Guided by Voices
Be thousand(1994:Scat/Matador)
Robert Pollard - guitar & vocals
Tobin Sprout - guitar, keyboards & vocals
Jim Pollard - guitar
Mitch Mitchell - guitar
Dan Toohey - bass
Kevin Fennell - drums
with
Don Thrasher - drums
Greg Demos - bass & guitar
総収録時間は36分36秒。ところが全20曲。GbVの7枚目のアルバムになる「ビー・サウザンド」は、彼らのパワーを、んぎゅっと凝縮した一枚だ。
今回のメンバーチェンジで、ミッチやケビンも復活。初期のGbV主要メンバーが再び集合した。
録音はあいかわらずの手作り状態。音がこもるわ割れるわ。だけどこのころのGbVになると、そのローファイを逆手にとって、曲のアレンジの一要素まで昇華させているように聞こえる。
彼らも、レコーディングになれてきたんだろうか。まあ、あんだけ山ほど録音してればなれるのはあたりまえか。
ジャケットもアイディアいっぱい。僕が持ってるのはCD盤だけど、一曲一曲に写真やらイラストやらの、それぞれの曲を象徴する(・・・かなあ?)カットがデザインされている。
別に彼らの専売特許のアイディアじゃないが、ロゴ風の可愛らしいカットから、ヒプノシスを思い出す奇妙な味わいの写真まで。見てるだけで面白い。
ちなみに、ジャケットの片隅に「11曲目と16曲目のクレジットが違う。本当はスプラウトの手によるもの」ってな記述がある。たんなるクレジットミスを訂正したコメントならいいんだけどもね。
このころから、GbVのリリースラッシュが始まってくる。
前作のアルバム「バンパイア・オン・タイタス」からこのアルバムまで、ディスコグラフィーによればEP4枚、スプリット・シングルを2枚を、さくっとリリースしている。
このアルバムは、とにかくポップだ。GbVの入門盤にピッタリかもしれない。シンプルなアレンジで魅力的な歌が次から次へと溢れ出してくる。
<曲目紹介>
1)HARDCORE UFO`S
まずは「レッド・ルーム」と題された8曲から。
ゆったりとしたギター・リフに、心音のようなスネアがからむイントロに続き、ダブル・ヴォーカルの歌が始まる。
中盤でうにゅっとテープ編集がされて次のメロディにつながっていく。UFOとの出会いを書いた歌詞だから、宇宙人と接触した瞬間の表現を狙っているのかも。
後半のアレンジは、ハイハットを連打するかっこいいロックンロールに切り替わる。一見ひょうひょうとしていながらも、曲自体にパワーがある。
2)BIZZARDS AND DREADFUL CROWS
ちょっと調子っぱずれ風なメロディで始まる。
バンドが一体になったシンプルなアレンジに乗って、のびやかなメロディが展開していく。ロバートの、ところどころかすれながらシャウトする歌声もいい。
3)TRACTOR RAPE CHAIN
リハーサルの録音(エレアコのためし引きや、ドアの開閉音が聞こえる)のようなイントロからカット・アップして曲になだれ込む。
テンポはゆったりしているが、メロディがとてもポップだ。
サビでロバートが叫ぶ瞬間が大好き。
コード・ストロークを多用したギターが壮大な風景を作り出す。グライダーに乗って空を飛ぶような、開放感を味わえる一曲だ。
4)THE GOLDHEART MOUNTAINTOP UEEN DIRECTORY
ここで雰囲気を変えて、ロバートがアコギによる弾き語りで歌う。
低音を前面に出した陰鬱なアレンジ。もっともメロディはさりげなくポップ。
ところが、この曲はアレンジがにくい。
一通りのフレーズを歌い、ゆっくりとギターのテンポが下って、終わると思いきや。
トビンが加わって迫力のあるフォーク的なハーモニーを聞かせる。
「フー、フー」と裏でリズムを取るノイズ(空き瓶を口で吹いているような音)が魅力をこの曲に付け加えている。
5)HOT FRAKS
じりじりとしたイントロで姿勢を低くした曲。ヴォーカルはラップ風に歌い、サビで絶叫する。エコーが聞いた中でのシャウトがかっこいい。
多少盛り上がりに欠けるけども・・・。
6)SMOTHERED IN HUGS
暗い感触のメロディで歌い始まるが、サビになると微妙にイメージが明るく変わる。スケールが大きくて懐の拾い、ゆったりした雰囲気が落ち着ける。このアルバムでは長い部類にはいる約3分の曲。
7)YOURS TO KEEP
前曲のフェイドアウトにかぶさって、静かな場面に切り替わる。
アコギの弾き語りで、そおっと歌う。アルバム構成から見るとペースチェンジにピッタリの小曲。
ひとつのメロディだけを2回繰り返してさりげなく歌うだけ。
アクセントを効かせたアコギのバックが、不安感を誘った。
そして、前触れもなくいきなり次の曲に切り替わる。
8)ECHOS MYRON
「レッド・ルーム」最後を飾るのは、この軽快なロックンロール。
サビでさらっとブレイクする瞬間がかっこいい。
ちょっと切れが悪いけども、開放感にあふれてる。
GbVのお家芸である、きれいなメロディを無造作かつ贅沢に詰め込まれて、とびきりの魅力で輝いてる名曲だ。
9)GOLD STAR FOR ROBOT BOY
ここからは「ブルー・ルーム」の始まり。こちらもアップテンポのギター・ロックだ。イントロの前置きをほとんどおかずに歌い始める。
ところがギターのミックスのでかさで、ヴォーカルがちょっと隠れ気味になってて残念。
この曲もいくつものメロディが盛り込まれてるけども、曲のイメージがしっかりしているせいか、曲全体の統一感がしっかり構築されている。
10)AWFUL BKISS
こんどはトビンの筆による曲。アコギの弾き語りながら、トビンの持ち味が生かされている。短編小説を読んでいるかのように、曲がきっちりまとまっている。ロバートは曲を溢れ出させる才能があるから、一筆書きのように書いてほおり出すところがままある。だけどトビンの場合はきっちり作りこむ場合が多いので、聞いていて危なげない。
この曲も、後半のコーラスも含めてアレンジを練りこみ、安心して聞ける一曲だ。
11)MINCER RAY
ちょっとピントがボケてしまってるかな。盛り上がるかな?と期待をもたせたまま、メロディが繰り返された挙句に終わってしまう。もどかしくなってしまう一曲だ。
そのわりに2分半くらいある曲だから始末が悪い。
他のミュージシャンなら2分半なんてたいしたことない長さだけど、GbVの密度の濃い曲を聞いてると、体内時計がくるってきて2分でもめっちゃ長く感じてしまうから。
12)A BIG FAN OF THE PIGPEN
またもやアコギをバックにした一曲。バンドサウンドでぎっしりメロディを詰め込んだ曲もいいけど、こういうさりげない小品もいい。
この曲ではヴォーカルにエフェクトをかけて、ひしゃげた声で歌っている。
サビでシャウトするところがかっこいい。
エンディングになって、唐突なギターソロが入る。このわけのわからなさに苦笑して許してしまうようになったら、もうあなたもりっぱなGbVファンだ。
13)QUEEN OF CANS AND JARS
ロバートのまずいところが出てしまった一曲。メロディが思いついた瞬間をぎゅっと捕らえて作曲した感じが伝わってくる。特に盛り上がりがなく、大きな固まりをざくっと切り分けて抜き取った感じがする、ちょっと中途半端な曲。
メロディがあと一歩魅力があれば、違う風に感じるんだろうが。
14)HER PSYCHOLOGY TODAY
作曲がGbV名義の小曲。リズムボックスのような冒頭のタムや、中盤のハイハット(?)がとてもかっこいい。でも、これって手弾きなんだろうか。前後の彼らの演奏を考えると、こんなに演奏がうまいわけはないと思うんだが・・・(失礼)
もしかしたら、テープ速度をかえて録音したのかも。
コラージュを駆使して、まったく違う雰囲気の複数の曲を、強引に一曲にまとめている。
15)KICKER OF ELVIS
今度はロバートのペンによるアコギの弾き語り曲。バスドラがアクセントをつけてるけど。
トビン作曲の「AWFUL BKISS」と聞き比べると、それぞれの作曲に対する姿勢のくっきりとした違いがわかって面白い。
この曲はメロディに力があるから、散漫な印象は感じさせない。
聞いていてびっくりしたのが、アレンジの巧みさ。
CDでこの曲だけをリピート再生するとよくわかる。
アップテンポから終わりに行くにしたがってテンポが落ちていき、次の曲に自然につながっていく構成なんだけども。
最後のアコギのアルペジオがおわり、CDが曲の頭にリピート再生で戻ると、冒頭のアコギによる「ジャーン!」ってコード弾きに見事につながる。
この曲紹介を作る関係で、リピート再生していて気がついた。
そのままぐるぐるリピートさせて、ずっと聞いていたくなる。
16)ESTER`S DAY
この曲もリズム隊抜きで、アコギとエレキのギター二本が伴奏だ。
冒頭のファズギターに乗った語りからブチッと切り替わり、きれいなハーモニーの歌に引き継がれる。
右チャンネルで小さめに自己主張する、エレキギターの音がこの曲にアクセントをつけている。
少々捕らえどころのない一曲ではあるけども。
17)DEMONS ARE REAL
この曲もGbV名義。左チャンネルの鳥笛(?)の音が面白い。きしむような音が無造作に曲に挿入されて、この曲に緊張感を与えている。
一分足らずで終わってしまい、メロディは歌いっぱなしでほおりだされる。
18)I AM A SCIENTIST
シングルカットもされた一曲。滑らかに口ずさむメロディがきれいだ。アレンジもよく練られていて、ブレイクを巧みに使って贅肉を削ぎ落とし、間を生かしたシンプルなもの。
ここまで作曲を練りこんだ曲ばかり集めてアルバム一枚をじっくり作ったら、彼らは天下を取れると思う。
だけど、そうせずに思いついた曲を片っ端からつるべ打ちするのが、GbVのいいところでもあるんだけど。
19)PEEP-HOLE
ロバート作による、アコギをなぐり弾きして歌う曲。なぜ前曲の続きにこういう、荒っぽい未完成風の曲を持ってくるのやら・・・。
ロバートの高音を張るところのかっこよさで聞いてしまうけども。
いまひとつ、すっきりしないで終わってしまう。
20)YOU`RE NOT AN AIRPLANE
曲によってはきついことも言ったけど、僕はやはりこのアルバムは傑作だと思う。
そしてこのアルバムのトリを取るのは、トビン作曲のこの曲だ。
げしゃげしゃにひしゃげたピアノの弾き語りで始まる。
多分、トビンの自宅録音だろう。このときはっと気がついたが、アルバムにキーボードの音がまったく入っていないので、この曲でのピアノの音がとても新鮮だ。
30秒足らずのあっさりした曲。もっともっと膨らみそうなメロディを強引に切り落として終わらせたかのようだ。
ラストのブチッというテープレコーダーを止める音を、無造作に残しているところが印象的。