Guided
by Voices
"Tremblers And Goggles By Rank" Guided By Voices (2022:Guided By Voices Inc.)
Vocals, Guitar, Artwork - Robert
Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals -
Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing -
Travis Harrison
前作"Crystal Nuns
Cathedral"から4ヵ月たって、しれっと新譜をガイディッド・バイ・ボイシズはリリースした。
メンバーも製作体制も変わらず。初期の毎回メンバーチェンジする慌ただしいわがままさとからは、ずいぶんと変わった。
本作もサクッとリリースされ、特段にテーマ性を強調しない。まるで日常のようにボブは歌を作り、そして発表し続けている。
だが本盤の特徴はドラマティックなところ。(6)は数分の曲で組曲式にクレジットされ、他の曲もコラージュもしくは起伏がある。
ここでストーリー性や首尾一貫に向かわぬところが、GbVたるところ。
極端に短い曲もあるが、全体では彼らにすると長めな曲が並んだ。トータル性や物語のコンセプトをあからさまにはアピールしない。けれど、聴きやすいロックが次々と並びつつ、頻繁な場面展開が散らばる。
この投げっ放しな曲作りは、そもそもボブのお家芸ではあるけれど。
本作も力のこもった作品。常にGbVは手抜きをしない。
<全曲感想>
1. Lizard On The Red Brick Wall 4:39
アルバムの幕開けとしては、いくぶん大仰で重たげ。このドラマティックさが本盤のテーマかもしれない。
得意のシンプルなリフに導かれ、GbVでは長めの5分弱な曲。サイケなフィルター処理を珍しくそこかしこにかけ、ライブ的なダイナミズムを生かしながらもスタジオ盤ならではの展開を作った。
2. Alex Bell 5:03
この捻って捩じり上げるメロディが、いかにもボブ節。もう少しアップテンポなリズムで疾走感を出して欲しかった。年齢を考えたら、贅沢と言うものか。
とはいえミドル・テンポの躍動感は失ってない。ハイトーンも綺麗な歌声に年老いた風情も少ない。
刻んで畳みかけるムードで、うっすらとシンセっぽい音色も入り、さり気なく厚みを出す。
途中でブレイクをスパッと入れる切れ味も見事。
キャッチーなサビが好きな曲。終わり間際に平然と違うメロディを惜しげもなく次々に入れて、起承転結を気にせず投げっ放しで終わる一筆書きな姿勢も、まさにボブの得意技。
ロックンロールな展開を、シンプルなギター・リフで組み立てた。
3. Unproductive Funk 3:28
単音リフでじわじわ攻める空気は、密度濃く汚し気味。少し籠ったボブの声が、前曲と良い対比になっている。特にトータル・アルバムなメッセージ性は無いけれど。
本盤は各曲だけでなく、アルバム全体でも流れをとりわけ意識な気も。
甘酸っぱい旋律を執拗に繰り返し、この曲では敢えてミニマル寄りに仕立てた。
4. Roosevelt's Marching Band 4:10
これまでキャッチーな曲が並んだのに、本盤はむしろ気だるげなムード。甘いバラードでなく、沈み気味なアプローチでメリハリをつける。
和音とメロディの絡みが、繰り返し聴いてるうちに気に入ってきた。中間部分の軽くコーラスが入り、ボブの主旋律が不協和音気味に響く場面が、印象深い。
うっとりさせるより、引っ掛かりを作ることで曲に個性を立てる。この曲も4分程度の尺。もう少し短く刈り込んだほうが、単調さが薄れた。
もっとも敢えて、この尺を選んだのだろう。
本曲も最後にSEが入り、スタジオ盤ならではの構成。
5. Goggles By
Rank 2:48
しょっぱなに炸裂音。前曲と切れ目なしに続く。
この曲はサビでグイグイッと揺れるメロディが聴きどころ。ドラムは好き放題なほど手数が多く、ギター・リフが単純に鳴り続けて曲を整えた。
幾本もギターを重ね、シンプルに見せかけて凝っている。
6. Cartoon Fashion (Bongo Lake) 2:56
A.
All Sick Again
B. Bongo Lake
C. Letter Man, Better Man
D. Bring On The
Frobs
本盤の肝。曲で言うと(2)がベストだけど。本曲は3分弱の長さにもかかわらず、4曲をつなげる表題を付けた。
普通に聴いてる分には、他の曲と同様にめくるめくボブのメロディが一筆書きに連なる感じ。
だがこうして全体を見ると、わざわざ3分に尺を縮めて組曲に仕立てるあたり、ボブの捻ったこだわりが伺える。
7. Boomerang 1:54
重ためなテンポで鈍く幕開け。しかし曲が進むにつれ、大きく雰囲気は変わらないのにいくぶん重心が軽くなっていく。
中間部でベースに主役を任せ、ついにはエレキギターの爪弾きと、ボブがちょっと語りめいた歌にアレンジが変わっていくため。
ふたたび冒頭のムードに寄っても、ギターのミックスは後ろに下がり気味。この盛り下がるようなアプローチが面白い。
8. Focus On The
Flock 3:13
3分って、普通のバンドならば短い。だがGbVならば山ほどアイディアを盛り込むスペースあり。くるくると音像が変わっていく。いったんアップテンポで始まったイントロは、歌前でギュッとペースダウン。その後もサビで加速と思わせ、またスローに。
何とも自在な作曲術だ。
その後も軽快に盛り上がって、あっけなくフェイド・アウトに。アイディアを使い捨てるような贅沢さで作られた。
9.
Puzzle Two 2:58
この曲もけっこうドラマティック。平歌とサビって構成よりも、いくつかの曲をつなげた感すらも。前曲同様に途中でテンポを思い切り落してサイケな雰囲気へ。なのにあっけなく終わらせ、せっかちにまたスピードを上げた。
せっかくの混沌を、あっという間に終わらせてしまう。貪欲かつ賑やかに曲は転がった。
10. Who Wants To Go Hunting?
6:17
6分はGbVにとって大作。冒頭から鍵盤を混ぜたシンフォニックなイントロで、雄大に始まった。あまり曲調を変えず、シンプルに一つのリフで押した。だがそのリフも場面転換のごとく、別のパターンも組み込む。
いちおうバスドラは踏むが、ビートの効いたロックよりも語りみたいなムード。単調にせずキチンと楽器を足してロックの路線は崩さないが。
アルバムをシメるのにふさわしい、鷹揚たる曲。芝居がかったアルバムの総決算として、たっぷりとボブは曲を盛り上げた。どちらかと言えば単調な展開。しかしこの繰り返しと、様々にダビングされたギターが頼もしく曲をエンディングへ導いてる。GbVにしては珍しい、大団円っぽい演出だ。(2023/12記)