Guided by Voices

Universal Truths and Cycles(2002:Matador)

Produced:Todd Tobias and Guided By Voices
Engineered:Todd Tobias,John Shough,Scott Bennett

Robert Pollard - vocals
Doug Gillard - guitar
Nate Farley - guitar
Tim Tobias - bass
Jon McCann - drums

Todd Tobias - key,noises and atomspheres
Cris Slusarenko - p on "Back to the lake"
Invert - Strings on "Pretty Bombs"

 一年ぶりに発売されたGbVのスタジオ作品。
 普通ならペースは早いほうだし、前アルバム後にロバートのサイド・プロジェクトも数枚発売されてる。
 けど、この盤はリリースが待ち遠しかった。

 サイド・プロジェクトの音楽が充実してて、メインのGbVがどんなサウンドになのか、期待が高まってたから。ライブツアーの噂ばっかり入り、最新体制の音を聴けなかったせいもある。

 そしてGbVはばっちり応えてくれた。

 とにかく本盤は発売まで情報が二転三転。アルバムのタイトルからして、ころころ変わる。
 最初にネットへ流れた表題は"Invisible Train to Earth"。
 次に"All Sinners Welcome"。さらにオフィシャル・サイトで告知の際に"From A Voice Plantation"へ変化した。
 結局発売されたのは、そのどれとも違うタイトル。裏でいくつのタイトル案がボツっているやら。

 前作から、またしてもメンバー・チェンジあり。ドラマーがジム・マクファーソンからジョン・マッキャンへ変わってる。
「同じメンバーで録音されたアルバムは、一枚もない」ってGbVのジンクスを、しっかり更新することになった。
 
 しかもこのジンクスは、次作でも更新がほぼ確定。なんせ「ケヴィン・マーチが登場予定」ってくっきりクレジットあるし。
 ここ数作はライブを活発にやり、メンバー・チェンジは意識的じゃないはず。 なのになぜ、きっちりお約束を守るのやら。

 ジャケット・デザインも新機軸。ローマの遺跡かアラブの音楽を連想する、しこたまシンプルなもの。
 中央にイラストをぽつんとおき、まわりをバンド名とタイトルで囲む。
 邦盤では「U」を「V」に誤植するっておまけまでついた。

 さて、肝心の音楽だ。
 GbVは再び古巣のマタドールへ拠点を移し、飛び切り充実したサウンドを製造。プロデューサーも身内を立て、のびのび作った感がある。
 奔放なGbVが帰ってきた。
 練り上げた堅苦しさがないのは、いかにもGbVっぽい。
 
 あれこれ深く考えずに一筆書きでアイディアを仕上げる。初期の持ち味が蘇った。
 さらにメジャーの活動で培った、ヌケのいい録音で楽しめる。 
 これぞ鬼に金棒。

 魅力的なメロディが片っ端から溢れる。
 アルバム全体を流して聴くと、細かいとこが気にならない。
 メドレー形式っぽく、ひとつながりで聴こえてくる。
 音質がばらつかず、統一感あるせいもあるだろう。

 でも選曲も見事。ここまで自然な流れのアルバムはGbV史上初では。
 わずか50分足らずに全19曲。めくるめく音楽絵巻を楽しみましょう。

<各曲紹介>

1.Wire Greyhounds


 いかにもライブ映えしそうな、威勢いいロックンロール。
 ボーカルがなぜかこじんまりと録音されてる。

 アルバムのイントロ気分かな。立て続けに細切れっぽくメロディをばら撒き、すっと袖へ去ってゆく。
 サビへの展開を期待してしょっぱなからとまどった。
 演奏時間35秒。これこそGbVだ。

2.Skin Parade

 「バーでのライブ演奏」を再現か。
 コップのぶつかる音や、喋り声がイントロにかぶさる。
 アコギをバックにロバートが一節歌った。
 バラッドっぽくつぶやくスタイルは、「スーツケース」の弾き語りした曲群を連想する。

 おもむろにギターリフがザクザク登場し、パンキッシュなバンドサウンドへ塗り替えた。いかんせん、メロディがいまいち単調だ。

 このごそっとこもったサウンドは、過去のGbVを思い浮かべる。
 ボーカルにエフェクトがきっちりかかった。上下をぶった切りへしゃげた声。
 
 うーむ、どこもかしこも初期のGbVっぽい。自分らへのオマージュ?まさかねぇ。

3.Zap

 アコギを数本かぶせ、パーカッションがシンプルに刻む。
 シンセのストリングスもかぶさるが、全般的につつましい。
 間を活かした透明なアレンジは、前々作のリック・オケイセック色と明らかに違う。

 さわやかなトラックをバックに、甘く歌う構成がたまらない。
 瑞々しいメロディが次々披露され、舞い上がる。
 
 サビは特に意識させず、長い長い歌の一部からさくっと切り取ったがごとき、吟遊詩人スタイルの歌だ。

 わずか1分15分で終わっちゃうのが、つくづくもったいない。
 いつか作ってくれないかな。アルバム一枚ぶっ通し。むちゃくちゃ長く、このスタイルで歌いまくる作品ってのを、さ。

4.Christian Animation Torch Carriers

 前曲で一息つき、こんどはスタジオの香りを前面に出した。
 伴奏はぐっと後ろへさげ、ボーカルと分けて作り物っぽさを強調する。
 
 多重ボーカルで歌われるサビのメロディが美しい。
 いちどこのメロディを披露したあとは、ひたすら押しまくった。
 
 めずらしくたっぷりギターソロをはさみ(単純でいまいちだけど)、ハイトーンが巧みなメロディをしこたま堪能できる。
 もうちょいリズムに覇気があれば。すごい名曲になったろう。

5.Cheyenne

 「シャーイアーン〜!」と叫ぶフックが耳につき、覚えやすい。
 いいんだけどね・・・なんか高くかすれるボーカルの響きに馴染めない。
 好みの問題だけど、ちょいと居心地悪い。
 
 シンプルながら、へんに崩さず忠実に音符をなぞるギターソロは好き。
 ここでは(3)と違い、後半部分にはシンセで分厚く空間を埋め尽くした。

6.The Weeping Boogeyman

 「Zap」で例えた、「吟遊詩人」スタイルの曲。
 ただしギターがちょこまかかぶさり、ぐっとサイケなアレンジ仕立て。

 軋むムードは嫌いじゃない。味わい深い。
 この曲1分半。うーん、あっさり。

7.Back to the Lake

 ずしっとミドルテンポのロック。
 一言づつ確認するように音符が重ねられる。ちょっと単調かな・・・。
 何本もエレキギターを重ね、アレンジは細かく配慮されてる。
 ときおりぽろぽろ鳴るキーボードのおかげで、ほんのり目先が変わった。

8.Love 1

 「ピーター・ガン」風なベースのイントロから、唐突に始まる。
 がらがら音像が変わる、コラージュ・タッチの演奏だ。
 一筆書きの本領発揮。54秒を濃密に味わった。

9.Storm Vibrations


 おおらかに盛り上がってゆく。ライブだともうちょいせわしなく押すのかな。
 ダブル・トラックなサビの響きが心地よい。
 とはいえ引っかかりは少ない。全体像はすうっと耳に馴染むけど、強烈な個性が一要素欲しかった。

10.Factory of Raw Essentials

 こういう落ち着いたサイケっぽい雰囲気が好き。しみじみしてしまう。
 前曲とメロディラインはさほど変わらないのに。
 シンプルなアレンジになったとたん、急にくうっと耳へ音楽がしみ込んでゆく。

 アコギのストロークを基調に、裏でふわぁっと弦かキーボードが空間を埋め尽くす。
 やはり吟遊詩人タイプの曲。こういう曲は詩先だろうなぁ。
 断片的なイメージを、そっと膨らませて仕上げた小品。
 
11.Everywhere with Helicopter

 第一弾シングルがこれ。アナログだと、ここらへんがB面の1曲目かな?
 爽快でキャッチーなギター・ポップの名曲だ。
 ボーカルは細かくダビングされ、掛け合い風に歌い継がれる。
 とくに多重ボーカルのハーモニーの響きがすばらしい。

 ひとひねりしたメロディラインに、勢いばっちりなアンサンブル。
 心もちリズムが重たいのはわざとだろうか。
 エンディングでぜんぜん盛り上げず、あっけなく終わるのがGbVっぽい。
 緻密に作り上げられ、かつアイディア一発のパワーも薄れてない。
 これまでのキャリアを集大成したといえる佳曲。

12.Pretty Bombs

 弦楽四重奏が前面の、GbVには珍しいアレンジの曲。
 歌い上げる旋律がロバートっぽい。
 中盤でふわっと弾むメロディを、ストリングスが優しく受け止める。

 甘酸っぱく流れるフレーズがとても好き。
 いちおうストリングスのコーダがついてるが、とって付けたみたい。

 てか、これだけで別の曲になってる。
 あっさりロバートが歌い終わり、おもむろに弦が登場。
 バンドが加わり、60年代のサイケ・ポップっぽくハッピーに盛り上がる。

 このインスト部分が、本曲の一番の聴きどころだな。3分の曲ながら、一分以上が演奏に費やされてるんだもん。

13.Eureka Signs

 奥行きある響きで、威勢良く突っ走る。
 シンプルなバンド・アンサンブルにエコーをたっぷりふりかけた。
 高音部をうまく使ったメロディが技あり。

 後半部分で、ギターをうまく重ねてテンポをゆるめるブレイクもかっこいい。
 繰り返し聴いてるうちに、じっくり練って作られてるのがわかった。  

14.Wings of Thorn

 イントロで「おおっ」っと思った。昔のGbVにありがちな、あっけらかんとした宅録風の肌合いがしたから。

 いや、イントロだけじゃないか。ギターの音は多少クリアに録音されてるものの、どうもヌケが悪い。ボーカルもなんだか遠いし。

 肝心の曲そのものは悪くない。
 弾むリズムに乗って、ジャンプする寸前の溜めを感じる旋律だ。
 そのままサビではじけず終わらせるとこが、いかにもロバート流ですが。

15.Car Language

 5分近くにもわたる、GbVには珍しい長尺曲。あえてひとつのモチーフで、どっしり構築した。
 足を踏み鳴らすように、どかどか鳴るドラム。
 比較的ゆったりめなテンポで数本のギターが重なり、音像を埋め尽くす。

 シンプルなリフに、次々と加わるギターが厚みを出す。
 喉を詰めぎみにシャウトするボーカルも魅力的。
 ステージでの演奏は似合わない。あくまでインドア。閉塞感ある執拗さに惹きつけられる。

16.From a Voice Plantation

 仮題時点のタイトル曲は、軽やかなタムの鳴りが心地よい。
 ニュー・ウエーブっぽい、乾いたビートが聴きもの。
 メロディは比較的単調だけど。ところどころで唐突に変化するコード進行が耳に残る。

 しかし・・・アレンジのセンスが妙だ。ボーカルの頭にあわせ連打するシンバルが、めっちゃ変。

17.The Ids Are Alright

 フェイド・インですうっと始まった。アコギのストロークが爽やかだ。
 脈絡は特にないが、奇麗なメロディがすてきな、ロバートおとくいのパターン。
 後ろでぶかぶか鳴るのはピアニカかな。

18.Universal Truths and Cycles

 唐突なイントロがかっこいい。2,3音ばたばたっと鳴っただけで、すぐボーカルが滑り込む。
 サビの甘酸っぱさがビートルズっぽいメロディだ。

 ドラムを工夫してスピード感出せば、すごい名曲になるはず。
 ベースがおとなしいせい?いまいち心が引っ張られない。
 でも、ボーカルの響きがすっごいきれいなんだよね。
 ダブル・ボーカルを使った和音なんか、もうたまりません。

 ブレイクを効果的に使ってるのに。リズム・アレンジにもう一工夫欲しかった。めちゃくちゃ惜しいぞ。頼むよロバート・・・。

19.Father Sgt. Christmas Card

 オリジナル盤では、この曲がエンディングになる。
 あっけらかんとスカスカに、サイケ・パンクで締めた。
 ビートが跳ねないので、おとなしく聴こえるけど。

 ボーカルがどんどん変調して、急速に錆びてゆく。あとはシンセの単音が残って、さみしくこの名盤の幕を下ろした。

20.The Pipe Dreams of Instant Prince Whippet

 邦盤のボーナストラック。1stシングル(英盤)のカップリング曲でもある。
 あんがい歯切れのいいロックンロール。なんでボツったのかわからない。
 アルバムの中にはいってても違和感ないのに。

 サビでほんの少し調子っぱずれに歌うのはご愛嬌。
 なんてことない小品だけど、ロバートらしいメロディラインを持った曲だ。

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