Guided by Voices

"Five" Circus Devils (2005:Fading Captain Series)

Producer, Engineer, Written-By, Performer: Todd Tobias (2)
Written-By, Performer: Robert Pollard (tracks: 1 to 11, 13 to 17, 19 to 22)

 トッドの内面世界をそぞろ歩きしてるような、サイケな味わいの盤。

 サーカス・デヴィルズとして4thアルバムだがタイトルは「5」。ひねくれている。
 ただし公式Webを見ると04年に未発表アルバムの企画はあったと記されている。ほんとかウソかは知らないが。数年後に出た次のアルバム、"Sgt. Disco"(2007)がそもそもの4thだったとのうわさもある。真実は分からない。

 作曲と録音に演奏はトッド・トバイアス一人。ボブは歌と歌詞を担当した。

 本盤発売の05年はGbVの稼働が停止していた。ボブはHazzard HotrodsやThe Moping Swansなどユニットで録音していた。あとはトッドと組み、本作同様に演奏をすべて任せ作詞作曲と歌に専念するソロ"Fiction Man"を吹きこんだころ。
 どの録音が先かは知らない。だがこの時期に演奏やアレンジを大胆に他人に任せ、大量生産の作曲にシフトするスタイルに、ボブは大きく舵を切った。

 サーカス・デヴィルズなどはむしろ、もっと気楽だったろう。サウンドの主導権は完全にトッド。ボブは奔放にイメージを歌詞で遊ばせる。歌も時にはテープ加工っぽい響きが聴こえる。ミックスもけっこうトッドが一人で自由にやってたんじゃないかな。
 
 ボブのソロでは多重録音でバンド的なダイナミズムを見事に演出するトッドだが、本盤ではむしろボーカルも楽器の一つと埋め込まれ、サウンド優先に仕上がった。
 思い切りサイケでとっ散らかった混沌の世界。トータル・アルバムではなく、アイディアをぎゅうぎゅう詰め込んだとりとめのないサウンドだ。

 ネタ元がGbVdbしかないので、実際の活動状況は不明。ライブは行わず、完全にスタジオ盤のみなのかな。根本的なところで、バンドっぽい場面が希薄。淡々とリズム要素の無い楽曲もあり。内部へ向かって沈むような印象も受けた。
 全23曲で40分。一曲が短く、どんどん曲が並ぶ。最初と最後がシンフォニックなシンセのインスト中心の曲で挟み、最初と最後は似たテイストで締めた。

<全曲感想>

1 The Bending Sea 2:11

 ゆらぐシンセ・オルガンの波。パイプオルガン風に広がりと荘厳さを出す。ストリングス的な盛り上がりも狙いかな。途中で泡立つ男の声が小刻みに加わり、芝居っぽさを出す。
 中盤には和音で緊迫感を煽ったり、雄大さを演出したり。短い時間ながら場面転換をマメに詰め込んだ。ミニチュア・シンフォニックな曲。

2 Look Between What's Goin' On 2:02

 ひしゃげたローファイな楽曲。崩れ落ちそうな音像で4拍子のパターンが繰り返される。ボブならワン・アイディアの小品に仕立ててるが、トビンはブレイクを挟み後半でプログレ風につなぐ。ボブの多重ボーカルを利用して。この辺の構成力の差が個性だ。バンドっぽさは希薄。

3 Just Touch Them 1:43

 テープ・コラージュっぽいイントロがスカム風に鳴り、唐突にメロディアスなアコギの弾き語りが重ねられた。このミスマッチさが味。スカムなノイズは消え去らず、背後で静かに崩れ続ける。ここでも中間で場面転換が入った。ただでさえ2分弱の短い楽曲を、さらに分割した。何度も言うが、ボブなら2曲にしていた。この辺が、個性の差。

4 Artheroid Vogue 1:21

 前曲のインスト・サイケからスムーズに楽曲が繋がり、チープなドラムとエレキギターのつぶやきを主眼の弾き語り楽曲へ。調子っぱずれなコーラスが加わり、再び場面転換へ。
 このモーフィング具合も本盤のテーマか。

5 Dog Licking Baby 0:41

 40秒の小品。これもメドレー風に繋がった。ドタバタと、しかし涼やかなドラミングに載って逆回転風の残響をまとい、ボブは吐き出すように歌う。唐突にカット・アウト。

6 Thelonius Has Eaten All The Paper 1:37

 エキゾティックなムードを持つスローな曲。楽曲として意外にポップなメロディあり。作曲はトッドのはずだが、ボブの曲でもおかしくない甘酸っぱさがうっすら香る。
 展開やサビのキャッチーさはないけれど、この少しばかり気だるげなサイケ・ポップは混沌に満ちた本盤の中で穏やかに味わえた。
 リズムはオマケのように呟くのみ。オルガンをバックにボブは歌う。

7 Strain 1:13

 テープ早回しがアレンジのテーマか。ボーカルもドラムもバックの鍵盤風な音色も、それぞれテープの再生スピードをまちまちながら加速させてるかのよう。
 性急で危なっかしいサイケなムードだ。メロディはそれなりに親しみやすい。

8 Animal Motel 2:48

 (3)と似た崩れたイントロ。歌声は音質を落として、ほぼ語り。ベースとドラムに歪んだ響き。だが歌はあっという間に消え、ブレイクからアレンジ構造は似てるけれど、違う世界に。この悪夢巡りのような物語性と転換の流転が本盤は常に漂う。
 しかもこの楽曲では、持続の退屈さも狙ったか。3分弱と本盤にしては長めの楽曲。細かく場面ごとに構造は変えても、全体的なトーンは一定のため退廃的に漂うサイケっぷりが淡々と続く感じあり。

9 Future For Germs 1:11

 いちおうバンド仕立てだが、ガイコツみたいなアレンジ。ドラムとベース、ギターが骨格のみ形成した。ダブル・トラックのボーカルもメロディアスなはずなのに、妙に平板で単調に聴こえるのが逆に面白みを持っている。リズムもビートも形式だけ、決してドライブさせない仕組み。

10 Effective News 2:15

 前曲からさほど違和感なくSEにつなぎ、そのままメロディに雪崩れた。ボブの一筆書きメロディな面持ちだが、いまひとつ瑞々しさが少ない。途中でエコー成分を増したメロディが単音リフとオルガンに誘われて漂う。やがて語りとシンセの閃きに変わった。
 ボブ風のとっ散らかったメロディ展開と、トッドの実験精神が合わさった曲。

11 No Wonder They Don't Stand Tall 1:46

 バンド・リハーサル風に、ギター数本が一音づつ乗せていく静かなフレーズがイントロ。やがてボーカルがしっかりと加わる。伴奏との一体感は皆無なのだが、それぞれが分離せずに成立した。
 途中から山彦のように残響をまとった歌声が、リード・ボーカルを追いかける。

12 We Taught Them Rock And Roll 1:28

 これもバンド・リハーサル風。試し弾きのように音が順番に鳴った。唸り声やシャウトも合間に入る。歌詞は無く、吼え声と単音のみ。やがてギターがソロっぽくメロディを汚い音質でならす。そのまま脈絡なく幕。
 ロック・バンドの淡々としたアイロニーか。

13 Eyes Reload 1:02

 混沌は続く。しかし、いちおうかろうじて曲の構造を持った。震える音色で数本の歌声が縄をよじるように歌を乗せる。ギター・リフを中心に伴奏をバンドが務めるが、ミニマルな展開のまま幕。

14 Her Noise 2:01

 ブライトなエレキギターの弾き語り風。そこへ調子っぱずれのシンセが載ってサイケで危うい世界を描いた。シンセが無ければ、ローファイだがメロディアスなフォークでも成立した。
 だがシンセが不安定だがずうずうしく鳴り、音像は混乱とスカムさを強める。ついでに言うとギターやシンセの縦の線もズレズレ。甘いポップにも仕立てられそうな潜在力はあるのに、あえて不可思議な色に塗った。

15 "In The Mood" 1:50

 パンクなガレージ・ロック。ボーカルはひしゃげ、歪んだギター・コンボの音色に溶けていく。ハウリングが頻繁に挿入され、アレンジの一部と化した。
 勢い一発だしメロディもシンプル、中盤で崩れ倒す荒っぽい仕上がり。ただこれは、ワザとだろうな。ローファイな荒々しさを前面に出しつつ、アイディア一発の弾きっぱなしではない。
 ちょうどよく頻出するハウリング音色も含めて、けっこうアレンジは練られた。

16 Tell 'Em The Old Man Is Coming Down 2:13

 緩やかなアルペジオの断片をギターとベースが奏で、朗々とリバーブ効いた歌声が響く静かな曲。意外とメロディアス。ひそやかな緊迫感が漂った。リズム楽器は無く、歌声だけを目立たせた。
 背後で静かにシンセのような倍音が鳴ってる気がする。単にギターとベース一本だけでなく、何本か重ねてるようだ。

17 Dolphins Of Color 2:48

 ガムランめいた金属質のザラついた鳴り音に、アンプの唸りがベースの低音をなぞって響く。前曲と雰囲気は似ているが、こちらはグッとアレンジ度が増した。
 メロディの流れもいくぶん起伏が多い。前曲で助走し、本曲で野太く膨らんだ。シンセが後ろで鳴り奥行きも深い。アレンジはより凝っている。
 切なげなメロディながら、あまり感情的にならずボブは淡々と歌った。

18 Dreaming The Temple 1:28

 野性的なドラムのロールに、シンセのストリングスが鳴ってスリルを強調した。前衛的な本盤の中で、ドラマのサントラっぽい構築度をみせた曲。
 起伏は無くワンアイディアのみのインストながら、さりげなく投げっぱなしでない作曲もできると披露したか。
 やがてシンセが消えてドラムだけが淡々と残響強く響いた。

19 The Word Business 1:46

 ギターのかき鳴らしからドラムが加わり、ゆるやかに畳みかけるボブの歌声に。もう少しポップに仕上げられるメロディながら、敢えてバンドを歌と乖離させて冷静な空気を描いた。
 しかも途中でざっくり演奏を揺らし、危うく振って多重ボーカルからドライな歌声へとサウンドの主役をボーカルへ移す。

20 Headhunter Who Blocks The Sky 2:02

 脈絡のない曲がどんどん続く。ほんのりエスニックな響きの伴奏へ、あまり関係性を感じさせずボブのダブル・トラックなボーカル。平歌だけでサビが無く、賑やかなドラムと淡々としたシンセの響きがインタルードを作った。
 あえてサビを入れない、無機質な仕上がりが狙いか。いがいと早めのタイミングでフェイド・アウトが始まり、じっくりとボリュームを下げていった。

21 People Thing 1:58

 勇ましいドラムに導かれるギター・ロックかと思わせて。リフよりストローク中心の穏やかなアレンジだが。和音がひしゃげ、インド風に残響を響かせた。
 ドラムが消えてシンセと風の吹く中で投げっぱなしのなか、一筆書きメロディが動いていく。メリハリも構成も無い。アイディアの連続性も無い。逆にこの奔放さが凄まじい。

22 You Take The Lead 1:29

 一拍頭を切り落としたようなフレーズ感で、サイケ・フォーク風に寛いだ楽曲。ボーカルの入り方も、AメロなくBメロから始まったかのよう。
 意外とポップなメロディを操るボブ。しかしやはり構成感のない仕上がり。

23 The Other Heart 2:01

 ここまで紡いだ楽曲の総括も何もなく、強引にシンセ・ストリングスで荘厳にアルバムを締めるかのよう。
 ふくよかな和音を弦の音色が雄大に広げた。ビートを消して白玉の和音だけで浮遊させる。開放感がきれいな曲。きれいだが力技のエンディング。ボブの歌声がうっすら聴こえ、パッド音色に溶けていった。   (2017/10:記)
 

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