Guided by Voices

"Cool Planet" Guided by Voices (2014:Guided By Voices Inc.)

Robert Pollard - vocals, guitar
Tobin Sprout - guitar, vocals
Mitch Mitchell - guitar
Greg Demos - bass
Kevin March - drums

 結果的に第二期GbV、クラシック・ラインナップでの再結成は本作で幕を下ろした。"English Little League"が13年の4月、"Motivational Jumpsuit"が14年の2月。そして本盤が14年の3月。前々作から一年後、矢継ぎ早にアルバム2枚をGbVはリリースした。しかし、あっけない解散へ。

 "Let's Go Eat The Factory"を2012年に引っ提げて8年ぶりに再結成したGbVは数年間で5枚のアルバムを残した。
 メンバー的には豪華だったが、実際にはバンドの一体感は薄く感じた。ボブと、その他大勢。もしくはトビンがエゴを殺さずに参加。そんな感じ。メンバー同士の共作もあったが、特にトビンは我関せずのように、自らの価値観を崩さない作品をGbVに投入し続けた。

 実際、どんな気持ちで再結成していたのだろう。アルバムの製作もまとめて曲を録り溜めて、アルバムに散らしていたかのよう。明確なアルバムごとの色合いをつけず、淡々と、しかしどばどばと第二期GbVは音源を放出し続けた。歳を重ねて分別を持ちながら、創作力だけは衰えなかった。

 本盤リリース後にGbVはツアーに出ていたけれど。14年9月18日、唐突に彼らのWebで解散が発表されて、以降のライブはすべてキャンセルされた。音楽的な衝突よりも、もっと人間関係的な解散だったのではないか。
 
 少なくとも本盤を聴いても、解散前夜の不穏さはない。バラバラなのは第二期GbVの特徴。ボブとトビンの対比は明確にあり、それぞれが我関せずと道を進む。(4)でボブとグレッグ、(11)でトビンとミッチが共演しただけで、あとはボブの曲の合間にトビンの曲が挟まれる構成だ。

 さらにボブの曲では、弾き語りっぽいアレンジとバンド・サウンドが交錯する。たぶん数回のセッションを重ね、出来上がった曲を前作と振り分けたのだろう。
 内容は良い。しかしこのバンドが続いても、どのくらい豊潤さが保たれたかは分からない。おそらくギリギリの人間関係のバランスを取りながら、危うげな綱渡りが続いたのだろう。
 
 あくまで振り返っての感想だが、この第二期GbVは無理があった。内容は決して悪くない。けれどもバンドとしての必然性は薄い。同窓会めいた馴れ合いっぽさすらもあった。 短期間で多数の録音を残し、第二期GbVは駆け抜けた。

 (1)(7)と(16)と(8)、ボブとトビンの曲がそれぞれシングルでも発売された。アルバム発売の14年5月、全て同時に。本当は解散など考えもせず、景気づけのグッズ発売だったのだろう。

 もう一度繰り返すが、今聴き直すと内容は悪くない。いろんな方向を向き合う、オムニバスのようなアルバム。(4)を筆頭に、個々の曲は味わい深い。

 ボブはこのGbVを解散して、約2年後。"Please Be Honest"(2016)で三度、GbVのブランドを稼働させる。しかもこの作品では自分一人のワンマン・バンドと極端な形態で。
 これでいったん過去の歴史を吹っ切って、"August By Cake"(2017)にてダグ・ギラードを呼び戻し、ミッチを維持のうえで5人編成にてGbVをボブは組み直す。

<全曲感想>
1.Authoritarian Zoo 2:21

 ざくざく切り込むシンプルなリフに、少し調子っぱずれな不安定さを持つ和音感の平歌が乗る。サビから一気に華やかに展開した。スケール大きな譜割のメロディは、スタジアム級の広さでも映えそうだ。でも少し鼻歌っぽさを残し、あくまでもローファイな要素を残した。
 エコーをかぶせてきれいに飛ばしたら、すごくポップになるはず。けれどもGbVは安易にその道を選ばない。

2.Fast Crawl 1:41

 少し寂し気な雰囲気。ベースのフレーズが曲を支えた。ギターとドラムはベースの添え物みたいに、遠慮がちに音を刻む。
 そしてボブ節のメロディは畳みかける。一筆書きメロディがヌルヌルと展開した。シンプルだが癖になる面白い曲。

3.Psychotic Crush 1:23

 この曲のリフも単純だけど耳に残る。ドラムのリズムがつんのめるように鳴った。きっちり縦を揃えず、ぎこちなさを残すのは多重録音な宅録っぽさを残すがゆえか。
 トビン・スプラウトの曲。

4.Costume Makes The Man 2:06

 切ないメロディが素晴らしい名曲。ボブとグレッグ・デモスの共作で、アコギの弾き語りっぽいアレンジにオルガンを載せた。サビを多重ハーモニーにしたりとアレンジは細かく気が配られた。その一方でデモ録音風の荒っぽさを残して、素朴さも演出した。
 数小節で終わってしまうギター・ソロも、シンプルだけど味わい深い。

5.Hat Of Flames 1:31

 耳に残るメロディ一発を軸に、まとめ上げたボブらしい曲。メロディがくるくると繰り返され、音域を変えたり変形して幾度も提示される。さりげない巧みさ。昔のGbVが作るこの手の変奏タイプはアイディア一発に思えたものだが、この曲では頼もしいテクニックを感じた。
 最初に"there he goes"って畳みかける部分のスピード感が好きだ。

6.These Dooms 1:59

 重々しいサイケさを匂わせた。これもボブ流の一筆書きメロディ、すなわちイマジネーションの趣くままにどんどん展開していく、柔軟で奔放な才能を感じる。
 エレキギターとベースだけで最初の部分は世界観を作ってしまい、2番からドラムが加わり凄みを出した。
 力押しだけにせず、次の瞬間にスッと抜いて構造を変えずに緩急を作るアレンジが見事。

7.Table At Fool's Tooth 1:20

 力強く鳴るドラムにパンキッシュな勢いを感じるけれど、ボーカルは力を抜いて中空の軽みを出した。
 ダブル・トラックのボーカルで浮遊感を出し、ときにドラムを抜いてメリハリを付ける。しっかりしたメロディを持つ一方で、あえてシンバルを喧しく鳴らし雑味ある雰囲気にした。

8.All American Boy 3:46

 往年のジョン・レノンみたいな瑞々しいメロディと、鍵盤やギターを厚く重ねた音像なトビンの曲。実際はどうか知らないが、とにかく本盤でもトビンの曲は宅録多重録音にしか聴こえない。
 みっちりと詰まった音像、縦の線を微妙にずらす危うさで。
 メロディも完全に独自路線な、ポップで妖しげなトビン節。GbVの一要素であり、ボブの曲が続く構成を変える、味付けに思えてしまう。バンドである必然性を感じない。
 曲そのものはとてもいい。トビンの曲だけ抜いたら、サイケでキュートなポップ・アルバムになる。

9.You Get Every Game 2:05

 甘々でラフだが緻密なトビンの曲の次に並ぶと、ボブのそっけなさと荒々しいまま曲をお皿に載せる潔さが、対比して強調された。
 前半はギターの弾き語り風、終盤でトビン風の多重ボーカルとオルガンが載って"every game..."と繰り返されるブロックを、大胆に一曲へくっつけた。
 前半と後半で全く違う。二つのパターンを敢えて別の掌編に仕立てず、極端な起伏ある曲にまとめた。それでも2分余りの短い曲だけど。
 さりげないけれど、特に後半に繰り返されるメロディがマントラのように耳へこびりついて癖になる曲。

10.Pan Swimmer 0:59

 1分あまりの本盤でもっとも短い曲。なのにすごくポップ。ロックの美味しい骨格だけ抜き出した。イントロつけてサビにソロ入れて平歌を繰り返せば、シングル・カットにも耐えうる。
 なのにボブは欲張らない。数音のギターでイントロを終わらせてしまい、いきなり本質に入る。
 短いけれど、すごく良い曲。こういうメロディを使い捨てるような溢れる贅沢さがGbVの魅力だ。

11.The Bone Church 2:14

 バンドのジャム風に重たいセッションぽい雰囲気がいきなり始まり、唸るようなメロディが続く。トビンとミッチ・ミッチェルの共作。これもトビンの宅録風なアレンジだけれど、ベースが嫌に生々しく鳴った。
 きっちり小宇宙を作って内に籠らず、作りっぱなしのボブ風なムードもあり。荒々しさがミッチの貢献かな。

12.Bad Love Is Easy To Do 2:04

 これもキャッチーなメロディ。"Glad Girls"を連想した。バンドで一発録音したかのような空気感だが、ホイッスルみたいな電子音を足したりと、アレンジはアイディアを足している。
 ボーカルもブロックによっては乾いた色合いを出したり、メリハリを付けた。
 デカい会場でも映えそうな力強い旋律だが、録音はローファイな荒っぽいデモな面持ちを残す。飾らないのか、敢えてのざらついた風景を選択か。

13.The No Doubters 2:36

 "it's done"と高らかに歌い上げるフレーズ一発で、鮮烈に曲の風景が変わる。どことなく煮え切らない平歌だが、サビとの高低差が顕著に演出された。一筆書きメロディっぽい展開だ。
 ルーズな雰囲気が勿体ないくらいのいい曲。この曲もボブの芳醇なメロディのアイディアがそこかしこに漂いながら、じっくり花開かせずに放って終わる。
 めずらしく長いフェイド・アウトでじっくりと、2分半もの本盤では長めな尺を使った。

14.Narrated By Paul 1:05

 がっぷりとエコーが塗された、ピアノの弾き語り風なトビンの曲。きっちりと自分の世界を作り上げて、他の人が入る隙も無い。きれいなメロディを多重ハーモニーでハモらせる。
 もっと聴いていたいのに、一通り歌ったら終わるボブ風の逆焦らし戦法な小品。良いメロディだ。

15.Cream Of Lung 1:13

 今度はボブがギターの弾き語り風に。前曲と対比気味に作って、メリハリを付けた。途中からドラムが加わって賑やかに鳴っても、終盤でスパッと切り落とす。演奏を止めた、ではなく編集でドラムをばすんと切ったって風情のアレンジで。
 前曲のトビンが内省ならば、本曲のボブは投げっぱなし。鎧で身を守るトビンに対して、ボブはアイディアの羅列による支離滅裂さを恐れない。

16.Males Of Wormwood Mars 2:52

 わずかな甘酸っぱいメロディが、そっけなくシンプルなアレンジに力を与えた。デモのセッション風に単純なパターンで3分弱も続く。バンド・サウンドを強調かもしれないが、この曲を長く演奏して他のもっときれいな曲をあっさり終わらせてしまう、ボブの独特なバランス感覚が面白い。
 この曲も一筆書き風の投げっぱなし。メロディよりも言葉遊びをイマジネーションの趣くままに歌い継ぐかのよう。

17.Ticket To Hide 3:02

 ギター数本を重ねてエコー感ある世界観で、乾いた歌で切々と歌いかける。弾き語りっぽいアレンジながら、音像そのものは厚めなトビンの曲。
 ひとしきり歌った後でカウントが入り、さらにギター・ストロークが力強くなった。歌声もダビングされて静かに風が吹き荒ぶ。
 アルバムの締めに向かって、しずしずと優しい空気が広がった。たっぷり時間をかけた、トビン流のエピローグか。そして最後は、アルバム・タイトル名の曲でボブがまとめる。

18.Cool Planet 1:51

 ごろっと無造作ながら耳に残るボブのメロディ。さりげなくキャッチー。しかし無闇に飾らず、荒っぽさを残す。
 サウンドはバンド形式。ドラムとベースが絡んで骨組みを作った。ギターを弾き殴りで音を埋め尽くさず、ブレイクを挟んでボーカルの掛け合い形式を用い、ドラマティックに曲をまとめた。          (2018/7:記) 

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