Guided by Voices

Earthquake Glue(2003:Matador/P-Vine)

Produced by Todd Tobias and Guided By Voices
Engineered:John Shough

Robert Pollard - vocals
Doug Gillard - guitar
Nate Farley - guitar
Tim Tobias - bass
Kevin March - drums

Todd Tobias - Key,Noises and Atomspheres

 どんなにボブが活発に活動したって、やっぱりGbV本体が動かなくっちゃ。

 一年ぶりにリリースした新譜は、肩の力を抜いて原点回帰を狙ったか。
 初期の破天荒ぶりは控えめ。メジャー・レーベルの水を飲んで、丸くなったのか。まさかね。

 本作のプロデューサーは前作と変わらない。盟友トッド・トビアスだ。
 エンジニアも前作を手がけた、おなじみジョン・ショウが担当してる。
 ところが。明らかに音は前作と違う。

 マスタリングは前作/今作ともにジェフ・グラハムが行った。
 明確にサウンド・コンセプトを変えたに違いない。機材変更の可能性もあるな。

 インタビューでボブは「前作より音は良くなってるよ」と語ってた。
 録音はお膝元のCro-Magnonスタジオにて。03年の夏にこのスタジオは解体されたそう。 

 邦盤で聴いてるが、ぐっと音がこもった感じ。
 分離を悪くして、エッジを鈍らせる。AMラジオではまるだろう。
 サウンド全体に力強さがあるものの、なんだか痩せて聴こえるなぁ。

 つまりこのサウンドが「原点回帰」って気がする。
 小奇麗さを廃しローファイを志向、さらにサイケ風味もぱらぱら。
 ひたすらツアーを繰り返したメンバーで、練った音が詰め込まれた。ライブでの演奏が似合いそう。

 そう、本作では前作のメンバーをそのまま引き継いでいる。ツアーでさぞかし音が固まったろう。
 あ、もちろん前作の予告は守ってます。ドラムはケヴィン・マーチに切り替わり。
 
「アルバム出すたびメンバーチェンジが行われる」というGbVのジンクスは、今回もきっちり守られた。律儀って言ったほうがいい?

 曲によっては、シンセが大胆に挿入される。
 トッド・トビアスは単なるプロデューサーではなく、曲のアレンジまで口出ししてるっぽい。
 時にオーバー・プロデュースでは?と首をかしげる箇所もある。
 
 かなり作りこんだ録音だが、"Do The Collapse"みたいな不満はボブにないんだろうか。
 気心知れた仲で、わいわい議論しながら作ったのかな。

 本作の事前情報から、かなり作品を煮詰めたと推測できる。
 アルバム初情報は03年の3月ころ。仮題は"Model Prisoner In The Five Senses Realm"だった。
 曲目も紹介され、本作の(2)〜(15)までとまったく変わらず。曲順すら一緒だ。

 で、一ヶ月経ったころ。「Earthquake Glue」に、タイトルがいつものごとく変更された。そのあとは8月のリリースまで一切情報に変化なし。
 めずらしいな。ならすぐリリースして欲しかったぞ。
 リリース・タイミングの戦略でもあったのか。

 ちなみに"Model Prisoner In The Five Senses Realm"は、"Rahs"を演奏したバンド」みたいなクレジットで、ジャケットに記載されてる。
 メンバーはジム・ポラードほか。
 同名の曲がアルバムに収録されてるわけでもない。何の意味だろう。はて。

 ジャケットはロバートのコラージュで、GbVファンには馴染み深いデザイン・イメージだ。
 邦盤ではジャケを開くと、中はカラフルな塗りつぶし。文字は何もない。
 ポップ・アートっぽさを狙ったか。いやにチープだ。

 のぺっとした音作りに最初は馴染みづらかった。でも聴くにつれ、じわじわ良さが伝わる。
 メロディ・メイカーぶりは健在。キャッチーなメロディが脈絡なく、にょろにょろ流れ出る。
 16曲入りで50分足らず。いつもどおり立て続けにまくし立てた。

 もっとも。ぼくはこのアルバムを手放しでは褒められない。GbVの魅力に薄皮一枚かせた気がする。
 トビンのキーボードが作り物っぽさを強調しちゃってる。
 曲によっていい味を出してるよ、もちろん。でもほとんどの曲で首をかしげた。

 むしろぐっとロッケンローなGbVを、そのまま出してほしかった。
 "Do The Collapse"みたいに、どこかすました雰囲気がある。
               *
 最後に邦盤のオマケについて一言触れておきましょう。
 日本盤恒例のボートラは1曲のみ。これはFCS先行シングルB面として発表されたのと同じ曲。
 
 あと、缶バッジ風のシールが付属してた。
 シールの裏にはマタドールからのメッセージ付き。
 「究極のGBVボックス・セット!5枚組CD"Hardcore UFO"にDVD付。2003年11月発売」

 次のアルバム予告を新譜にくっつけるんかい。普通のバンドは、そんなことしないと思うぞ・・・。

<各曲紹介>

1. My kind of soldier

 ミドルテンポのロックンロール。本盤の発売にあたり、急遽録音された。
 03年4月、シカゴにあるスティーヴ・アルビニのスタジオで収録。チープ・トリックとツアーをやってる最中のことだ。
 
 すでに曲順まで決まってた本アルバムへあえて突っ込み、先行シングルとしてリリースするくらいだもの。よっぽど気にいったんだろう。

 曲調はGbVにしてはめずらしい。
 ゆったり視野が広がるサウンドは、でかいホールで演奏しても似合いそう。
 メロディもきれいで、まずまずな出来。でもシングル切るなら他にもいい曲あると思う。

 ちなみにシングルは千枚限定、アナログ・オンリーで発売された。
 B面にはアルバム未収録曲、"Broken Brothers"を収録。
 ・・・といっても、邦盤のボートラも"Broken Brothers"。特に目の色変えてシングルを探す必要はなし。
 
2.My Son, My Secretary, My Country

 イントロのオーケストラは、クレジットによると"The Esther Dennis Middle School 8th Grade Band Under the Direction of Tom Pfrogner"とある。
 ボブが勤務してた学校の生徒たちだと面白いんだが。

 探るようにホーン隊が白玉を重ねる。
 あえてヌケの悪い音で録音し、厳かなサイケっぷりを強調したか。
 爽やかなギターのストロークがかぶさる。

 当初はこれがアルバム冒頭の曲。
 もし1曲目だったら、だいぶドラマティックな始まりだったろう。
 いくつかのブロックを無造作に繋ぎ、唐突に場面が変わる。
 ロバートの夢世界を切り取ったかのよう。

 個々のメロディは悪くない。まさにアルバムのイントロにふさわしい曲。

3.I'll Replace You With Machines

 エコーの効いた逆回転風ドラムの音が、観客の手拍子に聴こえる。
 アンサンブルこそ普通のコンボだが、音色をかなりEQでいじってる?
 音のエッジがほとんど立たず、もやもやしたローファイさをかもし出す。
 これはチープな卓で録音したせいじゃない、確信犯の音だろう。

 もうちょい締まったビートだと、レコードでは盛り上がる。
 でもステージやラジオで流すなら、ばっちりのタイム感。ステージでウケる姿が目に浮かぶ。
 
 音の分離をしこたま悪くし、なにをやってるのかいまいちわからず。
 でも爽快感はあるんだ。不思議だよ。締めたアレンジなら、シングル切ってもよさそう。

4. She Goes Off At Night

 前曲から一転、くっきりした線に音が早変わり。
 ロマンティックなメロディがとても好き。1stシングルはこれでもよかった。

 小細工は何もなし。まっすぐ前を見詰めて駆け抜ける。
 この手のアレンジって単調になりがちだが、中間部でゆったりめのブロックをはさみ、メリハリをさりげなくつけた。

 バックの演奏がメロディと一体で鳴る。というより、メロディにバックの音を当てはめたか。
 曲にあわせてハミングすると気持ちいい。アクセントはタムの連打だ。
 
 ボーカルにエコーをかぶせてるのかな。ボブの歌にハーモニーの幻聴がする。

5. Beat Your Wings

 ゆったりめのロックンロール。テンポは遅くとも、バラードって気がしない。
 イントロはひずんだエレキギターとベースの絡みだけ。ボブの歌をじっくり聴かせた。

 ときおり歪むフィードバック。純情さがにじみ出る。
 つたなさはあちこちにある。メロディのピッチはときに甘く、隙も多い。
 だが中盤のギター2本によるソロは、まるで「ホテル・カリフォルニア」のよう。
 あんまり好みの音世界じゃない。
 とはいえ説得力あり。もうちょいテンポ速いとかっこいいのでは。

6. Useless Inventions

 歯切れのいいギター・リフがいかす。
 パンキッシュに甘えず、メロディをきっちり聴かせるのがGbVのいいところ。
 リフやアレンジに遊びは無い。ごくごくオーソドックスなギター・ロックだ。

 隙を見せずバンド一丸となって、耳へビートをねじ込んできた。
 シングルには少々弱い。メロディの破壊力が足りないんだもん。
 もっともライブでは、キッチリはまって盛り上がりそう。

7. Dirty Water

 曲が終わるっぽい響きがイントロ。前曲から繋がってそうで、繋がってない。
 あらためてギター・リフが提示され、じわじわとメロディは紡がれた。
 いまいち覇気のない展開だが、サビの旋律は味があって良い。

 もうちょいテンポ・アップしたらいいのに。
 うねうねギターがうねる音を数本ダビングし、レコーディングはけっこう凝っている。GbVにしては。
 そして曲はまたイントロへ戻る・・・って趣向かな?

8. The Best of Jill Hives

 地味ながらキャッチーという、形容矛盾な曲。つい、そういう表現が浮かぶ。
 ベースが淡々と、コード変化に伴って8分音符を刻む。

 ドラムもギターもまっすぐにビートを連ねる。ここでの主役はあくまでロバートの歌声。
 素朴なメロディをじっくり聴かせる。

 むしろアコギでさらっと弾き語ったほうが、曲が生きたかも。
 バンド・アンサンブルだと、むしろかっちりイメージが固まってしまう。

 終盤でエコーを聴かせて歌声がブレイク。そこからダブル・トラックで締めるアレンジがぼくにはツボです。

9. Dead Cloud

 ライブで映えそうなパンク風味のアレンジだ。
 鋭く尖らせ、ざくざく飾りっないギターでえぐる。
 曲のポイントでは、バンド全員がリフの譜割をユニゾンでなぞった。

 イントロは期待させたが、途中から物足りなくなった。
 もうちょい疾走感が欲しい。何が不足だろう。ドラムの切れが悪いの?

 一発録りっぽさをあえて避けたか、ほんのり加工した歌声でセルフ・バックコーラスを入れる。
 シンセはちょっと余計ですな。

10. Mix Up The Satellites

 これは好き!サイケで切ないイントロのフレーズが好みだ。
 キーボードをかぶせたか、音に広がりがある。

 ギターのリフをアクセントに入れ、バックではしょっちゅうシンセがきらめく。
 アレンジにかなりトッド・トビアスのアイディアが盛り込まれてそう。
 音の感触は"Do The Collapse"っぽい。

 3分以上とGbVにしては長めの曲ながら、歌詞はごく短い。
 きっちり構成され、繰り返しでこの長さが成立している。
 あらためて聴きなおすと・・・アルバム全体では異例なんだな、これ。 

 よく出来たパワー・ポップだと思う。それにしちゃ、ドラムが弱いか。
 エンディングで連なる、きらびやかなシンセとギターのリフ。これだけ聴いてたら、GbVの作品とは思えないだろう。

11. Main Street Wizards

 ロバート好みの節回しだけで作られた旋律だ。指癖ならぬ、喉癖ってとこか。
 リズムはゆったりしており、ライブハウスよりもアリーナが似合いそうなロックンロール。
 
 ほんのりピッチが触れる歌声が気になった。
 この曲でもジェットマシーンみたいな効果音をはじめ、キーボードが重ねられてるんだし。
 せっかくならついでに、もっと歌声を丁寧に録音すればいいのに。

12. A Trophy Mule in Particular

 サイケさはシンセのダビングで醸し出した。
 二部構成に分かれており、弾き語りっぽい部分と怒涛の畳み込みロックンロールが交互に現れる。

 弾き語りの部分が好き。いかにも吟遊詩人ロバートっぽい。
 怒涛部分は迫力あるが、どこか類型的に感じてしまった。
 しかしシンセが大仰だなぁ。

13. Apology in Advance

 じわじわ上へよじ登るメロディ・ラインが好き。
 シンバルが連打される、にぎやかなロックにアレンジされた。

 ロバートは屈託なく歌ってる。
 ごく自然な歌い方だと思うが、音程やタイミングもきっちり。
 何で曲によって、出来にばらつきあるんだろう。テイクの重ね方が違うのか。
 
 前のめりの勢いがもう少し欲しかったが、悪くない。
 ハイトーンが滑らかに響く。

14. Secret Star

 べたっとしたリズムが惜しい。メロディはかなりキャッチーなのに。
 ダブル・ボーカルがゆったり旋律を歌い上げた。
 ベースがえぐるが、まだ物足りない。もっと派手に〜!

 中盤でサイケなブリッジが強引に挿入され、流れを妨げてしまう。
 見知らぬ街へ紛れ込んだ気分。

 しかしこのあとのメロディが、いとおしくも素晴らしい。
 そうとう凝ったアレンジだし、ライブで魅力を再現できるとも思えない。
 GbVって演奏が、抜群に上手いわけじゃないからね。
 あくまでスタジオ作の中でこそ楽しめる、練られたサイケ・ポップスだ。

15. Of Mites and Men

 オリジナル・アルバムではこれが最後の曲。
 ざくざくと重ためのリフが連なる。意図を掴みかねたが、インタビューを読んでて思いついた。
 もしかしてロバート流のハード・ロックかも。

 なにせ好みのバンドとして、ブラック・サバスやブルー・オイスター・カルトをあげてるんだから(ほんとかよー。すごい意外だった、この発言は)。
 
 オクターブ下げてギターの音を上げたら、見事なハード・ロックになりそう。
 実際には能天気なGbV風味で軽やかに仕上げてる。
 アルバムを締めるには中途半端な気がした。
 とりあえず派手にぶちかまして、無造作に幕を下ろすって試みか。

 最後の最後は、響きだけが無常に漂う。

16.Broken Brothers

 邦盤にはボートラとして収録。前述のとおり、シングルのB面としても発売された。

 ミドルテンポでなかなか耳馴染み良い。
 シンセがしょっちゅうひらめくが、フルートみたいな効果で違和感なし。
 小粒だが、悪くない。きちんとアルバムへ織り込めば良いのに。
 いや、ちゃんとこうして聴けるから、いいんだけどさ。
 だけどなあ・・・しみじみ無造作なGbVの作りっぷりを考えてみる。

 

 

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