Guided by Voices

"Earth Man Blues" Guided By Voices (2021:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing - Travis Harrison
Additional Drums Recorded By Ray Ketchem

 のびのび自然体。しかし立ち止まらない。GbVは短いリリース・ペースで、多彩で旺盛な創作力を提示し続けた。
  2021年初のアルバムは、前作"Styles We Paid For"(2020)から4ヵ月後のリリース。ミュージカル風作品とか没曲の集大成、ってふれこみだった。
 コロナ禍で移動もままならない地元で録音のはず。プロデュースやエンジニアがトラヴィス・ハリソンで、追加のドラムのみレイ・ケッチャムが担当って布陣も前から変わらず。
 
 ガイディッド・バイ・ポラードはベテランらしく、自分らのサウンドをさらにコンパクトかつ成熟させる方向には向かわなかった。
 シンセを駆使と思われるが、あえてダビングを重ねる。バンド・サウンドのシンプルなアプローチでなく、シンフォニックかつ手の込んだアレンジを採用した。

 作為的って書くとニュアンスは少し違う。でもバンドの一体感よりもスタジオで音操作をひときわ行った感じ。音色も構成も。
 バンドっぽいスピーディな勢いはもちろんあるが、いっそロバート・ポラードのソロめいた趣もあり。ライブの再現性よりも、楽曲の複雑さに軸足を置いた。
 
 なんでもかんでもコロナ禍に創作動機を結び付けるのはいかがなものか、はわかってる。
 だけど本盤を聴いてると、終わりの見えない閉塞感を暴れてストレス解消せず、理知的に向かい合って音楽へ鬱憤を発散させて、収斂させたかのよう。

 とはいえ何でもありのGbV。アルバム全体は見事に八方破れ。
 曲ごとに音の質感はまちまちだし、音楽性はバラバラ。デモテープ集みたいなGbVのムードを、プロのスタジオ仕事でまとめた。
 だがアルバムの中でも、アレンジのアイディアが豊富なのは歴代でも指折り。立ち止まらず、前のめりな勢いあり。

<全曲感想>

1. Made Man 1:22

 軽く硬いドラムに導かれたこの曲は、なんだか歌声が硬い。小気味よくひとしきり暴れたあと、急にオーケストラ音色のブリッジに導かれてミュージカルっぽく語りを入れた。
 そのあと、アリバイ作りのように元の平歌に一瞬戻ってすぐさま幕。一筋縄ではいかないぞ、って宣言みたいなオープニング曲。

2. The Disconnected Citizen 3:12

 牧歌的なアコギのストロークが響くイントロ。ボブの声はこの曲でもなんだか頼りなげに揺れる。老いを示すかのように。別人格を演出の声づくりかな。
 ボブらしい瑞々しいメロディながら、ひとつながりよりも断片を接ぎ合わせたようなチグハグさも少し。
 そしてこの曲もストリングス音色のシンセで豊かに膨らませた。
 終盤に現れ、波打つように重なるサビの柔らかいメロディが愛おしい。
 そのまま残響で終わらず、子供のうめき声みたいなSE入れて捻るところが、いかにもGbVっぽい。

3. The Batman Sees The Ball 3:18

 捩じり揺れながら畳みかける、ミドル・テンポのロック。整然と録音された質感は、一発録音の粗さを演出せずキチンと分離良く響いた。背後にうっすらコーラスを入れたり、ミックスもさりげなく凝っている。
 エッジの立ったクリアなサウンドが、むしろ乾いた無常観を演出した。
 ボブの歌声がちょっと揺れるが、丁寧に製作してる。エンディングもコーダできれいにまとめた。

4. Dirty Kid School 2:57

 無伴奏多重録音のアカペラ。GbVに無いアプローチだ。いったんギターの詰まった音のストロークでバンド・サウンドが鳴ると、耳なじみある世界に向かうけれど。
 しかしパンキッシュなビートも彼らにしては珍しい。一つパターンで収まらず、コロコロと途中で曲調を変え、アカペラとパンクを滑らかかつ力業で混ぜた。
 さらにパーカッションや指鳴らし、ごたついたオケ音色などでカーニバル風のにぎやかさも振りかける。
 3分弱に様々な要素を押し込み、弛緩なくまとめた。

5. Trust Them Now 2:19

 冒頭に感じた、危なげなボブの歌声はこの辺になると伸びやかと感じる。けれどプロトゥールズで加工したような、のっぺりと平板でぶれの無い歌声はやっぱり少し違和感残る。わざとなんだろうなあ。
 ザクザク刻むギターを軸に、止まず畳みかけるキャッチーな楽曲だ。少し影があり、全面的に能天気ではないけれど、シングルにも似合いそう。
 歌は止まらず。ドラムも派手に鳴り続けた。小細工なしでバンドが駆けていく。
 
6. Lights Out In Memphis (Egypt) 5:44

 6分弱の大作。GbVにしては。一般論でももちろん長め。この曲が一番、ボブのソロ作品っぽい。バンド演奏がベースとはいえ、場面転換が著しく楽器のダビングもかなりあり。
 語りを入れたり、賑やかに盛り上がったり。メドレーのごとく異なる楽想が混ざりテンポは変化した。ミュージカルというか、歌絵巻。取り留めない意識の流れを具現化する、ボブの一筆書きメロディの真骨頂だ。
 
7. Free Agents 1:59

 サビの跳ねるメロディが魅力的な曲。平歌で地面を耕し、サビで宙に浮きあがる。サビ前のギターが和音を重ね、焦らすようなアレンジも効果的。
 ボブの作曲術は本当にとめどない。
 少し奥まってお行儀のよい歌声は、ちと物足りないが。ミックスで楽器は分離良く、ボーカルもストンと収まった。
 若々しい曲ながら、若ぶらない。歳相応にあっさりと作品をまとめた。

8. Sunshine Girl Hello 2:26

 コラージュめいた要素がイントロから始まり、ボーカルは調子っぱずれっぽいラインで入ってくる。
 奇麗なメロディなのに、はめ込む和音がしこたまサイケで奇妙な味わいが強調された。
 サンシャイン・ポップな曲調だが、むしろドラッギーな酩酊感が先に立つ。ドラムを後ろに下げ、60年代のラジオみたいな風情を演出した。最後のギターソロも、取ってつけたかのよう。
 リピートして聴くと、継ぎ目無くイントロに戻って面白かった。古き良き60年代の雰囲気を、懐かしむと同時にプラスティックに歪ませている。

9. Wave Starter 1:33

 いまいち弾けず、ニューウェーブ気味に乾いたメロディを繰り返す。アコギのストロークとタンバリンを強調したイントロの生っぽいアレンジも意外と新鮮だ。
 いっぽうでベースが滑り込みエレキギターに素早く転換する構成も滑らかでいい。
 力押しのメロディを、ちょっと余裕と隙間チラつかせたアレンジで受け止めた、軽やかなアンサンブルが特徴の曲。

10. Ant Repellent 2:36

 あえてスピードを上げ過ぎず、じっくりと刻んだ。メロディはアンサンブルに絡みつくようで、わずか上滑りする。鍵盤をまぜたり潰した声でコーラスを足したり、語りをハーモニーに絡めたり。
 アレンジやミックスもライブでの再現性よりは、ごちゃごちゃに素材をミックスしたかのよう。
 乾いて尖った世界観は、前曲と同様に硬く響いた。

11. Margaret Middle School 1:10

 一転してバンド一発録音風のロックンロール。平歌が終わるあたりでいったん収斂する一体感もかっこいいな。幾本もギターを重ね、さらにクリアなギターが彩る音像は、GbVにしては珍しげ。
 歯切れ良く明朗に駆けていく。短いイントロからいきなり始まるこの曲は、リピート再生してるとつなぎ目を感じず、何度も自然に楽しめる。唐突に曲が終わり、イントロへブレイクのようにつながるため。
 凝り過ぎず、直観的に作ってる。 構成だけは。アレンジは丁寧にミックスしてるな。

12. I Bet Hippy 2:30

 ライブにて映えるバンド・サウンドかと思わせたら、ボーカルはディレイをたっぷりまぶしたスタジオ志向。いや、大きなスタジアムや野外ステージで、音の遅れまで込みと考えた効果?んなわきゃない。
 この曲、いっそこのボーカル処理が主眼ではと思いたくなる。シンプルなメロディをエレキギターの弾き語りとベースで支えるのみ。
 イントロで一瞬鳴ったパーカッションもスッとあっけなく消えてしまった
 終盤で大サビに向かいそうな予感だけを残し、そのままエコーの沼へ声が溶けていく。アイディアの勝利。

13. Test Pilot 1:30

 ノリがけっこうプラスティック。力任せにビートを刻まず、ドラムはハイハットとタム、キックをブレイクビーツのように組み合わせたような硬質さあり。
 エレキギター二本もくっきりと役割を分け、抜けの良い音像を作る。
 メロディは勢いで押せそうな流麗さもあるし、和音感も瑞々しい。でもサウンド・アレンジに釣られて、むしろクールにまとまった。

14. How Can A Plumb Be Perfected? 3:01

 前曲のようなキャッチーさは一分半であっさりまとめるのに。こういう混沌モゴモゴなムードに3分も使うあたり、拘らないボブらしい。
 どっぷりリバーブかかったボーカルは、デモめいたあっさりさ。ギターの弾き語りにチープなドラムを足しただけって簡素な仕上がりだ。

 地を這う危うげなメロディだが、音程が低めなだけで譜割はキャッチー。サビで歌い上げるためにワザと平歌の帯域を低く配置したか。
 ときおりアコギ数本が強いストロークでアクセントをつけた。これこそポップにまとまりそうな佳曲。しかしボブは一筋縄でいかない。メロディを使い捨てるかのごとく、無造作に歌って終わらせた。
 これはライブで育ててほしい曲。もしくは声域広い歌手が朗々とカバーしてほしい。

15. Child's Play 1:36

 アルバム最後はアイディアいっぱい、コラージュめいた曲。威勢よく畳みかけるビートは、フレーズごとにつぎはぎのような、ぎこちなさあり。小節単位の断片を力業で繋げたかのよう。
 フレーズの途中でバンドがブレイク気味に揺らいだり、演奏もさりげなく凝っている。
 だがノリはばっちり。前のめりにぐいぐいと進んでいく。ちょっと都会的なしゃれっ気も漂わせるメロディだが、曲の質感はローファイ寄りの荒々しさ。  (2021/10:記)
 

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