Guided by Voices

"Surrender Your Poppy Field" Guided By Voices (2020:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Guitar, Vocals , Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer - Travis Harrison
Additional Drums Recorded By Ray Ketchem

 バラエティ豊かにトータル性を意識させる。
 前年の大晦日にガイディッド・バイ・ボイシズは100曲ライブを敢行したが、まだまだ立ち止まらない。
 ロバート・ポラードは安定や二番煎じを拒否し、ポップさを保ちつつもひねり倒した曲作りをさらに本盤で心がけた。

 全体では明快なロックのアルバム。しかし個々の曲はヘンテコで奇妙で一筋縄でいかないものばかり。
 あえて一曲ごとにビートや雰囲気を変え、ドラマティックな演出をした。似たような威勢良さで一気に疾走ではない。多様性に軸足を置いた。懐深さを見せるかのように。

 いっぽうで散漫さは皆無。むしろアルバム構成は流麗で、大きな曲が次々変化するよう。特に一気通貫のテーマ性はないけれど。
 ボブのとっ散らかった発想ゆえに、結果的にさまざまなタイプの曲が収まるのが過去のアルバムだとしたら、本作は特に意図的に個々の曲で違いを強調した。

 録音スタッフ側の充実した作業も聴きどころ。ラフなデモ風ときっちりスタジオで練った作品を併存させつつ、アルバムを滑らかにまとめてる。
 本盤にてローファイは一要素。むしろ全体の音はシャキッとメリハリあり。
 デジタルな硬さが気持ちいい。サウンドはライブ感を生かした思い切りアナログながら。
 60年代風に音が滲み溶け合うミックスを施す一方で、個々の分離がいい塩梅に光ったマスタリングだ。

 なおコロナ禍が吹き荒れた2020年の7月7日に、この年唯一のライブを地元デイトンで配信の形にてGbVは行った。
 その時はこのアルバムをフィーチャー。冒頭2曲はこのアルバム通りに演奏して、ほかの曲もセットリスト内にちりばめてる。
 この日の音源は一年限定の配信プロジェクト、"Hot Freaks"で10週目の企画として同年7月21日に発表もされた。後追いでこの音源に触れることはかなわないが、いずれ何かの形で公式リイシューを期待しよう。

 結果的に2019年に続き、GbVはアルバム3枚をきっちりリリース。
 GbVは再々結成を経て、活動は大人になった。アルバムごとにコロコロメンバーを変えたりの不安定さはなく、バンドの結束を確かにして次々と作品を出す。

 だがほかのメンバーが曲提供に拘ったり、妙な我を強めてギクシャクする様子もない。たぶん還暦踏まえてみんな、大人なのだろう。
 しかし創作欲だけは衰えない。鈍らない。特にボブは、曲作りもすっかり手慣れたが、あふれるメロディと構成力は止まっておらず。
 
<全曲感想>

1. Year Of The Hard Hitter 4:02

 レコーディング・セッション風なイントロで導かれる。歌が始まったとたん、蹴とばされるスピーディなリズム感で広がったのは爽快な風景。
 だがフィルでノリが変わる。鋭角にギクシャクするフレーズを入れ、一筋縄でいかぬチグハグかつ奔放なボブ風の作曲術が展開した。
 クリアな音質で展開は、コラージュめいた唐突な場面展開。GbVにしては珍しく(?)4分ものじっくりかけた尺のため、なおさら跳ねまわる曲構造が目立つ。

 本盤でもっとも長い曲がこれ。ボブは敢えて最初に高いハードルを掲げ、アルバムの幕を開けた。いっそ数曲に分けられそうなのに、わざわざ一曲にまとめる。これも挑戦といえば挑戦か。

2. Volcano 3:06

 気だるげにゆったり歌うメロディは、牧歌的。しかしドラムを前に出し、ギターを後ろに配置のミックスはサイケな危うさが強まった。
 平歌の終わりをドラムの軽いフィルが飾り、ゆがんだギターが唸りセンチメンタルな旋律に向かう王道の流れがかっこいい。

 ボーカルも埋め気味のミックスが惜しい、サビやさらに変化していく楽曲はドラマティックで良い。
 ポップさを意識してアレンジしたら、もっと映えるのに。惜しい。いちおうシングル・カットもされた。ラジオ・プレイでヒットを意識とかじゃなく、アイテム的な位置付けながら。
 だけどボブたちもこの曲が素敵だって気づいているのだろう。

3. Queen Parking Lot 1:29

 いっそ甘酸っぱい60年代風のロック。ボブ流のメロディがたっぷり広がった。わずか1分半の小品だが、イントロ2小節で歌が始まり、引締めた曲構成で十二分な仕上がり。
 畳みかけるドラムとギター、ベース。シンプルなアレンジと、うっすらかぶせたハーモニーで過不足無い伸びやかな作品に仕立てた。これもラジオから流れたら気持ちいいだろうな。
 最後にふわりと店舗を落とし、サイケな風味も足した。

4. Arthur Has Business Elsewhere 2:55

 裏拍で合いの手入れるオルガンが、これまた古めかしいロックのスタイルを強調した。リズムのノリは90年代グランジ寄りながら。
 だけど喧しいギターはむやみに前へ出さず、マリンバみたいなシンセのアルペジオ風フレーズなど、こまごま小技を足して抜けの良いワルツを奏でた。
 3拍子でリズムは軽やかに。様々な楽器のトラック数は多いけれど、濃さと風通し良さを上手くミックスして夢見心地な空気を香らせた。

5. Cul-De-Sac Kids 2:36

 アコギの涼やかな柔らかさでしっとり聴かせるイントロ。ずしずしとリズムの合いの手を入れ、甘さには流れない。
 さらにBメロでバンド・スタイルに代わってスピードを上げたり、スローなサイケへテンポ・チェンジしたり。2分半の中でくるくるとリズムの起伏や前後が始まる。
 中盤の口笛とストリングス音色の牧歌的な響きも美しい。
 ライブで再現履歴は無い様子。もともとコロナ禍でステージの本数が無いが。だけどギター二本のアレンジだと、だいぶ印象変わるだろうな。

6. Cat Beats A Drum 2:38

 前曲の緩やかなテンポ感を抜き出して生かしつつ、今度はエレキギター。バード・コールを足して、オーガニック風味を付与した。
 この盤はバンド・スタイルを念頭に生かしつつ、細かくダビングしてスタジオならではの仕掛けも多い。
 ドラムが加わったり疾走しそうなそぶりを見せつつ、溜める。それがこの曲のアプローチ。
 そっとボブは歌いかけるが、シンプルなバラードではない。きっちりロックだ。
 特に終盤にダブル・トラックで歌い上げるフレーズの爽快さは、アップテンポでも映えたろう。しかしGbVはその道を選ばない。焦らし続けて曲を終わらせた。

7. Windjammer 2:40

 ちょっと脱力気味だが、バンドで跳ねた。エッジを立てずローファイ気味の詰まり気味な音質で。
 乾いた距離感が狙いか。ちょっとバンドが後ろにさがり、ボーカルはコーラス・ダビングで補完しながらも、力を籠め過ぎず喉を震わせた。
 この曲はサビのメロディが特に素敵。だが繰り返さず、すぐ別のフレーズに行ってしまうのが憎い。一曲へ惜しみなくアイディアを投入して、めくるめく変化で聴き手を振り回す。
 さりげない曲だが、繰り返し聴いて癖になる。何気に名曲の一つ。

8. Steely Dodger 2:44

 バタつくドラムは逆回転かな。エコーをボーカルへ巧みにかぶせ、サイケ・ロックな風景をきっちり作った。
 あちこちでボブはわざと調子っぱずれに歌い、違和感を強調するアイディアが良い。
 和音感が奇妙で、違和感や異物感を常に残した。ビブラスラップを一打ち、曲はどんどん混迷に。「Guided by…」って誰かのつぶやきも挿入。これが(1)冒頭の女性の声と呼応してると、聴くたび感じてしまう。

9. Stone Cold Moron 2:31

 グランジ寄りの引きずるゆがんだギターと、潰した声。デスメタル寄りまで意識かも。だがダークで沈鬱さがテーマではない。明るい響きも少しだけ挿入、ファルセットも混ぜたり一筋縄ではいかない。
 歌詞はボブ流のスタイル。響きの面白さや、突発的なアイディアをコラージュのようで、意味不明。だが絶望よりも、迷いながら希望を目指す求道的なムードを感じた。
 明確に曲やアレンジで救いを見せず、一筋の明かりに向かって暗い闇をもがき進むような音像だが。 

10. Physician 3:37

 三部構成。溌剌なリズムで元気よく、しかしテンポは穏やか。ジョグの感じ。メロディは結構あちこちに飛ぶのだが、アレンジはむしろ動かず一定のムードで整えた。
 それぞれの場面も、全体を通しても。
 中盤で少しBPM落とし、ボーカルにマイクを吹かせ乱雑さを出す。

 ちょっと肩の力抜いて、安定したバンド・サウンドを示す曲ながら。この曲聴くたび、ジョギングのBGMに思えてしまう。最初は元気よく。中盤でいったん息を整えて、また走り出す、みたいな。

11. Man Called Blunder 2:50

 少しローファイ気味な響きで、ボーカルが伸びていく。ビブラート使わず、まっすぐ伸ばす声がノッペリとバンドに絡む感じが好き。
 平歌はバンドを生かす。ドラムやギターにベースの絡みでノリを作り、ボーカルはむしろアクセントをつけず足を止めて歌った。
 だがサビで急にメロディが生き生きする。華が一段階、鮮やかに開いた。この変化が、この曲の魅力。ぐわりと風景に色がつく。さりげなく。 

12. Woah Nelly 1:01

 潰れた音色で古いカントリー・ソングのように、ボブが歌った。ストリングス音色のシンセサイザーで田舎風の荘厳さを演出しながら。
 群唱が冒頭でボーカルを支えるのがかっこいいので、せっかくだから全編同じにしてほしかった。でも一分の曲ながら、後半はボブの低い声だけで終わる。
 20世紀初頭のスタンダードを引っ張り出したかのよう。面白いアルバムのペース・チェンジだ。

13. Andre The Hawk 2:01

 エッジを利かせて、軽めに刻む。テンポは抑えめで、ニューウェーブ風の乾いた抜け感あり。だがデモっぽい雑さを混ぜて、洒落っけや鋭さは控えた。
 メロディはボブ節なので、別のアレンジでも成立するだろう。あえてこういう少し幻想性をチラつかせるアイディアを選ぶところが聴きどころ。
 どこか違う、ちょっとズレた道を進んでいく。

14. Always Gone 1:37

 基本はGbVスタイル。整然とスタジオできれいに録らず、ライブ・セッションのデモ風にまとめた。完全一発録音でないことを示すように、アウトロでボブの歌い上げがダビングされてるけど。
 いい曲なのに、あえてさりげなく仕立てる。テンポをいくぶん速めたほうが、もっと親しみやすい。だがボブは寛ぎ気味なムードをこの曲では優先させた。もったいない。

15. Next Sea Level 3:07

 あっというまにアルバム最終曲。物理的な収録時間は40分とLPサイズだし、15曲入りで各曲も短め。曲順はスムーズでアルバムがバラエティに富んでるため、じっくり聴くほど、たちまちアルバムが流れていく気分になる。
 そしてこの曲でもボブは期待を外し続けた。いちおうボーカルはあるが、歌ものってよりインプロのセッションに歌を混ぜたって趣だ。

 3分間かけてバンドのメンバーがあれこれと音を出していく。混沌気味ながら秩序をきっちり持って。
 バンドメンバーの見せ場とも違う。アイディア出しのジャムって面持ちでもない。なんとなく音を出して、だがめちゃくちゃではない。不思議なバランス感を示した。
 なお弾きっぱなしではなく、いくつかのブロックを編集で繋げたふうにも聴こえた。
 アルバム最後に3分もかけて、どっぷり酩酊サイケな曲を持ってくるかね。GbVの、ボブの茶目っ気は止まらず途切れず、ユニークにアルバムをシメた。 (2021/9:記)
 

GbVトップに戻る