Galaxie 500
・・・Luna & Demon&Naomi

This is our music/Galaxie 500(1990:Rough Trade)

Produced & engineered by Kramer at Noise New York

Dean Wareham:g,vo
Damon Krukowski:ds,back vo
Naomi Yang:b

Krammer:mirage and cheap flute,back vo

 彼らのラストアルバム。これ以来、彼らはルナとデーモン&ナオミへ決別してしまう。
 どちらのサウンドもギャラクシー500の面影を微妙に残してると思う。
 彼ら自身がギャラクシーを完全否定したとは思いたくない。
 いつの日か、再結成して欲しい。

 録音は90年の6月。アルバム一枚、一気に完成させた。
 このときのアウトテイクは4曲。どれもボックスセットに収録され、オフィシャルで聴くことができる。

 ちなみにディーンはボックスセットに寄せた一文で、本盤のレコーディングをこう表現してた。
 「スタジオは緊迫した雰囲気に包まれていた」

 すでにギャラクシーは分解しつつあったんだろうか。
 実際にはこの翌年。91年3月にコクトー・ツインズの前座として行ったツアーが、最後の活動だったと記されている。

 実際の人間関係はさておき。このアルバムはとにかく素晴らしい。
 演奏、曲、そしてもちろん録音。
 全てが見事な出来で、ギャラクシーの世界をがっちり構築した。
 
 演奏技術が追いつかなかったデビュー盤や、クレイマーの才能に圧倒された二作目とは対照的だ。
 バンドとプロデューサーが対等に価値観を主張しあい、個性的な音を生み出している。
 解散が決定しているがゆえに、すごく皮肉なアルバムタイトルだ・・・。

 もしギャラクシーを聴こうと思ってる人には、ぼくはこの盤を薦める。
 この文章を書くために何度も聴いていて、確信した。

<各曲紹介>

1.Fourth of July

 イントロからキャッチー。ずわずわっとドローンがフェイド・インして、高らかにギターがリフを奏でる冒頭部分は、何度聴いても惹きつけられる。

 ポエトリー・リーディングっぽい歌い方をしつつも、サビではやはり耳ざわりのよいメロディをばっちりぶつけてきた。
 クレイマーのプロデュースは、どの楽器もクリアに聴かせながらも統一感を残す。
 つねに動きつづけるベースラインの素晴らしいこと。

 曲のなかで、ギターがさまざまな断片を紡いでは消えて行く。 
 そのどれもが魅力的なフレーズだ。すごい。
 フランケンシュタイン的な作り方ながら、隙のない名曲だ。

 作曲者は3人の連名だけど、曲調にはディーンっぽさを感じる。
 なので「"ぼく"はスタイルを変える時期に来てるかも」って歌詞を聴くのが、なんだか辛い。裏読みしすぎ・・・かもしれないけどさ。

2.Hearing voises

 ゆったりとしたアコギのストロークがまず耳へ残る。
 エコーを効かせ、白玉でかぶさるさりげないハーモニーもいい。ほんのりピッチがずれてる気もするが。

 クレイマーがふりかけたとおぼしき、リバーブの使い方が絶妙だ。
 ボーカルの末尾が闇にすうっと広がり、溶けてゆく。

 バグパイプっぽい響きのギターソロも聴きもの。ときおりきしっと音が震えるところもいとおしい。
 メロディもリズムも素晴らしいが、夢見ごこちな音像を作り出したエンジニアのクレイマーを力いっぱい称えたい。

3.Spook

 テンポは前曲と似てるものの、今度はエレクトリック・ギターでアレンジした。
 粒立ちのいいベースは、この曲でもしっかりサウンドを支えている。

 妙に不安定な歌いっぷりがいかにもギャラクシー。
 ドラムがエコーをたんまり抱えて懐深く見せようとしても、どこか危なっかしい。

 この曲では、シンバルの音色が気にいった。しゃっきり歯切れ良い金属音が、リバーブの効いたタムと対照的に響く。
 ポイントでバシャン、と鳴るのがスリリング。

 エンディング間近で聴けるストリングスっぽい音は、特にクレジットなし。
 クレイマーがキーボードで弾いてるのかな。

4.Summertime

 これまたギターのつぶやきで始まる。イントロのアイディアはどれも似たり寄ったりじゃない?
 前曲に続き、エレクトリック・ギターで締まった音を出す。
 フラフラ揺れるボーカルは、電気的に加工をしてるようだ。
 
 どこが悪いってわけじゃないが、ギャラクシーのセルフ・パロディみたいに聴こえてしまう。
 ギャラクシー・サウンドであるがゆえに、いまいちのめり込めない。

 わずかに奥へミックスされたギター・ソロも悪くない。
 リフをときおりベースとユニゾンさせ、深みもたせた。
 それよりソロの間じゅう、前面でスネアをやけに連打するデーモンが印象に残る。

5.Way up high


 イントロはクレイマーによる、かぼそいフルートのメロディが鍵。
 ミドルテンポのビートで、自然と体が動く。ビートに乗って踊るんじゃなく、そっと身体を揺らす感じ。

 この曲でもボーカルにはたんまりリバーブがかけられた。
 あっさり気味な歌い方なので、アクセントが欲しかったのか。
 
 クレイマーのフルートは、エンディングでもいっぱい鳴る。少々寂しげに。
 フルートは多重録音のアンサンブル。でも線の細さは変わらない。
 時間は4分ほどあるが、小品のイメージが強い。

6.Listen,the snow is folling

 ナオミがボーカルを取る。はっきり言ってへたくそな歌だが、エコー処理でだいぶ気にならず聴ける。

 サウンドはタンバリンを中心にパーカッションが細かくかぶせられ、小技も効いている。
 メロディがシンプルな構造なので、アレンジのセンス一発で個性を出す方法を選んだのか。

 「Snowfall〜♪listen〜♪」とランダムにナオミが歌い、ぐうっとアンサンブルが盛り上がる瞬間が、この曲の真骨頂。
 たった三人のアンサンブルが、すさまじく厚みを持って聴こえる。

 どかすか鳴るドラム、シンプルに低音を蠢くベース。
 ギターはときおり音を外しながら、歪んだ音色で自己主張する。
 曲としてではなく録音作品として、むちゃむちゃ楽しめる一曲。

 曲にして約8分。だが5分くらいはインストだ。
 最終部分のギターバトルはディーンとクレイマーの掛け合いだといいなぁ。
 ディーンの多重録音とも聴こえるけど。

 なんにせよ曲の価値観をがっちり理解した、ある種冷徹なプロデュースだ。

7.Sorry

 特に突出したとこはないが、気になる一曲。
 ハーモニーのかぶせ方に特徴あるくらいか。
 透明なコーラスのきれいなこと。もうちょっと派手にアレンジして欲しかった。ごく一部でしか聴けないのがもどかしい。
 クレイマーがこういうコーラスアレンジするの、あんがい貴重だと思う。

 中盤でのオルガンも効果的。ボーカルが一段落したとこでビートをシンバルが刻み、ブレイクっぽいムードを出すとこも好みだ。

 そうそう。忘れちゃいけない。
 この効果はワウかな?ふにゃふにゃ震えながら漂うギターの音色も気持ちいいです。

8.Melt away

 ギャラクシーの代表曲にあげてもいいだろう。
 Aメロとサビだけ。シンプル極まりない構成だが、伸びやかなボーカルで歌われると、とたんに説得力が出てくる。

 この曲は演奏の美しさも聴くべき。さりげなくコードをかき鳴らすギターの響き一発にすら、説得力がある。
 リバーブをギターとボーカルにどっぷり振り掛けて、人工的なドリーミーさを強引に作り出した。

 だが彼らのサウンドは、その力づくな音像こそが個性に昇華されている。
 皮肉でもなんでもない。スタジオ機材の力を借りたハッピーを、バンドサウンドで体現した貴重なバンドだと思う。

 とはいえライブもこの不安定な魅力を再現してるとこに、ギャラクシーの底力だけど。

9.King of Spain part 2


 この曲は88年2月、ギャラクシーの初期セッションで録音されている。
 だから「part2」なんだろな。
 オリジナルアルバムでは、この曲が最後を飾る。

 奇妙なことにクレイマーはこの曲でエコー成分を控えめにした。
 ギターの響きやロングトーン主体のボーカル、シンバルのロールなどで広がりを持たせているが、あとは素直に音を作ってる。

 ウッドブロックかなにかを叩く音が、ある周期で響く。サンプリングじゃないと思う。でも、妙にメカニカルなアレンジだ。
 
 トランペットっぽい楽器が、エンディング部分で淡々とフレーズを繰り返す。
 空虚な幸福感に切なくなってしまう。

 これまでギャラクシーは、エコーに包まれて存在を維持してきた。
 そのギャラクシーへの決別を、あっさりしたミックスで表現したんだろうか。
 裏読みしすぎかな。

10.Here she comes now

 ボックスセットに収録されたボーナス・トラック。もともと、本盤と同じ90年6月のセッションで録音された。

 なぜボツったかは謎。曲の構造こそシンプルだが、メリハリの効いたアレンジで充分作品として成立している。
 
 ファルセットで同じラインを強引になぞるハーモニーが面白い。
 あ、もしかしたらこのあまりにサイケなとこが敬遠されたのかな?

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