Guided by Voices

"Crystal Nuns Cathedral" Guided By Voices (2022:Guided By Voices Inc.)

Vocals, Guitar, Artwork - Robert Pollard
Bass, Vocals - Mark Shue
Drums, Vocals - Kevin March
Guitar, Vocals - Bobby Bare Jr.
Guitar, Vocals - Doug Gillard
Producer,Engineer,Mixing - Travis Harrison

 円熟、貫禄。そんな言葉が頭に浮かぶ。
 ガイディッド・バイ・ボイシズのは本35作目のアルバムで、各曲をじっくりとまとめた。
 おおよそ3分前後の曲が並ぶ。普通のバンドなら短めながら、GbVでは長めなくらいだが。

 ロバート・ポラードは本作で、バンド・サウンドを丁寧に作った。弦をダビングなどアレンジに工夫は施しつつ。ライブ感の痛快さよりも、胸にたぎる熱さを捻じ伏せたような盤。
 コロナ禍のステイホームで鬱屈感の表れと解釈は安易に過ぎるか。すくなくともGbVはバンドの一体感を作り、アンサンブルの強固さを本盤で示した。
 
 二回目の再結成後、GbVはずいぶんと落ち着いた。メンバーが固定され、安定した。まるで悠々自適の定年後活動を楽しんでるかのように。
 毒気を薄めつつも、ボブは作曲の奔放さはそこかしこに炸裂させた。

 いっぽう本盤では、その八方破れ感がずいぶんと薄まった。オーソドックスなロック・バンド回帰のように。けっしてバンド・アンサンブルのみに固執はしてない。弦を少し、効果的にダビングした。
 けれどもゲストを招いたり、突飛なアレンジを施したり。そんな飛び道具や小細工を使わない。あくまでもギター・バンドの枠組みで曲を磨いてる。

 ずいぶんと落ち着いたものだ。この盤を聴いて感じた感想は。メロディやコード感はボブ流の節回し、でも昔ならもっと、パンキッシュにドタバタと暴れてたろう。
 ここではじっくり丁寧に紡ぎあげた。GbVと丁寧。およそ馴染まぬ概念ながら。

 これをGbVの代表作とは言わない。むしろこれは聴き続けてきたファン向け。等身大のGbVをてらい無く表現した暖かさが広がるから。
 刺激は少ない。歳をとったなあとしみじみしながら、この盤を噛み締めたい。聴くほどに、味わいはしっかり広がってくるから。

<全曲感想>

1. Eye City 4:11

 初手からどっしり。ギターを重たくゆっくり奏でるリフが、じわじわと曲を高めていった。テンポは遅めだが、決してスローではない。強い芯を通しながら、しかし抑制したパワーが滲む。
 ボブの奔放で炸裂する勢い良さを、かなり控えた楽曲。でもメロディはボブ節。
 老成した落ち着きを感じさせる。衰えたとは言わない。
 中盤以降で鈍く輝くチェロなど、弦のダビングがとても効果的。

 本盤収録曲は2022年ツアーであれこれ取り上げた。だが本曲はまだステージに掛かってないみたい。映えそうなのに。チェロの再現が難しいと考えたのかな。

2. Re-Develop 3:05

 これもテンポが緩やか。あと20年早かったら、この曲もスピード上げて奏でてたろう。
 ぐいぐいと伸びやかに上がっていくメロディが、愛おしい。だからこそこの控えめなテンポはもどかしい。歳をとったボブの選択肢なのは容易に想像できるけれど。
 ダブル・トラックで瑞々しく料理したセンスは、まだ輝いてることをありがたく思おう。
 歯切れ良さを求めるなら、過去の盤を聴けばいい。この曲では、巨大な工場で鋭くも重厚な刃が、すぱりとユックリと素材をカットする静かな輝きを連想した。

3. Climbing A Ramp 2:39

 弦が畳みかける重厚で渋い響きに、エレキギターがズバリと斬りこむ勇壮さが聴きもの。
 これもテンポは控えめ。アウトロで少し走っていくあたり、スタジオできれいに作りながらもメトロノームに支配されない荒々しさが滲むようで、面白かった。

 小刻みに畳みかけるハイハットと弦。シンプルなイントロに導かれ歌が始まり、やがてドラム・セットやギター、ベースが加わる。弦の激しさを残したまま。
 このドラムはハイハットとは別に、エイトビートを刻むかのよう。

 シンプルな編成ながら、なんとも勇壮な光景を描いた。ハードロックの歪みやプログレの壮大さを使わぬ、バンド・アレンジを主としたままで。

4. Never Mind The List 2:49

 高いエレキギターの硬い響きが鍵盤のようにひらめいた。ゆったりと、しかし芯の強いドラムに導かれ、ベースが着実に動いた。
 そこへギターが乗っかり、ボーカルを引き立てる。落ち着いたロックの穏やかながら逞しさ。
 スタジアム級の大会場でも、映えそうな迫力がある。録音そのものはエコー成分を極端に足してないけれど。ぶわりと広がる残響が、映えそうな曲だ。

5. Birds In The Pipe 2:55

 一人掛け合いが地味ながら効果的。平歌の掛け合いがサビで一つにまとまる。どっしり抑えたドラムに導かれ、さらに騒々しく大サビっぽい盛り上がりをみせ、あっというまに強引エンディングへ持ち込むあたり、ボブらしい。
 アイディアをいくつも詰め込むより、ひとつのメロディを大切に磨き膨らませたかのよう。
 パイプオルガン云々と高めの音域で歌う声に、乱れや惑いは無い。まだまだ現役感あり。
 とはいえこのテンポ感や落ち着きを選ぶあたり、歳相応の振る舞いだけれど。この曲も2022年ツアーでは披露無し。

6. Come North Together 2:52

 比較的、前のめりのテンポ。だけど速いとは言い難い。やはりこの盤は歳を取ったメンバーの姿を意識してしまう。若ぶって暴れてみせるより、ずっと等身大でいいけれど。
 この曲も、テンポは抑え気味。ぐいぐい速く駆けても映える鮮烈さはある。
 GbVは敢えてじっくりと、一筆書き気味にメロディを紡いだ。この曲はコード感が好き。甘酸っぱさがときどき、閃くかのよう。

 終盤でパーカッションめいた高音を作ったのはエレキギターかな。アウトロに入り、もっと味わいたいのに、さくさくとフェイドアウトしていくのが悔しい。
 これも2022年ツアーでは披露無し。ライブでもカッコよさそうなのに。意外。

7. Forced To Sea 3:33

 最初はシンプルにギターがじっくり。おもむろにボーカルが加わり、バンドが入ってくる。バンドが入った後は、ロックとして聴けるけれど。前半部分は前衛ジャズっぽいエレクトロ感で好き。逆回転のギターらしき音も、うっすら効果音的に足した。

 およそGbVのスタイルとは逆だが。ボブがギターを鳴らしながら考えるように、散々溜める。ドラムやバンドを加わらせ、おもむろに歌い始めた。そんなストーリー性を3分半の曲で作り上げた。

 ドラムが加わるのは1分40秒経ってから。本盤で最も実験的な曲。2022年ライブでは未演奏。まあ、ビールかっくらいながら、騒々しく盛り上げるには似合わない。家でじっくり聴くと、素晴らしく刺激的だけど。

8. Huddled 2:49

 コンボ編成のアレンジながら、今一つ覇気がない。ボブ節のメロディが次々に溢れ、一筆書きで次々に展開していく。
 そんなボブの作曲術は楽しめる曲。演奏が大変なのか、単に気が載らないのかわからないけれど。
 ステージでも映えそうな気がするのに、2022年ツアーでは披露無し。
 
9. Excited Ones 3:03

 イントロにクラップを少し入れ、歯切れ良い。明るめの曲なれど、どこか係留感残る重たさも少し。 
 高めの声域を使ったボーカルは、ダブル・トラックで甘酸っぱさを強調した。テンポを上げずじっくり演奏するあたり、年輪が滲む。もっと早いテンポのほうが、魅力はました。まあ、歳を取ったのは仕方ない。むしろ若々しいメロディを操れる瑞々しさを褒めよう。

10. Eyes Of Your Doctor 4:05

 これもテンポ選択は緩め。しかしサビでグワッと広がる解放感は魅力的だ。
 数音のシンプルなギター・インストに導かれ、地味目の平歌からサビへの落差が最高。
 スタジアムクラスの大会場も似合う。いわゆるシングル・ヒットを狙うスタンスや野心は希薄だとしても、こういう曲をさらりアルバムの終盤に配置してしまう贅沢さがGbVっぽい。

11. Mad River Man 4:12

 盛り上がりそうなのに、上滑り。ポップなメロディをキチンとバンドでアレンジしながら、どこかよそよそしく硬い。これは本盤に特有の落ち着きもしくは煮え切らなさゆえ。
 ピアノの低音をかぶせた2音のリフは、シンプルだがカッコいい。こういう簡素で効果的なアプローチはきっちり聴けるのに。本盤全体に言えることだが、どうも本盤は昏いムード。それもこれも全部、コロナやリモート録音に関連付けるのも芸がないけれど。

12. Crystal Nuns Cathedral 1:45

 アルバム最後にタイトル曲を持ってきた。ずしんとドラムを響かせ、エレキギターで刻み、アグレッシブさは出した。テンポがもうちょい速くて、ボブの声も今少し前に出てたら、とは思う。しかし加齢もあり、仕方あるまい。
 さりげないハーモニーの補強など、滑らかで小気味よい佳曲。アルバムのタイトルにふさわしい。(2023/6記)

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