Guided by Voices

"Styles We Paid For" Guided By Voices (2020:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing - Travis Harrison
Additional Drums Recorded By Ray Ketchem

 ライブ感を念頭にロック・バンドっぽさにこだわりがテーマか。
 2020年にリリースした3枚目のアルバム。11月のリリース予定がちょっとズレ、12月11日に発表された。
 
 ガイディッド・バイ・ボイシズの近年作は、安定している。初期のGbVはロバート・ポラードのわがまま放漫な創作欲がバンドを引っ張った。メンバーとの対立を恐れず、ワンマン・バンドとして。
 だが再々結成後はメンバーが安定し、なおかつ製作スタッフ側も固まってる。だがワンパターンにはならない。ボブの創作欲が衰えないから。

 あえてテーマ性を探すのも、実は難しい。数曲に共通する要素を見つけても、ボブは別の曲で気まぐれのように違う実験性も入れてくる。
 彼が信じるのは自ら生み出すオリジナリティある。独特のメロディへ、無造作な和音をつけて思いつくまま構成して終わり。

 それをスタジオにこもってバンドが膨らませていくって構図があるとしよう。コロナ禍下ではコミュニケーションすら極端に制限された。本盤は仲間内で意見出しあい煮詰めたかてんでバラバラに作ったか、音からは想像できない。

 クリアな音質で分離良くミックスされたサウンドは、バラバラにダビングし合ったようにも聴こえてしまう。特に新機軸を取り入れず、気心知れた仲の信頼感を踏まえて。
 実際の作業もおそらくメンバーが住むオハイオ、ニューヨーク、ニュージャージー、バージニア、テネシーとバラバラの場所でリモート録音だそう。
 今はネット環境で疑似的にバーチャル・セッションめいたことも可能だろうけど。

 本盤はライブでの再現性にはこだわっていない。前作"Mirrored Aztec"(2020)ほどではないにせよ。
 とはいえあまりでかくない会場でのライブで映えそうな、肉体性がサウンドから伝わった。

 ちょっと寒々しい空気感と、ライブでの躍動を混ざりあいが本盤。いっそ"Mirrored Aztec"の兄弟盤と解釈しよう。前作がスタジオ寄り、本盤がライブ寄りってことで。
 いずれにせよボブは本盤で、ひときわキャッチーな曲を並べた。
 このアルバムは、けっこうコンパクト。大人らしい落ち着いたビート感で、親しみ深い曲が並ぶ。パンキッシュに暴れても映えそう。もういい歳のメンバーは、そこまで若ぶらないが。

<全曲感想>

1. Megaphone Riley 2:06

 緩やかでいくぶんスケール大きめのロック。サウンドの質感はガレージ風味を残しつつ、曲構成はスタジアムでも映えそうな雰囲気だ。
 サビでの明るく映える入り方から、燃え上がらず埋火で留まるメロディの進み方が、ひねっていくボブの姿勢っぽいな。
 もう少しテンポを速めたら、キャッチーさは増す。けれど売れ線に媚びず淡々と曲を紡いだ。

2. They Don't Play The Drums Anymore 2:08

 ベースとギターの絡みが太く、重い。粘って広がるエコー感で頼もしく鳴った。
 ざくざくとシンプルなギターがこの曲をストイックにする。メタルっぽく、グランジっぽく、メロディや曲のイメージからイメージするジャンルはいくつも浮かぶ。
 だがGbVは自分らの価値観で、じっくり演奏した。コロナ禍の中、この曲はライブ映えをどのくらい作曲時点で計算だろう。盛り上がりよりも、むしろふさぎ込むようなうつむき加減で曲が流れた。力強いけれども。

3. Slaughterhouse 4:32

 ギターのシンプルな単音リフの前に、ぎらぎらうねるベースのイントロを置いたところが、ちょっと新鮮。近年は無造作にギターをかき鳴らし、曲へ突入してたから。
 まずはドラムを目立たせず、ほぼギターとベースがほぼ同じ譜割で曲を無造作に飾った。
 ガラガラ鳴るメタリックな音から、ドラムがしっかりとビートを刻む。メロディを展開させず、二分くらいを同じムードで押し切った。短時間で鮮やかに風景を変えるGbVにはめずらしいこと。

 そしてギターがくっきりとリフを奏で、凛々しく飛翔した。
 GbVにしては大味。しかし歯ごたえはばっちり。4分半かけた骨太のロック。
 歌声も伸びやかに飾ればいいのに。どこか、へにゃった。隙が多い。これもGbV。

4. Endless Sea Food 2:58

 ギターのストロークが爽やかな曲。合間に単音のフレーズで、すかしてひらり身をかわす。
 瑞々しいメロディが魅力的な曲。バンドっぽさをあえて控え、抜けの良いアレンジで輪郭をくっきりさせた。
 中盤でのシンセによるシンフォニックな転換とダビングしたコーラスによる、サイケで華やかな展開も良い。スタジオで練りこんだ、素敵な曲。ボブの歌がちょっと振れるけれど、それはそれ。

5. Mr. Child 3:22

 実際の録音風景はさておき、バンド一発でザクっと録音みたいな質感の曲。ボーカルはダブルかな。大きくぶれないが、ちょっと揺れた。
 メロディアスな曲ながら、サビの譜割が拍頭を外すため、小節からちょっとズレる。ドラムが加わる明確なビートなのに、どこか浮遊する危うさがあり。
 ギターのメイン・リフが拍頭を叩き、裏で拍裏をかますギターの絡みがかっこいいな。
6. Stops 2:04

 甘酸っぱい穏やかなポップス。凝らず捻らず、素直に歌った。合間のギター・ストロークの前へ瞬間的な全休符を入れ、流れを引締めつつ。
 ボブ流のメロディが、びっくりするほど妙に操作せず流れていく。サビのメロディも穏やかかつ、優しく登っていく。

 いい曲だな、どこかで捩じるかな、とどきどきしながら最後まできれいに進んで拍子抜け。最初に聴いたとき、すれっからしな期待をした自分を反省した。
 ばっちりGbV流なのに、オーソドックスに甘く柔らかく膨らんだきれいなポップス。

7. War Of The Devils 2:32

 GbVにしては珍しい、アート・ロック的なアプローチ。
 シンセのアルペジオからザクザク鋭いギター中心のトラックが、場面展開しながら進んだ。ボブはエコー成分を落とし、乾いた響きで歌う。
 一筆書きのメロディを、あえて切ないムードを含ませたロックで包んだ。テンポが曲中で変わるさまは、突飛さより物語性の現われと取れる。整ったシアトリカルさが、DIY風のガレージ・ロックとは一線を引いた。サーカス・デビルズみたいな曲調だ。

8. Electronic Windows To Nowhere 1:57

 60年代ポップス風の穏やかなテンポで、ちょっと陰り持つ瑞々しいメロディを歌い上げた。ひしゃげた音質感でボーカルを中心にセッティングだが、個々の楽器は分離良くクリアに響く。
 ほのぼのと牧歌的な風景で、広々した芝生が見晴らしよい風景に似合う曲。最後に唸るギターの響きも含めて。

9. Never Abandon Ship 1:56

 前曲とテンポは近しいが、今度はざらついた都会の影っぽいムードに。メロディも、もごもごと動いた。歌い上げず、グランジっぽく。しかしボブの伸びやかな歌声は、旋律を魅力的に響かせる。一筆書きっぽく歌が続き、ギターがうねるサビの場面が好きだ。
 あっけなく、すとんと投げっぱなしで終わるところもGbVっぽい。

10. Roll Me To Heaven 2:16

 四拍子の中で引きずるメロディやギターのフレーズへ、なんとなく三連っぽさを感じた。特にテクニカルな譜割ではなさそうだが。
 淡々と単音を弾くベースと、ギターのざくっと刻むフレーズの絡みのせいか。
 特にキャッチーさはなく、むしろ昏い。ダルさが広がる。しかし途中でぱっと雰囲気変わり、アコースティックに切り替え牧歌的に向かった。
 それをエコーでサイケに塗り、イントロからのエレクトリックに力業で戻す。その大胆で剛腕なアレンジが面白い曲。

11. In Calculus Stratagem 2:04

 ぼくは未聴だが、2020年1年限定のサブスク企画Hot Freaksで本盤のデモが全曲公開された。
 この曲はまさに、デモを膨らませたって感じ。アコギの弾き語りで成立する曲に、バンド・サウンドが加わり、次第に華やかな拡大を表現した。
 歌はもっとパワフルにもなれるのに。ボブは敢えて、さりげない歌い方で一曲を通した。

12. Crash At Lake Placebo 2:45

 ドラムにウッド・ブロックっぽい乾いた響きが、かすかに重なる。リズム隊は一発録音、ギターをダビングって風情だ。シンプルにギターはフレーズを輝かせた。
 途中でテンポがいくぶん早まり、前のめりに。歌よりもインストに軸足を置いた曲。
 ギターはメロディを弾きまくりってわけじゃない。でもボーカルのミックス・バランスを落として、歌すらギターの伴奏っぽい。
 展開せず、ひたすら前に進み続けるような和音感も心地よかった。

13. Liquid Kid 3:23
 
 分離を曖昧にしたミックスで、サイケに煙った風情。ボーカルの余韻をエコーがふわりと飾った。
 Aメロ終わったところで威勢よくサビと思わせるのに、全く頓着せず乾いたアコギの弾き語りに持ち込むところがもどかしくもニクい演出だ。
 3分半弱と長めの尺で、楽曲の世界観はくるくると変わっていく。一筆書きメロディでアイディアをいっぱい詰め込み、めくるめく転換を楽しもう。
 気持ちよく貫かず、その寸前で焦らし続けた。病まず、明朗なまま。

14. Time Without Looking 1:43

 ゆったりテンポでぐしゃっとまとめたサイケ・ロック。優しく畳みかけるメロディがきれい。
 ボブのメロディ・センスが炸裂した佳曲で、アルバム最後にさりげない配置がもったいないほど。
 でもブレイクで瓶を軽く叩くような唐突さを混ぜるあたり、ヒットチャート狙いではない。
 あくまでもアイディアを無造作にまとめてしまう、GbVクオリティの典型。ライブでも映えそう。

15. When Growing Was Simple 2:32

 アルバムの最後はスタジオ・セッション風の沈んだムード。イントロから滑らかに歌が滑り込む。一応バンド・サウンドだが、練ったアレンジでなくジャムをそのまま収録かのよう。
 気負わない。もどかしさを残し、もういちど頭からこの盤を聴き返すことを促すがごとく、ボブはそっと歌った。サビらしき場面も地続きで進む。演奏はがたつき、残響とともに崩れ去って、幕。  (2021/10:記)
 

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