Guided by Voices
GEM "Sunglare serenades"(Pitch-a-tent:2001)
Doug Gillard - vo,g,per
Tim Tobias - vo,g
Todd Tobias -
b,key,noises,per
Eric Vogt - ds,per,b-vo
George Collins - ds on 1,2,4,6,8,12
GEMはダグ・ギラードとトビアス兄弟が中心になったバンド。ドラマーもメンバーとしてクレジットされたるが、実際は半数の曲でゲスト・ドラマーを招く。つまり、よくわからない編成を採用した。
のちにGbVのレコーディング作業の中核となるトビアス兄弟だが、本作のスタッフ・ワークは別の人間に任せた。録音もミックスも担当していない。なおプロデュースはGEM名義。
アートワークのみトッド・トビアスが担当してる。
本作は彼らの2ndにあたる。前作は未聴で、音楽性がどう変わったかは不明。なんだか大味のロックンロールと、ポップスを混ぜた格好か。
バンド名義ながら、およそ肉体性を感じられないリズムだ。一人多重録音だったとしても、違和感ない。
グルーヴを意識せずに進めるのが彼ら流か。演奏テクニックの問題もありそう。いずれにせよ全てを多重録音で進めるスタイルを、ダグもトビアス兄弟も後に採用してるだけに、ついかんぐりたくなる。
2ndの本作が採用される前、"I Am A
Tree"と題されたEP盤をGEM名義でリリースした。
タイトル曲はのちにGbVでもカバーされた。
このEP盤のB面へ4曲が収録。そのうち、"Good
To See You","When They Pull You Out"のみを本作に再収した。
録音クレジットを見る限り、ほかの曲と特に違った場所やスタッフで録音じゃない。再録音かな?
もしかしたらそのEP盤のアウトテイクを本盤に集めた、というすさまじくうがった見方も可能だが・・・。
収録曲はギラードとトビアス兄弟がそれぞれ持ち寄った。ドラムの存在を無視した構成が気にかかった。ギラードとトビアス兄弟の立場は対等そう。
シンプルなロックを追及しがちなギラードと、ひねくれセンスが見え隠れするトビアス兄弟のとっちらかりが、かえって奇妙な味となった。両方のセンスが結実したのが(12)じゃないか。
ひとつのプロジェクトとして聴くには悪くないが、かなり密室性の強いバンド。病んだ空気がそこはかとなく漂う。
<全曲紹介>
1.Carcass and Crow
ドラムのビートにギターが絡み、バンド風に盛り上がるが・・・およそ一体感のない演奏が異様だった。
へたくそってわけじゃないと思う。ミックスのせいだろうか。
ボーカルの旋律はそこそこポップだが、呟き気味にけだるく歌われ、停滞した空気が漂う。
たとえばコブラ・ヴェルデみたいにシャウトしたっていいじゃないか。なぜこんなルーズな演奏にしたんだろう。
むしろ中盤でいきなり風景が変わるアコギのストロークのほうが好き。この場面へ移る開放感こそが、この曲の魅力でキモだろう。
作曲はギラード。ラストで延々ギターソロが続くが、いまいちトロい。複数のギターを重ねてるのかな?
2.Many Fanged Breezes
トビアス兄弟のペンによるロックン・ロール。
躍動感はあるものの、中央のドラムが遅れ気味で、右チャンネルのリズム・ギターとノリがあってない。
サビのちょいとひねるメロディへ、ちょっと耳を奪われるが・・・いまいち。
ニューウェーブ色が強い曲。ただしぼくはそのジャンルへの思い入れが薄いため、上手く評価できないのかもしれない。
後半で力強く動くベースのパワーはなかなか。
3.I Today
縦の線をがっしりそろえたロックを狙ったんだろう。ドラムがどうにも噛み合わない。
テンポを落として重厚さを望んだのかもしれないが、逆効果だろう。むしろカンカンにテンポを上げたほうがよかったのでは。
ドラムのリズム・センスがとにかく耳につくなあ。もっと演奏をタイトにしたら、ハードロックとしても、良くなりそう。
ギター・ソロの裏で、電子音を飛ばすセンスがいかにもトビアス兄弟らしい。
4.A Slow Crawl
この曲はすごく好き。本盤のベストだろう。サイケ・ポップの快演だ。
ファルセットを織り込んだ脱力ボーカルが、淡々とたゆたうバックの演奏にもはまってる。
作り物らしさがみごとにはまった一曲。トッド・ラングレンの影響を感じた。
やはりシンバルを叩くドラムのリズムが甘い。
しかしつたなさすらキュートな魅力に昇華された。
身勝手な感想かもしれない。でも、こういう曲はツボなんです。
エコー成分は控えめ。深くしたらいかれた感じが強調できて面白かったかも。
シタールのようにびよびよ響くエレキギターのソロに、なんとも時代を感じた。
後ろのハーモニーの投げやりぶりも含め、あんがいやっつけで作ったのでは・・・って気がしてきた。アルバム全体を通して、煮詰めが足りなかったのかも。
エンディングのギター・ソロは冗長気味。
5.Slow Recovery
ロックンロールの語法を採用するも、ファルセット気味なへろへろボーカルが乗って、おかしなテイストを醸しだした。
そこそこサウンドは一体感あり。バックの演奏がぐしゃっとまとまってるのに、ボーカルだけが異様なほどクリア。
個性もさほどないし、あまり熱心に聴けない曲だ。
6.Good to See You
甘酸っぱい60年代サイケ・ポップスの残骸がうかがえる佳曲。こういう曲を中心に収録したら、本盤は面白いテイストになったはず。変にロックンロールへ色気を出さなきゃいいのに。
これまたファルセットの脱力ボーカル。付点で音符が弾み、けだるいサウンドなのにウキウキさせる。
一本調子なバックの演奏も、ユニゾン進行で独特のノリを産み出した。
7.Time Was
イントロでのギター対話に爛れたポップスを期待するも、実際はドラムが賑やかに入ってロック調へスライドした。
メロディもシンプルだし、アイディア一発の曲かな。サビでぐっと音数を減らし、ギターとユニゾンで呟くアレンジはわりと好き。
シンプルな構成だけに、異様に長く感じる曲。
8.When They Pull You Out
こじんまりしたロックンロールがみごとに決まった。かっこいいぞ。バンドっぽく締まったアンサンブルも聴ける。ライブで映えそうだ。
シンプルなギター・ロックのアレンジ。こうなるといいボーカリストがほしいな。
ベースがぶいぶい細かい譜割で煽る。ギターは単純なストロークだが、ほかにギターを数本使ってバックを埋め尽くした。
9.J.H.-S.
一歩進んだポスト・ロックをイメージさせるアプローチ。ボーカルは低く語りを入れる。ルー・リードあたりを意識したのかもしれない。
イントロの組み立ては耳を引いたが、そのまま変化無しに進むのが惜しい。
ギターが響く心地よさが余韻で残った。ベースはここではあまり活動しない。
ドラムのリズムも悪くないな。ギラードの曲。数本を使ったギター・ソロも含め、自分をいかにかっこよく見せるかを考えた音楽だ。
アンサンブルはそれなりにまとまってる。
10.Ghostville Anyway
トビアス兄弟の曲。脱力系ロックの片鱗はあるものの、ずしずし叩くドラムが中途半端になった。
サビでのハーモニーの響きはきれいでいいのに。トビアス兄弟のねじったセンスは、バンドとかドラムとか決め事を意識しないほうが、自由に跳ねそう。
中盤のギターソロのふりしたフレーズが、一筋縄ではいかないセンスで面白かった。アドリブでのソロが必要でなく、譜面に書かれたリフで組み立てる才能はなかなかない。
・・・と褒めたくなったがゆえに、エンディング間際のギターソロが考えなしで残念だ。
11.Nothing but the Quiet Now
バラードだが、甘きに流れない。トビアス兄弟の曲。
ギターのアルペジオへ、ズレ気味なドラムが茶々を入れる。がたがたなアンサンブルが惜しい。
サビ辺りから感情がこもり、熱くなってくる。その分ギターも賑やかに鳴り、個性さも薄まった気がしてならない。
2番の前で元の冷静さへ強引に戻る辺り、計算づくなのは分かるが。安易なアレンジを選ぶのが納得いかなくって。
メロディはまあまあ。ギターでガツンとやるより、このバンドの特徴でもあるタフなベースだけで伴奏したら面白そう。
12.Razors in the Skies
最後もギター・ロック。感傷も構成も振り捨てて、ギラード印のワイルドさで押し切った。
ちょろっと上昇するメロディが甘酸っぱい。ハーモニーのセンスや中盤でのユニゾン、アコギを重ねるアレンジにトビアス印も見え隠れした。
ドラムはいまいちだけど、歌うベースがアンサンブルをしっかり支えた。
隅々に細かなノイズを入れるアレンジが凝っている。丁寧に作ればこのバンド、もっと化ける可能性あり。
バンド・メンバーの個性が結実した、バンドとしての代表曲だろう。ぼくの好みだと、ちょっと間延びしすぎでつらいが・・・。