollard's Boombox (18)
トッド・トバイアスがプロとして録音した楽曲群を基本にしつつ、各自の家でラフに宅録されたものも半分弱あり。ボブまで自宅録音を1曲入れてる・・・なぜそれをソロに回さないの。
トビンの自作曲に至っては、すべて宅録なうえ、演奏も自分の多重録音っぽい。
ばらばらな曲が並んだ本盤を聴いてて、バンドである必然性ってなんだろうと考える。GbV名義の活動って、そんなにソロと違うのかな。
アルバムとして、決して悪い出来ではない。五目味、と取れば。個々の楽曲はトビンのソロも含めて、楽しい。けれどGbVってブランドで見た場合は・・・うーん、どうにもちぐはぐでツギハギで危うさを感じる。。
<全曲感想>
1. King Arthur The Red 2:15
高音シャリシャリ強調のしっかりしたロック。まとわりつくようなハーモニーが奇妙な係留感を出す。ポップで重ための楽曲で、ライブ映えもしそう。実際に演奏履歴はなさそうだが。
緩やかな譜割のメロウな旋律は、ねっとりと大人な雰囲気も。ギターリフもボーカルも拍頭に当てるグルーヴ。前のめり、かつ強力に打った。
2. The
Corners Are Glowing 3:02
トビンの曲。たぶんトビンの多重録音。チープなリズムと弦楽四重奏っぽい響きのバッキングで、ちょっと甲高いダブル・トラックの歌声がメロディをつぶやいた。ポップな肌触りだが、どうにも内省的な雰囲気。エレキギターがしゃくりながら加わる間奏から、音数がどんどん増えてアンサンブルの妙味を出すあたり、アレンジは凝ってて聴きごたえあり。
不思議とGbVっぽい切なげな雰囲気も醸し出した。
3. Have A Jug 1:09
1分の小品で、ミッチの家でギターの弾き語りデモっぽい仕上がり。低音はギターをかぶせてるかな?ボブの歌声はちょっとこもりぎみだが、溌剌としてる。簡素な出来であれよあれよとメロディが進み、幕。
ボブらしい味わいでは、ある。
4. Hangover Child 2:58
シングル・カットされた一枚。特に華やかなわけではない。むしろ(1)のほうがシングル向けかも。ただし楽曲そのものは気に入ってるらしく、本盤発表に先立つ"Class
Clown Spots A UFO Tour"の何日かで演奏記録が残ってる。
曲タイトルに加え数行の歌詞を重ねながら、盛り上がる曲。ただ、ドラムは常に落ち着いてる。大サビあたりで鍵盤がくわわり高く舞い上がった。
多重録音のボーカルが入れ組み、ふわりと幻想的な風景を柔らかく作った。
5. Dome Rust 1:10
ミッチの家でデモ風録音。今度はドラムとエレキギター、ベースの3ピース編成で、初期GbVを連想するざっくりした荒々しい音だ。すごくポップな展開なのに、強引にフェイドアウトしてしまうのが惜しい。
これはこれとして、きっちりスタジオ録音もしてほしかった。ちゃんとバンド演奏になってるのに、ラフな音質のせいで安っぽく敢えて仕上げてる。
6.
Finger Gang 1:51
逆にこちらはアイディア一発の小品なのに。トッド・トバイアスのもと、きっちりちゃんと録音したことで、サイケ・ロックの作品へちゃんと仕上がった。ラムの出し入れなどアレンジに気を配って、メリハリある楽曲だ。歌詞はたった数行、繰り返しの面白さで聴かせる曲なのに。ちゃんとアレンジ・録音しただけで、こうも印象変わるか。
たぶんデモ的な録音だと、すごくとりとめない曲になってたと思う。録音とアレンジの勝利だ。
7. The Challenge Is Much
More 1:49
この曲は発売翌年の2013年から、ライブで取り上げられる。さらに翌年2014年の解散ライブ"Cool Planet
Tour"でも、セットリストへたびたび現れた。
たしかにキッチリしたメロディとふわりと浮かぶボーカルの譜割が、シンプルなエイトビートと見事な対比で、ライブでも似合いそう。
スピードありそうで無い。だが鮮やかな浮遊感はある。そんな一曲。
8. Waving At Airplanes 3:14
トビンの曲。アコギのストローク、サビでのハイトーンなハーモニーと、ポップさはあちこちに満ち溢れた。ミドル・テンポでバンド全体で畳みかけるリズム感も心地よい。
でもトビンの多重録音じゃないかな。バンドのダイナミズムは希薄で、密室的な魅力が勝つ。ほとんどがサビのフレーズで、ところどころで形が変わる。進行してるようで、実は足踏みしてる風なタイム感が、本曲の特徴だ。
自分の繊細な殻を守る隙の無さが、うまく表現されてる。
9. The Military School Dance Dismissal 2:07
本盤で唯一、グレッグ・デモスの家で録音の楽曲。冒頭の背後で犬の吠える声が聴こえる。ほんと、デモっぽい面白さ。
ピアノをバックに男二人が声を揃えて歌う、妙に熱い友情が滲むような曲。グレッグとボブの共作クレジットだ。
しっかりとメロディを確かめるような力強い旋律感がいい。バンドでのロックにも、応援歌や軍歌風の合唱形式の展開でも、どっちにも行けそうな美しい曲だ。
本盤だとちょっと毛色変わってるが、良い曲だと思う。
10. White Flag 2:15
ボブの一筆書きメロディが炸裂した楽曲。2分強と、長めというのも変だけど、それなりの尺をとってる楽曲だが、溢れるメロディにそのままバンドのアレンジをはめ込んだような曲。だがトッドがすべてをまとめるボブのソロとは違って、どっかそっけない。
メロディアスなグレッグのベースが曲のグルーヴを支え、トビンのオルガンがふくらみを出した。でもあっという間に曲が終わってしまい、あとはバンド演奏のリフレインのみで曲が続く。そうか、だから尺が長いんだ。
11. Skin To Skin Combat 3:43
トビンの曲。本来、がっつりとロックに盛り上がりそうなのに。多重録音ゆえか、妙にベタッとこじんまりまとまってしまった。唸るエレキギターのリフも、ぐっと後ろにミックスされ、時に鍵盤がリフを刻む。さらにハイトーンのコーラスもダビングあり、どんどん楽曲がか細く線が細い印象へまっしぐら。
けっして悪い曲じゃない。メロディもキャッチーだし。これをGbVのバンド・サウンドへ投入できなかったところが、この復活GbVでもっともいびつなところだ。
バンドのふりして、根本的なところで個人プレーの塊に見えてしまう。
12. She Lives In An Airport 2:44
シンプルなロックなのは前曲と変わらず。だがどこか骨太な響き。トッドの手できっちりスタジオ録音なためもあると思うが。とはいえこれもあまり溌剌さが無い。トッドの多重録音って言われても不思議ではない。
小刻みにフレーズを汲み出し積み上げていく、ボブらしい華やかなメロディ・ラインだが。
エンディング間際で、ディストーション効かせたギターがボーカルをざらついた光で飾る。
今一つリズムが跳ねないけれど、ライブで勢いつけて盛り上がれそうではある。GbVDBではライブで取り上げられた記憶こそないけれど。
13.
Tree Fly Jet 2:46
ミッチの家で宅録の本作は、ドラムが押し入れの奥で録ったような奥まった音。菓子缶を叩くような薄っぺらさが、奇妙な味を出した。ダブル・トラックの歌声をサビに配置し、2小節のリフをギターがミニマルに延々と繰り返す。3分弱と短いわりに、中盤からのインストを異様に長く取った。
ギターが音色を変え、ときおりグラッと音像を揺らしながらも、同じリフをずっと弾き続けた。ヘンテコな構成バランスな曲。
14. Waking Up
The Stars 2:14
トビンの曲。アコギでしっとり歌い上げる。パーカッション替わりは手拍子、かな。静かな刻み。ファルセットのハーモニーも混ぜ、メロトロンの弦っぽい鍵盤のカウンター・メロディと紡がれるのは、甘く淑やかなソフト・ロック。楽曲としては素晴らしい。
なぜGbVのアルバムに入れるの、とは思うけれど・・・トビンのソロで良いじゃん。
なんだかんだ言って、GbVはライブでバカ騒ぎを前提にしたパーティ・バンド。確かにスタジオ録音の妙味もあるけれど、お花畑で静かにほほ笑むような楽曲は、ちょっとカラーが違うような。
15. Up Instead Of Running 2:13
じわじわっと迫りくるさまがカッコいい。ボブらしい甘酸っぱさと、ロックのパワフルさを込めたメロディだ。オクターブ上げて高らかに歌い上げたら映えそうだが、冒頭では音程を下げ気味。
サビからハーモニーを足し、ギターで厚く補完して次第にパワーを上げていく。
結局、同じフレーズを連呼してるだけ。けれど坂を上ってくように力をだんだん膨らませていく展開ゆえに、飽きさせず引き込む。
16. Smoggy
Boy 0:35
30秒ほどの小品。とっ散らかったガシャガシャにローファイな録音ながら、パンチ力ある勢いを見せつけた。まずベースでイントロを作り、一呼吸おいてロックな展開に。
そのまま脈絡なく終わってしまう投げっぱなしな曲だけど。奇妙な迫力と説得力あり。CMソングみたいなものか。
17. Amorphous
Surprise 2:00
ざくっとギターが長く鳴り、ベースの細かな譜割でリフを作る面白いアレンジのロック。歌声はひしゃげてサイケな風味を強調した。メロディはシンプルで、アレンジのアイディアと歌声の勢い、混沌ながらきれいに整った構成力の妙味で聴かせる。ぱっと聴き流してしまうが、じっくり構造を考えてみると興味深い。
オーラスでいきなり変な和音に飛んで、中途半端に投げ出し終わる乱暴さも、いかにもボブ流だ。
18. You Can Fly Anything
Right 1:55
アコギの弾き語り。デモ的な仕上がりの自宅録音で、なぜこれをボブがGbV名義で本盤に入れたのか謎。ソロでやればいいのに。逆に、こういうエゴをスムーズにGbVでやりこなしたところが、再結成GbVの特異さである。
楽曲は美しいところが、タチ悪い。穏やかな弾き語りで説得力を持たせる一方で、アップテンポのロック・コンボにアレンジしても映えそうな曲だ。
ここでは静かに語り掛ける歌いくち。しかしガッと派手にギターがかき鳴らす豪放な音像にしたら、スタジアム級でも映えると思う。贅沢にメロディを使い捨てるボブの才能がはじけた、隠れた名曲。
19. Everywhere Is Miles From Everywhere 3:05
最後はシンプルなロック・コンボ。そう、前曲もこんなバンド・サウンドでもよかった。メロディ・ラインが微妙に似てるし。
ここではハイトーンで喉を張り、高らかにボブは歌い上げた。高音を強調し、シンプルでヌケの良いミックスだ。意外にメロディそのものにスピード感が無く、バンド演奏の一歩後ろからボーカルがついていくかのよう。
バンドのふりしたボブのワンマンぶりを強調し、なおかつ前曲との振り幅大きい対比で再結成GbVの危うさを表現した、と取るのはうがちすぎか。いずれにせよ、本盤最後は3分のそこそこきっちりと長さを取った楽曲でしめた。サビではハーモニーもつけ、決して投げっぱなしではない。
解散前、GbV後期の味わいをなぞった方向性といえる。アイディア旺盛だった往年GbVとはちょっと違うとも思うが。