Guided by Voices

"The Pipe Dreams Of Instant Prince Whippet"
(2002;fading captain)

Produced:Todd Tobias and Guided By Voices
Assisted:John Shough,Scott Bennett

Robert Pollard - vocals
Doug Gillard - guitar
Nate Farley - guitar
Tim Tobias - bass
Jon McCann - drums
Jim Macpherson - drums
Kevin March - drums

Invert - Strings on "Dig Through My Window"

 2002年に発売されたアルバム"Universal Truths and Cycles"から、2枚のシングルが切られた。("Everywhere with heliopter"、"Back to the Lake")

 さらには7インチのアナログ・シングル4枚組という、マーケティングを考えてるのか不明なブツまでリリース。
 恐ろしいことに、そのどれもにアルバム未収録曲が収録されていた。ま、創作力旺盛なGbVなら当然か。

 これらのレア曲は、各アイテムを買い揃えて集めるのが普通だ。
 ところが今回はGbV自ら、レア曲群をいっきに収録したEP盤を発売してくれた。
 しかも時期は2002年の後半。えらく急ピッチだな。

 そんな短期間にリリースするのなら、アナログ4枚組はなんだったんだろう。
 ファンとしては好意的に「アナログのみの発売で、聴けないファンが多かったゆえの急遽CD化」と捉えようか。

 ともあれ本作、"Universal Truths and Cycles"とワンセットで聴くべきもの。
 この2枚があれば、ここ一年のGbVサウンドはきっちり押さえられる。
 アナログ盤は1000枚の限定で、とっくに売り切れ。だがCD盤は継続して販売されるみたい。
 
 ジャケはロバートのコラージュだ。
 余談だが、GbVも限定盤出すとき500とか1000って数が好きだな。
 彼らのファンってもうちょい多い気がするけど。プレス時のロット単位だろうか。

 本作に詳しい録音時期は記載されてないが、"Universal Truths and Cycles"前後の作品と思われる。
 前ドラマーJim Macphersonと、最新ドラマーKevin Marchが参加してるから。
 僕の耳では複数のドラマーがいるようには聴こえない。たぶん曲によって叩き分けてるはず。
 表4にはロバート含め5人のメンバー写真。この編成がGbVにとってしっくりくるんだろうか。

 基本はアルバム収録時のアウトテイクだろう。
 なお(2)、(3)、(5)、(7)のみ、GbV単独プロデュース作品。エンジニアは全てJohn Shough,Scott Bennettみたい。
 
 レア曲がどうとかややこしいことを考えず、ギター・ポップがつまった好EP盤としてシンプルに聴いてもいい。いや、むしろそう聴くべきか。
 そこそこ荒っぽいつくりだが、昔のGbVみたいなローファイさはない。

 総収録時間は25分足らず。なのに10曲もはいってる。
 GbVの入門作品としてもお薦めです。

<各曲紹介>

1.Visit This Place


 4枚組アナログ・シングル集"Universal Truths and Cycles Singles Set"(以下「SS」)へ収録された曲。"Cheyenne"のB面曲だ。
 SSはアルバム"Universal Truths and Cycles"から間をおかずリリースされ、かなりびっくりした。多作とはいえ、ここまで節操なくリリースするか・・・。

 ダイナミックなギターリフを従えて始まるロックンロール。ライブで映えそう。
 サビ部分のメロディと和音の絡み方が爽快で好き。
 アルバム1曲目を支えるパワーを持っており、なんならこれがシングルでもおかしくない。

 曲の構成はシンプルで、Aメロとサビが繰り返される。
 中盤で聴けるギターのオブリもきれいだ。
 ラストはきっちりコーダをつけた。くぅ、かっこいい。
 
2.Swooping Energies

 たぶん本EPで初めて発表。本曲と(5)が新録でKevin Marchのドラムってことか?
 前後の曲と比べ、ほんのわずかこもった肌触りがする。

 ブルーズっぽくひきずるリズムで、けだるげに歌う。メロディはポップで悪くない。
 サビの部分でベースが一音を伸ばした譜割りで、サイケに立ち止まったアレンジが似合ってる。 

3.Keep It Coming

 初出はEP"Everywhere with heliopter"のカップリング。
 プロデュースの違いから、この曲と(7)がアルバムとは別セッションの作品と推定できる。
 するとJim Macphersonが叩いてるのがこの2曲で、当時のアウトテイクを蔵出しってこと?
 誰かこの辺、ロバートにインタビューしてくれないかな。重箱の隅過ぎるかな

 ギター・リフとボーカルが同じ旋律で、広がりある音像を作った。
 ドラムがなかなか出てこず、空虚なムードにも感じる。
 けっこうぐしゃっとミックスされてるが、左チャンネルでボーカルと絡むフレーズなギターが聴きもの。 

4.Action Speaks Volumes

 けだるげなテンポのロック。フロアタムの単調な連打が眠気を誘う。
 ラフな音像がいいほうに働き、スペクターみたいに分厚い響きへ聴こえる。
 単音をスライドさせるギター・ソロが印象的だ。

 メロディはそこそこの出来。けれど曲は長いわりに、いまいち盛り上がりに欠ける。
 長いって言っても、3分強だけど。
 「SS」収録時には"Everywhere With Helicopter"のB面。

5.Stronger Lizards

 本作で初めて発表。
 はじけ方が物足りないギター・ポップ。ほぼ一発芸な曲で、わずか45秒かそこらの小品。
 きちんとバンド・アレンジされてるから、もっとじっくり作りこめばいいのに。いかにもロバートっぽい。

 エンディングで約8秒空白が続く。これはわざとだろう。
 余韻よりも空虚さを感じてしまった。

6.The Pipe Dreams of Instant Prince Whippet
 
 EPのタイトルにふさわしい、力強い曲。何度も聴いてるうちに好きになった。
 イントロ抜きでいきなり始まるメロディに、ぴたりとタイトルの単語が重なっている。
 ほとんど単語遊びで歌詞を決め、旋律を当てはめたのか。この曲聴いてて、そんな空想が頭をよぎる。

 "Everywhere with heliopter"のEP盤発表時にカップリングされた。
 邦盤"Universal Truths and Cycles"のボーナス・トラックとして、日本でもリリース済。

 覇気はないが、軽やかなテンポに押されて一気にエンディングまで行く。一分半とこじんまりしてる。
 フェイドアウト間際でほんのり聴こえるストリングス(?)のフレーズは、もっとじっくり聴きたい。ナイス。

7.Request Pharmaceuticals

 EP"Back to the Lake"のカップリング曲。
 冒頭から聴こえるのはヒスノイズ?それともシンセの効果音かな。
 こもった歌声で断片的な歌詞を歌う。
 
 不穏なフィードバックをときおり従えるアレンジがかっこいい。
 でもワン・アイディアで終わっちゃってもったいないぞ。
 これをAメロにして(1)の"Visit This Place"に繋げたらハマると思いません?

8.For Liberty

 弾き語りっぽいギターのみの伴奏(実際には数本のギターが重ねられている。4本かな?)で、一分足らずな曲だ。
 これもEP"Back to the Lake"のカップリングが初出になる。
 
 素朴なメロディで染みる。この感想を書くために繰り返し聴いたが、ひとつながりの曲みたいに違和感なく冒頭へエンディングが繋がっておもしろい。
 大サビで歌い上げるメロディが特に好き。

9.Dig Through My Window

 SS収録曲で、元は"Back to the Lake"のB面。
 ほんのりビートルズっぽい。ジョンが作りそう。
 歌とドラムが左ch、ドラムを右chよりと擬似ステっぽいミックスがされた。
 だからこそ中盤でセンターから流れる弦楽四重奏がひきたつ。

 ほのぼの美しいメロディにふさわしく、アレンジも手が込んでる。
 何でこういう曲をアルバムに入れないんだろう。コンセプトにあわないと思ったのかな?
 4分弱とGbVにしては長めにしてくれて嬉しい。
 
 ロバートのメロディメイカーぶりが炸裂した、隠れた名曲だ。

10.Beg For A Wheelbarrow

 シンプルなギターリフに、単音でまくし立てるベース。
 中盤にアカペラのブレイクを挟み、ライブで映えそう。ほんのりパンキッシュ。
 だけど(9)の後に聴くとかすむなぁ。

 途中でメロディを変調させた声にユニゾンでなぞらせた。GbVにしては珍しいアレンジでは。
 ぱっと思いついた曲を、あれこれ味付けしてサイケ風に仕上げてる。

 もとはSS収録曲。"Universal Truths and Cycles"のB面だった。

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