Guided by Voices

"Mirrored Aztec" Guided By Voices (2020:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing - Travis Harrison
Additional Drums Recorded By Ray Ketchem

 今度は真正面からポップさで攻めた。インディ路線でローファイ気味に、バンド・サウンドを生かして。
 2019年ごろからGbVのリリースが全く止まらない。本盤は2020年2月に"Surrender Your Poppy Field"を発表、7月のライブを挟んで8月に発表した。
 ジャケットの表1はロバート・ポラードのコラージュ作品じゃなく、一枚絵を採用した。描いたのはCourtney Lattaって人。今一つキャリアは調べきれなかった。

 "Surrender Your Poppy Field"はひねった奇妙さを強調。今度は本盤で、ライブ映えしそうな曲を並べている。
 だがバンド一発でなくダビングをあれこれ施し、ライブ感よりもむしろスタジオ要素を強めた。
 録音体制は過去から特に変わっていないいが、全体的に音質はひしゃげ気味。手作り感を強調と思える。

 活動初期からの実験性を、聴きやすいボブのメロディにまとめた恰好か。
 この時期は特にあれこれとGbVがアルバムを出して、どれを聴いたらいいか迷うかもしれない。
 もしオルタナ・ローファイが好きならば本盤がお勧め。
 あふれ出るボブのメロディ・センスは全く枯れず、本盤でたっぷり溢れてる。

<全曲感想>

1. I Think I Had It. I Think I Have It Again 1:53

 拍頭をザクザクとストロークする、おなじみのシンプルなイントロ・フレーズで導かれるのはキャッチーなロック。ときどき調子っぱずれ気味にボーカルがアウトするのは、歌唱力の問題と思うけれど。わざと和音感を気妙にするためのメロディ・ラインじゃあるまいな。
 サビはサクサクと畳みかけるタイプ。そしてサビの最後"Again"を、妙な浮遊感持たせる危うい音程で歌う仕組み。
 最後にシュワシュワとサイケな味を付与した、コンパクトで親しみやすい曲。つかみはばっちり。

2. Bunco Men 2:22

 イントロは前曲と同様のパターン。しかし重心低くして、渋めに広がった。そしてサビでいきなり華やかに盛り上がる。
 なおこの曲、95年の録音を引っ張り出してきた。黄金GbVメンバーの、トビン・スプラウト(b)、ミッチ・ミッチェル(g)、ケヴィン・フェンネル(ds)にボブって布陣。

 未発表発掘プロジェクト、"Suitcase:Failed Experiments And Trashed Aircraft"にも収録された。ただしそのテイクは、ぼろぼろのテープで回転数も遅め。音程も怪しい。
 しかしこのアルバム収録でシャキッと蘇った。なぜいまさら、って不思議さと、改めていじったらここまで復活するんだって驚きと喜びが味わえる。
 アルバムの流れにはストンと収まる。いずれにせよ、物持ち良い話だ。よくこんな昔の音源を覚えていて、新譜へ足そうとするなあ。

3. Citizen's Blitz [New Version] 1:59

 なぜ"New Version"と銘打たれたか不明。前2曲同様に、小気味よく迫るロック。ここでは全編に靄をかけて、サイケっぽさを強調した。2分弱で過不足なく、平歌からサビまでとんとんと調子よく進んでいく。ヘルシーなくらい。
 曲加工で妖しさは漂うとはいえ。少し上ずり気味のメロディ感で、落ち着きや高揚よりも、不安げなムードが先に立つ。

4. To Keep An Area 2:21

 2020年のコロナ禍でGbVは唯一7月7日にライブを行った。そこでは同年2月に発売の前作"Surrender Your Poppy Field"をフィーチャーしたのだが。ライブの約一か月半後に発売の本盤からも、いくつか予告で演奏された。これが、その一曲。
 本盤収録のテイクは、メロトロンめいた涼やかな電子音が曲を飾る。

 ミドル・テンポで12弦ギターっぽい響きや、パーカッションも彩った。シンフォニックなロックをイメージしたかのよう。
 とてもポップで、魅力的な曲。ベースとギターが同じ譜割で動く、ごつっとしたGbVスタイルの伴奏でボブは伸びやかに歌を披露した。

5. Easier Not Charming 1:28

 ほんのり甘酸っぱいムード。AメロからBメロに少し落差あり、90年代オルタナ的なギザギザしたノリを出した。
 バンドっぽい一体感を生かしながら、テンポはぐっと引締めた。ノリに任せ疾走は控え、どこか抑えてる。
 そのもどかしさが、この曲の特徴。蹴とばすようなビート感なら、もっと盛り上がる。でもなぜか、ボブは安直な道を選ばずじっくりと曲を表現した。

6. Please Don't Be Honest 2:29

 "Please Be Honest"(2016)に呼応するタイトル。8枚も前のアルバムか・・・。さすがGbV。なんという創作力。
 サビでバンド・アレンジを潔く切り捨て、チェンバロとピアノ、ストリングス音色に包まれノービートで歌う、飛んだアレンジが効果的。
 がしがし迫るバンドのスタイルと対比が大きく、曲が引き立った。
 2分半と長め(?)の尺を使い、リフを幾度も繰り返す。ミニマルとまではいわないが、妙に強調してる。

7. Show Of Hands 2:55

 いちおうバンド・スタイルながら、冒頭はアコギのデモをそのまま収録したかのよう。平歌ではギターのストロークを生かし、節々でドラムやベースが太い支柱を加える。
 なおサビではアコギの爪弾きにシンセ・ストリングスを思い切り足したサイケ路線。ご丁寧に最後はリバーブ効かせて浮遊させた。
 サビ後に平歌と双方をミックスして深みを出したり、ギター・バンドっぽさを強調してみたり。3分弱の中で、楽曲よりもアレンジやミックスで遊んでいる。

8. Lip Curlers 2:07

 飾りっけなし、いっそニューウェーブっぽい乾いたアンサンブル。サビで歪み成分足して暴れるけれど。
 ボブの一筆書きメロディがGbV流の甘みを持っており、コロンとつかみ上げやすいイメージを持つ。
 いや、サビのざらついた場面は、触ったらいささか熱そうだ。
 あまり練らず、サクッと作った曲をそのままレコーディングしたかのよう。アルバムの中で、ちょっとしたブレイクかな。

9. Math Rock 2:26

 "School Of Rock Montclair Choir"と銘打った子供たちのコーラスが入った。デビュー前に学校の先生やってたボブが当時を懐かしんで、ではなく。参加者の中にKate Marchって名前があるので、ケヴィン・マーチ(ds)の孫か親戚とその友達だろう。娘かな。いや、小学生の声っぽいから、彼の歳だと計算が合わないような。
 ギターのリフに鉄琴っぽい音が絡み、かわいらしさとけっこう壮大なアレンジが混ざった。ロック・バンドに拘ったっぽい本盤の中で、珍しいドラマティックな曲。

10. Transfusion 3:23

 本曲は2021年の5月、発売の3か月間の段階で発表されていた。2020年に一年間だけGbVが企画した週次の音源配信プロジェクト、HOT FREAKSの第一弾として。なおこのときカップリングが旧作の(2)。
 うっすらとメロウさをまとったボブ節のメロディは、緩やかな譜割で動く。この曲だけ聴くと、大人の落ち着いたロックに思える。
 テンポを緩めに、じっくりとバンドは曲を奏でた。ギターの後ろで、小さくシンセが鳴ってるのかな?ちょっと響きに工夫をしてるような。

11. Biker's Nest 1:53

 チープなヘビメタめいたイントロ。カラカラしたストロークとやけに乾いたメロディは、曲が進むにつれGbVらしい躍動感に代わっていく。
 デスメタでも通用しそうな冒頭から、耳馴染み良いロックへ向かう場面転換の妙味と、二つを合わせるボブの大胆な作曲術が聴きもの。

12. A Whale Is Top Notch 1:04

 威勢よく勇ましいGbVのロックンロールが炸裂。一分と短いが、ぎゅっと瑞々しい魅力が詰まってる。高らかな歌声も元気あり、往年のGbVレパートリーでも不思議無い曲。
 ちょっとざらついたローファイな響きで録音され、バンド全体が疾走してあっという間に終わる。
 ポップながら、どこか放り投げるような荒っぽいところが、いかにもボブの曲らしい。

13. I Touch Down 1:48

 前曲と同様の切なさを漂わせるメロディは、どこか重心を傾けて捻った。テンポも抑えめ。バンドがシンプルながらじっくりと演奏して、ボブは一筆書きメロディで留まることなく歌い続けた。
 スピードがゆっくりなので、ちょっとサイケな幻想性が強調か。起承転結よりも、濃霧の中をジリジリと進むような趣だ。

14. Haircut Sphinx 2:22

 これも(4)と同様に20年7月7日のライブで先行演奏された曲。テンポ感は前曲と似つつも、もっとパワフルで前向きなパワーあり。
 とっ散らかったボブ流のメロディは健在だし、演奏もブレイクを入れたりちょっと起伏あり。
 でも興に任せて歌声は落ち着いたり繰り返しを気にせず、どんどん展開していく。刺激的な作品。

15. Screaming The Night Away 1:57

 タイトルからサム・クックの曲を連想するのだが、ソウルフルな要素を若干は聞き取れつつもGbVはロックのスタイルから逸脱しない。
 ドラムがしっかりビートを刻み、ギターだけでなくシンセ音色も背後に散らばせて、きらびやかさを少し強調した。
 2分弱と短い作品ながら、間奏やサビを混ぜたり曲は結構凝っている。

16. Thank You Jane 3:07

 コンパクトで尖った雰囲気のイントロは、ちょっとニューウェーブ風味。ギターで空間を埋め尽くさず、隙間を生かして青白く曲を染めた。
 力任せで手なりにアレンジしきらず、こういう工夫もGbVはたまに施してる。
 ボーカルは軽やかながら、突き抜ける明瞭さに至らず。このもどかしさがこの曲の狙いか。
 ひしゃげたビブラスラップっぽい音色を混ぜたり、ギターをあれこれ挿入したり。ライブっぽい姿勢を前提に、あれこれスタジオでいじった曲。

17. The Best Foot Forwards 2:26

 これもポップさが爽快。転がるように捲し立てるドラムに乗って、ボブはむしろ節々のアクセントを強調して歌と演奏を対比させた。
 歌から間奏に雪崩れ、間奏もじっくり。おもむろに甘酸っぱいメロディを歌っていく構成が好きだな。
 ブレイクもあちこち入れ、シンセで彩ってと曲が進むにつれアレンジの幅も広がる。アルバムの一曲に収まっているが、シングルでも映えそう。ボブの作曲術は、本当にとめどない。
 
18. Party Rages 2:23

 アルバム最後はポップさを押さえ、骨太さを演出か。華やかなメロディとエレキギターが野太く絡んだ。
 特に平歌は、むしろ淡々とクールなムードを演出。そのわりにタンバリン鳴らしたり、小技を利かせた。
 あとはエンディングに向かって、いくぶん混沌さを増しながら進んでいく。終わりや幕切れよりも、フェイドアウトで地平線の彼方へ向かっていくがごとく。  (2021/9:記)
 

GbVトップに戻る