Guided by Voices

"It's Not Them. It Couldn't Be Them. It Is Them!" Guided By Voices (2021:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing - Travis Harrison

 きちんとアレンジして、骨太なロックを力強く並べた。

 量産に次ぐ量産。ガイディッド・バイ・ボイシズは、ロバート・ポラードは歩みを止めない。再々結成後のメンバーは安定して、昔のアルバムごとにメンバーが変わるせわしなくも性急さはすっかり影を潜めた。

 しかしボブのリリース・ペースだけは歩みが止まらず。ボブもソロに注意を向けず、バンドに集中を続けてきたのが2016年ごろからのGbV。
 アルバムごとのテーマがボブにあったとしても、いまひとつピンとは来ない。アルバムの完成度を意識しつつ、膨大に次々生まれる曲を無造作に並べているかのよう。

 あえて本盤のテーマを探すなら、スタジオとライブ感の両立。スタジオにて一発録音ってスタイルよりも、アレンジをしっかり施しダビングも重ねた。
 コロナ禍を踏まえたかライブの再現性に拘り過ぎず、じっくり各曲は練られてる。
 無闇にポップへ寄せるオーバー・プロデュースはせず、ボブの持ち味を生かしたまま。

 コラージュ感覚の薄いライブ的なジャケットが示すのは、肉体感。だが本盤はやっつけじゃない。取捨選択してアルバムを統一感持たせまとめ上げた。
 それにじっくり時間をかけず、前作"Earth Man Blues"(2021)から半年程度しかたってない、ってとこが恐ろしくもすごいところ。

 さらにこの時期、ボブはバンドのメンバーとCub Scout Bowling Pinsってサイド・ユニットを立ち上げ、EP"Heaven Beats Iowa"(2021)とアルバム"Clang Clang Ho"(2021)までもリリース。
 往年ロックのオマージュなCub Scout Bowling Pinsで息抜きしつつ、本盤へ臨んだかのよう。

 GbVの名作は数あれど。本盤もけっこう入門編に向いている。まとまりあるアルバムに仕上がっているため。
 ボブのメロディは元気よく、衰え気味とはいえ元気も失ってない。
 バンド・アレンジもきっちり施され、力任せに陥らぬアレンジも目配り効いている。

<全曲感想>

1 - Spanish Coin 3:20
 
 しょっぱなからシンプルなギター・リフを延々と続ける。確かにちょっと抒情的な和音感はスペイン風かも。30秒ほど淡々と繰り返したあと、助走が終わる。
 テンポを上げてひとしきりギターを弾き、ボブの歌が始まる。中盤のオブリのギターや、コーダの畳みかけるフレーズ感もスペイン風かな。

 シンセの弦やラッパで賑やかに盛り立てるアレンジは、ライブでの再現性より楽曲の完成度をスタジオで追い込んだ。
 曲そのものは平歌を単純なコード進行で押すような構造。だがアルバム幕開けにふさわしい、勇ましさと爽快さあり。

2 - High In The Rain 3:39

 一転してエレキギターを唸らせた、ライブ映えするロック。正直、ボブたちの老いが悲しい。テンポをもう少し上げて、元気よく歌うアレンジならば、もっともっとこの曲はカッコよくなったろうに。
 サビで高らかに跳ねるメロディは、まさにGbV流の心地よさ。なんだか落ち着いた風情の姿勢が惜しい。
 シンセ・ストリングスを彩に添えて、アレンジも練っている。良い曲なんだけど、もどかしい。

3 - Dance Of Gurus 2:36

 囁くような掛け合いボーカルで幕開けの本曲は、スタジオならではの親密感。だがライブ的なスピード感も薄れてない。デモっぽい荒々しい録音ながら、一筆書きで奔放なメロディを作るボブの個性が出た佳曲。
 シンプルなエレキギターのバッキングから、脈絡なくサビへ突入して駆け上がってドラムたちが入ってくる振れ幅が良い。

 ぱっと聴きでは伝わるまい。幾度も聴き、中間のウッドブロックやサイケなギターのフレージングなど、一つ所に留まらずどんどん展開して戻らず。ボブの制限つけぬアイディアを、バンドはグッと華やかに彩った。

4 - Flying Without A License 2:46

 野太いギターとベースに導かれ、ボブは朗々と歌う。少しざらついて、揺れる歌声が生々しい。
 おもむろにドラムも加わりラウドにヘビーに、しかしコンパクトに進む。
 きれいになり過ぎず、ライブっぽい録音も相まって迫力ある小品。いや、尺はそれなりにあるが、なんかこの曲はワン・アイディアなイメージが浮かぶ。

5 - Psycho House 2:46

 弾き語りへそのままバンド・アレンジを乗せたって感じ。これももう一歩、店舗を早くして欲しかった。
 じっくりベテラン感漂う落ち着きは良いんだけど。無造作に歌詞を連ね、そこへ同じメロディを乗せたかのよう。
 この盤の中では地味目。だが終盤で歌が終わり、サイケにバンドが進みエンディングでグラグラ揺れる音像の場面が、好き。

6 - Maintenance Man Of The Haunted House 2:42

 エコー感を増やし、シンセ・ストリングスでドラマティックに飾った。ミュージカルっぽい芝居の一シーンを切り取ったかのよう。
 途中でエレキギターがザクザク刻み、シンセの音色をそのままに強引なほどロックなムードへ切り替える奔放さが、ボブ流儀。

7 - I Share A Rhythm 2:02

 軽快に畳みかける本曲を聴くと、まだまだボブたちも元気あるじゃん、と思う。このテンションが他の曲にも足されてたらな。
 ギター・ストロークが跳ね続け、ボーカルをあおる。キックだけ拍頭を踏み、フィルからリズム・キープに向かうドラムのアレンジも、シンプルながら効果的。
 この曲もさりげなく、魅力ある良い曲。イントロなしでいきなりトップ・スピード、2分間を溌剌と駆け抜けた。

8 - Razor Bug 1:05

 無伴奏でボブが絞り出すように歌った。デモをそのまま突っ込んだか。1分ほどの小品。このローファイで雑さが、むしろ彼らの魅力。こういう曲を落とさず、アルバムの中にしっかり入れ込むセンスは失われてない。
 媚びず、丸くならず。こういうタイプの曲を否定したらGbVとは言えない。

9 - I Wanna Monkey 2:49

 逆回転っぽいシンバルの音色でエイトビートを刻むドラムがイントロ。ギターが加わり、ぬるりとボーカルも入ってきた。
 じっくり溜めに溜めて、終盤30秒で現れるサビの力強さが抜群。トランペット音色がきれいに支えた。
 単純なアレンジ過ぎと、ドラムにエフェクトをかけたか。スタジオの効果とライブ感が融合した、ある意味本盤を象徴する曲。

10 - Cherub And The Great Child Actor 2:06

 ほんのりブルージー。前曲の手が込んだアレンジと一転して、メロウにじっくりと正統派で決めた。一筆書きメロディが炸裂して、華やかに歌い上げていくさまが素敵。
 スケール大きく曲は展開しつつ、サウンドの質感はガレージ的なこじんまりさあり。
 鍵盤をうっすら足して、ギターの響きに厚みと深みを付与した。
 ボブの滑らかなメロディが愛おしい。広がりある曲の世界観に任せ、浸っていたい。例によって2分とあっという間に終わってしまうけれども。

11 - Black And White Eyes In A Prism 4:38

 前曲からこの曲への流れが、本盤の大きな聴きどころ。相通じる世界観でつながり、さらに広げた。間奏での、ぶわっと厚いシンセ・ストリングスの響きが美しい。けっこうチープな音色だからこそ、本盤の雑味を残した風景に似合ってる。
 ローファイさを生かし、本盤はきれいに仕上げすぎてない。宅録っぽい鈍さを残した。
 その風景にストリングス音色がかなりの豪華さと、幾らかの侘しいショボさを両立させた。一つ所に留まらず、進み続けるGbVを称えるような響きだ。

12 - People Need Holes 2:42

 疾走のテンポをいったん溜めて落とし、さらに少し上げる。いわゆる盛り上がりと違う流れをあえて取り入れた。
 骨太でじっくり語り掛けるようなメロディは、性急なボブには珍しい落ち着きだ。
 中盤で入ってくるエレキギターのダビングも頼もしい音色。一筆書きの極致で、さまざまなメロディのモチーフが散らばり、切り替わっていく。
 不思議な安定感と、浮遊感が混在する面白い曲。

13 - The Bell Gets Out Of The Way 2:26

 甘酸っぱいメロディが素敵な曲。キックが軽くて、小さな音で聴いてると打ち込みに聴こえてしまう。
 とても可愛らしく進んでいくのに。曲間で思い切り音をブーストする悪戯を入れるのがGbV流。とはいえサビまで含めて、ポップさが溢れた。
 間奏はブラス・シンセとストリングスを入れ、どこまでも豪華に進む。いわゆるパンキッシュな勢いは消し、ひたすらメロウにまとめた良曲。
 なのにこういう、地味なアルバムの位置に入れるあたりがなんとも贅沢。

14 - Chain Gang Island 3:51

 メロディのテイストはともすれば前曲に似ているが、こちらはギターバンドのアレンジで賑やかに盛り上げた。あまりテンポを上げず、じっくり気味。
 サビでメロディが持ち上がりそうで足踏みする感覚が耳に残る。コードに対しメロディがすぱすぱと突き刺さっていく。
 なおアレンジはライブっぽい風景へ、サイケな色合いを混ぜた。最後はジェットマシーンでシンフォニックに飛ばしていく。4分弱の曲だがGbVにしては大作感あり。

15 - My (Limited) Engagement 2:06

 前曲がクライマックス、これはアンコールっぽい面持ち。ミドル・テンポで、さっくりした切れ味のロックを示した。
 ギター・ソロがペラペラな音色で、空気を軽やかに切った。ボーカルのエコーがあちこち飛び交いながら、幕。(2022/8記)

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