Guided by Voices

"Warp And Woof" Guided By Voices (2019:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr., Doug Gillard
Producer - Travis Harrison
Recorded By [Drums] - Ray Ketchem

 要するに立て続けでリリースしたEP盤の取りまとめ。ボートラ無しが、GbVにしては珍しい。

 本盤は24曲で34分。猛烈にアイディアを詰め込んだ。
 もともとはEPを作るつもり。けれどロバート・ポラードの作曲は止まらず、短い作品をつるべ打ち、改めてアルバム一枚にまとめた格好だ。

 色んな音が入っており、決して投げっぱなしなデモ集ではない。初期ガイディッド・バイ・ヴォイシズと違って、それぞれの曲こそ短いが本盤はどの曲もアレンジが煮詰められてる。
 けれど本盤はスタジオでじっくり作りこむよりも、ツアーのサウンド・チェックやホテル、ツアー・バンの中でも録音されてるそう。

 つまり瞬発力を上げ、ボブのデモをバンド・アレンジに留まらず、メンバーそれぞれが考えを注いで作りあげた。
 ここでバンド・アンサンブルの一体感よりも、それぞれがバラバラにダビングを重ねてアレンジを膨らませたらしい。

 "Space Gun"を発表後、GbVはEP"100 Dougs","Wine Cork Stonehenge"を2018年12月7日に同時リリースした。
 "100 Dougs"には本盤の(1)(21)(3)/(6)(20)(17)、"Wine Cork Stonehenge"には(13)(18)(19)/(12)(9)(22)を収録。

 さらに19年3月29日にEP"Umlaut Over The Ozone","1901 Acid Rock"を発表。
 "Umlaut Over The Ozone"は(2)(14)(10)/(7)(5)(24),"1901 Acid Rock"には(4)(15)(11)/(8)(16)(23)。
 しめて24曲。これを一気にアルバムにまとめ、同年4月16日にリリースが本盤だ。

 EPもあまさず追いかける熱狂的なファンには、不要なアルバム。いや、パッケージとしてマニアなら同じ曲が入ってても本盤だって買うか。
 それぞれ曲順をバラバラにしており、EPを聴いた人でも印象を変えていく仕組み。EP盤はどれも千枚限定、買いそびれたらそれっきり。
 いつでもだれでもどこでも聴ける、アルバムへまとめてくれたのは素直に嬉しい。

 "Warp And Woof"とは縦糸と横糸。GbVにしては意味のあるタイトルをつけた。
 いっぽうでアナログ盤では(13)から始まるB面を区切りに、A面をW. A. R. P. (Cincinnati)、B面をW. O. O. F. (Cleveland)と副題を付与。 
 単純に検索してもしっくりくる結果が出てこない。何かのもじりと思うが、どういう意味だろう。
 
 ともあれGbVの瞬発力が小気味良く表現されたアルバム。EPとアルバムで異なる曲順から生まれる、印象の違いも聴く楽しみの一つ。

<全曲感想>

W. A. R. P. (Cincinnati)
1. Bury The Mouse 1:30

 数音のリフから一転して濃厚ハードに。いきなり迫力あるオープニング曲だ。じっくり雄大に盛り上げることもできたろうに。場面展開を施しながら、一分半であっさりと幕切れ。
 勇ましくもメロディ無駄遣いのGbVらしい賑やかさ。ライブでは前年Space Gunツアー中の18年9月から、いくどもステージで取り上げられていた。

2. Angelic Weirdness 1:31

 上ずり気味の歯切れ良いメロディがサイケに漂う。まっすぐな譜割りで進みながら、ときにキュッとフレーズを絞る瞬間が印象的。
 シンセ音色のストリングスが曲を上品に飾った。アコギ数本とドラムを軸のアレンジなど、スタジオならではのアプローチをとっている。

3. Foreign Deputies 1:01

 エレキギターの爪弾きに導かれ、朗々とボブが喉を震わせた。途中でナレーション風の声がうっすらかぶる。バンドっぽい勢いとは別、ボブのソロ作めいたシンプルな作品。
 あまり派手ではないが、奔放に動くメロディはいかにも彼っぽい瑞々しさを薄くまとった。

4. Dead Liquor Store 1:31

 一転して歯切れ良いGbVのロックンロール。断続的に、置くように。言葉が演奏に絡んでいく。サビに行くと譜割の数が多く鳴り、盛り上がりそうなところでスッと弾き全休符。さらに全く違う大サビを入れた。すぐにテンポを上げるかと思わせて、そのまま崩れて終わる。まさに一分半のマジック。一筆書き曲の素晴らしさが味わえる。

5. Mumbling Amens 1:54

 テンポを緩め、切なげなボブ節がじっくりと展開する曲。ほんのりサイケな風味だが、バタつきながらもアンサンブルはきっちりまとまった。最後にアコギのひねりを入れるあたり、スタジオでの凝り方もしっかり維持してる。
 簡素なギターのストロークからギターが重なり、ボブの歌に導かれリズム隊も加わる。シンプルながら効果的なアレンジのロック。

6. Cohesive Scoops 1:31

 (1)同様に18年9月15日のライブで、あらかじめお披露目してツアーで聴衆に馴染ませた曲。
 ギターを数本重ね、シンプルながら厚みある音像を作った。特にテクニカルなフレーズではないが、譜割をずらすことで豊かな響きにしてる。
 ボーカルもダブル。テンポもあまり早くせず、あっさりとしかしじっくり作りこんだ感じ。初期GbVのアイディア一発勢い任せではない。この辺に成熟を感じるな。還暦過ぎて老境の落ち着きと言うべきか。
 
7. Photo Range Within 1:14

 ほんのりカントリーっぽいノリで、GbVにしては珍しげ。いちおうリズムも入ってるが、ギター弾き語りの雰囲気だ。もっともエレキギターのオブリなど、アレンジはあちこちアイディアを足して丁寧にまとめてる。
 メロディはむしろシンプル。だが伴奏の工夫で聴かせる曲。

8. My Dog Surprise 1:39

 もぞもぞっと伸上るメロディが好き。どっぷりサイケの混沌なギターがそこかしこ溢れる中、ボーカルはアイディア一発で繰り返した。
 サビは地を這う淡々としたもの。およそポップさと、ほど遠い。でもこういうつかみどころ無い混乱もGbVの魅力だと思う。

9. Tiny Apes 1:08

 1拍と3拍を強調のリフのノリに、(7)に似たカントリー的な香りがした。ひとしきり提示したあと、倍テンの譜割で駆けるフレーズを混ぜた構成が爽快。
 一分で終わるのが惜しい。これもデモのいい加減さでなく、エレキギターを足したりと工夫してる。イントロとアウトロでエレキギターのバランスが変わり、表情をがらり変えた。

10. Blue Jay House 2:03

 歯切れ良いロックンロール。オルガンや金物にパーカッションをさりげなく足し、響きを補強した。実際のところは今一つ、覇気がない気もするけれど。メロディや構成はばっちりのボブ節。
 喉の張りもまずまずだけど、どっか野暮ったいノリが漂ってしまう。

11. Down The Island 1:37

 前曲から繋ぎも滑らかなミディアムの曲。エコーたっぷりでバラード仕立ても映えたろうが、ギターやリズムを足して少々賑やかに飾った。とはいえエイトビートのシンプルなビートを提示せず、パーカッシブなアレンジを施しサイケでつかみどころを難しい曲にした。
 一筆書きっぽい曖昧な雰囲気が本曲の特徴。

12. Thimble Society 1:44

 アナログではA面最後。
これも18年9月時点のツアーで発表済みの曲。ちょっとクキクキひねるギター・リフに導かれるが、リズムが素直に煽らず躊躇い気味にノリを係留した。
 終盤でギターがそれぞれ存在感を高め、ギターリフに収斂するさりげないドラマティックさもあり。
 2分弱の小品で、メロディよりも器楽的なアプローチに軸足を置いた。

W. O. O. F. (Cleveland)
13. My Angel 1:28

 これも18年9月時点のツアーで発表済み。途中でシェイカーを混ぜリズムに色合いをつけるけれど、根本はシンプルなエイトビートのロック。サビはキャッチーで華やかに盛り上がることもできた。
 だが歳か気まぐれか、GbVは無闇に盛り上がらずじっくりと曲を披露してる。終盤でライブでの歓声SEを入れたのは、けっこう珍しい演出。

14. More Reduction Linda 1:33

 前曲の幕開けを確かに受け取り、歓声SEを背負ったままスピーディに疾走した佳曲。
 いかにもライブ映えしそうだが、不思議とセットリストには乗らなかった。メロディが時に曖昧に震えたり、いきなりコーラスが飛び出したり。凝ったアレンジをつけたゆえにステージでシンプルに演奏しづらくなったかな。
 曲そのものはシングルにも似合いそう。隠れた名曲になるのかも。

15. Cool Jewels And Aprons 1:25

 エイトビートのテンポをいくぶん落とし、うっすらメロウなボブ節を丁寧に歌った。いかにもGbVらしい瑞々しさを持つ曲。敢えて走らずジワッと魅力を滲ませた。
 サビで高らかにシャウトせず、抑え気味なメロディが年輪を感じさせる。ボブの作曲術は巧みに進歩したと、こういうよくできた曲を聴くと感じる。
 親しみやすい旋律をするりと流しつつ、サビ前でメロディをひねるとこあたりに個性あり。直感的に綺麗なまとめ方をせず、ひねりを常に残してる。

16. Even Next 1:40

 ストリングス仕立てのシンセもダビングした、大人しくメロウなスロー。のびのびとゆったり歌う声は、ダブル・トラックらしく時おり揺れる。その震える質感が愛おしい。
 メロディは柔らかく、ふくよかに広がった。ボブ節の甘酸っぱさを持ちながら、基本的には崩さない。
 最後の最後で60年代シンフォなアレンジっぽく、いきなり連打して幕を下ろす悪戯がGbV流だな。

17. It Will Never Be Simple 2:32

 これも静かで柔らかい。白玉のシンセで奥行きを出し、アコギのストロークを元にエレキギターがメロディを紡いで清涼感と開放感を演出した。
 旋律を弾くギターも数本重なり、時に違うフレーズを弾いて膨らみを持たせた。音色の違うギターを次々登場させて、ドラマティックさをさりげなく演出。

 そう、これはインスト曲。そして最後まで綺麗に終わるのも珍しい。ダグの曲ながら、GbVっぽい瑞々しさは薄っすらあり。ボブは全く絡んでないのかも。
 しかしこれはこれであり、だな。完全インスト曲だがカラオケでは無い。このコンセプトで一枚、聴いてみたくなった。

18. The Stars Behind Us 1:23

 うっすらローファイな耳ざわり。いちおうバンド・サウンドだが初期GbVっぽいガレージ感が滲む。ボブは一筆書きメロディを奔放に展開させるが、バンドは単なる伴奏の追従でない。
 ドラムを軸にアンサンブルはリズムやフレーズのブレイクなどに工夫あり。冒頭のノイズは終盤で再び登場し、リピート再生してると綺麗に頭と終わりが連結するしくみ。

19. Skull Arrow 1:04

 アコギのかき鳴らしで歌ったデモに、ギターやリズムを足して曲にしたって風情。それくらいアコギのストロークがアレンジの軸になった。
 オブリのギターが絡みながらも、歌とギターだけで成立する。叫び声のSEを入れたり、遊び心で飾った。それらは邪魔ではないけど、不可欠要素までは至ってない。
 ボブのアイディアをストンと披露した、無造作な曲に聴こえる。あまりポップではないが、淡々と歌う穏やかな節回しが耳に残っていく。

20. Out Of The Blue Race 1:22

 喉を締めて重厚なロックっぽく歌うけれど、アレンジは軽量級。あまりエフェクタをかまさず、アコースティック感を残した。やたら圧の強いドラムは音質加工してそうだが。
 壮大なハード・ロックも似合いそうながら、敢えて素朴な香りに留めるセンスが楽しい。リズムが淡々としており、ノリは今一つ。

21. Coming Back From Now On 1:53

 (13)同様にライブ風に観客のSEを入れた曲。スタジオ録音と思うけれど。
 常にSEが響いてるわけじゃない。でも余韻が強く、単なる余興じゃなくライブ感を感じさせるアレンジだ。
 実際に2019年のツアーでは10回ほど取り上げられた。ほとんどがアンコールにて。そういう立ち位置で盛り上げ曲と解釈かな。
 終盤で少し疾走する構成だが、基本はじっくりリズムを重たく決めて見得を切るような曲。

22. The Pipers, The Vipers, The Snakes! 1:48

 クキクキと上下するシンプルなリフと、うっすらメロウなメロディ。いかにもGbVらしい展開の曲だ。スピードは抑えめでじっくり。重厚さを狙いよりは生理的に決定したテンポって印象を受けた。この辺に老いを感じてしまうのも正直なところ。
 蹴飛ばすような威勢のよさでも、映えそうな曲だけに。

23. Time Remains In Central Position 1:50

 これも瑞々しいメロディが静かに広がっていく。ギターを重ねて厚みを出し、ふくよかなアレンジを施したところに、現GbVの確かなアンサンブルが現れている。
 アコギ一本で奔放に歌ったであろう曲を、しっかりバンド・サウンドに固めた。
 ボブの一筆書きメロディが炸裂した、気持ち良い曲。リフの譜割りとおよそ違う引っ掛かりで、歌メロが自由に解き放たれていく。

24. End It With Light 1:11

 アルバムの最後は威勢よくまとめた。うっすら開放感ある曲。発売後のライブで幾度もセットリストに入ったが、確かにステージで映えそうな曲だ。
 決してメロディはべたべたにポップではない。むしろそっけないほど。だけどボブの歌声は説得力を持っている。別にハイトーンで喉を張ったり、テクニカルなギミックを仕込んでもいないのに。これは逆に、歳を重ねた貫禄ゆえと感じた。 (2020/9:記)
 

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