Guided
by Voices
"Zeppelin Over China"
Guided By Voices (2019:Guided By Voices Inc.)
Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr., Doug Gillard
Recorded(music&vo) By, Mixed By, Mastered By - Travis Harrison
Recorded(music&vo) By Ray Ketchem
"August By
Cake"(2017)で「GbV史上初のLP2枚組ボリューム!」と謳った舌の根も乾かぬうちに、さらっと同じ規模のアルバムを提示してきた。2018年はアルバム1枚のみとリリースを絞った(?)ため、材料はいっぱいあったのだろう。
さらに2019年は"Warp And Woof"、"Sweating The
Plague"とアルバムのリリースを重ね、旺盛な創作力は還暦を経ても全く衰えなしを見せつけた。
演奏や歌声の端々に、ボブの加齢や衰えは否めない。いっぽう作曲力は膨大な数をこなして経験値を積み、巧妙さを増した。大人のロックにステップアップを実感。
もし20年前にこういうアルバムを出してたら、ボブに幻滅したかもしれない。手を抜いて流している、と。
しかしこの歳になったらそういう狭量なことは言わない。もはや超ベテランのGbVに新しさを求めるのは筋違い。エンタメの世界は、年齢を理由になかなか引退させてくれないけれど。
サラリーマンなら現役リタイアして、悠々自適でもおかしくないんだ。
そう、本盤でボブやメンバーは"ロック・バンド"って遊びを伸び伸び楽しんでる。懐古趣味で昔をなぞらず、現在の創作力を前提にしつつ。
昔のGbVならもっとパンキッシュに、荒々しく演奏してた場面でも本盤は鷹揚とした面持ち。
演奏と創作をこれまで以上に、プレッシャーなく寛いで味わってるかのよう。
<全曲感想>
1. Good Morning Sir 1:10
アルバムの幕開けにふさわしい、厳かでジワジワ盛り上がる良い曲。けっこう演奏が荒っぽいのが玉に瑕。けれどコーラスなどアレンジは練られてる。
イントロ無しでスッと歌声が背筋伸ばして始まった。エイト・ビートが次第に拡大していく。さほどテクニカルなアレンジではないのだが、味わい深い曲。滑走路から飛び立つ小さい飛行機を、この曲聴くたびに連想する。
2. Step Of The Wave 3:00
曲調は(1)と似通わせ、連続性を持たせる構成がにくい。メロディを少なめに配置して、激しさを抑えた。こういう落ち着いた展開に、正直なところ年齢を感じる。ボブも老けたな。
しかしロックな味わいは残す。終盤で表情を変えて押してきた。加齢のパワー不足は否めないが、若ぶられるよりマシと評価したい。
3. Carapace
3:03
この曲は溌剌さが濃い。助走して身体をジワジワとほぐしていくようだ、とこのアルバムを聴くたびに思う。
軽快なノリのわりに、これはライブで取り上げて無いようだ。大ざっぱだと自己評価でもしてるのかな。
ボブ節ではあるけれど、あまりひねらずストレートなメロディ。その分、歌い方の節々でボブは喉をひねった。だけど声量の衰えも気になってしまう。ううむ。
4. Send In The Suicide Squad 2:06
この曲ではボブのハイトーンが比較的綺麗に出ている。往年の勢いに近い。ほんとリハビリもしくは準備運動のように、このアルバムは進んでいくな。
音域を高いところに持って行き、軽やかでメロウなボブ節が次々に現れていく。
いくぶんテンポが緩やかでもどかしいけれど。眩しい瑞々しさを持った曲だ。
5. Blurring The Contacts 1:57
近年のGbVらしいシンプルなギター・リフだが、重厚な音色だとハード・ロック寄りに鈍く光る。イマジネーションの趣くままにメロディが展開するボブらしい一筆書きの曲。
カラッとしたサビに向かわず、AメロとBメロの間をうねうね動くさまがもどかしい。それもまた、GbVの奔放さなのだが。
6. Your Lights
Are Out 3:25
一気にサビへ向かわずグルグル回る、前曲と似た感じのテイスト。しかし、こちらは幾分ポップさが濃い。一本調子のメロディなのに、不思議とうっすら起伏を感じる。ファン目線ではあるけれど。
無造作な開放へ向かわず、内省的にもごもごと、一つ所を回っている。
ほんの一瞬、凄く明るいメロディがエンディング間際に現れた。なのに展開せず、あっさり終わり。うーん、もどかしい。
7. Windshield
Wiper Rex 1:29
イントロ無しでいきなり、ボブ流の切々としたメロディが溢れた。アコースティックでなく、ザクッとしたバンド・サウンドにアレンジして荒っぽさを演出。だからこそ、サビでの鮮やかで開放感ある展開が、なおさら生きる。
一筆書きの楽曲で、奔放かつ縛られない自由な構造が楽しい。小品ではあるが、印象に残る。
8. Holy Rhythm 2:39
この曲を聴くたび、冒頭に絞り上げる響きからメロトロンの素朴なポップスを期待してしまう。実際には緩やかに畳みかける、大人なロックだが。
昔ならスピードアップして煽っていたかもしれない曲。でも本曲では、緩めのテンポでじっくりと聴かせた。歳を取ったと思う。それもまた、良し。
なお中間でサイケな味わいを付与したり、力任せのバンド・サウンドではない。トラヴィス・ハリソンの技術貢献か、GbVのアイディアかは分からない。何となく、前者のような気もするけれど。いずれにせよ、効果的なスパイスになってると思う。
9. Jack Tell 3:20
シンプルなストロークに導かれる、堂々たるメロディが爽快だ。アコギでなくエレキの鋭いバッキングでひとしきり歌い上げ、じわっとバンドが加わるアレンジも良い。
本盤でライブにて披露の曲もいくつかあるが、これはセットリストに乗った形跡が無し。ステージ映えすると思うのに。
中間でいきなりアコギ風に向かったり、凝った構成のためか。いやいや、バンド・アレンジ一本でも十二分に押し切れる魅力を持っている。
さりげなく、本盤でも代表的な名曲だ。とっ散らかった構成ながら、メロディの確かさで一本筋を通した。
10. Bellicose Starling
2:15
イントロの優し気なアコギのストロークから、歌に入った瞬間にキュッと締まる落差が気持ちいい。金管からオーケストレーションとじわじわ音色を増やして、ギター・リフを補強。緩やかなシンフォニックさを演出した。
バンドの勢いに任せず、スタジオで作りこんだ佳曲。
弾き語りから大編成へ、2分間でどんどん広がっていくダイナミズムが素敵。
11.
Wrong Turn On 1:49
エレアコみたいにザラついたギターに導かれ、シンプルなメロディを淡々と歌う。断続フレーズが次々紡がれ、常に新たなサビを追っているかのよう。
強烈にキャッチーな旋律に至らず、淡々としたまま。アレンジもダブル・トラックにしたり演奏に工夫したり。あれこれアイディアを投入した。
12.
Charmless Peters 3:21
メロウなフレーズを軸に展開する、ゆったりめの曲。ボブ節な旋律が次々と現れた。サビでの淡々とした凄みが滲む。
全体的には地味だし、3分半と長めの尺を使う必然性は今一つわからない。こういうドラマティックに紡いでいくスタイルは、けっこうGbVにしては稀だ。
13. The Rally Boys 1:44
ストリングスや鍵盤を配置して厚みを出しながら、バンド・サウンドが痛快に進む。サビでの開放感が最高だ。60年代風のメロディを操り、こういう疾走感を披露がGbVの醍醐味。
いっぽうでひしゃげた勢いに任せず、きっちりとアンサンブルを安定させてるあたりに現在のアンサンブルの実力と、ボブの加齢による落ち着きを感じて面白かった。
本盤の代表曲になりうる、シングル向きの曲。アルバムの中盤へ無造作に配置してるが、もっと目立たせたって大丈夫。
14. Think. Be A
Man 2:31
タイトルのフレーズを歯切れ良く打ち抜く、ボーカルのアイディアで聴かせる曲。タイトルのラインとゆったりのメロディーを対比させ、メリハリを強調した。
全体にルーズ気味なアレンジ。敢えてアップテンポで焦らせず、ミドルでじっくり提示のあたりに成熟した余裕を匂わせる。
二分半の曲ながら、けっこう長尺に感じさせた。
15. Jam Warsong 2:30
往年のロックのごとく二音ながら効果的に上がり、下がる。人を食ったシンプルなイントロのリフだ。
曲としてはリフとメロディの譜割りのみで聴かせる単純な曲だけど。サビでの瑞々しい光がこの曲を魅力的に飾った。
さらにエンディングで数本のサイケなエレキギターで騒ぎ、曲に味付けも忘れない。こういう小細工が、若いころにはあまり見られなかった大人の補足に思える。
16. You Own The Night 3:24
逆にこういう曲は、老いを感じる。昔ならテンポ・アップして、威勢よくけたたましく盛り上げていたろう。コード進行、メロディ、サビの歌い上げ。どこからどこまでポップに出来上がってる。
惜しむらくはテンポが緩めで、今一つ緊張感に欠けるところ。中間部のテンポをさらに伸ばしたアコギなどのブレイクも余分だ。曲の完成度としては。
メロトロン風のオルガンが入り、凝ったポップスになってはいるけれど。
昔なら弾きっぱなしで、もっと高らかに歌っていた。いろいろといじくる巧みさは増したが。
17. Everything's Thrilling
2:13
これは違う意味で、もどかしさが募る。テンポは申し分ない。淡々と引っ張るリフも、重なるギターのストロークもいい。メロディも溌剌で、ボブの歌声もまずまず。
くるくるとメロディが舞いながら駆けていく。しかしサビで舞い上がらない。
アイディア一発で無造作に放る、ボブらしい曲ではあるが。次の曲の平歌へ本曲を足したらいいのでは。
18. Nice About You 1:57
最初は気だるく切なげなフレーズが奏でられる、少々鬱々とした曲。歌いかけるしっとり気味を狙ったのかもしれない。
しかししばらくこのムードが続いたあと、いきなり明るく鳴り"Nice!"と連呼し派手に盛り上がる。
展開や流れを気にしない、ボブの奔放さが良い方向に出た。前半のじとっと湿った感じがいまいちなので、サビは映えるが曲としてはフットワーク重たくて残念。
19. Einstein's Angel 2:37
大人の余裕なゆったりした曲。こういう曲調はここ何年もGbVのトレードマークなテンポと雰囲気だ。前の数曲が色々尖ったりぎくしゃくなアイディア盛り込みだったため、いきなりオーソドックスな路線でしみじみ。
この曲だけ抜き出したら、シングル寄りのキャッチーなよくできた曲と感じる。
ガツガツせず、ゆとりを持ってロックをじっくりとボブは披露した。
平歌のフレーズの最後で、とん、とんって落とすメロディが切なくて良い。
20. The Hearing Department 3:18
メロウでじっくり。歯切れ良さより情けない面持ちを、うっすらサイケに表現した。あまりメリハリ無く淡々と楽曲が続く。メロディを掴みそうで、スルッと逃していくかのよう。
あまり展開をせず、ただただ淡々と楽曲が流れた。ボブがこの手の曲を、3分も掛けてじっくり演奏は意外と珍しい気がする。よく飽きずに3分も続けたな、と。この辺もボブの年を重ね忍耐力が付いたってことか。楽曲としては、今一つ単調。
21. Questions Of The Test 3:00
こういうふうに、構成がシンプルでもポップで明るくリズミカルなら、楽しく聴ける。本曲も前曲同様に、アイディア一発を膨らませた。バンド全体で打面揃えて歯切れ良さを強調したり、中間部でサイケにギターとボーカルを歪ませたり。
単に垂れ流さず、あれこれアレンジに工夫は凝らされた。
22. No Point 2:06
リピートして聴いてると、頭も終わりも分からずめくるめく音絵巻が続く。
ボブの一筆書き作曲で平歌とかサビって構造を気にせず、するするとメロディが紡がれていく。アコギの弾き語りでデモっぽく終わらせず、ギターやシンセをたくさんダビングしてシンフォニックに切なさを強調した。
ビートにリフにオブリって構造じゃまったくないけれど、なんだかバンドらしいサウンドだ。
23. Lurk Of The Worm 3:02
パッチワークのように脈絡なくいろんな要素が飛び出す、重ためのロック。サイケとカットアップを重ね、奔放に一筆書きなフレーズが続く。ボブのデモにそのまま色んなバッキングを強引に重ねたかのよう。
つかみどころは無いが、奔放さは面白い。
24. Zeppelin Over China 0:39
アルバム・タイトル曲は地味なアコギのインスト曲。メンバーのざわめきや笑い声が入る。居間で遊びながら爪弾き、そのまま録音したかのよう。スタジオで真剣な録音とはほど遠い、寛いだ40秒の小品。なぜこれを録音し、しかもアルバム・タイトルにしたのか。
ボブたちの遊び心を象徴する録音だ。
25. Where Have You Been All My Life 1:49
歌は上ずり気味に音程を少し外しながらも、力押しで突き進む。ぺしゃぺしゃしたドラムの音色で乾いた風情を強調し、ドンシャリな質感で押し切った。
厚みを出さずドラムとベースにギター、ボーカルとシンプルな構成で飾った。
2分弱の作品だが、疾走一辺倒でなく歯切れ良い譜割で途中にメリハリをつける。ボブらしいメロディだが、すこし冷静さが勝った。
26. Cold
Cold Hands 1:57
サビでの瑞々しいひねりがいかにもポップ。ボブも気に入ったのか、これは2019年のツアーで幾度も取り上げられた。基本はワン・メロディ。音程を変えながら幾度もモチーフが小気味良く提示された。
テンポはそれなりにあるが、リズムは少し引きずり気味。じっくりアダルティに解釈した。
27. Transpiring Anathema 2:03
ずっしり重たいロック。ボブ節のメロディながら流麗さを敢えて抑え、じっくりと70年代風に仕立てた。エンディング間際で登場するブラス風のシンセとタンブーラのドローン風単音のフレーズが、なおさらそう思わせる。
とりとめなく、しかしじっくり着実に。最初はするりと流し、手掛かりない曲かと侮ったが、繰り返し聴いてると沁みてきた。
28. We Can
Make Music 1:43
これはボブの老いがいささか残念。若いころ溌剌と決めてくれたら、もっと冴えていたろう。アコギやストリングス音色など混ぜ、単なるバンド・サウンドにしてない。凝ったソフト・ロック風味。
しかし多少揺れるボブのメロディや、覇気の輝きが煙り気味な本テイクは、いささか雑に聴こえてしまう。残念。とても魅力的な曲なのに。
29.
Cobbler Ditches 1:49
シンプルなギター・リフで進む。演奏しやすいのか、2019年のツアーではしばしばセットリストに入ってた。
この曲もロートルならではの、のんびりと言うか鈍いテンション。もっとテンポアップ、さらに勢い付けたらキャッチーさが増した。
ここでは少し揺れながら、淡々と演奏した。変に若ぶって無茶やるよりはいいけれど。
ヨボヨボおどおど・・・ってほど枯れすぎては無い。だけど少し気が抜け気味。
30. Enough Is Never At The End 1:14
うむう。これも。ピアノとオルガン音色のシンセを軸の鍵盤アレンジで、ノービートで厳かだがチープなアレンジが施された。
白玉中心の音使いから、サビっぽく八分音符で上下しリズミックに変わる譜割のメリハリも効果的。
一筆書きのメロディはボブの作曲力やアイディアの健在性をアピール。だけど声の張りや音程、伸びが怪しくて。なんとも奇妙なサイケ寄りのアプローチになってしまった。
これはきちんと歌いこなしたら、最後のロングトーンも含めて魅力を増す。だれか、カバーしてくれ。
31. My Future In
Barcelona 3:49
これはキャッチーかつ演奏もばっちり。スピード感は抑えめながら、かっちりとまとまった。
2018年のツアーからセットリストに入ってた曲。録音前にライブでノリを固めたのかな。
ベテランらしき落ち着きを漂わせつつも、GbVの賑やかさを失ってない良品。
32. Vertiginous Raft 1:44
ボブはアルバムの構成とか、あまり考えて無さそう。だけど一応、最後はドラマティックなノリを控えた曲を持ってきた。ブラスやストリングス音色でサウンドに厚みを出し、雄大さを演出する。
いちおうバンド・サウンドが基調ながら、長丁場のアルバムを締めるのにふさわしい。
最後はシンフォニックな余韻を伸ばして、静かに堂々とアルバムをまとめた。
(2020/9:記)