Guided by Voices

"Sgt. Disco" Circus Devils (2007:Ipecac)

Produced and engineered at Waterloo Sound, Kent, Ohio, 2006
Producer, Engineer,Written Instrumentation And Noises By, Todd Tobias
Lyrics, Vocals By Robert Pollard

 混沌なサイケ・ロックがこれでもか、と詰まった。実験的な楽曲の多いサーカス・デヴィルズだが、本盤は意外と聴きやすい。

 2年ぶりの新譜。録音は一年ぶり、か。ロバート・ポラードのレーベル、Fading Captain Seriesでなく、Ipecacに発売元を変えた。Faith No Moreのマイク・パットンがGreg Werckmanと興したレーベルだ。
 過去の盤と本盤で方向性の変化は、単なるリリース・タイミングの違いか。

 いずれにせよIpecacとの関係は本盤のみで終わり。次作からはボブの別レーベル、Happy Jack Rock Recordsから発売を重ねることになる。
 そもそも本盤の2枚組LPも、Happy Jack Rockからリリースされた。

 67分の長尺なアルバムで、32曲を収録。製作はトッド・トバイアスが行い、歌詞と歌をボブが担当するスタンスは変わらず。
 聴くたびに迷うのだが、メロディはトバイアスの担当なの?ボブらしいメロディ・センスはサーカス・デヴィルズで、かなり希薄だ。ポップさを放棄して、投げっぱなしのボブ流作曲術を徹底的に発動が本バンドの可能性も捨てきれない。
 製作クレジットはトッド・トバイアス一人。トビン・トバイアスの名は見当たらない。

 なお(6)は同年にボブが自らのライブで取り上げた。徹頭徹尾にトバイアスの作品だとしても、ボブもまったくの義理で参加じゃないらしい。
 ボブは07年にライブは二回しかやっていないのに。

 本盤はBoston Spaceshipsの始動前、ボブのソロ"Standard Gargoyle Decisions"と"Coast To Coast Carpet Of Love"を同時発売な時期。トバイアスと活発な創作活動を行った年だ。
 レーベルFading Captain Seriesを畳み、総決算の"Crickets: Best Of The Fading Captain Series 1999-2007"発売もこの年。

 色々とボブが周辺環境を心機一転した。トバイアスは淡々と制作を続ける。環境が整ったのか、本盤のあとは2012年を除いて毎年1枚、コンスタントにサーカス・デヴィルズの盤も発表していった。

 アルバムの印象をまとめると、ほんの少しだけポップさを狙った気がする。奔放な楽曲作りぶりはサーカス・デヴィルズらしく本作でも変わらないが。
 大量にばらまかれた曲は、それぞれの流れを意識してそうで、断続する唐突さがいっぱい。色々と考えているように思わせながらストーリーを読み解けず。単に片端から並べた可能性も捨てきれない。

 総じて内省的な仕上がりの一方で、トッドが得意とする「多重録音でバンド的なグルーヴ」を出すさまは本盤でもたっぷり聴ける。

<全曲感想>

1. Zig Zag 1:36

 フルートとギター音色で、歪み震え揺らぐ世界を描く。パッド音色が幻想性を増した。メロディは単独で抜き出したらそれなりにポップながら、あえて伴奏とずらしたかのよう。
 調子っぱずれとは言わないが、なんとも居心地悪い不安定な質感だ。サビとも平歌ともつかぬ旋律が漂い、時間が経過していく。

2. In Madonna's Gazebo 2:14

 風切り音から小刻みなピッキングのギターをイントロに、コンボ編成がリズムをきっちり刻んだ。
 ふわりと中空を抜いたボーカルを、笑い袋みたいに怪しいムードのハーモニーがうっすら飾った。ギター・リフはシンセだろうか。すこし薄ぺらい。
 中盤でギターがもう一本。音数は多そうだが常に空白を意識させるミックスで、わずかに跳ねるノリを作った。

3. George Took A Shovel 2:31

 甘酸っぱい和音感のロック。だがボーカルがいきなり台無し。低く語るような旋律でポップさと乖離した。あえて外しの技を入れるのが本盤のテーマか。
 さらにこの曲ではブレイクでドライだがキャッチーなフレーズを挟む。一曲の中でメリハリと落差をつけて印象深い曲にした。平歌の語りをルー・リード風に捉えたら、意外とまとまりあるかも。

4. Pattern Girl 3:33

 これはきれいな曲。鮮やかなサイケ風の二音を上下させるリフ。次にアルペジオっぽいフレーズに変わった。ミニマルにイントロを飾り、平歌はダブル・トラックで高音中心にメロディアスに仕上げる。
 乾いたドラムにしっかりと旋律を奏でるベース。トッド・トバイアスならではの一人バンドな醍醐味がきれいにハマった。

 シングルに似合いそう。ただしポップ志向は無い。大サビ入れたら曲が引き締まるのに。

 なおサーカス・デヴィルズはGbVと違ってシングルを切りまくるアイテム志向の販売戦略を行わなわず、16年のキャリア全部を通して1枚しかシングルないのだが。
 
5. Nicky Highpockets 1:48

 鍵盤を中心にほんのりインド風味。異国情緒を入れた。この曲のメロディはボブっぽい。無造作に上下しながら、きっちりラインを持っている。
 インストでパターンを作って、そこへ関係ないがぴたりハマるメロディを載せたような曲。
 サビは厳かにハーモニーをつけて、意外とポップな味わいがある。瞑想的なバック・トラックと対照的に。

6. Love Hate Relationship With The Human Race 1:47

 一人バンドだからありえないけれど。セッション風にジャムる演奏を元に、シャウト中心で即興的なメロディを載せたかのよう。
 カウベルっぽい乾いた金物が拍頭を刻み、アクセントをつけた。本曲に限らず全体的だが、どこかぎこちなく硬いドラムが、荒っぽさとサイケの風景を行き来する。この曲はまさに、その典型。

7. Brick Soul Mascots (Part 1) 4:10

 No.2は(24)。短期的なイマジネーションを無秩序に並べるスタイルのバンドだが、あえてここは二つに分ける技を仕込んできた。緩やかなテンポでギターの刻みとストロークが静かに漂った。
 語り掛ける歌声は、気持ちを抑えるような声圧を持った。メロディとの結束が緩やかだが、和音しだいではポップに感じられそうなメロディ。
 ドライな残響感でボーカルを乗せ、サビ近くで盛り上げた。ドラムを入れテンポも加速、ボーカルも次第に力がこもっていく。
 短い曲を並べた本盤で4分以上も尺を使い、奔放に展開するイマジネーションを自制もって膨らませた。メロディが淡々としているが、サーカス・デヴィルズの代表曲になりそうな趣もあり。

8. Break My Leg 1:36

 オルガンとアコギ、ベース。多重録音でトバイアスはソフトで不安定な風景を作る。ボブはハマりそうで微妙にずれるメロディを載せる。これもまた、サーカス・デヴィルズっぽい、だらしないほどの駄々洩れな発想の流れ。
 時々中間部に別フレーズを入れメリハリつけた。

9. Outlasting Girafalo 1:47

 調子っぱずれなブルーズめいた楽曲。しゅわしゅわしたシンバル音色や、歪んだギターでサイケ色を強調したが、基本は滑らかなロックンロール。ミドル・テンポで覇気のなさを演出したが、和音とメロディをもう少し融和させたらかっこよさが増す。

10. The Assassins' Ballroom (Get Your Ass In) 3:23

 音程感ある金属質な打音とドラム・セット。広がりあるストリングス風の白玉で広がりは持たせながら、音像は不穏でパーカッシブだ。
 ボブは音程を上下させながらも、語るような抑揚で歌を載せた。どちらも独特の世界を持ち、合わさることで不思議な浮遊性を出す面白いアレンジ。
 歌声を左右のチャンネルに飛ばし、配置を変えサイケな要素をトバイアスはミックスで表現した。

11. The Winner's Circle 1:55

 重たい残響音のような響きを中心の抽象的なサウンド。ひたひたとサウンド・ノイズが続く。ベースを足して、ようやくつぶやくような歌声が入ってきた。静かな音楽劇風な面持ちもあり。
 大きな物語の一瞬を切り取ったかのよう。この曲単独で完成度うんぬんよりも、もっと背後に雄大な世界観を伺わせる。

12. The Constable's Headscape 1:55

 ダブル・トラックのボーカルにフロア・タムを生かした重厚なリズム。ニューウェーブ風味のタイトな楽曲だ。中盤でいきなり全く違う世界に楽想が飛ぶ。ボブ流の一筆書きメロディとは少し感触が違う、突拍子無いつぎはぎな曲。せわしなさはないが。

13. In Your Office 1:34

 破裂音みたいな音色のドラムにオルガン、ボブが語るように歌った。アルバム全体を俯瞰すると、このようにあまり喉を張らぬこじんまりしたボブの歌唱法が多い。
 トバイアスのプロデュース、ゆえか。終盤の多重録音でサイケさが増す。

14. New Boy 1:04

 トイピアノを鮮やかに操るコラージュ風の伴奏が妖しいキュートさあり。鉄琴とユニゾンでがらりと蠢くさまが涼やかだ。
 歌ってるのはボブ?呟くように声が甲高く乗った。意外と面白い曲。

15. Puke It Up 0:38

 40秒足らずの小品。フェイドインで始まるインストのセッション風味。逆回転っぽい。ひとしきり盛り上がり、緩やかにフェイドアウトした。中盤の場面展開みたいなものか。

16. Swing Shift 2:51

 弾き語り風のメロディながら、演奏はこじんまりしたインダストリアルな響き。オルガンが和音感を出すけれど、根本はシンプル。起伏の少ないメロディでボブは静かに言葉を載せた。
 このワンアイディアで終わらせず、中盤に低音のボーカル・ラインを載せた。さらにサビ風のシャウトは、和音から外れるかのような危うさを演出する。この辺のサイケな大胆さがさりげなくかっこいい。

17. Happy Zones 4:19

 アナログではここからC面の始まり。4分じっくりかけた曲だが、冒頭一分はSEだけが続くようなもの。おもむろにボブの朗読がドラマティックに始まる。
 シンセのループが小節感を出し、オルガン音色でオブリはつくけれど。メロディも構成も無い自由な曲。
 長く大仰な序曲みたいな展開。中盤からシンフォニックなシンセの低音と、パイプオルガン音色が広がった。雄大な風景の中、ボブはあくまで語りを続けた。時にダブル・トラックなど細工を施しながら。

18. The Pit Fighter 2:28

 宅録で実験したようなノイズのイントロから、ベースとドラムが加わりシンプルなロックのアレンジに変わった。ボブはここでも語るようなフレーズで前置きのあと、サビをきっちり歌った。
 風切り音みたいな電子音がテンポを全く歌と合わせておらず、奇妙なポリリズムを演出する。
 ブレイクで違うテンポ感で電子音がねじれる様子が、奇妙な味わいを出した。

19. Bogus Reactions 1:47

 ざらついたニューウェーブ調の曲。乾いたメロディは伴奏と微妙に絡まず、冷静な空気を漂わす。単独なら若干なりとメロディアスに聴こえそうなのに。
 そして楽曲そのものは、平歌のままで終わってしまう。この一筆書きメロディはボブっぽいのだが、さて実際はどうだろう。
 曲の終盤で妙な掛け声が入る。あれを全編に撒いたら、へんてこなポップさが増して面白いはず。

20. Hot Lettuce 1:48

 ジャム・セッション風の演奏。微妙にずれているような。しかもこれを、トバイアスは多重録音で表現か。ならばすごく斜め下に凝った演出だ。インストでリフを続けたまま曲は終わった。

21. Safer Than Hooking 1:58

 一転してボブ流の一筆書きメロディが溢れる曲。リズム・ボックスに低音を弾ませるギターでアンサンブルを組み、ベースがじっくりとフレーズを紡いだ。
 録音もきっちりしており、ボブのソロに収録されてもおかしくない。ポップかどうかと問われたら、サーカス・デヴィルズ流の弾まない煮え切らぬサイケ色が強いが。

22. Dead Duck Dinosaur 1:59

 逆回転風のバンド・サウンドにボブがメロディをそっと乗せた。重たく引きずるサウンドは、ひしゃげた危うさをまとってる。ダブル・トラックのボーカルはそれなりに耳を惹いた。こういう展開はかなりボブのメロディな気がする。

23. Do This 1:01

 いきなりカセット風の唐突に録音が始まるノイズで幕開け、チープな打ち込みテクノっぽい作品だ。途中で音程は変わるけれど、基本はほぼワンアイディアのループが一分間続く。
 デモテープの断片みたいなもの。フェイドアウトで終わらせた。場面転換みたいな位置づけか。

24. Brick Soul Mascots (Part 2) 2:36

 (7)に続くパート2。最後のフレーズの音域を変え、ギターのストロークとバンド・サウンドを強調した。ほんとにこれはパート1と繋いで聴いても成立する。
 パート1冒頭の簡素な展開から、次第に盛り上がるドラマティックな構造を披露した。
 この1曲を軸に、プログレ・サイケ的なアルバムにもできるだろうに。わざと完成度からずれるように、奔放な発想の飛躍と飛翔を詰め込むのがサーカス・デヴィルズのスタイル。
 (7)でも思ったが、意外とこの曲は本バンドを象徴する楽曲だ。

25. Caravan 0:55

 無伴奏の掛け声。スカムで重たいインダストリアルな演奏へ、低音で野太く歌をかぶせた。一分弱の小品であり、ちょっと展開はあるけれど基本はワンアイディアの断片。

26. Lance The Boiling Son 2:14

 エレキギターを中心のバンド・サウンドながら、甘酸っぱいメロディの破片が漂う。名曲とまで言わないが、意外と良い曲。少し調子っぱずれで、ほんのり噛み合わないムードあり。
 こういうメロディもボブっぽい。いくつかのメロディを強引に一曲へ仕立てた。最後はタイトルの旋律をテンポ変えながらひたすら繰り返す。それはそれで、妙なガレージ感覚が面白い。

27. War Horsies 2:27

 これもデモテープみたいなチープな音色で、弦楽器数本によるアンサンブル。甲高くタイミングをずらしたコミカルな声が載ったさまは、はるか昔のコメディアンによる朗読劇を聴いてるかのよう。
 詩の抑揚はほぼ一定。ディランを意識したパロディ、かもしれない。
 1分45秒以降から連呼されるサビが、いきなりポップで油断できぬ。こういうハズシてハズシてハメたあとまたハズシ、みたいな演出が面白いところ。

28. French Horn Litigation 2:53

 フォーク・ロックっぽい引きずるテンポ感の曲。ここではきっちりアレンジに、薄めだがきっちりメロディを持つボーカルでバンド的に仕上げた。本盤はこういう完成度を意識した楽曲と、完全な実験的デモが混在する。
 煮え切らず突き抜けないメロディがもどかしいけれど。それなりに楽曲はまとまっている。弾き語りで成立しそうな曲構造を、乾いたドラムが後押しした。

29. The Baby That Never Smiled 0:35

 フルート音色の電子音とギターを伴奏に、ボブらしいメロディが続く30分強の掌編。
 平歌のみ、これからサビへ行きそうなとこで終わってしまう。思いきり投げっぱなし。別のメロディと組み合わせ、一曲に敢えて仕上げないところが彼ららしい。

30. Man Of Spare Parts 1:23

 重厚なテンポ感のロック。これを一人多重録音か。ところどころテンポが揺れるようなアレンジだが、ずれずにノリをきっちり保つ凄さ。
 メロディはリフに合わせ隙間を埋め込むようになぞり、あっけなく曲が終わってしまう。

31. Rose In Paradise 1:52

 オルガンをバックに夢見心地なサイケ・ポップ。メロディアスながら唐突感ある展開で、ぎこちなくはかなげな世界を甘く描いた。
 耳を優しくなぞるオルガン音色のせいか、ことさらに甘酸っぱさが強まる。細かく聴くとラフな作りなのに。

32. Summer Is Set 3:02

 アルバム最後はシンバルとチープなシンセ音色を前に出したニューウェーブのアレンジ。しかしメロディが意外と艶っぽく、きれいなため違和感を演出した。
 サウンドはチープな音色のまま派手に展開し、シンフォ・プログレな風景も描く。アルバムを締める大胆さを意識しての曲調か。そのわりに語りが入ったりとメリハリ無く、アイディア一発を即興的に曲へまとめたような勢いを感じた。   (2017/11:記)
 

GbVトップに戻る