Guided by Voices

Circus Devils "The Harold Pig Memorial"(2002:Fading Captain Series)

Produced by Todd Tobias
Music Engineered by Todd Tobias
Vocals Egineered by John Shough at Cro-Magnon Dayton Ohio

Todd Tobias - Instrumentation and Noises
Tim Tobias - g
Robert Pollard - vo

 Circus Devilsの2ndは、あっさり一年後にリリースされた。作曲クレジットはCircus Devils名義。
 ボブがメロディと歌詞、音楽はトビアス兄弟。この時期以降に定番となる録音形態だ。
 
 本盤はラスベガスのバイカー・ギャングのリーダーだった、ハロルド・ピッグの追悼盤らしい。
 歌詞は例によって読んでないので、どこまで彼の思い出に寄与した歌なのかは不明です。

 バイカー・ギャングってのは暴走族とは違うんだろうな。ヘルス・エンジェルスみたいなもの?
 ケースの中に書かれた"Fat Chance"の言葉を背負ったイラストが、ハロルド・ピッグか。

 1000枚限定でLPもリリースされた。ネット情報に寄れば、オレンジ色のカラー・レコードらしい。
 ジャケットはロバートのコラージュ・・かな?今回は一枚画のように見事にはまってる。
 裏は黒一色。レコード穴で中央がこすれた様子をかすかな印刷で表現した。

 録音はトッド・トビアス。この時点ではすでにGbV本体のプロデュースも努めていたはず。
 むろんティム・トビアスもGbVに参加済み。さながらGbVのデモ・テープ作りになってもおかしくない。

 Circus Devilsと名義を変えた理由はロックンロールじゃなく、より実験的なことを追ったためだろう。
 良くも悪くも、当時のGbVはロックンロール・バンドになっていた。ライブでの再現をどこか頭へ置いた、リズミカルな曲が多い。

 だからこそ、Circus Devilsでの主導権がどこにあったのか知りたい。ロバートが主導権なのか。ならばなぜソロ名義じゃないのか。
 トビアス兄弟ならば、なぜロバートにすべてボーカルを任せる必要あったのか。ゲストボーカルを複数招いて、バラエティに富ませるほうがアルバムとして深みが出そう。後述するが、曲調は本当にばらばらだから。

 もしCircus Devilsをバンドとして位置づけるなら。・・・狙いはなんだろう。
 この盤は確かにハロルド・ピッグへの追悼として、作られたのかもしれない。でも、この音楽スタイルをとったのは、もうちょっと音楽性に対するこだわりがあるのでは、と考えたいんだ。
 作りっぱなしで放り出すGbVに対して、深読みしすぎかなあ。

 ぼくにとってCircus Devilsは、ほんのちょっと敷居が高い。
 まだまだ彼らのやりたい音楽を、消化できていないから。「この音楽はこういうところが気持ちいいんだ」って得心できたら、すっとバンドの音世界に入れるのに。

 Circus Devilsは、とっても混沌としてる。
 やりたいことを思いっきりぶちまけ、片端から袋にぎゅうぎゅう押し込んだ。

 クレジットをそのまま読めば、録音場所は地元オハイオのCro-Magnonスタジオにて。
 バックの演奏は若干分離が悪いものの、ローファイではない。ボーカルはくっきり。
 聴きやすいアルバムだ。しかしかなりサイケ寄りで、一筋縄では行かないメロディばかり。がっぷり組み合って、噛み締めないと味が出ない音楽。

 馴染むと凝ってるのがよくわかる。しかしそこはGbV系譜。一曲はあくまで短く、アイディアは集中でなく拡散へ向かう。全22曲入り。
 トータル・アルバムなので、通して聴きたい。歌詞が分かれば、魅力が増すのだろうか。

<全曲紹介>

1. Alaska To Burning Men

 もやけたシンセにひしゃげ気味のピアノが乗る。まっすぐに。ほんのり沈鬱なムードは、追悼のためか。
 テーマを意識すると、夕暮れの礼拝堂が脳裏に浮かぶ。あまりバックグラウンドを知らずに聴きたかったな。

 アコギの爪弾きにロバートの搾り出すような声。ぼくの英語力では意味が取りづらいが、雄大な男をそっと称える歌・・・なのかな?
 後ろでギリギリと暴れるエレキギターが、ロバートの切なさを盛り立てる。
 さりげなくサウンドを支えるシンセの味付けがいい。

 最初は「調子っぱずれな歌だなあ」と聞き流してたが、じっくり聴くとアレンジはよく練られてる。

2.Saved Herself,Shaved Herself

 アコギのストロークは前曲のエンディングからスムーズに繋がった。複数重ねたギターへ、加工されたロバートの声が漂う。
 主旋律の歌は力強い。わずかにロバートのピッチが甘い・・・。

 GbVを思わせるつくりだが、リズムアレンジは抑え目。あくまでじわりとビートを溜める。
 サビ前でがらっと風景が変わるアレンジが気に入った。 

3.Soldiers of June 

 一転して曲想は軽快に。日向を疾走するイメージか。
 舌足らず気味にロバートはボーカルを乗せる。リズムはドラムの低音をぐっと抜き、メロディアスなベースで支えた。このベース、きれいだなあ。

 ひたすら淡々と刻み続けるタンバリン(?)の執拗な鳴りが怖いぞ。
 ここでもシンセで音像を引き締めてる。

4.I Guess I Needed That

 投げっぱなしロック。一発録り風味でとってつけたようなコーラスも含め、ちとぼくの好みと違う。ボーカルは別録りだし、狙った効果なのは分かるが・・・。
 ギターのオーバーダブやコーラス(ボブの多重録音だろう、たぶん)に凝ってるのは分かるが、今ひとつ馴染めない。

 なお、左にドラム、右にギターとコーラスって、えらく極端に定位を振った擬似ステみたいなミックス。
 もうちょい素直にまとめたほうが、かっこいいのでは。
 まあ、ローファイの手作りっぽさが、狙いなのかも。

5. Festival of Death

 リバーブ・・・かな?奥行きを深めたギターで、1曲目のような追悼ムードへ逆戻り。この極端な曲順がすごい。メリハリをつけるため?
 くいっと上へひねるロバートらしいメロディだが、特筆するまで突き抜けた名曲とは言いがたい。

 最後の最後、"When death shows you♪"って歌詞のところ。ハイトーンの声をかぶせ、デュオに。風景はとたんに明るくなる。
 これだよ、ぼくの好みは。でも、アイディアに何の未練も無く曲をしめるんだよ、ロバートって人は。 

6.Dirty World News

 ディレイで飛ばしたボーカルのやり取りを、ざくざくしたギターの刻みで補完した曲。
 4リズムできっちり固め、中盤ではギター・リフを抜いて開放感もわずかにちらり。
 でもぼくにはあまりにシンプル。小品として位置づけます。

7. May We See The Hostage

 イントロはアコギ数本をバックに歌われる。この世界で完結すればいいのになあ。
 ロバートのメロディ・メイカーぶりが出た一曲。
 リバーブをわずかに効かせるが、節々にどかんと鳴るオーケストラ・ヒットのような響きが、甘さへ流さない。

 というか・・・アレンジ凝りすぎ。アコギだけで素直なバラードにアレンジしたら、いい曲だろうに。
 エンディングのギターソロも余分。

8.Do You Feel Legal?

 冒頭で"Suck!"と吐き捨てるロバート。
 これもシンプルなロック。両チャンネルにハイハットを配し、奇妙に迫りくるビートを表現した。
 中央にベースとロバートのボーカルを置き、左右でアレンジの目先を変える。
 右チャンで鳴るシンセと、いきなり引っ込むリズムの虚無な響きの対比が耳へ残った。

9. A Birdcage Until Further Notice

 ウッド・ブロックを叩いてるのかな。木魚みたいに響く。
 喉を絞めてロバートは歌った。あんがいきれいなメロディだ。
 こじんまりした宅録ポップの佳曲。投げっぱなしに見えて、アレンジの音世界は短い時間にガラガラ変わった。かなり目配りしてる。

 特に、ずぶずぶメロディを押すベースが聴きもの。

10.Injured?

 切なげなエレキギターのシンプルなリフが繰り返す。後ろでエコーを思い切り聴かせ、響きのみを残したコーラス。なんだか不気味な音世界だ。
 ロバートのメロディはあんがいメロディアスなんだけど。
 それこそ、追悼の歌なんだろうか。ひよひよと笛がオリエンタルに鳴る。

11.Foxhead Delivery

 勢い良く走れば、かっこよくなるはずなのに。ブレーキを踏み加減のロックンロール。途中で滑稽な響きが残るブレイクが、幾度も挿入される。
 前曲に続き、これも寂しさが漂った。
 ロバートはときおり喉をひっくり返し、ひたむきに歌う。
 メロディがとっ散らかってるから、全体像はサイケだけど。

12.Last Punk Standing

 イントロは美しいバラッド。アルペジオのバッキングと、微かな白玉のシンセがおごそかな空気を作った。
 メロディはむしろ、語りに近い。この世界のみで一曲聴きたかった。
 すぐにロックなアレンジへすり替わるが、キャッチーなメロディをスピーディなリズムで駆け抜ける。
 ほんのり陰があるものの、良い曲だと思う。
 冒頭のバラッドは中盤でも挿入された。いくぶん、リズムを強くさせて。
 整ったアレンジで演奏されるが、ライブでも映えそう。

13.Bull Spears

 ガレージ・ロックで冒頭から。しばらく歌が出ずに、延々とベースやギターのリフで聴かせる。
 ロバートのボーカルは、バッキングとあんまり合ってない。別にアヴァンギャルドなわけじゃないが、どこかちぐはぐだ。
 勢い一発でパンキッシュにはまったって良いのに。ロバートはどこか、突き放す。

14.Discussionsin the Cave

 淡々と語りをメインに、わずかメロディのついたサビがある。シンセのような響きと、しゃくるようなリズム。要するにニュー・ウェイブのアレンジだ。
 ごそごそした録音と、ギターの鈍いリフがそうは感じさせにくいが。
 ロバートがあからさまにニュー・ウェイブのアプローチを取るのは珍しい。

15.Recalculating Hearse

 イントロのような1分半はテンポの遅いロックで単調だが、サビのキャッチーなファルセットの歌声に耳をそばだてる。
 そのサビはあっというまに消え去り、2分くらいで曲が終ってしまうんだが。
 GbV時代のやりっぱなしを髣髴とさせる曲作り。

16.Pigs Can't Hide (On Their Night Off)

 サントラのように次々音が挿入されては変化する。語りが入った後は、さまざまな音がコラージュされ、淡々と進んだ。
 拳銃の発射音みたいなノイズが耳に残る。

17.Exoskeleton Motorcade

 一分間で重たいロックを語り気味に進めて終り。音楽としては退屈。
 ちょっと聴こえるふにゃふにゃした、しゃくるリズムがちょっと面白いかな。
 左チャンネルのタンバリンらしきビートをかぶせるあたり、アレンジは丁寧に考えていそう。

18 Real Trip No. 3

 インター・ミッションかな。ギターとベースがゆったりとリフをユニゾン、あとはわずかなシンセなどのダビング。曲として成立はするが、アイディア一発で淡々と終る。

19.Vegas

 軽快なロック調で始まり、ロバートのボーカルもはつらつなメロディ。
 矢継ぎ早にメロディをまくし立てて、あっけなく終る。しかし曲としてはなかなか。ライブでも映えそう。

 しかしサビの"Vegas"の裏で、ぶーぶー低く吼えるコーラスのアレンジはいただけない。おそらく本盤のコンセプトを優先したが上のアイディアと思うが・・・。

20.The Pilot's Crucifixion/IndianOil

 5分あまりの長尺。じわじわとアンサンブルが盛り上がる、サイケ・プログレのような展開。テクニカルではないけれど。
 リバーブを思い切りかけたボーカルは、語りっぽい。ほんのり調子っぱずれ。

 これまでのアルバム展開では数曲に分けても良さそうな曲だった。
 しかしさほど面白くない・・・。メロディに力が無く、淡々と音の重なりが上滑りする。アレンジのこまごました部分まで耳を澄ますと、退屈はしないが。
 あくまで本盤はそれぞれの曲を取り上げて聴かず、全体を通したトータル性に着目すべきなのかも。

21.Tulip Review

 後ろの語りは懺悔のごとく。
 教会のオルガンを連想するシンセがふわりと漂い、大きくなって消えた。

22.The Harold Pig Memorial 

 テーマがリプライズし、アルバムは幕を下ろす。映画に例えるならば、スタッフ・ロールにあたる曲。
 しみじみと3音が、さまざまなキーで流れた。後ろに流れるドローン・ノイズ込みで、ゆったり寛げる演奏だ。
 奔放にアイディアを撒き散らした躁状態を、ゆっくりリラックスさせる。
 ここまでアルバムを聴いたからこそ、しみじみとシンプルなメロディを噛み締め、味わえる。
 

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