Guided by Voices


Alien lanes(1995:Matador)

Robert Pollard - guitar & vocals
Tobin Sprout - guitar, keyboards & vocals
Jim Pollard - guitar
Mitch Mitchell - guitar
Kevin Fennell - drums
Jim Greer - bass
Greg Demos - bass, guitar & violin


 
このアルバムが出た年は、GbVはさまざまなアイテムをリリースしている。オリジナルアルバムの本アルバムのほかに、5枚組の初期作品を集めたボックスやら、「For All Good Kids」というニュージャージー州でのライブを収録したLPに、EPを一枚(タイトルは「Tigerbomb」)、おまけにシングルやらコンピレやらを7タイトル。精力的なめざましい活動をしていた。

 本作も前作同様マタドールから。またもや全28曲と、しこたまなヴォリュームでぶちかましてきた。当初は「Scalping the Guru」の仮題がついていた模様。
 今回のアルバムは、クレジットにもしゃれっ気たっぷり。プロデューサーが「ミスター・ジャパン」で、エンジニアが「赤鼻のドライバー」。それぞれ、ロバートと、トビンのことなんだろうけども。妙に謎めかしたクレジットになっている。
 
 ここに至って、もはやGbVに貫禄すら漂ってきた。てらいなくデモテープもどきの演奏を収録し、破綻を恐れずに次から次へとメロディを繰り出してくる。スタンスそのものはデビュー時から変わっちゃいないけども、自分の選んだ音楽スタイルに自信をもってる感触を感じてならない。
 
 GbVは鬼のようなリリースを誇る、録音マニアのバンドってイメージがある。だけど興味があるのは録音だけ。音質やら録音テクニックやらにほとんど興味がないように聞こえる。一曲を飾り立てて完成度を上げるより、つぎの曲のレコーディングをすることが先決。だって、その次にも録音したい曲が待ってるんだから。そんな創作意欲に満ち溢れている。
 あふれ出るアイディアを遠慮会釈なく開放して「さあ、どうぞ」とリスナーに向かって並べてみたいかしたアルバムだ。

<各曲紹介>

1)A Salty Salute

 どっしりかまえて引きずるリズムが印象的なミドルテンポの曲。
 物語を歌うように淡々とメロディを発展させ、静かに余韻を残さず消えていく。シンプルな演奏にのって軽くシャウトするロバートのヴォーカルがいい。

2)Evil Speakers

 一分程度の短い曲。ぱしゃぱしゃしたドラムの音が耳に残る。
 メロディを繰り返して発展させない。曲を作ったらそのまんま。思いついた瞬間にメロディをたぐり寄せてまとめ上げた、まさに一筆書きソングの典型的な曲だ。エンディング近くなって、バックの演奏がためらいがちにスカスカになっていくアレンジも楽しい。 

3)Watch Me Jumpstart

 バックを埋め尽くすファズギターの音色にせきたてられて、どこか慌ててロバートが歌いだす。サビの歌い上げるシャウトがかっこいい。ゆったりとしたスケールの大きいメロディは、聞いていて落ち着いてくる。
 曲そのものは2分半くらい。だけどGbVのアルバムを聞いていると、とても長尺に聞こえてくるから不思議だ。
 GbVのアルバムには時間が凝縮されて、ぎっちり詰まってるのかな。

4)They're Not Witches

 アコギのアルペジオに支えられた、ギターによる隙間だらけのバックに乗って、どこか調子っぱずれのハーモニーが聞ける。
 途中で思いっきりマイク・ノイズが入るのに、かまわずリリースするいさぎよさ(いいかげんさかな?)が、いかにもファースト・テイクを重要視するGbVらしい。
 普通のバンドなら、このテイクはデモテープ扱いするだろう。
 でもこいつを完成形として、胸を張るところにGbVのかっこよさがある。

5)As We Go Up, As We Go Down

 甘いメロディが素敵な曲。後半で転調して緊張感を高めていって終わる。
 エンディングでフェイドアウトしながら、執拗にサビを歌いつづけるこだわりがちょっぴり奇妙だ。
 この曲なんか、もっともっと煮詰めてかっこいい曲に出来るだろうに・・・一曲に足踏みしないで、次の曲へ移っていく贅沢さがなんともはや。

6)(I Wanna Be A) Dumbcharger

 重たい雰囲気でとっつきにくい前半だが、中盤の深いエコーにつつまれた部分が魅力的。
 ドラムも入ってはいるが、曲のリズムを引っ張っているのは、微妙に揺れるギターだ。不安定な演奏で曲をぶち壊しにする、がけっぷちぎりぎりって感じがするなあ。

7)Game Of Pricks

 やさしく弾むメロディがうれしい。シングルにいいんじゃないかな。ミドルテンポのすてきなポップスだ。録音の悪さで、楽器の奥にミックスされてるヴォーカルが、微妙にエコーがかかっているように聞こえる。
 けっしてテクニック的にうまいヴォーカルじゃないのに。演奏も、どっかドタバタしてるのに。GbVのアルバムの中で聞いてると、ときどき「この曲はこのアレンジにこの演奏で、こんなヴォーカルじゃなきゃ魅力が十分でないよな」って思う一瞬がある。この曲もそんな一曲。GbVマジック・・・なのかなぁ。  

8)The Ugly Vision

 気だるげに歌うヴォーカルを、アコギのアルペジオ(センター)とふわんと伸びるエレキギター(左チャン)と、ひしゃげたピアノ(右チャン)でもってささえる。
 簡素なアレンジが、曲に緊張感を与えている。
 そう、テンポこそスローだが、テンションがぴりっと張りつめている。
 中盤のアコギのブレイク一発で、曲の雰囲気ががらりと変わる瞬間が、とてつもなくかっこいい。

9)A Good Flying Bird

 スプラウトのペンによる。せわしないエレキのコードストロークが煽り立てる。この曲もメロディがとてもキャッチーだ。
 コーラスの「ヤー!ヤー!」ってフレーズ。なにげないアレンジなのに、とてもしっくり雰囲気にはまり込む。
 ふっと気がつくと、この曲での楽器はエレキギターを二本(かな?)重ねてるのみ。あとは多重録音のコーラスがふくよかに包み込んでいる。

10)Cigarette Tricks

 作曲クレジットはGbV名義。バンド単位でぐしゃっと始まって、billyの綴りを教える歌詞をせわしなく歌って、20秒も立たずにめちゃくちゃあっさり終わってしまう。作曲の必然性も収録した理由もさっぱりわからず、「おいおい・・・ちょっと待ってよ」って頭をひねってしまう。でも、とっても軽快な小品で、インターバルにはピッタリ。

11)Pimple Zoo

 前触れなくノイジーに重たく始まり、盛り上がりかけた瞬間にアコギのコードストロークで、風景がさわやかに変わる。そして同じフレーズをエフェクトをかけた音像で繰り返し、あっさりと消え去っていく。
 ひとつのメロディを二種類のアレンジで演奏し、あっさりとまるめこむ小曲。 

12)Big Chief Chinese Restaurant

 調子っぱずれのヴォーカルで始まる。アコギとエレキの対照的な絡みがかっこいい。まるで吟遊詩人の歌うサーガのワンシーンからぬきとったような感じ。
 ちょっと盛り上がりに欠けるかなあ。アレンジの雰囲気はいいのに。

13)Closer You Are

 飾りっけのないバンドサウンドで盛り立てる曲。メロディはそこそこキャッチー。もう一歩だけ突き抜けるところがあれば、とんでもない名曲になってたと思う。突っ走りたくなる気持ちをぐっとこらえ、懸命に足踏みしてるような雰囲気。

14)Auditorium

 二つのヴォーカルが、ハモるというより絡み合ってよじ登っていく。ほんの少し音が外れた印象あり。ひずんだギターと、規則的にリズムをいらいらと刻むベースのもこもこ感が、この曲の特徴だ。
 メロディもアレンジも、決して耳に心地よくはないのに。なぜか耳を捉えられて惹かれる魅力がきっちりある。

15)Motor Away

 ぐしゃっとひしゃげた音で始まるアップテンポの佳曲。ヴォーカルはくっきり録られていて、バックの音との対比も面白い。
 メロディはしょっぱなからかなりポップ。ダブル・ヴォーカルの微妙なピッチの揺れが生み出す、微妙な厚みがいい。
 GbVにしては長めといえる2分位の曲だけあって、構成はしっかりしてる。
 でも、エンディングは歌いっぱなしって感じで放りだしてしまうけども。
 ちなみに、シングル・カットもされている。

16)Hit

 やけに性急なヴォーカルのテンションに引きずられて聞いてしまうが、あっさり20秒で終わってしまう。エコー感を生かしたサイケなアレンジだ。

17)My Valuable Hunting Knife

 ドンカマのおもちゃみたいな音が印象的。その他の演奏はファズを効かせたギターとリズムギターのみ。
 その上をかろやかにヴォーカルが弾んでいく。
 一聴してデモテープって感じがするのに。こうしてGbVのアルバムの中に収録されると、一種の完成品としての説得力を感じてしまうのはどうしたわけか。
 メロディはそこはかとなくポップ。聞いた瞬間じゃなくて、何度も聞くうちにじわじわと良さが染み込んでくるメロディだ。

18)Gold Hick

 30秒くらいで終わる。ギターとドラムでベートーベンの「運命」風のモチーフを提示したあとは、ヴォーカルがシュプレヒコールするかのように歌う。
 あんまりメロディを感じさせない。次の曲への橋渡しかな。

19)King And Caroline

 イントロななんかない。唐突に歌い始める。
 (12)と同様、歌物語の中から、ランダムにワンシーンを引っこ抜いたみたいな曲。つぎからつぎへとメロディが繰り出されて、発展していったまま収斂せずに終わっていく。
 ちょっとヴォーカルが荒っぽいのが残念。

20)Striped White Jets

 重たく引きずるイメージが全般に満ちているけど、暗くはないと思う。
 僕はこの曲の「シュシュシュ・・・」って歌っていくフレーズが、なんか気に入っちゃった。なんでだろ。他愛ないフレーズなのになあ。
 途中で、バンドの中で微妙にリズムが狂う瞬間がある用に聞こえるのは、僕の気のせいかなあ。
 そこの部分を聞くたびに「リズムは合ってるかな?」って緊張してしまう(苦笑)
 荒っぽくはあるけど、それなりにアレンジに気をつかってるみたい。

21)Ex-Supermodel

 いびきのSEを全面につかった曲。これが実にみみざわりだ(笑)
 ギターのアルペジオがきれいで穏やかだし、メロディもしっとりと歌い上げられる力強さがあるのに。
 単なるポップソングじゃ面白くないと思ったのか、いびき以外にもSEのノイズを裏っかわにふりかけ、調子っぱずれなコーラスで汚す。
 そのおかげで確かにこの曲には、みょーなイメージが付加されている。

22)Blimps Go 90

 シンプルな8ビートにバイオリン風のオブリガードが入る、オーソドックスなロックだ。(15)からずっとひねくれポップが続いていたから、最初のドラムを聞いただけでホッとしてしまう。
 メロディの繰り返しを強調させずに、長いひとつのメロディって感じで一分半強のこの曲を、最後まで歌いきってしまう。
 ロバートがメロディを思いつくままに、あっさりと一筆書きで作り上げたような感じだな。言い方を変えると、アレンジにメリハリがないせいでもあるんだけどね。
 どこかほのぼの感を感じさせるな。

23)Strawdogs

 トビンのペンによる曲。これがまた、かなり音がこもってる。
 宅録みたいに、音の上下をぶった切った音だ。まさに宅禄なのかもしれないけど。
 ダブル・ヴォーカルでもって、牧歌的になごむきれいなメロディを歌う。
 くっきりとしたアレンジで、きっちり作りこんで録音したらいい曲になるだろうにな。
 GbVの欲のなさがよくわかる一曲。

24)Chicken Blows

 しっとりとしたバラードなのに。水の中で録ったように、ぽこぽこ震える歌声が一筋縄ではいかないところを見せてくる。
 メロディは切なくて、やさしくて。とてもすばらしい。本アルバムの中でも一番だ。バックの演奏はゴテゴテと飾り立てず、ギターとドラムにベースの3リズム。
 このアレンジの中で、縦横無尽に多重録音のコーラスがかぶさってくる。
 さりげない「ウー・ラララ」ってリフレインすら、めちゃくちゃ感動的だ。
 今気がついたけど、もしかしたらエフェクターで震えるコーラスって、ビブラートのパロディなのかも。声を揺らせて感動的に歌おうと思ったけど、うまくいかないからエフェクト操作で遊んでみたのかな。 
 なにはともあれ、この曲は名曲です。それだけは強調しましょう。

25)Little Whirl

 この曲もスプラウトが単独で作曲している。
 ちょいとうわずるトビンのヴォーカルでもって聞かせる、楽しいロックンロール。
 小細工なしに、シンプルなバンド・サウンドをあっさりと提示してきた。
 コーラスが荒っぽいけど、そんなのは元気の源ってやつ。曲に見事にパワーを与えてる。
 まさにデモテープって感じだけども。きれいな音で録音したら、どんな曲になるか想像しながら聞いてみるといい。驚くほど魅力的な曲だって気がつくはず。

26)My Son Cool

 トビンに負けじと、お次はロバートがかましてくる。
 威勢のいいリズムにロバートの歌声が跳ね回る、気持ちいいロックンロールだ。
 高音のきれいなロバートのヴォーカルが、前曲の鼻にかかったトビンのヴォーカルと対照的になって面白い。
 メロディは小粋で可愛らしい。でも、冒頭に「decide now!」って叫ぶ、ロバートの高音が一番聞いていて気持ちい瞬間だなあ。

27)Always Crush Me

 微妙にドラマチックで、どこか不穏な空気が漂う曲。
 執拗にリズムを刻むギター(・・・かなあ?楽器がよくわからない)をバックに歌うけど、エコーを聞かせたり、まったくフラットにしてみたり。
 ヴォーカル・エフェクトが飽きさせない面白さ。
 なんとなく、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」を思い起こさせる。
 
28)Alright

 最後にたっぷり、しっかりした音で演奏を聞かせてくれる。
 ハイテクニックの生み出すスリルはないけれど、オーソドックスに刻むリズム隊にギター二本がからんで浮かび上がっていくさまは快感だ。
 ラストでギター一本になり、ぼそぼそと加工された音で喋りを入れてあっさり終わる。
 最後まで一筋縄では行かない、GbVのこだわりってやつかな。

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