Guided by Voices

"Suitcase 2 : Disc 3" Guided by Voices (2005:Fading Captain Series)

[ミュージシャン名略:凡例]
Robert Pollard:RP、Jim Pollard:JP、Kevin Fennell:KF、Mitch Mitchell:MM、Tobin Sprout:TS

<全曲感想> →ユニット名 曲名

3-1 -The Fake Organisms A Proud And Booming Industry 2:25
Bass - MM
Drums - Peyton Eric
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 ギター・リフの末尾をコロコロ転がすフレーズがカントリーっぽいなあ。甘酸っぱいメロディが良い。特にサビのフレーズをどれかの曲で聴いた記憶あるが、思い出せない。本盤聴いて印象に残ってるのだろうか。
 87年の作品でデビュー盤時期の曲。インストで"Devil Between My Toes"(1997)収録と同じタイトルだが、曲は違うようだ。

3-2 -We Too Bark Two Or Three Songs 2:20

Bass - MM
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 98年の録音、"Do The Collapse"(1999)用に準備の曲か。これも前曲同様、どこかほのぼのなカントリー調な面持ちだ。ベースをミッチがダビングして、きちんと曲に仕上がった。
 シンプルな小品だが、切ないメロディが心地よい曲。リック・オケイセックがパワー・ポップに仕立てた"Do The Collapse"へ持ち込むならば、そりゃあボツっても仕方ない。
 指板をこする、きゅって音も含めて良い塩梅のムードな楽曲だけれども。

3-3 -Milko Waif Little Games
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP
1:03
 05年の録音。ギターの弾き語りだが、一筆書ききわまるボブ流の曲。練習もしくは作曲過程をそのまま録音したかのよう。
 途中からとりとめなくあっちこっちにメロディは跳び、コードは飛翔し、時に弾き間違えのようにかき鳴らす。そして唐突に曲が終わった。

3-4 -Ax Daughter Of The Gold Rush 4:58

Bass - MM
Drums - KF
Guitar - JP
Guitar, Vocals - RP
Lead Guitar - Steve Wilbur
Written-By - RP

 01年録音とクレジットだが、スティーブ・ウィルバーの参加を理由にGbVDBでは87年の録音と推定している。インストのセッションでボーカルが入るまでけっこう長い。
 ダブル・ボーカルで補強されたボブの歌声が、この曲の切なさをジワッと強調した。
 5分弱とGbVにしては長い。中間部のギターやメロディは英国風味なロックだ。
 けっこうオーソドックスな曲。ボブにしては意外なアプローチと思う。でも大サビの調子はずれなフレージングは、思い切りボブ節。

3-5 -Leon Lemans Color Coat Drawing 3:48

Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 どメジャーから仕切り直した"Isolation Drills"(2001)に収録候補の曲デモ。コード・ストロークに歌、シンプルなギター・リフを足しただけの簡素なアレンジだが、瑞々しいメロディが伺える。
 このアレンジだけでも楽しいし、バンド・アレンジして威勢よくカマしたらさらにかっこよくなっていただろう。
 GbVDBでは同アルバム収録"Frostman"の初期デモでは、と推測されている。アコギ弾き語りの小品な"Frostman"だが、雰囲気はなんとなく似てるかも。

3-6 -Silent Knife Learning To Burn 1:32
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 ユニフォームがどうした、という会話が続く。教室の中か何かを録音したような音がしばし続き、唐突なカット・アウトからアコギの爪弾きと呟きに変わる。うっすらとメロディ感はあるが、実質は語るような感じだ。
 ボブが教師時代に隠し撮りした音源を使った、ってのなら面白いがさすがに違うだろう。つかみどころ無い実験的な曲。

3-7 -Howling Wolf Orchestra  A Minute Before The Evil Street 1:00
Bass - JP
Drums - Nate Farley
Guitar - RP
Written-By - JP, Farley, RP

 00年の録音。同時期に500枚限定のCD"Speedtraps For The Bee Kingdom"(2000)を出した、Howling Wolf Orchestra名義。同じ時期なだけに、本盤のアウトテイクかも。
 演奏メンバーもその時期だし。ネイト・ファーレイとポラード兄弟による録音で、三人の共作名義。ドラムの連打をアクセントに、メロディが漂っては寸断の繰り返し。

 構成だけ決めた即興曲だろうか。浮遊感の凄く強いサイケな曲。
 GbVDBでは"Universal Truths And Cycles"(2002)収録の"Wire Greyhounds"に似てると指摘あり。直接的な関係はなさそうだが、性急なテンポ感が通底って指摘は興味深い。

3-8 -The Needmores I'd Choose You 3:55
Bass - MM
Drums - Mike "Is Anybody Ready To Rock" Tomlinson
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 デビュー前、84年の録音。ライブ演奏を収録した。
 3リズムのロックだ。かなりポップ。ボブ節は既に伺え、逆にまだ一曲を丁寧に作ってる習作めいた曲と言える。
 シンプルな構成で甘酸っぱくメロディを紡ぎ、だんだん開放的になる和音感が良い。コーラスをとってるのはミッチだろうか。単音っぽいハモりが、楽曲にビートルズ的な瑞々しさを付与した。

3-9 -Wavo You're Killin' Me 1:40
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 カントリー風のキャッチーな弾き語り。これはものすごく印象に残るメロディだ。引っ掛けてははがすような旋律がとても良い。こうして聴けるから問題ないのだが、なぜお蔵入りしたかが不思議な、オリジナリティあり。
 冷静に聴くと唸りが過半数で、歌詞ができず放置されたのかも。録音は1980年、デビューからずっと前の時期。改めて録音するのも何かと、蔵に放置されたままってのが実態か。

3-10 -Lectricaroo Old Friend 2:05
Bass - MM
Drums - JP
Guitar, Vocals - RP
Written-By - JP, MM, RP

 重厚に進むスローで雰囲気ある曲。84年とデビュー前の音源で、ミッチとポラード兄弟の共作名義だ。プログレ的な趣きで、後年のロックな展開とは一線を画す。
 これはこれであり、な曲だけど。ボブにしては珍しい。緩やかなメロディを速いテンポでアレンジしたら、また違うのだろうが。

3-11 -Devron Zones She Don't Shit (No Golden Bricks For Me) 0:51
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 3rd"Self-Inflicted Aerial Nostalgia"(1989)収録の"She Don't Shit (No Golden Bricks For Me)"になる初期テイク。キーはこちらのほうが低い。次々に曲を紡ぐ一方で、こうして過去の自レパートリーも放棄せず、丁寧に発展させるボブの丁寧さが伺える。
 このテイクはギターの弾き語り。アイディア・メモだろうか。なぜか右チャンネルしか音が聴こえない。

3-12 -Milko Waif I Have A Hard Heart 0:53
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 05年の録音で、GbV目線では"Half Smiles Of The Decomposed"(2004)を出し解散状態だった。ソロで言うと"From A Compound Eye"(2006)から怒涛のリリース攻撃を始める直前。実際のリリースとは別に、曲だけは溜めていたのだろう。というより、どんどんできたんだろうな。スランプとか特になく。

 曲の質感が前数曲とほぼ変わらないのが面白い。例えば3-9と同時期の録音と言われても違和感が無い。
 軽快なカントリー的アプローチながら、ところどころで変な和音が入り、濁った響きでオルタナ・ロックな風情を出した。

3-13 -The One Too Many Shoddy Clothes 4:08
Bass - MM
Drums - KF
Guitar - JP
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 珍しく4分越えの長めな曲になる。87年、デビュー前後の音源。同時期のアウトテイクか。牧歌的なロックで、明るくポップなメロディが心地よい。サビ部分で高音をつぎつぎ突っつく譜割が、爽やかだ。
 アイディアが趣くまま一筆書きで書き上げたような、サイケな色合いあり。演奏がシンプルなだけに、酩酊感は希薄だ。メロディアスなミッチのベースが効果的。
 終盤での一体となるリフも見事。70年代ロックの雄大さをそのまま封じ込めた。完成度が高く、ボツったのが不思議だな。

3-14 -The Plague Sordid Forst 2:08
Acoustic Guitar - RP
Written-By - RP

 "Isolation Drills"(2001)年のころに録音されたアコギのインスト。コード進行を探るように、静かなストロークが続く。ダビングでシンバルのように、別のアコギが幾度もぶつかってきた。
 一つのリフへ、さらに新たな風景をかぶせる。ローファイな音質だが、端正に録音したらアンビエントな面持ちもあったろう。
 もっともアコギの強いアタックは、寛ぎとは違う硬さを持つ。歌モノの楽曲に展開を感じさせない、淡々と抽象的な音使い。語りなら乗るかな。作曲アイディア・メモのような作品だ。

3-15 -The Needmores Shake It Out 2:01
Bass, Vocals - MM
Drums - Mike Tomlinson
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 本ボックスに幾曲も収録されてる、84年のライブ音源。トリオ編成で勇ましく突き進むロックンロールは、すでに瑞々しいボブ節が感じられる。いちおう平歌とサビの構成を持つが平歌はごくわずか、たちまちサビの連呼に進む。
 2分少々の小品。粗削りだがキャッチーだ。ボブは最初から持ち味が確立してたと実感する曲。

3-16 -The Accidental Texas Who Cowboy Zoo 1:45
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 "Half Smiles Of The Decomposed"(2004)年に録音された。凄くキャッチーで、どこか聴きおぼえあるメロディ。GbVかボブのソロで、何か似たようなメロディが無かったっけ。
 アコギでかき鳴らし、ボブが威勢良く歌う。デモかな。背後にはラジオみたいなざわめきもうっすら聴こえる。
 歌の合間に、和音が次々と変化するさまが刺激的。アコギ一本なのに、とても色鮮やかな演奏だ。もちろんバンドでも映えたろう。だけど素朴なこのテイクでも愛おしい。

 この曲は没になったのかな。もっときちんとアレンジしてリリースしても良かった。
 こうして公式に聴けるから文句はないけれど。ボブのメロディ使い捨てっぷりな贅沢さを感じさせるテイク。

3-17 -Peter Built Bombs Soul Barn 3:16
Bass - MM
Drums - Peyton Eric
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 未発表曲"Isn't It A Lot & It's So Far"と似ているらしい。これは聴いたことが無い。また、EP"The Grand Hour"(1993)と"Break Even"とギターリフが類似とGbVDBにはある。確かに。
 ストローク一発のリフであり、コード進行を踏まえてボブがそのまま後年に流用ではないか。
 本曲は87年、デビュー時の未発表曲。一筆書きのように楽想が変化する。ボブ的なメロディとコード感の一方で、ときおり妙にポップな感触が現れるさまが面白い。
 ざくざく刻むロック。あまり重たくせず、しなやかに曲をまとめた。
 武骨なドラムをミッチのベースがグルーヴさせ、ボブの歌とギターが滑らかに流れていく。

3-18 -Modular Dance Units Phase IV (Rise Of The Ants) 3:22
Bass, Vocals - MM
Guitar, Vocals - RP
Written-By - MM, RP

 デビュー前、80年と古い録音。ミッチ・ミッチェルと二人で録音した。掛け合うように曲が進んでいく。リフだけ決めて乾いたファンクっぽい展開。ベースがうねり、ギターはランダムにフレーズを提示した。
 アイディア一発のデモっぽい仕上がり。ミッチの弾むような歌声と、ボブのまっすぐな歌声が絡み合う。
 途中で調子はずれや拍頭がぐしゃぐしゃにズレても気にしない。ただただ執拗に同じフレーズで曲が続いていく。これはこれで、前衛か。

3-19 -Burial Wind Piece 1:09
Acoustic Guitar [12 String] - RP
Bass - MM
Written-By - RP

 これも前曲同様、80年にボブとミッチで録音曲。たぶん同じタイミングで録音して、ボブの趣味としてバンド名を変えたのだろう。
 今度はグッと滑らかで淑やかなインスト曲。ベースの上で12弦ギターが爪弾かれる。ギターのメロディはダビングかな。
 それこそきれいな音で録音したら、穏やかなフュージョン的な展開も可能。しかし楽器アドリブなどに進まず、メロディ・メモのように録音して終わりって潔さがボブっぽい。

3-20 -Sucko Lonely Town 2:46
Bass - MM
Drums - KF
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 前曲と似たようなギター・フレーズに導かれた87年の録音。メンバーはミッチに加え、ケヴィン・フェネルも加わった。すでにGbVとしてレコードは発表済み、アウトテイクだろう。
 ボブ流の甘酸っぱいメロディ・センスは既に完成されており、この曲自身も後年に発表済みな既視感を覚えてならない。
 曲を絞り出してアルバムにしたのでなく、背後にふんだんな名曲が存在してたと実証する一曲。これは今でも再演して欲しい出来栄えだ。

3-21 -Wavo Do Be 1:02
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 また遡って80年の録音。ボブの弾き語り。途中でモヤが晴れたように、いきなりセンターで音の芯が強く鳴った。
 ボブの声が若いな。テープ回転数を速めてるかのよう。伸びやかにメロディは上昇して揺れる。フォーキーな肌触りで、親しみやすい良い曲。

3-22 -Academy Of Crowsfeet Boston Spaceships 2:44
Bass - MM
Drums - TS
Guitar - JP
Vocals - RP
Written-By - JP, MM, RP, TS

 08年にバンド名で採用する"Boston Spaceships"ってフレーズを曲に冠した91年の作品。ボブはノートにこういう言葉遊びをたくさん記していそう。
 91と言えば"Propeller"(1992)直前。プロ・ミュージシャンとして生きるかの岐路なころ。
 もっとも本曲にそんな気負いはない。メンバーらとジャムを淡々と録音しただけ。トビン・スプラウトがドラム担当ってのが、ちょっと珍しい。レコーディングって気負わず、たまたま集まった仲間内と遊びで録音かも。
 インストで重たいムードに、ボブはときおり震えるシンプルなフレーズを歌で重ねた。作曲中のデモっていうより、サイケな幻想感を付与がボブの目的かのよう。曲としては、さほど華はない。確かにこのセッションで"Boston Spaceships"って言葉を使いつぶしはもったいないかな。

3-23 -Scott Joy Drugs & Eggs 2:32
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 93年、"Vampire On Titus"(1993)の頃に録音。アコギでボブは滑らかに歌う。デモかもしれないが、完成度は高い。ストロークからアルペジオに変わり、またストロークへ。
 くるくると伴奏を入れ替えながら、ボブは柔らかなメロディを止まることなく歌う。
 確かに粗めな録音だが、GbVなら十二分にリリースのクオリティ。未発表が不思議な親しみやすい佳曲。

3-24 -Stumpy In The Ocean That Ain't No Good 
Bass - MM
Drums - Peyton Eric
Guitar - Paul Comstock
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 85年のライブ音源。本ボックスDisc2-8,Disc4-11と同じ録音だろう。バンド名を律儀に使っている。
 ドラムのシンバルが派手に鳴るドンシャリ音質。ボブの歌声は綺麗に通ってる。今一つひねりは無いが、シンプルで分かりやすい溌剌な作品だ。アイドル・タレントに提供しても映えそう。サビで一段上がって、さらに盛り上がる構成もスマートだ。
 あまり歌詞をひねらず、簡潔にまとめた曲。

3-25 -Alvin Haisles Immediate Frozen Lookalikes 0:43
Guitar, Vocals - RP
Written-By - RP

 04年といきなり時代は飛んだ。しかし曲の質感はさほど変わらないとこが面白い。
 アコギ弾き語りで呟くようなメロディが一筆書きで紡がれ、あっというまに終わってしまう。むしろCircus Devilsっぽい感じの抽象性だ。
 Circus Devilsなら"Five"(2005)の前、GbVなら"Half Smiles Of The Decomposed"(2004)の頃。ステージ映えするロックを追求してたGbV本体には、確かに入れにくい曲だ。
 つかみどころが無く、暗めの曲。なぜDisc 3をこんな雰囲気で終わらせたのやら。         (2020/4:記)
 

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