Guided by Voices

MAG EARWHIG!(1997:Matador)

Robert Pollard - vocals, electric & acoustic guitars, piano, lead guitar on 6 & 15, drums & casio on 1, casio on 2
Doug Gillard - electric & acoustic guitars, nylon 6-string, backing vocals, bass, lead guitar on 3,5,12,17,20-21
John Petkovic - electric guitars, synthesizers, backing vocals, lead guitar on 13
Don Depew - electric guitars, bass, synthesizers, organ & backing vocals
Dave Swanson - drums, maracas & backing vocals
with
Mitch Mitchell - bass on 9,12,13 & 20, guitar on 18
Tobin Sprout - bass, electric slide lead & backing vocals on 18, lead guitar & drums on 6, acoustic guitar & casio on 7, backing vocals on 1
Kevin Fennell - drums on 8,15 & 18
Johnny Strange (John Shough) - bass on 2,14 & 15, programming on 2 & 14
Jim Pollard - bass & guitar on 6, casio on 1 & 4
Joe Buben - drums on 2
Chad Stanisic - organ on 5
 
 本アルバムでも、メンバー・チェンジは当然のごとく行っている。
 しかし、今回のアルバムでのメンバー・チェンジは今までのアルバムとはちょっと違う。
 コブラ・ヴェルデのメンバーに、ロバートがくわわった形。これまでおなじみGbV関連のメンバーと、決別した形の新生GbVだ。

 もともとバンドとして成立していたコブラ・ヴェルデをまるごと、持ってきたリズム隊のせいか、音に統一感がある。いつになくバンドっぽいサウンドになっている。
 ちなみに、このアルバムの音源すべてを新生GbVで作ったわけでなく、トビンやケビンのような過去のGbV仲間もゲスト扱いで、何曲かに参加はしている。

 アルバム収録曲はバラエティに富んでいるものの、基調はサイケだ。
 切れのいいギターにヴォーカルがからみ、時にエコーがふんわりとかぶさっていく。
 全体にヌケのいいマスタリングなのかな。音の粒がよく聞こえて楽しい。

 このアルバムはりリース前の仮題として「Submarine Pirate」、「Do The Collapse」、「Black Ghost Pie」などと呼ばれていたらしい。次のアルバムの正式タイトルになる「Do The Collapse」までが、すでに仮題として揚げられていたようだ。
 また、ジャケットのコラージュもロバートの手によるもの。

 このアルバムを最後にGbVはマタドールとも決別して、メジャーとの契約に進んでいく。
 だからGbVの歴史においても、このアルバムは貴重なターニング・ポイントにあたるアルバムだろう。
 そして、そんな分岐点にふさわしく、見事にまとまりあるアルバムになっている。
 別に意識したわけじゃないだろうけど。「有終の美」って言葉を感じてしまう。

 <各曲紹介>

1)Can't Hear The Revolution

 アルバムの開始にふさわしい曲。
 パワーを抑えたアレンジで、おごそかな雰囲気をかもしだす。
 語りを交えたヴォーカルはあっさり終わり、あとはギターのロングトーンでテンションを次第に高めていく。
 そして、次第に駆け上がり流れだす・・・次の曲へと。

2)Sad If I Lost It

 冒頭は静かなつぶやく歌声で始まる。
 そのままワンコーラスはおとなしく続いていくが、2コーラス目のサビからフワンと浮き上がる。
 まだまだパワーは押さえ気味。だけど、サビのきれいなメロディが耳に染み込んでくる。 

3)I Am A Tree

 とにかくイントロのギターリフがかっこいい。
 これはダグのペンによる曲。リフの作曲もダグなのかな。
 アップテンポのうきうきするロックンロールだ。
 最初のメロディの歌声に元気ないのが残念だけど。
 サビの部分で、声をそろえて歌うところもいかしてる。
 ちなみにこの曲は、シングルカットもされた。

4)The Old Grunt

 響きを生かしたアコギの弾き語りではじまる、息抜き風の曲。
 中盤でエレキギターをかまして、にぎやかしはするけれど。
 あくまで、静かにエコーを効かせる深みのある曲。

5)Bulldog Skin

 この曲もシングルカットされた。
 けだるげなヴォーカルにあわせて、演奏もノリを後ろにだらりと引きずり気味。
 サビのフレーズのハーモニーがとっても気持ちいい。
 演奏はタイトじゃないのに、不思議と耳が引き寄せられていく曲。
 もっともっと盛り上がって欲しいのに、あっさりと終わってしまうのがくやしい。

6)Are You Faster?

 ポラード兄弟とトビンのペンによる曲。
 サイケな雰囲気が充満する。最後のエコーまみれのシャウトがかっこいい。
 一分強のあっさりした曲だけど、どういうふうな分担で作曲した曲なんだろうなあ。
 ばらばらであってない脱力コーラスも、またよし。
 いや、よくはないんだけど、なぜか「この曲はこのコーラスでいいかな」って説得力を感じてしまう。変な話なんだけどね。

7)I Am Produced

 続いては、トビンとロバートの共作。雰囲気は前曲に酷似している。
 そのまま前曲からメドレーで続けて、一曲にも構成できたんじゃないかなあ。
 もっとも、こちらのコーラスはピタリとあっている。
 声をそろえて「I am produced」と歌うハーモニーが魅力的だ。

8)Knock 'Em Flyin'

 ふたたび特徴のあるギターリフで聞かせる曲。
 歯切れのいいメロディもさることながら、この曲はギターのフレーズがいいなあ。
 ぷりぷりと弾力ある音で、曲の雰囲気をもり立てている。
 この曲は、2分足らずの曲の間で、リズムパターンがころころ変わる、練られたアレンジ。そのめまぐるしさを楽しめる。

9)Not Behind The Fighter Jet

 冒頭はあまり工夫なしに始まるけれど、サビのメロディが素敵だ。
 はじけずにパワーを抑えたまま、最後まで行ってしまうのが欲求不満だけれども。
 もっと威勢良く演奏してくれたら、めちゃくちゃかっこいいだろうになあ。

10)Choking Tara

 エレアコ(かな?)の弾き語り。曲の雰囲気は、物語の一部を切り取ったかのように聞こえる。ロバートの喉から次々ときれいなメロディが溢れ出し、流れ去っていく。
 ロバートのメロディメイカーぶりがよくわかる佳曲。
 さらに、きれいなメロディを膨らませずに、惜しげもなく歌いっぱなしにしてしまう、ロバートの贅沢さも味わえる一曲とも言える。

11)Hollow Cheek

 お次はピアノの弾き語り。ただ、ピアノはフレーズを弾くのでなく、ちょっと濁った音色で、雨だれのように隙間を強調したアレンジだ。
 切なげな雰囲気だけど、センチメンタルに流れずに、あくまでクールさをたもっている。
 イントロもなしに歌いだし、あっというまに終わってしまう、30秒強の小品だ。

12)Portable Men's Society

 ゆったりとしたテンポで曲がたゆたう。
 ギターが左右のチャンネルで、フレーズを浮かび上がせたり消えていったり。
 くっきりめにミックスしているので、個々の楽器の役割をよく聞き取れる。
 ギターもベースもドラムも、くるくると回転しながら曲をつむぎ上げている。
 そんなしっかりとしたアレンジが、メロディを力強く支えている。
 しかも、この曲はメロディがとてもかっこいい。長めの音譜を駆使して、大サビでバックの演奏にぷっかり浮かぶフレーズが大好き。

13)Little Lines

 イントロを聞いていて、緊張感が漂ってきた。
 右チャンネルで、ギターがきりきりとリズムを刻む。
 歌声は淡々としつつも、抑えたパワーを感じるのは気のせいかな。
 さりげないメロディだけど、コーラスを交えたサビの部分は、かなりかっこいい。
 曲の終わりで、シンセっぽい金属的な音が浮かび上がってくる。

14)Learning To Hunt

 前曲で聞こえてきたノイズは、そのままイントロに引き継がれて、アコギの爪弾きがかすかにかぶさる。
 つぶやくヴォーカルはエコーをモヤモヤかけて、サイケ感を強調したアレンジ。
 単純に演奏すれば、ありふれたフォークソングっぽい小品になるかもしれないけれど。このアレンジが、個性をこの曲に与えている。
 この曲にも、簡単にリラックスさせない緊張感があっていいな。

15)The Finest Joke Is Upon Us

 引きずるようなリズムが印象的な曲だ。4リズムがそろって、けだるげなムードを演出する。
 3分近くに渡って、このムードを繰り広げられると、ちょっと緊張感がつづかないなあ。
 単純に曲のよしあしだけを言うならば、もっとテンポを上げても曲を支えられるだけのパワーはあるメロディだと思う。
 この曲の雰囲気に身を任せれば、うっとりできる曲だと思う。

16)Mag Earwhig!

 「うぁ〜ん」って響くノイズがリズミカルに繰り返され、曲のいいアクセントになっている。
 あとはたんたんとリズムを刻むアコギが二本。
 メロディは力任せに詩を読み上げていき、ああっというまに30秒で終わってしまう。
 アルバムのタイトル曲なのに・・・まるでジングルだなぁ。

17)Now To War

 この曲でも、アコギ二本によるイントロではじまる。演奏はとても柔らかい。
 メロディが移り変わる雰囲気がとても素敵だ。
 中盤で「ぶぉ〜」ってうなるノイズも、妙に耳に残る好きな音だ。
 アレンジは最後までシンプルなままだけど、歌声にとっても力強さを感じる。別にいばったり、力んだりしていない歌いかたなのに。
 背筋をぴんとのばしているように聞こえる。

18)Jane Of The Waking Universe

 サビで浮かび上がるメロディがいかしてます。サビに入ったとたんに曲の表情が、がらっと変わる瞬間は快感だ。
 特別かわったアレンジはしていない、ありふれたギターポップ。
 なのに、きれいなメロディのパワーだけで、こうも曲の雰囲気を変えられるのか・・と驚いてしまう。
 曲調自体は、ちょっとエコーをかませてサイケ風味をぱらぱらってところかな。

19)The Colossus Crawls West

 ドローンのようなノイズにのって、静かにギターの弾き語りが始まる。
 だけど、単純な弾き語りで終わりやしない。
 中盤でギターをかき鳴らし、煙に包まれて夢の中みたいなイメージで歌う。
 歌うだけ歌って、唐突にアレンジをアコギの弾き語りに戻し、強引に終わらせてしまうのが、なんともはや・・・。

20)Mute Superstar

 アルバムも終わりに近づいたというのに、まったく気にせずにバラエティ豊かに曲を演奏する。アルバムの構成(曲順)のセンスがよくわからない・・・。それなりに考え抜いて、ロバートの頭の中では一貫性が成立してると思うけどなあ。
 この曲はパンキッシュに突っ走っていく。そのまま終わったら、捨て曲のように終わってしまったかもしれない。
 だけど、サビのシンセ風のきらびやかなギターに包まれた、みずみずしいメロディときたら!
 めちゃめちゃかっこいい。このメロディがあるだけで許せてしまう。

21)Bomb In The Beehive
 
 アルバムの最後を飾るのは、威勢のいいギター・ロック。
 スティックのカウントが珍しく入り、爽快にギターのリフが駆け出していく。
 曲を引っ張っていくのは、完全にギターだ。
 ドラムも最初はポイントに、フィルを入れるだけ。
 メロディがちょっと力不足なのが難点だけど。
 でも、シンプルでいい曲じゃないかな。

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