Guided
by Voices
"Pinball mars"Circus
Devils (2003:Fading Captain Series)
Todd Tobias:Producer, Engineer, Instruments, Performer [Noises]
Robert Pollard:Lyrics,Vocal
Tim Tobias:Guitar
John Shough:Engineer
[Vocals]
ちょっと荒っぽいサイケ・ロックをあっさりとアルバムにまとめた。
トバイアス兄弟のユニット、サーカス・デヴィルズの3rd。製作の主導権はトッド・トバイアスで、ほとんどの作曲もトッドだろう。ティム・トバイアスは(5)が単独で作曲、あとは共作で数曲に名を連ねた。
ロバート・ポラードはたぶん、歌詞のみ。ボブにしてはメロディに華が無いものが多すぎる。(4)など、ボブの作曲らしき作品もあるのだが。歌詞はすべてボブ。
ボーカルは録音をジョン・ショーに任せ、録音場所もまったく違う。ボブは歌をダビングのみ。この当時から良くやってた録音形態とはいえ、なんとも合理的もしくはそっけないなスタイルだ。
トバイアスは自宅であるオハイオ州北東部のアクロン。ボブは同州の西部にあるディトンで録音した。試みに調べたら、数百キロ離れており車で3時間くらいの距離。けっこうある。東京ー浜松くらい?
アメリカでの日常的な活動距離範囲ってピンとこないが、電車も無いし、案外不便な距離感かもしれない。
本盤に限らずサーカス・デヴィルズは、ボブの瑞々しいメロディや実験性を求めたら拍子抜け。あくまでトバイアスの作品と聴くべき。たまにボブらしい色も出るし、GbVファンはどれも必聴ながら。
本盤にはポップさが足りない。のっぺりとメロディが漂い、演奏も荒っぽい。ざらついたスリルが好みか否かで、本盤の評価は変わる。ぼくはちょっと本盤って、味気なく思う。トッドの多重録音で特徴なバンドのグルーヴ風味も、なぜかいま一つ覇気がない。
オフィシャルWebでは"ガレージ・ロック・オペラ"と表現された。
音ではピンとこないが、Flush,Z,Pinballらのキャラクターによる物語仕立てな歌詞になってる。特に声色も使わず、ボブはキャラクターを歌い分ける気もなさそう。誰かのセリフなメロディ・ラインでもダブル・トラックをつかったり、キャラクターを立てるなど工夫には、こだわってない。
歌詞が先か。メロディすら希薄な場面がいくつかある。抽象的で断片な歌詞のため、アルバムの趣旨は意味は掴めておらず。この物語性を軸にしたら、トータル・アルバムとして本盤への評価は高まるのかも。でも、音がやっぱり地味。
なお歌詞はこちらで公式に掲載された。http://www.gbv.com/oldgbvsite/lyrics/pinballmars.html
実験的なアプローチとしては、興味深い。ガレージ・ロックのザラついた音色が無造作に響くが、スカムな荒っぽさは無し。あくまで構築を意識し、むちゃくちゃないい加減さは無い。
とにかくけっこう、とっつきづらく不思議な盤だ。
<全曲感想>
1. Are You Out
With Me? 3:50
冒頭に3分越えの長め(?)な曲を2曲並べ、そのあと小品を小刻みに叩き込むスタイル。とはいえこの曲からして難解な展開、特段に世界観の説明や序章ってわけでもない。 重たく引きずるギター・ロックのリフのあと、ボブは地を這うように歌いだす。
ラジオのアナウンサーがニュースを告げ、本盤の登場人物Flush、Z、Pinballの3人が気だるげに「出ていこう」とつぶやく。いちおう3人の場面はボーカル多重録音してるな。
特に音域でキャラクターを使い分けてはなさそう。
最後にPinballが「出ていこう!」と叫んで終わる。
2. Gargoyle
City 3:36
ローファイなロック・リフ。スネアで畳みかけるリズム感がトバイアス風だ。歌はフィルターかけて潰れた声と、普通の声質が行き交う。PinballとZの会話だが、もこもこなサイケが吹き荒れる中、歌声二種類が飛び回るさまは、そこそこかっこいい。
ポップではないが、本盤を象徴する曲ならこれか。
3. Pinball Mars 1:40
ここから小品の連発が始まる。ピアノとギターの低音ユニゾンからバンド風にリズムが加わるのは、意外と良い。ボブ風の起伏あるメロディの断片だが、今一つ盛り上がりはない。
そう、この楽曲はなんだかんだ言ってキャラクターの会話劇のため、平歌とサビって構成は無視して作曲のため。
4. Sick Color 3:18
投げっぱなしな曲が多い本盤の中で、きっちりロックな一曲。メロディはうっすらボブっぽい。しかし単調でうわずるような和音感が、妙な性急さと荒っぽさを演出した。
エンディングは強引にリタルダンドしてドタバタとフェイドアウト。
5. Don't Be Late 2:52
一応これも前曲同様にまともな曲と見せかけ、サビの歌いかたが妙に脱力した。なんだか覇気がない。英国ロックみたいに乾いたモッズなひねり狙いでもなさそうだし。
6. Inkster And King 2:05
幻想的でボブ流の一筆書きメロディが炸裂した。そっけない歌詞を淑やかに歌い上げるメロディ・センスに脱帽。詞先の曲じゃないのかな。畳みかけるギターとベース、緩やかにリードを取るギター。シンプルだがドラマティックなアレンジが良い曲。
ふわりと唸るギター、とつとつとフィルを取るドラムが魅力的だ。こういうバンド的なアンサンブル、トバイアスはハマるとほんと上手い。
7. A
Puritan For Storage 1:43
ここから2幕目が始まる。書き忘れたが、本シナリオは2幕構成だ。
逆回転ギターにドラムをかぶせる。2分弱でボーカルの比率は少ない。エコーでゆがめた夢見心地のつぶやきがあるていど。
ベースが軸で低く鈍く、メロディーを紡ぐ。なぜかドラムは少しリズムのタイミングを下手くそにずらした。
プログレ風な小品。
8. Alien
2:39
吹きすさぶ風のSE。物語場面が空港なため、風切り音をあらわしたか。
粘っこいサイケなギター・ソロがたっぷり。
前曲から続いてベースが緩やかにアンサンブルの主役を担った。今度はくっきりした音質で、しかしとりとめない歌をボブは乗せた。酩酊もしくは幻想性を表現か。この辺はシナリオが主軸らしく、楽曲としては抽象的だ。
9. Plasma 1:20
ギター・ソロとメロディアスなベースが絡み、ひゅんひゅん言うSEを飾りにドラムが着実に刻む。スピーディさはいまいち、チョイと野暮ったいがロック・インストに仕上げた。
10. Dragging The Medicine 2:26
一転してメロディアスなアコギとシンセのイントロ。この曲も歌として成立しており、ボブが緩やかな旋律を低い声で載せていく。本盤の中で印象に残る一曲。
ただし物語世界から乖離もせず、不穏でひしゃげたボブの声をサンプリングして、電気加工の上でバックへ頻繁に埋め込んだ。
フルートや鍵盤などアレンジは凝っており、サイケ・ポップとして聴けなくもない。起承転結の起伏が無いため、この曲単独だと混沌に過ぎるが。
11.
Bow Before Your Champion 0:45
アコギを軸のシンプルなガレージ・ロック。シンセやタンバリンなどダビングも多く、小品のわりに手が込んでいる。
楽曲はリフの繰り返しパターン。
12. Glass Boots 2:30
そのまま本曲へ。ウッドブロックを味付けの緩やかなギター・ロックへ、ラップ風のメロディ無い言葉をボブは次々乗せた。
だがそのままちょっと転調してくのが味。
最後のフレーズが執拗に繰り返された。
13. (No) Hell For Humor 1:06
ピアノが軸の裏ぶれたバラード。ボブがそっけなく音程をアウトさせるため、よけいヘンテコに聴こえるけれど。わずか1分程度の小品だけど。
メロディはかなりきれいだ。名曲、かもしれない。
ラフな演奏で妙に崩してしまうのは惜しい。
14. Raw Reaction 5:22
歌詞カードは以下のように4分割されている。組曲ってことか。とりとめなさ過ぎて今一つわかりづらい。
A. Nutrition Is Vital
B. Strange Journey (See You Inside)
C. Inside
D. Come Out Swinging
楽曲はサイケ・ポップ。相変わらず平歌とサビの区別が無い。歌詞は執拗に繰り返され、演奏も一応場面が変わるため組曲ともとれるが。混沌は難解に深まる。本当に何を考えて、作ったのだろう。本盤は克明な解題が欲しい。そしたら面白みが変わるかも。
「適当に酔っぱらって作ったテイクをまとめた」って言われたら、身もふたもないが。でも無秩序じゃなく、けっこう明確にアイディアが固まって作ってるっぽい作品なんだよね。(2016/10:記)