Guided by Voices

"Space Gun" Guided By Voices (2018:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr., Doug Gillard
Recorded By, Mixed By, Mastered By - Travis Harrison

 60年代ポップスやロックへの憧憬をきっちりバンドで捧げたかのよう。

 前作"How Do You Spell Heaven"(2017)から約半年ぶり。前作をひっさげて2017年は年末まで全米ツアーを繰り広げたガイディッド・バイ・ボイシズ。年初に休んでる間、恐らく本作を製作した。2018年3月末に本盤を発表し、GbVは4月から年末まで断続的にまたツアーへ突入する。
 なんと勤勉な活動スタイル。還暦を越えてロバート・ポラードは、バンドの面々は活発だ。

 本盤発表後の全米ツアーで、(12)以外は多寡こそあれ全曲がライブで演奏された。ここまでライブと連結したアルバムを出すのは、GbVとして過去になかった。それほどスタジオの実験や一過性でなく、バンドとして一体感やステージ映えを意識して作ったのだろ。
 録音とミックス、マスタリングは前作に引き続きトラヴィス・ハリソン。当然だ。前作はとても良かったから。これで安定した製作体制は本盤でも保証された。

 アルバムは威勢良く始まり、後半へ進むにつれサイケ要素が高まる。しかしローファイな味わいや、荒っぽさはだいぶ薄い。むしろ甘酸っぱく邪気無くまとめた感あり。この構成に60年代へのボブによる憧憬を感じた。

 ロックがロックンロールから変化しつつも、産業まみれになる前。売上規模は拡大してヒットチャート狙いもあからさまながらも、打算の無いガレージ・バンドによる無邪気な実験も許された時代。青田買いの一方で、初手から大予算かけずバクチっぽいビジネス形態。それが60年代だと勝手にぼくは解釈している。
 そんな風景をボブは本盤で求めた気がしてならない。バンド・サウンドを生かしつつ、メンバーもボブに好き勝手させず、自己主張はそれぞれ入れて曲を盛り上げてる。

 あっさり聴き流せるボリュームの作品だが、聴きどころは多い。ライブ演奏に耐えうる曲をズラリ並べ、生き生きしたパワーが詰まった。

<全曲感想>

1. Space Gun 4:18

 全15曲40分のアルバム中、唯一の4分越え。最初の曲で、じっくりロックした。
冒頭の電子銃っぽいSEは、アリゾナ州フェニックス空港のトイレにある給紙機の音。絶妙のセンスだ。
https://twitter.com/imnatecorddry/status/1021065775191240704
 楽曲はどっしりしっかりなボブ節。アルバムは18年3月の発売だが、前年のライブでもすでに披露されていた。
 シンプルな単音リフを複数重ね、勇ましいボブの歌声で幕開け。ドラムが加わり、頼もしく曲が盛り上がる。
 ハーモニーやフレーズの繰り返しで目先を変えているが、基本は平歌だけで淡々と進む曲。にもかかわらず、バンド・サウンドの説得力で一曲を仕上げた。敢えて1分くらいとアッサリまとめたず、たっぷり歌うところがボブのこだわりか。

2. Colonel Paper 2:00

 ザクッとえぐるギター・リフにシンプルなエイト・ビート。平歌からサビへ、着実に曲を重ねた。投げっぱなしにせず、しっかりバンドとしてアンサンブルをまとめた印象あり。
 コーラスはボブも加わった群唱スタイルだが、後半でギターが絡んだりライブで盛り上がりそうな雰囲気を漂わす。

3. King Flute 1:22

 転がるドラムと瑞々しいギター・リフが甘酸っぱいイントロ。平歌は抑え気味だが、サビで軽やかに盛り上がった。ブレイクのように、サビ後で残響をふわっと残す瞬間が好き。
 オルガンっぽい音色も一瞬入れたり、ライブ感あるアレンジだがダビングも含め丁寧に作ってる。ボブ自身のこだわりか、他のメンバーが作りこみかは分からない。
 だけどボブに任せず全員で作ってる感じだな。

4. Ark Technician 2:19

 ギターにベースが絡み音が増えていく、イントロのセンスが60年代っぽい。全3曲の喧しいバンド・スタイルから一転して、平歌はアコースティックというかこじんまりした雰囲気でムードを変えた。
 だがサビではエレキのストローク一発で、すっと風景を引締める。ここでもさりげなくオルガンのダビングあり。
 楽曲はボブの一筆書きっぽいメロディの展開ながら、きっちりアレンジを追い込んで楽曲の完成度を高めている。

5. See My Field 2:48

 歯切れ良い畳みかけとメロウな優しさの双方を歌で表現した。小気味良いエイトビートに対して、ボーカルは縦線をまたぐような大きい譜割で、滑らかに舞う。
 だからこそサビで、ボーカルとバックを合わせる譜割が映えた。
 これも一筆書き気味に、どんどんと曲が進んでいく。コンパクトながら手綱は引き絞られ、集中力を保った曲。

6. Liars' Box 2:50

 和音感が独特の寂寞さを漂わす。センチメンタルだが、情には流されない。この曲はボブの弾き語りへ強引にアンサンブルを足した感じ。
 時にボーカルへエフェクトをかけたり、一筋縄ではいかず。曲に合わせて気だるげなノリでリズムを組み立てたため、少々鈍重な香りもするけれど。
 むしろ本曲での切ないボブのメロディを、じわりなぞる志向でアルバムではメリハリをつけたと思うべきか。曲そのものは他の曲に比べ、多少イマイチと思う。けれど冒頭に書いたように、和音の浮遊感や頼りなげなサイケっぽさは味わい深い。

7. Blink Blank 3:26

 高音ベースのような野太いフレーズに導かれる、小品っぽいムードの曲。時間そのものは三分半と本盤でも長めの方だが。
 サビでくるりと空気が変わるあたり、二つのアイディアを一つにまとめた風情もあり。
 これもボブの弾き語りに、バンド・サウンドを足したかのよう。こんどはボーカルのアクセントに、リズムのタイミングも寄り添わせて一体感を出した。前曲に続き。しゅわしゅわとサイケっぽい。

8. Daily Get-Ups 1:35

 エイトビートでまとめてるが、パンキッシュな疾走感を内包。一発録音が似合いそうな曲ながら、クラップをすぱっと足したりハーモニーを加えたり。バンド・アレンジの工夫も施した。
 若いボブなら、もっと激しい勢いだったろう。どこか落ち着いた風情に、歳を重ねた貫禄も感じた。
 最後はふわっと浮かぶように終わる。

9. Hudson Rake 1:45

 (1)と同様にSEがイントロ。いきなり脈絡ないフレーズが飛び交う、サーカス・デヴィルズめいたアプローチの実験的な曲。
 もっともバンド・サウンドは保っており、ライブでもたびたび取り上げられた。けっこう盛り上がりにくい構成だが、よくセット・リストから落とさなかったな。不思議。
 聴きようによってはプログレっぽいドラマティックさや、スタジアム級のスケール感にもつなげられるが、むやみに大味にはせず密室的な不穏さを併行させた。

10. Sport Component National 2:49

 キャッチーなメロディのサビ・フレーズで始まる、小気味良い曲。なのに平歌で妙にブレーキをかける構成がにくい。
 さらに平歌を加速させサビにつなげたりと、ボブの作曲アイディアが光る。とらわれずに奔放なGbVらしい一曲だ。
 一曲のテンポ感が一定しないため、やはりライブでは単純明快な盛り上がりは難しそうなのに。18年のツアーでは最後までセットリストから落ちず、披露され続けた。

11. I Love Kangaroos 3:07

 たった4回しかライブ演奏の記録が無い。謎だ。それこそ(9)(10)よりよほど、ライブ映えしそうな弾き語り調子の甘いフォーク・ポップ。だからこそ、軟弱と取り下げられたのか。
 滑らかに弾むボブ流のフレーズが一杯で、サビでの歌い上げがとりわけキュートな良い曲。
 いわゆるポール・マッカートニー調の心地よい旋律で、ボブのメロディ・メイカーぶりが光る佳曲。ぼくは好き。

12. Grey Spat Matters 1:29

 ざくざくとグランジなエレキギターがリフを提示するけれど。
 これも60年代っぽい平和で無邪気な味わいだ。本盤で唯一、ライブ演奏の記録がGbVdbに無い。けっして変な構成じゃなく、普通にステージで演奏されてもおかしくない曲。
 特に小細工無しのギター・リフを、奔放に動くボブのメロディが飾る。ボブの自由さをリフのシンプルさで引き留めてるかのよう。

13. That's Good 3:16

 サイケなフォーク・ロックの素敵な曲。夢見心地にじっくりとドラムが刻み、エコーどっぷりな歌声を支えた。
 中盤以降のメロトロンによるストリングス音色風の鍵盤が、とても効果的だ。ドラマティックだが汚し過ぎない。諦念やひねくれが漂う70年代まで行かない、希望と発展と平和を信じた60年代風のまっすぐな視線が眩しい。
 しかし無邪気でなく煙った雰囲気で包んだ、怪しいところも含めて。

14. Flight Advantage 2:23

 力任せに疾走する曲。ボブらしからぬ喉を締めて、素早く叫ぶ。フレーズに長さを求めず、素早く切り落としてスピード感を強調した。
 サビではハーモニーを足して、味付けも付与。けれど構造そのものはシンプルな楽曲だ。

15. Evolution Circus 3:37

 アルバム最後はミドル・テンポでじっくり。前曲のような盛り上がりでまとめず、重厚かつサイケ色含むドラマティックさで雄大に向かった。
 呟き気味のメロディは、弾き語りでも成立しそう。一筆書きメロディは、アルバムの完成度って点だと投げっぱなし。
 バンドもあえて単純なロックにせず、メロディ展開にそのまま音を重ねて広がりを出した。
 尻切れトンボ、もしくは収まり悪い最終曲ながら、あえて綺麗な完成度を放棄して次につなげる中途半端さこそ、GbVが狙った点かもしれない。         (2020/5:記)
 

GbVトップに戻る