Guided by Voices
TONICS AND TWISTED CHASERS (Say It With Angel Dust) (1997:Rockathon)
Produced: Guided By Voices
Engineered: Tobin Sprout
Recorded: Tobin Sprout's 4-track
Robert Pollard - vocals & guitar
Tobin Sprout - all other instruments & vocals
まるで、ブートみたい。
"Alien Lanes"の副産物として作られた本盤は、音楽やデザインのラフさにひいてしまう。
とにかく音質は荒っぽく、演奏も乱暴なところが多い。
安っぽい表ジャケは、"Sunfish holy breakfast"の使いまわし画像を加工。
裏の曲目クレジットも、そっけない上に誤植まであるいいかげんさ。
音質はデモテープなみ。ヒスノイズがやかましい上、高音がさっぱりヌケず聴いててもどかしい。
そのうえ、いきなりブツ切れで終わる曲すらある荒っぽい編集。
ほんとにこれ、オフィシャル・アルバムなのかな。ロバートやトビンが、このマスター・テープにオーケーを出したのかな。最初は心配になった。
好き勝手放題な初期GbVのカラーが、全面にでたアルバムってとこか。
ま、その手作り感覚が魅力のひとつでもある。
でもそれはぼくみたいなファンの言うこと。
あまりにラフなアルバムなので、GbVを聴いたことない人にはお薦めできない。あくまでファン向けのアルバムだろう。
基本的にトビンとロバートの共作。
演奏はあらかたトビンが多重録音し、ロバートが歌をかぶせてた。
のちにAirport 5を結成する二人の製作スタイルを、先駆けたとも言えるアルバムだ。
一見やっつけ仕事だが、ロバートにとって収録曲へ思い入れはあるみたい。後のライブでたびたび演奏される曲もあるし。
<各曲紹介>
1.Satellite
ギターとベースのアンサンブルにのって、甲高い歌声が響く。
・・・と言っても、メロディはほんの一節にしか感じられない。
どちらかと言えば、淡々とした演奏のほうが主役っぽい。
ちょっと調子っぱずれだけど、味はある。
駄菓子か安っぽいプラモデルみたいな、どっか危なっかしい味が。
2.Dayton, Ohio - 19 Something And 5
デモテープみたいな音質がもったいない。かっちりとアレンジされた曲。
お気楽にほんのり浮かんで流れていくボーカルが魅力的だ。
全部で24曲も詰め込まれてるから、やっぱりこれも2分弱で終わってしまう。
もったいなや。
ループのようにえんえん同じリフを繰り返す、ギターがほんのり耳ざわり。
もう少し小さくミックスし、そのぶんベースを持ち上げたほうがかっこよくなりそう。
3.Is She Ever?
何かの曲のエンディングから強引につなげたように、ロバートのアコギ弾き語りで始まる。
録音はちょっとオフ気味。ベールの向こうで歌ってるように聴こえる。
小さい音でトビンがギターで伴奏してるのかな。
ういんういん響く音は僕の耳の間違いじゃないよなぁ。
4.My Thoughts Are A Gas
ロバート単独の作曲。
"Fucked up version"と銘打たれ、乱暴に歌われる。
ポイントでシューっと響く、電子音のアクセントもきっちり存在。
"What's up Matador?"(1998)に収録された曲の別バージョンでもある。
ただし発表は本盤が先。どうせなら、きっちり録音した曲を先に発表すればいいのに。いまいちロバートのセンスが謎じゃ。
5.Knock 'Em Flyin'
これも作曲はロバートのみ。なぜか、ことさら音質が悪い。
切ないメロディが印象的な佳曲だ。
エレキギターの爪弾きに、アコギをアクセントでかぶせた。
おごそかにメロディを連ねて、サビでぐっと舞い上がる。
おさまり悪い感触ながら、ハモってけりをつけるエンディングはいかしてる。
ころころ変わる和音の響きもすてきだ。
6.The Top Chick's Silver Chord
リズムボックス風のドラムがまず耳に残る。
淡々と刻むビートに対し、ギターをかき鳴らしながらロバートが喉を震わせる。
中盤で異様に揺れるボーカルは、電気処理をしてるのかな。
この曲は、まるでもっと長い演奏から一部分を切り取ったみたい。
何の脈絡もなく、一分半くらい経過して唐突に曲が遮断されてしまう。
7.Key Losers
名曲です。
演奏はコードを弾くギター一本のみ。シンプルなアレンジだ。
ロバートの喉は冴え渡り、すばらしく魅力的なメロディが縦横無尽にふりそそぐ。
サビの部分でハモる瞬間の音色も好きだ。こういう曲、いつまでもずっと聴いていたいのに・・・。二分半があっというまだ。
8.Ha Ha Man
めずらしくロバートのカウントから曲がスタート。
しゃくりあげるようなメロディの裏で、おっそろしく歪んだギターがうなる。
バッキングはこの強引なエレキギターだけ。
中盤で語りっぽく挿入される声の響きも気持ちいい。
わずか40秒の小品。
だけど、とても印象に残る。
9.Wingtip Repair
せわしなく鍵盤を叩くピアノがイントロ。このころのGbVでキーボードが鳴るのは珍しいから、つい耳をそばだててしまう。
しかしこのピアノ、ひっきりなしにヨレる。
リズムは怪しいし、ミスタッチもしょっちゅう。
この強引な弾きっぷりはわざと?アレンジかなぁ。単純に「ま、ちょっとくらい間違ったっていいや」と、てきとうに録音した香りがぷんぷん。
ま、そんな飾りっけのなさも魅力のひとつなんだけど。・・・この盤に限っては、この手のフォローも、だいぶ苦しくなってくる(笑)
ロバートのボーカルはほとんど朗読状態。間をたっぷりとる。
だからどうしてもピアノの音を中心に聴いてしまう。えらくアナーキーな録音だ。
10.At The Farms
一転して、きっちりとバンドサウンド。正確なビートの刻みはまさにトビンの持ち味だ。
・・・もしかしてこのドラムは打ち込みなのかな?
ボーカルは鼻歌のような感じであっさりとメロディをなぞる。
バックでさりげなく鳴るキーボードのオブリが効果的。
メロディはほぼ無し。思いついたときにちょこっと音を変化させるだけ。さりげない演奏が、曲に深みを与えた。
11.Unbaited Vicar Of Scorched Earth
軽くエコーがかかったギターのアルペジオから始まる。"At
The Farms"以上にしっかりアレンジがなされ、安心して聴けるサイケ・ポップとなった。
ここでのメロディはあまり魅力がなく、力任せに単調なメロディを繰り返す。
ロバートのメロディメイカーぶりが全開になったら、とびきりの名曲になりそうなのに。
12.Optional Bases Opposed
親しみやすいメロディと。断片的にハモるアレンジが好み。とくにとっぴなところはない。ありふれたポップスだ。
だからこそ、きっちりした音で聴きたかったな。
荒っぽい音で録られたゆえに、魅力が減じちゃった残念なテイク。
13.Look, It's Baseball
これは前曲とは逆に録音が演奏へ、神秘性やサイケっぽさをうまく加味した。
トビンがそこまで考えてレコーディングしてたらさすがだけど、たぶん偶然だろなぁ。
ほんのりエコーが効いたアコギの爪弾きへあわせ静かに歌われる、きれいなメロディ。
テンポはスロー。この手のアレンジでは、ロバートは高打率でいい作品を作る。もちろんこれも成功パターンだ。
裏でふわわっと響くシンセが、不思議なムードを醸し出した。
エンディング寸前あたりでくっきり響くヒスノイズすら、アレンジの一部として確立している。
ここまで言ったら、誉めすぎかな。
14.Maxwell Jump
全ての音が歪んでいる。ブーストされた感じを楽しめるかどうかで曲の印象が変わる。
ちょっと単調かなぁ。唯一、多重録音でハモる瞬間が好きだ。
45秒の小品。
15.The Stir Crazy Pornographer
最初に耳をひくのは、みよーんと響く古臭い音色のギター。ファズかな、これ。
さらにその奥で、薄く聴こえるコード・ストロークのギター。
ここへベースで低音を足しただけの、シンプルなアレンジだ。
ところがこのベースが聴きもの。ひっきりなしに動くフレーズはサウンドをがっちり支える。
ボーカルの旋律がいまいち単調。ベースの方が聴いてて気になった。
16.158 Years Of Beautiful Sex
ロバートが独りで書いた曲。歯切れのいいギターと、リズムボックス風のドラムがバッキングだ。あ、ベースも鳴ってるか。
断片的なアイディアをてきとうにつなげた感じ。
妙にテンション高いが、すんなり馴染めない。
17.Universal Nurse Finger
ほんのりうわずる歌い方がジョン・レノンを思い出す。
ピアノの弾き語り状態で、散漫としたメロディがひっきりなしに展開する。
妙なパワーがある曲。構成そのものはむちゃくちゃで、さっぱり全体像がつかめない。
一分足らずの曲の中に、すごく情報量が詰め込んだ。
18.Sadness To The End
こりゃまたすごいラフな録音だな・・・。ヒスノイズがひっきりなしに鳴り、歌声もがさがさ。時にピッチがひっくり返る。
アコギの弾き語りだから、いかにもデモテープそのもの。
メロディはまあまあかな。もうちょい煮詰めてほしかった。いやー、おおざっぱ。
行き当たりばったりの展開は"Universal Nurse
Finger"に似てるが、いくぶんこちらの方が構成されてるかな。
19.Reptilian Beauty Secrets
オリジナル盤ではこの曲が最後の曲。ロバートの単独作曲になる。
歌声はブーストされてるが、意図したものではないか。サウンドのタッチにピタリとはまった。
エレキギターがエンジンのように唸り、ノイズが呼吸のごとく脈動する。
執拗に歌声はフックを繰り返し、圧迫感と迫力が混在する。
ノーリズムで歌われるため、たとえばハードコア・パンクのような押し付けがましさはない。
単なるポップスとして独自の世界を作り、リスナーへとっつきやすさを残している。
まあ、この曲が聴きやすいかどうかは別にして・・・。
20.Long As The Block Is Black
ここからはボーナストラック扱いだ。これまたロバートの単独曲。
意外とこの曲は好き。けっしてわかりやすい曲ではないが、吟遊詩人のバラッド風な雰囲気を持ったメロディが耳へすっと滑り込む。
終盤で急に雰囲気が変わるアレンジも面白い。弾き語りぽかった音像が急に、響きに艶が増す。
年老いたロックスターが再起を夢見て、一度だけ大ホールで歌うさまの表現みたい。
・・・意味不明ですね。ここまで来ると感想よりも妄想ですな。
21.Jellyfish Reflector
GBV名義の曲。要するにトビンとロバートの共作ってことか?
ジャムりながら作ったというより、エイト・ビートを鳴らすリズム・ボックスの上で、てんでに演奏してるかのよう。
ギターでブルージーなリフを刻んで調子っぱずれなメロディを歌うロバートに、ひたすら妙な裏声シャウトを繰り返すトビン。
録音してる最中は楽しくても、聴き手には馴染みづらいサウンド。
22.The Kite Surfer
ここから最後まで、ロバートのペンが続く。
本曲はもしかしたら演奏もロバート一人かな?"スーツケース"で聴けたような、エレキギターによる弾き語り。
録音はラフで聴きづらいが、渋くて好きだ。
つぶやくようにメロディと遊ぶ。きっちりきれいなサウンドで聴きたいぞ。
エコーを効かせたら、ダンディな雰囲気を付加できると思う。
カセットで適当に録った本テイクだと、オヤジくささが前面に出ちゃうじゃない。
23.Girl From The Sun
どっかのサーフ・バンドが歌ってても不思議はない爽やかなタイトルながら、サウンドは重たいサイケなギターからはじまる。
ガレージっぽい演奏、時にハモる多重ボーカル。
いやいや、もしかしたらサーフィン・サウンドをマジで狙ったのかも。
メロディにいまいち覇気がない。もうちょいメロディにパワーがあったら、いい曲になるはず。
いくぶんノイズ成分が少ないとはいえ、ラフな録音。これこそ「アウトテイク」っぽい録音だ。
24.The Candyland Riots
さて、オーラスを飾るロバートの曲は、またもやギターの弾き語り。
散発的に聴こえるノイズは、もしかしたらハムノイズかな?
ボーカルとギターがくっきり分離し、聴きやすい録音。ってこれ、ブートの音質の感想に近いな。
スローな雰囲気でしみじみ歌われるメロディが聴きもの。ほんの少し締まりがない旋律だが、飾りっけがないアレンジの分、しっかり耳へ忍び寄る。
おずおずコードを押さえるだけの、シンプル極まりないギター。
ロバートのシャウトはわずかに控えめ。もっと前面に出てもいい。
とはいえ、エンディングを締めるにふさわしい曲だ。