Guided by Voices

"Let It Beard" Boston Spaceships (2011:Guided By Voices Inc.) 

Robert Pollard - vocals
John Moen - drums, percussion
Chris Slusarenko - guitar, bass, keyboards

J. Mascis - g (on 3),Sean Croghan - Scream (on 4),Colin Newman - g(on 7)
Kaitlyn Ni Donovan - Strings(on 1,23),Mitch Mitchell - g(on 25),Dave Rick - g (on 26)
Jonathan Drews - per(on 1,2,14,16,22,26),key (on 18,19) 
Tahoe Jackson - Chorus (on 8),Mick Collins - g(on 10),Steve Wynn - g(on 15)
Victor Nash - Trumpet (on 22), French Horn(on 12,17),Gordon Withers -vc (on 16)


 ボストン・スペースシップスの最終アルバム。既にバンドとして崩壊していた。だが、名曲ぞろい。

 楽曲は別にダレておらず、演奏もボストンらしいドタバタしたリズムとメロディアスなベースが芯のアンサンブルが成立している。
 けれどもサウンドには多くのゲストが参加した。単なるアレンジの多様さって意味でなく、外の血を注入って観点で。

 特にギター・ソロ。ダイナソーJr の J. Mascis、 ワイヤーの Colin Newman、ダートボムズの Mick Collins、キング・ミサイルの Dave Rick、ドリーム・シンジケイトの Steve Wynn、GbVの昔なじみMitch Mitchell。多くのゲスト陣が次々現れる。
 ドラムのJohn Moenも(24)にてギターを披露した。

 二枚組で、曲が短いとはいえ26曲を投入。決してやっつけではない。だが録音場所はバラバラ、ゲスト勢もまさにダビング。それぞれの場所でギターを足してテープを送ったって感じ。ネットで音楽ファイルを送付だけかも。
 そもそも同時録音がバンドのダイナミズムを保証する、前提条件ではない。70年代から、それぞれバラバラに録音は当たり前だ。だがスタジオも違う、ばらばらの録音ってバンド名義な必要ってあるの・・・?と、ローファイな音を強調だけに、妙に昔気質なことを思ってしまう。

 タイトルの"Let It Beard"はもちろん、"Let it be"のもじりだろう。白抜きだが、視線を合わせずそれぞれの写真を並べたジャケットだって、もちろん"Let it be"を意識した。
 ボブの写真は一番右にレイアウトされてる。だが彼のみ前を向き、他の二人はそれぞれ左右を向いてる。
 あえて意味を中途半端にするため、この並びと思う。ボブを中央に置き、残りの二人をどう配置するか。ボブを見つめてるようにも、そっぽむいてるようにも、どちらにも意味づけられる。
 でもまあ、ボブに愛想つかしてるっぽいよな。前を向いてるのは、ボブだけだ。 

 しかし演奏はボストンのサウンドを維持しており、楽曲も佳曲が並ぶ名作ぶり。何ともうまくはいかないものだ。

 本盤には裏版として"Let It Beard Boombox Demos"(2011)も500枚限定でリリースされた。ぼくは未聴で、本盤と比較できてない。でもボブのことだからけっこうリフは作りこんでいそう。その意味で結局、ボストンは最後までボブのワンマンだったのかもしれないな。

<全曲感想>

1.Blind 20-20

 フェイドイン気味に始まるアップテンポなロック。イントロはちょっと軋みぎみ。畳みかけるギター・リフと対照的にボーカルは静かに始まり、一呼吸おいてバンド全体で炸裂する。シンプルに見せかけて、場面ごとにころころと変わるアレンジだ。
 中盤はノービートから鍵盤やアコギの弾き語りへ、とっ散らかった展開がいかにもボブらしい。数小節ごとに移り変わる組曲みたいな作品。

2.Juggernaut Vs. Monolith

 重たい力任せの曲。ボーカルも歪み気味に、ローファイな勢い一発で進む。意外とポップなようでいて、一本調子のメロディだ。

3.Tourist U.F.O.

 ギター・ソロがダイナソー・Jr.のJ.マスシス。メロウなミドル・テンポの曲。切ない旋律のボブ節が滑らかに語り掛けた。歌をさりげなく語るギターのオブリも良い。ストロークとディストーション効いた二本のギターでアンサンブルを作った。
 サビでは多重ボーカルのハーモニーなど、楽曲も凝っている。

 逆にJの出番は、まさにギター・ソロのみ。終盤で独特の鈍く底光りする、歪んだ音色でメロディアスに軋ませるフレージングはさすが。ゲストとして盛り上げには一役、確かにかっている。

4.Minefield Searcher

 上ずり気味な歌声をアコギっぽい生々しいギター・ストロークで支え、楽曲は譜割多いベースで形作る。はたきこむようなドラミングも軽やかだ。ある意味、非常にバンド・サウンドっぽい。
 メロディは断片を継ぎ合わせたようなシンプルなもの。ハーモニーも着実で、非常に良い楽曲だ。

5.Make A Record For Lo-Life

 今度はエレキ風味なバンド・サウンド。ドタバタするドラムに引きずりあげるベース、掻き下ろすギター。それぞれが違う味わいで曲をまとめる。とはいえギターとベースは、クリスの多重録音なのだが。
 ギター・ソロは(3)でのJ・マスシスと似たテイスト。幾分、歪みが軽いかな。
 くっきりしたラインで動くベースがボストン・スペースシップの特徴だと思う。典型的なパターンが、これみたいな曲。エンディングで鍵盤足して、サイケな味わいつける過剰なセンスは、逆にクリスの趣味が全開だ。ちょっと我が強いかな。

6.Let More Light Into The House

 逆回転風の声にボーカルを足して、ギターの爪弾きと背後のエレキギター。凝った仕上がりの楽曲だが、逆にこれはボブかクリスのソロでいいじゃない、とも思う。
 楽想的にサイケ・ロックの面白さはあるけれど、ドラム・レスでベースも目立たぬこの曲は、ボブの作曲センスの巧みさとクリスのアレンジの妙味ばかり目立ってしまう。
 こういうバンド色の希薄なパターンが、本盤では散見される。単独で曲を楽しむには、悪くないのが始末に負えないが。

 5分たっぷりかけて、中盤でリバーブを一段と深くして、鍵盤っぽい音色に変えた。改めてドラムも加えじっくりと曲を表現する。過剰なアレンジで面白いが、やはりバンドでなくソロ色が強い。
どんどん歌のキーが高くなり、ハイトーンを絞り出すボブの歌声も切ない。曲の良しあしとは別に、バンドの終焉をつい投影してしまう。

7.You Just Can't Tell

 ギターのダビングはワイヤーのコリン・ニューマン。蹴飛ばされるような威勢いい前のめりのロック。ボーカルはときおり音を外しながら、執拗にタイトルのフレーズを繰り返す。若干の平歌はあるものの、根本はサビの連続。音程やタイミング、アクセントを変えて展開を強引に作る。ときどきボブはこういう、変に演奏へ技巧的な曲を作る。
 
 アレンジも単調にとどまらず、ギターリフや楽器構成の出し入れで変化をつける。ぼおっと聴いてたら何となく力任せのロック。実は色々と気を配り作られた、シンプルなアイディアの佳曲とわかる仕組み。

8.Chevy Marigold

 Tahoe Jacksonがボーカルでゲスト参加。彼女の経歴は不明だが、地元のミュージシャンかな。美しい曲だ。
 高音のギター・ストロークが数本ダビングされ、厚みを作る。ばしゃっと硬い響きでドタバタするドラムに、引きずるベース。ボストンらしい音像だ。

 ハイトーンのコーラスがTahoe Jacksonか。サビのキャッチーなフレーズが明確に頭へ残りつつ、つぶやくようにボブが歌う。
 主旋律は一筆書きメロディながら、サビと組み合わせて広がりを出す。これも良く練られてる。

9.Earmarked For Collision

 4つ打ちキックに拍頭を強調のリフ。拍裏を歪んだ高い音のギターで煽る。ひとしきり歌った後で、サビへ飛び込む。ベースがいきなり加わり、粘ったノリを作った。2番からはベースも加わり、ボストン風の荒々しい盛り上がりに。これもライブ映えしそうな良い曲だと思うが。使い捨てはもったいない。

 中盤で低音で語るように歌い、いきなり高音へ向かう。この高い段差の跳躍は、ボブの歌唱力あってこそ。幅広い声域を持つ、ボブならではだ。

10.Toppings Take The Cake

 リード・ギターはダートボムズのMick Collins。文字通りのリード・ギターだとしたら、悲しい。ミックはわざわざ別の場所でギターをダビングしてる。
 せっかくのバンド・サウンドなのにばらばらで、なおかつゲスト・ミュージシャンって。バンドの結束が崩壊してた本作を象徴する、録音スタイルだ。

 どたばたとパンキッシュなリズムとギターが掛け合い。やたら歪んだギターがおかずのようにリード・ギターへ絡む。リードのリフでなく、軋む音がミックのダビングなら気持ち的にまだ救える。おかずというか味付けでゲストを招いたって気になるから。

11.Tabby And Lucy

 ギターの弾き語りが似合う曲。実際はバンド・アレンジが施され、メロディアスなベースが、ドタバタなドラムに絡むボストン流に仕上がった。素朴で耳馴染み良い旋律が、ほのぼのとするロック。こういう無造作な牧歌さもボブの魅力だ。
 やはりこの盤は、名曲ばかり。
 さらに中盤でちょっとひねった大サビを足して、一本調子にさせない。

12.(I'll Make It) Strong For You

 数本のアコギでざらついたイメージ。ブルーズとは違うが、似た武骨さを出す。前半の弾き語り調子だけでも成立したが、中盤で少しばかり明るいサビを足し、シンセのダビングでポップさを出した。結局、元の暗さに戻るけど。
 シンセやギターで他の二人も参加してるとはいえ、実際の音使いはまさにボブのソロな肌触りだ。

13.A Hair In Every Square Inch Of The House

 弾き語りっぽい曲調でも、ボブは実のところ本盤でほぼ演奏してない。歌をダビングしたのみ。だがこの曲ではギターもボブが弾いている。数本あるうち、一番喧しくて歪んだ音色が、それかな。中盤のアコギのことかな。

 ドラムとベース、ギターの絡みはボストン流。とっ散らかりつつも一応のバンド・サウンドが、いきなり混沌の只中なノービートに向かう。
 もういちどバンドが加わるも、アコギとリズムボックスのチープな展開に。テンポもガラガラ変わる、なんともアバンギャルドな展開で、まさに一筆書きな曲だ。

14.The Ballad Of Bad Whiskey

 これも弾き語りが似合うバラッド。頭からバンドが加わる。フォーク風の素朴な展開で、リバーブに埋もれた歌声がじんわりとメロディを滲ませていく。
 年輪と成熟を背負った大人な曲だ。メロディは柔らかい。耳へ滑らかに馴染んでく。
 エンディングでちょっと音程上がるさりげないしぐさが、とても好きだ。

15.I Took On The London Guys

 ドリーム・シンジケイトのSteve Wynnがギター・ソロをダビングした。本来、曲の華であるギター・ソロを外部に任せるって、やはりバンド的な拘りが本盤はなんとも薄い。
 ギターとベースが寄り添うように動き、アコギの荒っぽいストロークがアクセントをつける。
 歌声はエコー処理を極端に、場面ごとで奥深かったり、ざらついたり。

 さて、肝心のギター・ソロ。最初は一小節だけで消え「え、これだけ?」とすごく拍子抜け。コーダで長めのソロが現れる。1ラインだけでなく、幾本もダビングされて。硬いシンセサイザーみたいな音色だ。いきなりぶった切られる。
 バンドの盤にゲスト招くって一方で、たしかにこの味わいはゲストならではの異色さでもある。

16.Red Bodies

 ゲストのチェロ奏者Gordon Withersは J Robbinsがリーダーのハードコア・バンドOffice Of Future Plansのメンバーであり、ロック界で活動するミュージシャン。後半からチェロが登場して、ふくよかなカウンター・ラインを提示した。
 ミドル・テンポの足元しっかりしたサウンドだ。3ピースのボストン流バンド・サウンドでも成立したはずだが、敢えてゲストも増やし音像をさらに充実させた。

 メロディ・ラインは地味な曲だが、きっちりまとまった演奏を聴かせる。さらにチェロが美味しい味を足す。貫禄な仕上がりだ。リズムだけに落としてチェロが一節、応えてエレキギターが鳴り、チェロとギターがユニゾンで疾走と。いやはやかっこいい。

17.A Dozen Blue Overcoats

 アコギの弾き語り風。ボブのデモをそのまま生かしても成立しそうな、素朴に響くイントロ。だが音数少ないがきっちりアレンジされた。残響のみでふくらみを足すかのよう。
 がっつり拍頭を4連打で、盛り上がりそうなところを静かな混沌でシメる。さりげない小品だが、ボブのアイディアを見事に料理してる。

18.Pincushion

 前曲から続くように、ひよひよと動くギターの歪み。おもむろに溜めた後、ロックががつんと弾ける。かき鳴らしのギターを軸に前のめりに疾走した。中盤で語り気味の旋律を使い、少しばかり盛り上がりに水を差しつつも。基本はポップな展開だ。

19.Christmas Girl

 メロウなボブ節が沸き立つこの曲は、平歌の区切りでグッと音を絞りメリハリをつけた。テンポはそれなりに速いけれど、ゆったりした譜割の歌声が伸びやかな寛ぎを演出する。
 アコギのストロークをあいまに挿入し、ロックとアコースティックの落差を付けて緩急を強調した。
 穏やかに歌い上げるボブの歌声を、カウンターで受けたブラス風の鍵盤が牧歌的な構築度をみせた。中期ビートルズを連想する、大人な仕上がりだ。Cash Riversの語りってクレジットは、最後の部分かな。ボブみたいな声質だ。

20.Let It Beard

 アルバムのタイトル・トラック。ドライな響きでエレキギターがリフを弾き、数本重なる。ビート抜きでボブが歌い始め、改めてリズムが入り2番に向かうアレンジ。シンプルながら効果的な展開だ。
 中盤からベースがリフを弾き、ギターはオブリに向かう。このほんのり寂し気な風景こそが、本盤のムードを象徴している。そこまでこの曲に思いをはせても、単なる偶然だけど。
 
 以外にとっ散らかった一筆書き曲で、メロディ・ラインはつぎはぎに展開する。短い曲が多い本盤の中で、4分越えとじっくり尺をとって演奏した。

21.The Vice Lords

 前置き抜きに始まるキャッチーなメロディ。ざらついたギターを軸にバンドが疾走し、歌が吸い付いていく。サビでグッと音程を上げハイトーンを響かせる歌も、ボブの歌唱力あってこそ。
 ほぼ一気呵成に進む曲ながら、メロディの跳躍でスピーディな印象あり。さもないと単調になってたかも。

22.German Field Of Shadows

 単音バグパイプみたいな音色が冒頭から執拗に続く。ずっと音程変わらないが、ワンコードの曲なのか。一瞬だけ和音変更する場面あるけれど。まとわりつくようなボーカルが酩酊を誘う。
 単音が消えるたびに、あちこちむやみに展開する。この奔放さが面白い味わいだ。一瞬で終わりそうな曲がどんどん続き、3分半もの尺を達成した。小品というか小節単位のアイディアを片端からつぎはぎして一曲にまとめた感じ。

23.Speed Bumps

 一転してしゃっきりギターが刻む。ドタバタしたドラムとベースが足され、まさにボストン流のサウンド。ボーカルは調子っぱずれ気味。ポップなメロディと弦の入り具合が、ほんの少し英国風味も醸し出す。
 力任せに突き進まず、丁寧に作り上げた一曲。ボブの歌声はちょっと詰まって別人みたいな感じ。なぜだろう。

24.No Steamboats

 ギターもJohn Moenが演奏した。アコギの弾き語り風に数本ダビングを伴奏に、涼やかな声。ハーモニーも一人多重で、フォーク寄りの滑らかな雰囲気で良いムードなのに。1分過ぎからストロークを強くして、別のメロディ展開へ。一筋縄ではいかない、ボブらしい曲。
 結局、アコギの弾き語りっぽく曲が終わった。終盤のチャラチャラしたオブリだけジョンのダビングってこと?

25.You In My Prayer

 GbVでおなじみのミッチ・ミッチェルがギター・ソロを務めた。ライブでも成立しそうなミドル・テンポの重ためなロック。中盤でアルペジオを上手く使って、華やかな色をさらりと添えた。
 サウンドはまさにボストン印。ドタスカなドラムとうねるベースをギターがなぞる。1分45秒くらいから、右チャンネルでうねるエレキギターのソロがミッチだろう。フレーズというより音程の上下感のみを加えた。

26.Inspiration Points
 
 さて、長かった本盤もいよいよクライマックス。充実した曲群だったが、最終曲は特に気負わずアップテンポのパワー・ロック。野太くベースが唸り、ドラムが刻む。若干一本調子だが、パワフルに突き進む爽快さがあり。勇ましく、アルバムをしめた。

 ところがリード・ギターはやはりゲスト。この辺のバンド的な色合いを、本盤はとことん外してくる。
 とはいえギターリフとオブリで絡むフレージング、どっちがリード扱いだろう。
 このタイトで歯切れ良いエレキギターか?そもそもこの曲、組曲風に途中でアコギのストロークへがらりアレンジ変わるのだが。再びロックに戻った場面のギター・ソロのことか。

 なおリード・ギターのゲストはDave Rick。80年代に活動したPhantom Tollboothのメンバーで、Power Toy (1988)へボブがメロディを新たに付与し"Beard of Lightning"(2003)で再発表したつながりあり。

 Dave RickはB.A.L.L., Bongwater, King Missile, When People Were Shorter and Lived Near the Waterなどのメンバーでもある。すなわち、クレイマーともつながってる。クレイマー・ファンのぼくとしては嬉しくなる関係性ながら、ボストンの観点では思い切り余談だが。
 

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