Guided by Voices

Guided By Voices/Airport 5 "Selective Service"(2001:fading captian)

 副題は"the fading captain singles"。
 2000年から2001年にかけ、ロバートの個人レーベル"fading captain"から矢継ぎ早に、アナログEPが限定盤で何枚かリリースされた。

 その数枚の限定盤シングルからGbVを一枚と、トビンとボブの新プロジェクトAirport 5のシングルを二枚。ぎゅっとぶち込んだアルバムがこれになる。
 いずれはこういう再発盤が出るだろ、と期待してたが。
 まさかオリジナルEPが発売されて一年も経たないうちに、出しなおしをするとは。むちゃくちゃ嬉しい。

 発売されたのは2001年の12月。
 年も押し迫って、一年の総決算風なイメージだ。後述するように、集大成ではないのが脅威だが。
 かたっぱしから限定盤を出すロバートがうらめしかったが。トビンの助言でもあったのかな?(Airport 5中心のリイシューだし)

 ぼくはアナログプレイヤーを持っていないので、アナログシングルを聞くことができない。
 だからこれらのシングルも、発売されては売切れてくのを、指をくわえて見ていただけ。すっげぇくやしかった。

 収録された曲は、どれも録音技術的には荒っぽいもの。
 アイディア一発でスタジオに入って、さくっとレコーディングしたんだろうな。
 ロバートとトビンの一筆書き作曲がたっぷり味わえる。
 音質はいまいちこもっているが、曲自体は充実したものばかりです。

 アルバムタイトルの"Selective Service"がちょっぴりにくらしい。
 たぶんこれは"シークレット・サービス"あたりをもじったロバートの造語だろう。
 本盤の性質をよくあらわしたタイトルだ。
 本盤収録以外にも、ロバートは限定版アナログを最近に何枚かリリースしてるんだよね。
 あ〜、それも早くリイシューしてくれないかな。"Selective Service2"が待ち遠しい。

<各曲紹介>

 まずは"Fading Captain Series"の5枚目として2000年に発売された、GbVのシングル"Dayton, Ohio-19 Something and 5 "から4曲。
 本シングルの音源が完全収録された。

1. Dayton, Ohio-19 Something and 5

 "TONICS AND TWISTED CHASERS"収録のこの曲は、ライブバージョンで収録。
 時期はアセンズでの2000年の1月22日に行われたライブから。
 演奏メンバーはこんな感じ。"ISOLATION DRILLS"時期のメンバーです。

Robert Pollard - vocals
Doug Gillard - guitar
Nate Farley - guitar
Tim Tobias - bass
Jim Macpherson - drums

 この日のセットリストはGbVのオフィシャルサイトに掲載されておらず、ライブ全貌がよくわからない。残念。

 とくにとっぴなアレンジはせず、淡々と演奏している。
 イントロのギターリフをちと長めにひっぱって、雰囲気盛りあげるくらいかな。
 ギターがミドルテンポでザクザク刻み、ロバートがそっとメロディを乗せていく。

 ちょっとピッチの危うい部分こそあるが、ロバートは丁寧に歌い継ぐ。ハードボイルドで渋いとこがいい。
 わずか3分で終わってしまう、ライブの一コマ。
 しかし、なんでこの曲をシングルのA面でリリースすることにしたんだろう。
 そこらへんの判断基準センスは、あいかわらず謎だ。

2. Travels
 
 ここから3曲は、シングル"Dayton, Ohio-19 Something and 5"(2000)のB面曲。演奏は全てロバートの弾き語り。
 2000年の1月に、4chでさくっと録音された曲ばかり。リリース当時は、ほんとにできたてほやほや音源だったわけだ。

 さて。本曲はアコギのアルペジオ風リフを演奏の中心に置いた。メロディはあまり前面に出ていない。鼻歌風にメロディの断片をロバートが歌う。
 むしろ、このギターリフの積み重なりを聴かせたかったのか。

 ヒーリング・ミュージック風に、二本のアコギで波のようにフレーズを重ねられてくのは確かに快感だ。
 多少演奏が荒くて、無条件で音像に没入はできないけど、ね。
 このへんのおおざっぱさが、いかにもGbV。

3. No Welcome Wagons

 前曲に続き、アルペジオ風にアコギがフェイドインしていく。ここでのロバートのメロディは素晴らしい。
 いわゆるポップミュージック的なくっきりしたメロディではない。

 けれど、長いバラッドの一部を切り取ったかのような、ドラマティックな旋律は耳にそっと流れ込む。
 ロバートの吟遊詩人ぶりが強調された一曲でしょうか。

4. Selective Service

 ヒスノイズがばりばり響く、デモテープそのままな録音。中盤でフィルター・ノイズ風の音が鳴るが・・・あれは意識的に挿入したノイズ?どこまでが計算で、どっからが単に音質に無頓着なだけなのか、さっぱりわからない。

 アレンジはほんのりアヴァンギャルド。アコギ二本をバックに、ロバートは詩を朗読するのみ。
 残りはふらふらリズムが漂うギターの爪弾きだ。どの程度まで譜面化されてるか不明。ぜんぶ譜面に起こされてたら爽快だな。あまり構築さは感じられないが。

 曲のエンディング間際で、ロバートが詩にほんのりメロディをつけ、つぶやいてみせる。期待をもたせる終わらせ方で、聴いててぞくっときた。 


 5曲目以降は、全てAirport 5音源。したがってロバートは歌のみ。あとは全てトビンの演奏かな。作曲はトビンとロバートの共作が基本だ。
 まず"fading captain Series"の11枚目で、2001年にリリースされたシングル"Total Exposure"の両面がリイシューされた。

 本盤がAirport 5のデビュー・シングルになる。Airport 5結成の話を聴いた時は狂喜した。稀代のメロディメイカー、ロバートとトビンががっぷり組んだ音楽を、再びたっぷり聴けるんだから。

 このシングル発売時は、わずか1000枚限定。レコード屋で見かけた記憶ない。上の"Dayton, Ohio-19 Something and 5"はユニオンやワルシャワで売ってたけど。
 "Total Exposure"といい、このあとに収録されてる"Stifled Man Casino"といい。いったい何枚日本へ入ってきたのやら・・・。
 
5. Total Exposure

 アルバムテイクとよく似た感じ。違いはもうちょいじっくり聞き比べます。
 マスタリングはアルバムのほうが音にガッツを感じるなぁ。
 
 曲そのものはいきいきとした素晴らしい出来。むちゃくちゃこの曲好き。
 「Total Exposure♪」と歌い上げる瞬間がたまりません。
 口ずさむだけで楽しくなってくる。

 アコギのコード弾きでふくよかな響きを作り上げ、トビンとボブが二人して歌い上げる。

6. Cold War Water Sports

 トビンお得意のジャストリズムなドラミングが聴ける。
 ミドルテンポの、ほんのりけだるげな曲調。メロディはいまいちパワーがなく、搾り出されていく。

 オブリ気味に演奏をひきずるベースが聴きものかな。
 どっしりと曲の推進力として鳴っている。 

7. The Wheel Hits the Path(Quiet soon)

 大味な雰囲気がかっこよく聴こえる。ミドルテンポのすごく生き生きしたAORだ。
 ろうろうとたゆたうメロディがたまらなくいい。
 もっともっとしっかりこの曲を聴きたかった。一分半で終わるなんて。
 まるで予告編を聴かされてるみたい。

 うまくミックスされているが、演奏楽器は普通のコンボ編成にみたい。スペクターみたいな大編成でどかんと弾いたら面白いだろうな。


 おつぎはAirport 5の2ndシングル"Stifled Man Casino"の全曲が登場です。(なんか、紹介の仕方がラジオのDJみたいだな(笑))
 "fading captain Series"の12枚目。ほんと2001年は、ロバートが矢継ぎ早に音源を発売していた。
 このシングルも、たった1000枚限定。まったくもう。ま、こうして聴けるんだから全て問題無しですが。

 どちらのシングルも、コンセプトは「A面:アルバム収録音源の別テイク」「B面:未発表曲」らしい。

8. Stifled Man Casino

 これもキャッチーなメロディの曲。サビのハイトーンで疾走する旋律が、耳を鷲掴みにします。
 硬質なギターと掛け合いつつ、クールにメロディをなぞる。初期U2を連想した。

 あと一歩、演奏を追い込んで欲しかった。各楽器のグルーヴがバラバラに感じてしまい、終盤まで聴いてると物足りなくなる。
 最初のサビまでは「味」としていい感じでいけるのにな。

9. Peroxide

 ひしゃげたデモテープ・サウンド。おとくいの一発取りでしょうか。
 リズムボックス風のビートにのって、歪んだギターがバックで暴れる。
 ロバートのボーカルは焦燥感をあおりつつ、メロディをうねらせた。
 
 わずか一分半の小曲。
 おもしろいことに、かなりフェイド・アウトを長めに引っ張っている。
 ロバートが、音の消え去るぎりぎりの瞬間まで粘ってるように聴けた。

 54秒あたりからゆっくりとフェイドアウト開始。
 しだいに、しだいに音が小さくなる。
 ロバートは最後までメロディをフェイクさせず、愚直に歌ってスピーカーの奥へ消えていった。

10. Eskimo Clockwork

 トビンによるピアノのインスト曲。作曲クレジットも、この曲のみトビン単独になっている。
 メロディらしきものはなく、和音中心にミニマルな演奏が続く。

 テンポが速ければハードコア・テクノ風にも聴けたと思うが。微妙にテンポが速くなったりゆっくりになったり。
 トビンが作曲する時の断片かな。


11. In The Brain

 この曲だけが、"Selective Service"発売にあたっての新音源。Airport 5としての録音らしい。

 すかっと抜けのいい音質がまず耳に残る。
 甘くいとおしいメロディのポップスだ。鼻歌風にサビで喉を震わせるロバートが妙にキュート。

 つくづく思う。トビンはアコギの爽快な音色をアレンジに取り込むのうまいなぁ。
 エンディングでインド風に唸る奇妙な構成で幕を下ろす。
 02年2月に発売予定な、Airport5のセカンドアルバムが楽しみだ。

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