Guided by Voices

"Please Be Honest" Guided By Voices (2016:Guided By Voices Inc.)

Written-By, Performer Robert Pollard
Coda Montage - Arnold A. Kummerow on 9
Performer - Vandercook Lake Senior High School Band on 9

 ソロとバンドをあべこべにしたスタイルで、がっつり再々稼働を宣言した。
 すべての演奏と歌がロバート・ポラードの多重録音。なのに、ガイディッド・バイ・ボイシズ名義。
 復活GbVの最終アルバム"Cool Planet"(2014)のあと、Ricked Wickyでいったん仕切り直したロバート・ポラードはソロ"Please Be Honest"(2016)を発表する。製作の相棒を長年付き合ったトッド・トバイアスからニック・ミッチェルに変えて。
 
 その"Please Be Honest"からわずか一か月後に、ボブは本体GbVも再々稼働させた。その時、たった一人で。
 もともとGbVはボブのソロ・プロジェクトみたいなもの。バンド・メンバーはそれこそ膨大なアルバムのたびに、ころころ変わってきた。ボブのアイディアを具現化するバンド形態として、GbVは存在してきた。

 しかしなぜソロでなくGbVなの、って疑問が発売当時はあり。それこそ山のようにソロ・アルバムも放出しており、敢えてメイン・ブランドを動かす必要はなかったろうに。
 仕上がった本盤は、GbVのローファイで投げっぱなしかつ、過剰にアイディアを奔放に垂れ流す、GbVならではの音だった。

 90年代の後半以降、バンドやライブ感にこだわってきたGbVに慣れたため、本盤の方向性には最初戸惑った。でもそもそも、GbVってのはこういう投げっぱなしが味だったな。
 ボブの歌声は還暦を迎え、さすがに衰えてる。シャウトは控え、スピード感は落ちた。
 けれどもまだまだ現役感あり。メロディの創作力はばっちり。敢えて構築せず、デモテープのままに個々の曲を並べた。
 その一方で、曲によっては実に緻密にアレンジを追い込んでる。そこが彼の成長であり進歩と感じる。山のように曲を作った経験は一筆書きでなく、したたかな深みと奥行きもできていた。

 初期GbVらしいが、ここ20年のGbVらしくは無い。原点回帰、ってやつか。
 まず本盤にてたった一人で好き放題に音楽を作って、GbVのブランドを洗い直した。そしてたちまち一転、バンド仲間を集めてGbVを仕切り直しライブ・ツアーを始めた。
 以降は現在まで、メンバー・チェンジなしに現在まで数年間、走っている。還暦を経てバンドの一体感を理解したかのように。歳を重ねて丸くなったようだ。

 本盤はしがらみ無し。ボブがデモを自分で飾ったアルバム。本当のソロであり、これすなわちGbVである。そんな宣言と思わせる作品だ。

<全曲感想>

1. My Zodiac Companion 2:12

 無伴奏かつイントロ無しでいきなり歌い始めた。次第に楽器が増えていくし、ロック的な勢いもあるけれど。最初はシンセも加わるシンフォニックな雰囲気の曲だ。
 コンボ編成でライブにて成立する曲ではある。しかし本盤収録のアレンジはスタジオで追い込む、まさにソロ的な発想の曲。

2. Kid On A Ladder 1:47

 リズム・ボックスにスネアをダビングか。ドラムはキットで演奏じゃなく、タイコごとに録音したらしい。幾らでもチャンネルが使える、現在ならではの手法を取った。
 本盤でもボブの歌はいくぶん抑えめ。歳相応にゆるやかで鷹揚な姿勢であり、高らかに吼えることは無い。少々寂しいが、しかたない。
 この曲もシャウトが似合いそうだけど、あっさり演奏した。

3. Come On Mr. Christian 2:04

 リフにメロディを乗せ、そのまま無造作に展開する曲。ばらついたハイハットとエレキギター、リム・ショットやスネアがそれぞれ、微妙にテンポがズレてポリリズミックな様相もあり。
 敢えて縦線をがちがちに揃えず、デモテープの延長っぽくローファイに作った。これは狙いか。単に面倒だっただけか。
 ほぼメロディのリフレインだけな楽曲だが、コラージュな要素も少々入れて単調は避けた。この辺のサイケなセンスは見事。

4. The Grasshopper Eaters 3:22

 金物の箱を叩くようなリズム・パターンに乗って、無造作にベース・ラインとギターで迫る。ボーカルも籠ってラフな印象。初期GbVを彷彿とさせる音作り。
 これを1分未満で作りっぱなしにせず、3分越えのポップスに仕上げるところがボブの成長であり、本盤ならではのアプローチ。
潰れた声が一筆書きメロディで進んでいく、奔放なアイディア・スケッチのような曲。

5. Glittering Parliaments 2:27

 一転してバンドっぽいアレンジのロック。ダブル・トラックで飾られた歌声も演奏も、本盤の他の多重録音曲とは違って、ドライブ感とかっちりした締まってる。
 もう少し整理したらすっきりとキャッチーになりそうだけど。饒舌にメロディを詰め込んで、えらくギッチリした印象に仕立てた。伴奏も色んな音をダビングして濃密。

6. The Caterpillar Workforce 1:29

 ローファイなマーチっぽいリズムに乗ったイントロから、トロっと溶ける平歌へ流れる瞬間がボブっぽい。一筆書きメロディで次々にアイディアが繋がり場面展開していく。
 僅か1分半の曲ながら、メドレーのように曲の表情が移り変わっていき、唐突に終わる。

7. Sad Baby Eyes 0:35

 鍵盤のリフとメロディがあってるような、ズレてるような。妙に調子っぱずれな印象のメロディを、鍵盤2音のリフレインであっさり歌い切った。

8. The Quickers Arrive 2:56

 エレキギターのリフで弾き語るような骨太さ。鈍器のような丸みを帯びたギターの音色が、つぶやきようにメロディがうろつく風景を包んだ。リズム楽器は無いが、ベースとギターのリフが絡み合って、テンポ感は明確だ。
 そのリフも一定に留まらず、あちこちふらつく。終盤でカウントが入るところがバンドっぽい。ギター数本とベース、ボーカルとコーラスがじっくりと雁首揃えて前へ進んでいく。

9. Hotel X (Big Soap) 3:01

 これもコンボ編成のアレンジながら、妙に縦の線が合ってない。いちおうバンドっぽくアレンジされながら、たどたどしさがある。それが、味。
 ベースを基礎にギターでリフを絡ませ、それなりにアップテンポな曲。しかしデモ音源っぽい耳ざわりが奇妙な係留感を持たせた。
 けれどもアレンジは確信犯。鍵盤やコラージュで複雑かつ多様に曲は進行する。ブラス・バンドは近隣の中学生による演奏らしい。

10. I Think A Telescope 2:30

 ギターのアルペジオっぽいフレーズでリフを作り、メロディがそれに重なる。ブレイクを入れ、メリハリをつけながら。輪唱が折り重なって幻想的な妖しい風景を作った。
 このとき、ブレイクで仕切り直すことで世界に緊張感が生まれてる。
 終盤はギター数本が、少しピッチをずらし気味で幾本もダビングされた。このむせ返る濃厚さと、ブレイクの緊張が凝っている。

11. Please Be Honest 2:05

 バシャバシャとラフなシンバルに、ダブル・トラックの繊細なメロディの歌声が絡んだ。
 テンポを抑え気味なところがもどかしいけれど、かっちりまとまりつつ多層的なアレンジは見事。

12. Nightmare Jamboree 2:00

 ギターとベースの震えるリフは、シンプルながら微小なずれがざくざくした振動を産んだ。
 起伏の少ないメロディでじわじわと迫ってくる。つかみどころ無い混沌がうねうねと進んでいく。

13. Unfinished Business 1:30

 リズム・ボックスの硬質なビートに無造作なギターのストローク。メロディはバッキング・トラックに拘らず、淡々と歌った。伴奏も負けじと細かな譜割に変化して、そのまま幕。いかにも投げっぱなしな初期GbVを彷彿とさせる曲。

14. Defeatists' Lament 2:23

 ピアノとギターのシンプルなリフで作るメロディアスな曲。もっとボーカルをくっきり利かせたらと思うが、ラフにデモテープっぽい雰囲気のまま終わらせた。
 伴奏もビート感を希薄にしてるけれど、楽曲そのものはとてもキャッチーな曲。あいまいなサイケのアプローチでは惜しい。これまた美しいメロディを無駄遣いする、ボブの本領発揮だと、しみじみ。

15. Eye Shop Heaven 3:00

 ギターを小節の頭にガッと鳴らし、エコーの利いた歌声。おもむろにドラムやベースをダビングして、ロックっぽくまとまった。
 しかし疾走しないところが、歳を重ねたボブっぽさ。逞しいメロディはGbV節。本盤を聴き進めて、最後に到達したのが初期と最新型のGbVを象徴する曲だった。     (2020/1:記)
 

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