Guided by Voices

"How Do You Spell Heaven" Guided by Voices (2017:Guided By Voices Inc.)

"How Do You Spell Heaven" Guided By Voices (2017:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr., Doug Gillard
Recorded By, Mixed By, Mastered By - Travis Harrison

 LP一枚へコンパクトにまとめた充実作。聴くほどに、味わいは深まる。

 再々結成GbVの2017年2枚目は、前作からメンバー・チェンジ無し。
 普通のバンドなら当たり前だが、昔はアルバムごとにメンバー・チェンジが常だったGbVから、珍しい。
 さらに本盤のあとも現在まで、同じメンバーで活動が継続中。ロバート・ポラードはつくづく丸くなった。
 再結成GbVでもそれなりにメンバーが固定してたが、あれは同窓会風の趣きも若干あったし。

 前作ではメンバーの楽曲もふんだんに採用したが、本作では(9)をダグと共作以外、全てボブの作品。彼の創作力は還暦を迎えても衰えない。むしろ自前レーベルで運営のためリリースのハードルが昔より下がり、発表ペースは激しい。
 逆に、だからこそ当時のリリース量は異常であり、凄まじかった。

 サブスクがどんどん一般化した2010年代において、GbVのスタンスはむしろ保守的。一時期にライブ音源を次々配信したのを除き、GbVは一貫してフィジカル・リリースにこだわっている。
 ゆえに無秩序に配信で音源を奔出する無節操さはない。いわば節度を持って"大量リリース"を続けている。
 いずれにせよリリース量は規格外。そんな独特の立ち位置がGbVである。

 前作同様に録音全般を担当した、トラヴィス・ハリソンの巧みなミックスが際立つ。
 荒っぽさやローファイを雑に強調せず、多くの音をコンパクトにまとめてドラマティックにまとめる手管が巧みだ。
 ボブの投げっぱなし作曲術も歳を重ね、ずいぶん洗練されている。バンド演奏も締まってドライブ感あり。アレンジも多様に工夫されている。

 これら録音・作曲・演奏の三要素が上手く絡み、本盤はローファイな味わいを生かしつつも、かっちり制御された好アルバムになった。
 普通のバンドっぽい、分かりやすい曲もある。ボブのメロディを持ったまま。ここにきてGbVは孤高の異才から普遍性をさらに広げている。

 GbVの破天荒さは年輪とともに角が丸くなり、メロディ・メイカーなボブの才能はより的確に表現された。

<全曲感想>


1 The Birthday Democrats 2:30

 単音で拍頭を叩く、素朴なギター・リフ。下手くそと思わず言いたくなるが、それが味になってしまうのがGbVの凄いところ。いずれにせよ歌が入り、締まったバンド・サウンドに曲が雪崩れると、単音ギター・リフも見事なアクセントに変わってる。
 単音リフから下降するメロディにギターが展開すると、逆に上手く聴こえるくらい。
 いくつも楽器をダビングしながら背後にミックスして、ギター・リフとメロディをきれいに目立たせた。

2 King 007 2:51

 最初は抜き気味に始まり、どんどん展開していく。コンパクトだがドラマティックな曲だ。
 発表後、セットリストの定番になった。歯切れ良いキャッチーなロック。中盤以降でぐいぐい疾走するパワフルさがたまらない。
 そこからスッと音が消えるアレンジも、ぽかっと浮遊する気分がかっこよくて好き。
 一筆書きでなく、凝った構成と感じる。異なるブロックをつなぎ合わせた曲とも取れるが。こういう曲こそ、ボブの作曲術が巧みになったと実感。

3 Boy W 2:34

 チープなリズム・ボックスに導かれ、バンド・サウンドに突入する。ぱしゃぱしゃなドラム音色はもしかして、ずっとリズム・ボックスって思うほど。
 ローファイな肌触りだが、きっちり分離良く録られミックスされている。プロの仕事だ。
 無造作な曲作りだが、とっ散らかりそうな要素を上手く曲にまとめた。この構成力も見事。 

4 Steppenwolf Mausoleum 3:22

 この曲も17〜18年のツアーでよく取り上げた。曲調そのものは暗めだが、サビの部分は若干だけ力を増す。アルペジオのギター・リフと、ぷちぷち鳴る電子音をバックに静かに歌い、サビで前のめりに。
 しかし全体的にうつむき加減なムードは変わらない。GbV流のシューゲイザー、と聴くたびに思う。
 終盤のソフト・サイケなハーモニーが心地よい。そこからアコギのフレーズを足したりと、けっこうアレンジは手が込んでいる。

5 Cretinous Number Ones 1:45

 ボブの弾きっぱなしなメロディがくっきり出た。一筆書きっぽく無造作な展開だがバンド・サウンドをきちんと当てはめ、やっつけ感は無い。
 これはアレンジの勝利。ボブの歌を先に録音して、あとからバンドを嵌めたかのよう。
 曲そのものはキャッチーだが構成より雰囲気で、何となく聴かせる。

6 They Fall Silent 0:55

 アイディアのアプローチは前曲と同じ。ここでは潔くボブのアコギ弾き語りでアレンジした。
 途中でボーカルをダブル・トラックにして、デモテープっぽさを回避。老獪だ。
 ぶっきらぼうにメロディが滴る。一筆書き作曲の典型だ。

7 Diver Dan 2:04

 歯切れ良いロック。17年には幾度かライブで取り上げたが、18年以降はセット・リストから消えた。ボブの甘酸っぱいメロディが親しみやすい。確かに他の曲に比べれば、力が弱いかもしれない。でも一般的には、普通に良い曲。それこそどこかのバンドが演奏しててもおかしくない。そういうありきたりさが、GbVでは埋もれてしまう。

8 How To Murder A Man (In 3 Acts) 2:43

 最初はジワジワ。間奏っぽいリフを挟みんで、再びざっくり。彼のイメージが趣くまま、曲はあちこちふわふわと変貌していく。
 起伏を明確につけて、ボブの奔放な作曲術をドラマティックに仕上げた。だが根本的にはロック・バンド。シンフォニックなプログレ志向ではない。

9 Pearly Gates Smoke Machine 4:02

 4分とGbVではかなり長めの尺ながらインスト曲。この発想と構成は新鮮だ。2017年のツアーでは10回、ライブで演奏の記録あり。
 ダグとボブの共作と言う。メロディはストレートであり、ボブの手癖とは異なる。かといってベーシック録音がボブの多重録音でもあるまい。どの辺がボブの貢献だろう。
 途中で現れるギターのフレーズのほうは、ひねくれてるからボブの作曲?しかし単音メロディではなく、ギター演奏を前提の旋律だ。

 楽曲はシンプルなエイトビートに乗って、数人のギタリストがメロディを交換しあうかっこう。アドリブっぽいが、ジャムほど即興性ある展開ではない。ときおり明確なメロディも現れる。ソロ回しってほどお行儀良くなく、8小節をある程度の基準にしつつ、てんでに弾き合った。
 どれか一人のギターがボブかな。数人のギタリストは、どれも演奏は滑らかだ。

10 Tenth Century 2:37

 これも17〜19年のツアーでライブの定番となった。本盤のアレンジは前半がギターの弾き語りに後ろでシンセが閃く、シンプルなアレンジ。中盤以降にバンドが加わる。
 ギターはストロークと爪弾きを場面ごとに切り替え、おざなりじゃない。ボーカルもたまに、エコー操作が施された。
 バンド演奏になっても、途中でテンポが加速したり芸が細かい。ラフな演奏に見せかけ、とても手が込んだアレンジと録音だ。こういうさりげない丁寧さが、本盤の醍醐味。

11 How Do You Spell Heaven 1:53

 アルバムのタイトル曲は、無伴奏のボーカルから。短いリフのあと、じっくり頼もしく曲が展開した。ふわりと声にエコーをかぶせ、膨らみを出す。
 サビの切ないメロディが、まさにボブ節。平歌も隙間なくつぎつぎと魅力的な旋律が溢れる。アップテンポで景気良く押さず、ミドル・テンポのゆったりスタイル。
 歳を重ねたこの時点のGbVだから出せる、渋めの味わい。あくまで、渋め。渋く枯れるほど達観はしていない。

12 Paper Cutz 2:36

 裏拍が強調され、前のめりのパワーが心地よい。決してテンポが速いわけでも、ギターが喧しくもないのに。なんかこの曲聴くと、疾走感と元気良さを感じる。
 演奏はむしろ小細工無し。ドンシャリ気味にシンバルの高音とベースやキックの低音を配分して、中央へギターをキチンと配置した。
 メロディはボブ流の瑞々しさがある一方で、曲構造はけっこうオーソドックス。大人な仕上がりだ。

13 Low Flying Perfection 2:37

 ギター二本の静かな伴奏で静かにボブは言葉をメロディに載せた。おもむろにドラムやバンドも加わり、背後にコーラス。だがそのまま疾走せず、ブレイクを入れてメリハリをつけた。
 昔のボブならどれか一要素の伴奏で曲を終わらせていたかも。だがこの時点のGbVはきちんと作曲・アレンジされ、親しみやすくコントロールされてる。

 トラヴィス・ハリソンの録音やミックス技術もばっちり、的確に曲を彩ってる。
 早いペースで録音してるわりに、ほんとうに丁寧な作りだ。いや、普通のバンドなら当たり前かもしれない。でもデモテープもどきでも平然とリリースしてた過去のGbVと比較したら、感慨深い。

14 Nothing Gets You Real 2:24

 跳ねるドラムが心地よい、フォーク・ロックなアレンジ。素朴でやわらかいボブのメロディは、わずかに音程を崩すような節回しが効果的だ。
 この曲はあまりアレンジに凝らず、同じ調子でさらり流した。それがばっちり甘くてポップな印象を増幅する。途中の転調で曲はぐんぐん高まる。
 「普通のバンドっぽいな」と思うのは、そのあともう一度Aブロックに戻るところ。転調後のBブロックで投げっぱなし、もしくはAとBブロックそれぞれで一曲って姿勢が、意外とGbVっぽい。

 けれど本盤のGbVは違う。きちんと曲に収拾と構成をつけている。だからこそ、なおさら本曲は魅力的だ。

15 Just To Show You 2:17

 これもライブの定番曲になった。ゆったりしっとりと、甘やかに曲が攻めてくる。アンコールに本曲を演奏の記録がいくつかあるが、反則なほどハマりそうだ。
 ライブ本編が終わり、一呼吸付いた満足とステージ完了で一抹の寂しさを、アンコールで本曲がしっかり受け止めるんだろう?もう、感激モノだ。
 感傷的で落としめのテンポが、切なくて良い。
 もちろんアルバムを〆る曲としても、ばっちり。じっくり本盤に没入して、最後をきちんとまとめてくれる。         (2020/4:記)
 

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