Guided by Voices

"Sweating The Plague" Guided By Voices (2019:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Guitar, Vocals , Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer - Travis Harrison
Drums Recorded By Ray Ketchem

 ガイディッド・バイ・ボイシズは2019年に3枚のアルバムを発表した。旺盛な創作力は止まらない。この盤はその年最後のリリース。
 2018年7月11日にボブがネットに投稿した、一連のリリース予告で最後に記載の"Street Party"がタイトル変更されたのが本盤になった。

 全12曲収録で、他に3曲がアウトテイク。それらがすべて、本盤からのシングルB面として併せて発表済み。
 アルバムの最後と最初はギターのストロークで円環となるトータル・アルバム性を意識した。
 
 ロバート・ポラードは衰えない。多作なだけでなく、録って出しにしない。きちんと作りこんでる。

 どの曲もアレンジが練られており、むしろ瞬発力で多作するロバート・ポラードが本作では敢えて粘った。アイディアを詰め込み、曲の完成度を上げている。
 そのためノリって意味では地味め。だが中身は濃い。
 録音は無闇にきれいに仕上げず、ガレージっぽさを残した。
 この点が過去の洗練を追求とは違う。録音前にアレンジを作り込み、録音そのものはザクッと鮮やかに仕立てた。

 本盤の評価でプログレっぽいって表現を見かけた。アナログ・シンセの野太い響きや、曲によっては大仰な仕上がりがそう思わせるのか。
 いわゆるプログレ的な大曲主義やテクニックひけらかしって意味では、本盤に当たらない。数分間でガラガラと場面展開は、過去の盤以上に頻繁だけれど。

 どういう気まぐれか、ダグ・ギラードが本盤は一曲づつのコメントを当時に発表した。具体的なレコーディング・メモというより印象論に近い。
 コメント出したのがボブでなく、ダグな点がポイントか。
 実際、こういうアレンジ構成は過去に無い方向性だ。
 作曲や歌はボブが圧倒的にイニシアティブと取る一方で、アルバムのレコーディング現場ではメンバーやプロデュース/エンジニアのトラビス・ハリソンへ大きく権限移譲したのかも。

<全曲感想>

1. Downer 3:14

 かすかすの高音を強調したエレキギターと、しゅわしゅわ煌めく音効果で幕開け。ボブにしてはずいぶん軽い味わいの曲だ。メロディは特に平歌が投げっぱなし。にもかかわらず、アレンジのスマートさでポップに聴かせた。これは編曲の勝利と言いたい。
 サビではボブ節の甘酸っぱいメロディが炸裂する。この調子で頭からまとめたらグッと売れ線になったのでは。ボブの奔放な作曲術と、構成の妙味が味わえるアルバム。

2. Street Party 2:00

 キャッチーなメロディをダブル・トラックのボーカルで補強した。唐突に現れるエレキギターのオブリなど、バンドの一体感よりもスタジオで作りこんだ風情。
 エレキギターをかき鳴らしながらも、爽やかさを残す構図でグランジやパンクとは逆ベクトル。チープな音作りのため産業ロックとは、ほど遠いけれど。
 アレンジの感じはずいぶん洒落たスタイルだと思う。小気味良いメロディを、さらにアレンジで加速させた。

3. Mother's Milk Elementary 2:24

 最初に二番はボブのアカペラで歌われる。音程を多少怪しく震えさせながら。ちょっと煙ったメロディはサイケとも、トラッド的な伝統性とも取れる。
 二番からはバンドも加わった。間奏は60年代風味のサイケ・シンフォニック。まるで違う整った曲を、コラージュした。

 気だるく幻想的かつ直観性を持った楽曲を、アレンジで振り回す。整った構築美と自由な無造作さを振り幅大きく表現した。
 緩やかなムードは懐深さとも、ルーズな危うさとも取れる。伝承歌めいた落ち着きや頼もしさもうっすら。

4. Heavy Like The World 3:13

 リメイクで、元は84年録音"I'd Choose You"(Suitcase 2: American Superdream Wow:2005で既発)の歌詞を変え再録した。
 こんな昔のレパートリーを倉庫から引っ張り出して弄りなおすあたり、ボブの物持ち良さというか、記憶力が凄まじい。
 近年のGbVらしいギターがシンプルだが分厚く唸るキャッチーな曲。シングルカットも頷ける。

 本盤が10月に発売前の19年5月のライブあたりから、ときどきセットリストへするりと滑り込ませてた。
 ハーモニーと揃って瑞々しくメロディが弾み、跳ねた。ベテランになったGbVらしく、テンポやテンションは幾分抑えめ。若いころだったら、もう少し暴れてたかも。

5. Ego Central High 3:03

 ざくざくと断続的なリフを基調に、グルーヴよりも鋭さを強調した。だが途中で風景をそのままに別の場面をさらり混ぜる、組曲っぽい凝った曲想をみせた。
 いっそ3曲くらいに分かれそう。なのに敢えて混ぜた一筆書き三様っぽい作品。
 キャリアを積んだ今だからこそ、の曲かも。ボブは勢いに任せ疾走せず、むしろ溜めて焦らしながら着実に削り、迫ってくる。じわじわ味わい深くなる曲。

6. The Very Second 4:44

 とてもポップでメロウなメロディ。重たいエレキギターを使わず、アコギ的な柔らかさで爽やかにまとめた。ギターが数本重なり、もちろんエレキもリフを刻んではいるが。
 間奏で歪んだエレキギターが強調され滑り込む仕掛け。ロックバンドっぽいなあ。
 この時代のGbVにシングルって意味付けは希薄だ。たとえ本盤からシングルを切っていたとしても。
 つまり本作は、よほどシングル向け。ラジオのエアプレイでも映えたと思う。もっともボブはそこまでヒット狙いって欲は無さそう。

 イントロはアコギ中心に静かな助走で、サビへの角度をつけるのみ。リフやスピード感は強調しない。伸びる歌声もきれいだな。

7. Tiger On Top 3:03

 テンポをさまざまに揺らし、凝った曲。ライブで再現は大変なのか、セットリストに入った記録はGbVdbには無し。
 数小節単位で作曲メモを、無造作に並べたかのよう。録音そのものも断片をプロトゥールズで切り貼りしたような、コラージュ感あり。
 サイケさを共通項に、重たさとラフな世界観がくるくると巡っていく。アイディア・メモっぽい実験的な曲だ。

8. Unfun Glitz 2:55

 前曲と一転、シンプルなロック。引きずるようなノリでエレキギターが暴れる。グランジまで溢れず、GbVらしいコンパクトさを残したまま。
 これも爽やかなサビのメロディが綺麗だ。スピードを落とし気味に引きずるため、キャッチーさが薄れてしまったけれど。
 もっとテンポを上げて、エッジを立てたら映えるだろうに。ボブはいつになってもきれいなメロディを贅沢に無駄遣いしている。

9. Your Cricket Is Rather Unique 3:02

 "Suitcase Four: Captain Kangaroo Won The War"(2015)でデモ・テイクが発表済みの曲。普通はどういう形であれ、蔵出しされたら録音し直さないのに。ボブは過去のメモを無駄にせず、大切にきちんと公式スタジオ録音盤で発表し直した。
 シングルが切られたが、確かにキャッチーさあり。歳相応の落ち着いたテンポ感で、じわっと迫る。
 バンド・サウンドの一発勝負でなく、エコーをたっぷりかけて12弦ギターを軸に、あれこれダビングした厚みある。ミックスは分離をあいまいにアナログ的な滲みを上手く表現した。
 ほんのり昏い色合いをアクセントに、滑らかに歌声が伸びる。ボブは自己主張に拘らず、ボーカルをケビン・マーチへ任せた。なんと鷹揚な。ケビンはダブル・トラックで厚み出して頑張ってはいるが、キーが低めで地味になっている。ボブの歌声だったら、もっと映えたろうに。

 なおこの曲ではドラムをプロデュースとエンジニアのトラビス・ハリソンが叩いた。仲間内で楽し気に録音してるっぽいなあ。

10. Immortals 3:08

 裏拍を効かせたギター・リフを、ダグはボブのデモを聴きながら録音したらしい。
 パシャパシャした軽いリズムな響きを、ギターとベースで音数少なめにまとめた。オブリでギターを加え、彩りを出す。
 ボブの一筆書きっぽいメロディが展開していく、中間部分のさりげないドラマティックさが好きだ。ブレイクを入れながら、ウネウネと曲が進んだ。

11. My Wrestling Days Are Over 2:13

 簡素なアコギ弾き語りデモかと思わせるが、途中からどんどんアレンジが盛り上がっていく。
 最後はタイトルに合わせ、歓声を模した喚き声がいくつも。中盤のシンセっぽいストリングスから、ぐわりとアコギが響く。いったんクローズに見えて、ドラムと歓声が勇ましく煽り立てる瞬間がダイナミックで良い。

12. Sons Of The Beard 4:49

 最後にふさわしい、賑やかで壮大さを匂わすアレンジ。これもアコギの弾き語りで幕が開き、メロトロン風の音色な鍵盤がそっと歌声を支えた。
 一筆書きっぽいメロディに乗って、サウンドも次第に音数を増やす。エレキギターとドラムが加わり、モーグ風の太いアナログ・シンセも咆哮。
 しかしそこで一気に駆けず、いったん冒頭のアコギに残して、落差激しくするのがGbV流。
 そしてエンディングに向け、バンドでガツンと盛り上がる。この曲のキメの多さやメリハリついた流れを、プログレ的と言いたい気持ちはわかる。
 ボブはインスト部分を目立たせながらも、歌を載せたらきっちり自分の世界に引きずり込むけれど。
 最後は寂しげ。こもった音色のエレキギターによるストロークですとんと落とし、冒頭曲へ繋げた。 (2021/8:記)
 

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