Guided by Voices
Under the Bushes Under the Stars(1996:Matador)
Robert Pollard - guitar & vocals
Tobin Sprout - guitar, bass, keyboards & vocals
Kevin Fennell - drums
with
Jim Pollard - guitar
Mitch Mitchell - guitar
Greg Demos - bass
Jim Greer - bass on 5,17,19-23
Tripp Lamkins - guitar on 5
John Shough - piano on 12
Shelby Bryant - strings on 17
メンバー交代は頻繁に繰り返していたGbVだが、このアルバムがある意味では第一期GbVの終焉となる。
これ以降のアルバムでは、トビンもミッチもケビンもジムも、バンドの正式メンバーからは外れてしまう。
次作ではコブラ・ヴェルデとこのアルバムまでのメンバーが混在した連合軍、そして「DO
THE COLLAPSE」からは、GbVは次のステップに進んでいく。
とまれ、このアルバムの紹介をしたい。
未発表の段階では、仮題で”Flying Party Is Here”や”World
Series of Psychic Phenomena”などと呼ばれていたようだ。
僕はこのアルバムが一番思いで深い。
レコード屋で新譜紹介の視聴コーナーをひっくり返していたとき、偶然耳にしたこのアルバム。
最初は大して期待もしていなかったけれど、家で聞いてみて夢中になった。
録音こそぼろぼろだが、溢れ出す魅力的なメロディに惹かれ、次の日からレコード屋をあちこち探し回ったものだ。しばらくの間、なんにも入手は出来やしなかったけれど。
前後のアルバムを聞いていて感じるのは、この「Under
the〜」はアレンジがよく練りこまれているなあ、ってこと。
もともとロバートは、思いついたらほぼワンテイクで録音を繰り返しているらしい。過去のアルバムでも、そのスタンスが頷ける荒っぽい曲はいくらでもあった。
だけど、このアルバムは違う。
ギターもベースもドラムも、自分の役割をしっかり把握した演奏をしている。
もう、このころにはGbVのメンバーを大幅に変える心積もりが、ロバートの頭の中にはあったのかな。
トビンやミッチらと作り上げてきた、GbVの音楽性をとことん昇華させた、すばらしいアルバムだ。
<各曲紹介>
1)Man Called Aerodynamics
アルバムの口火を切るのは、アップテンポのこの曲。前触れなくいきなりサウンドが飛び出してくる。
ドラムもベースもギターも一丸となって、畳み掛けていく。そのバックに乗って、ひとつひとつメロディを確かめるかのように歌っていくロバート。
浮き立つメロディがとてもきれいだ。
2)Rhine Jive Click
スピーカー全体を埋め尽くす前曲のサウンドとは一転して、パーカッションとギターによる間を生かしたイントロだ。さりげない「ウーッ」ってコーラスの入り方が、練りこまれてるなあ。
メロディはちょっとぼやっとしてるかな。
わずかにリタルダンドしていって、余韻を期待させて終わる。
3)Cut-Out Witch
静かに、おずおずと探りながらフレーズを弾き始め、次第に加速していくイントロからスタート。バックの音に多少埋もれつつも、クールに、しかしパワーを秘めて歌う。
空白を生かしたアレンジだ。バンドが爆発する瞬間がかっこいい。
4)Burning Flag Birthday Suit
ギターとベースとヴォーカルが絡み合ってひとつの曲をつむぎあげていく。
チェンバロっぽいキーボードがアレンジのアクセントだ。
スローテンポで、やけくそ気味にがなりたてる。
イントロのがりっとしたギターに、後半のひずんだギター。そしてコーダのエレアコによるコードストローク。三種類の音色を使い分けたあたり、小技が効いている。
5)The Official Ironmen Rally Song
思えば、ぼくはこの曲に惹かれてGbVのファンになった。
ゆったりとしたテンポにのってしゃがれ気味の声で語りかけ、サビで高く歌いあげる。
きっちりと纏め上げたバンド・サウンドが、まずすばらしい。ドラムもベースも、この曲の構成要素としての自分のポジションをしっかり理解して演奏している。中盤のギターソロも、テクニック的には耳を引きやしないけれど、曲にピタリと合いつつ、アレンジが単調になるのを防いでいる。
メロディは朴訥といってもいい。二つのメロディが交互に繰り返されているだけだ。
だけど、あらゆる要素が組み合わさって、ひとつの名曲を作り出している。
ヴォーカルだけじゃない。バンド演奏だけでもない。録音もミックスもすべて含めた総力戦で、考え抜かれた曲を作り上げている。
僕がGbVに惹かれた要素の一つが、このさまざまな要素をぐしゃっと纏め上げる構成力の確かさだったのはまちがいない。
ちなみに、この曲はシングル・カットもされている。売れたかどうかはよく知らないけども。
6)To Remake The Young Flyer
トビンのペンによる、切ないメロディにあふれたスローテンポの曲。
エレキギターのゆったりしたフレーズが耳に残る。この曲も、ドラムがかっこいいなあ。そんなにとっぴな叩き方はしてないけど。
でも、つぼを心得たドラミングだと思う。
7)No Sky
メロディはポップだけど、妙にクキクキひねってるところが、いかにも一癖あるGbVの曲だ。
ドラムとギターのコンビネーションが、ひっかかるリズムを提示する。
8)Bright Paper Werewolves
アコギの弾き語り。ちょっと音がこもってるのが残念だけど、甘いメロディをとつとつと歌い、サビで激しく歌い上げる。
感触はあくまでフォーク。とはいえ曲の後半では、一瞬バンド・サウンドが炸裂したかに錯覚した。ヴォーカルのパワーがみせたマジックだろう。
9)Lord Of Overstock
息を抜いて、けだるげにリズムを引っ張る曲。ロバートはこの曲ではヴォーカルをはじけさせずに、最後まで力をためて歌い通すのがものたりないなあ。。
ルーズな感じだけど、この曲もアレンジはまとまってる。
10)Your Name Is Wild
この曲では、エフェクターまみれのギターが鉄の壁になって曲をおおってしまう。
リードをつとめるトビンは、メロディをそっとやさしく歌っていく。後半のロバートとのデュオも、さわやかでいい。ミックスがこもってるのが残念。
アコギの弾き語りで甘ったるくアレンジせず、無機質なギターで異物感を挿入するセンスはさすがだ。
11)Ghosts Of A Different Dream
元気が出てくる軽快なリズムのロックンロールだ。弾むメロディが聞いていてわくわくしてくる。細かく波打つギターのフレーズが特徴かな。これといって目立つフレーズはないけども、曲全体がきっちりまとまったかっこうの、魅力的な小品だ。
12)Acorns & Orioles
シンプルなアコギの弾き語りで歌いはじめる。この曲のポイントはエコー。薄くかけられた純粋なエコーだけでなく、かすかに音像を包み込むギターノイズのかっこよさときたら・・・。
後半でドラムが加わる瞬間のエコーもいいな。
そして、この曲のエンディングの薄いエレクトロ・ノイズが、掛け橋になって次の曲へと続いていく。
13)Look At Them
ガガガガガッってギターリフが、さまざまな音色のギターで奏でられる。時に激しく、時にやさしく。そのアレンジの妙味を楽しめる曲だ。
ヴォーカルはソフトに、しかし毅然と歌う。そしてサビでは高く叫ぶ。
とはいえ、激しさのあまり崩れるようなことはない。あくまで節度を持って立ち位置をしっかり定めたスタンスで歌っている。
この曲の通奏低音となっているのは、前曲から続いているエレクトロ・ノイズ。つねに存在をかすかに主張しつづけるこのノイズが、曲への緊張感を植え付けているようにも聞こえる。
そのうえ、このノイズはまだ消え去らずに、次の曲へも踏み込んでいく。
14)The Perfect Life
トビンの曲。とはいえ、前曲から引き継いだエレクトロ・ノイズをバックに、ひしゃげたピアノとわずかなノイズをオーバーダブした、環境音楽風の一分程度になる小品だ。
足掛け3曲にわたって存在を主張してきた、エレクトロ・ノイズに敬意を表し、スピーカーの彼方へノイズを消し去る儀式のための曲、ってところかな。
15)Underwater Explosions
少々もったりしたところがあるものの、一歩一歩着実に進んでいるところをみせるギター・ロックだ。サビでコード変更した瞬間の、音像の開放感が好き。
ちょっとブーストされたコーラスで歌い上げて、盛り上がるかな?と思わせておきながら、あっというまに終わって拍子抜けしてしまうのが苦笑もの。
16)Atom Eyes
またもやトビンの曲。こんどは(14)と違って、くっきりしたメロディのポップ・ソングだ。
ギターの音が大きめにミックスされててヴォーカルが隠れ気味なのと、トビンの歌い方が朴訥になってしまう瞬間があるのがちょっと残念。だって、こんなにきれいなメロディなんだから。
後半の多重ヴォーカルが、相当な厚みを感じさせていい。
二分弱ながら、そこそこきちんと構成して曲を終わらせる。
この構成への意欲がトビンの個性じゃないかなと思う。ロバートなら、やりっぱなしのほったらかしも平気でするしね。
17)Don't Stop Now
ストリングスの多重録音でもって、クラシックの室内楽風に格調高いイントロだ。
歌い始めるころには、ほかの曲と同様なバンド・サウンドになるけれど。
ポイントポイントでは、ストリングスが再度顔を出し、全体の雰囲気をやわらげている。
テンポはゆっくりめ。メロディも甘いし、つるつるのポップスになってもおかしくないのに。
歪ませたギターを大きめに中央へミックスし、あくまで緊張感を途切れさせないようにしている。
18)Office Of Hearts
リズムボックスで数秒ビートを聞かせて露払いをさせると、いきなり歌い始める。
アレンジのポイントがあいまいなのか、少々つかみ所が内局になってしまっている。
もっともメロディはしっかりしてるから、つまらない曲ではないんだけども。
19)Big Boring Wedding
モコッとしたエコー感の曲。リズムにいまひとつ覇気がないから、なおさらそう感じるのかな。
だけどこの曲は、メロディがやたらとかっこいい。
曲の前半は、暗くてあいまいなところがあるけれど。サビ前のフレーズでたたみかけ、じりりっと雰囲気が華やいでいく。
アレンジも地味だけども、3分以上とGbVにしては長めに、じっくりと演奏した曲だ。
20)It's Like Soul Man
このアルバムでは「Fluss」の変名で、かのスティーブ・アルビニが2曲をプロデュースしている。そのうちの一曲がこれ。トビンのペンによる。
上下の周波数帯をすぱっと切り落とされたかのように、ドラムが真綿で包まれたローファイな音像になっている。
音のヌケは悪いけれど、曲はいい。タイトルのわりに、あと一歩はじけずにおとなしく歌うから、欲求不満がたまるところもあるけれど、メロディは甘く伸びていく。
21)Drag Days
ギターリフがかっこいい、軽快な曲。ヴォーカルは抑え目にうたうが、サビでキーを上げてシャウトする。このパターンは個人的には大好きなアレンジだ。
へんな小技をつかわない、シンプルでまっすぐなロックンロールが楽しめる。
22)Sheetkickers
ポラード兄弟共作のこの曲も、(20)と同様にアルビニによるプロデュースだ。
ベースによる静かなイントロにのって、ヴォーカルがつぶやく。アレンジのパターンは、前曲「drag
days」と同様に、サビで音程をあげるパターン。
ただ、曲の印象は重たい。メロディもポップなのに、聞いていてほんの少し違和感がある。どこか引っかかるようだ。
中途半端にメロディを途切れさせ、ブレイクの後にギター・ソロがはじける瞬間がいい。
23)Redmen And Their Wives
ドラマチックな曲だ。
最初は静かな、あくまで静かな曲。盛り上がりを期待して聞いていても、テンションはずっと一定だ。ロバートの歌声は切なくノーエコーで響く。
だから、中盤にエコーを聞かせたギターがかぶるのがうれしい。
エコーをかけすぎて音が割れてしまっているのが、寂寞感を増す。
その後は次々に音がかぶさってきて、ふくらみを持ってくる。
どんなににぎやかに楽器がかぶさっても、最後まで切ない雰囲気を漂わせる、とってもいい曲だ。
さりげないターソロのフレーズが、体に染み込んでくる。
24)Take To The Sky
ヴォリュームたっぷりのこのアルバムをしめるのは、調子っぱずれにロバートがアコギを前面に出したお気楽なこの歌。
アルバムの完成度を高めさせるなら、前曲で終わらせたらずっと効果的だろう。
だのに、この曲を最後に持ってくるあたり。
何も考えていないのか、盛り上がった雰囲気をぶち壊して、気楽な雰囲気で終わらせたいのか。どっちもありそうだ。
メロディは盛り上がらないまま、酔っ払いのたわごとみたいな感じで終わってしまう。スタジオにビール持ち込んで録音してるらしいから、ほんとに酔っ払ってた可能性すらあるけれども。