Galaxie 500
・・・Luna & Demon&Naomi

On fire/Galaxie 500(1989:Rough Trade)

Produced & engineered by Kramer at Noise New York

Dean Wareham:g,vo
Damon Krukowski:ds
Naomi Yang:b

Ralph Corney:ts on 6
Kramer:cheap organ on 10,cho

 1stの頃に比べ、かなり演奏がまとまっている。
 アレンジに小技を仕込み、曲全体の出来への目配りが向上。
 そのまとまりゆえに、皮肉なことにアルバム全体の印象が軽くなってしまった。

 かなりクレイマーの意志が反映したアルバムだと思う。
 ただ、ライナーを見る限り。けっして意思を押し付けたわけじゃなさそうだ。
 あくまでクレイマーはプロデューサーの立場から、アイディアをいくつか提供しただけ。
 
 でも、そのアイディアをすんなり受け入れて、深みのある音世界を受け入れたギャラクシー側も素直なもんだ。
 おかげでこのアルバムは、統一感のあるサイケ・ポップな盤になった。

 あと一つ足りないのは、強烈なフックを持ったメロディ。
 素で勝負できる名曲が、あと数曲欲しかった。
 印象的なのは(1)と(5)くらい。
 統一感があるけれど、ピントがボケてしまった盤のような気もする。

 ボックス盤ではエンハンスドCD仕様で、「When will you come home」のプロモ映像を収録。
 ふらふら揺れるカメラワークで、演奏シーンをカラーで写している。
 ディーンがシミーTシャツを着てるのが妙に面白い。
 動く彼らの映像そのものが貴重なだけに、いろいろと手を加えて「アート」っぽくしたビデオのつくりでくやしい。
 よけいな加工はいらないから、じっくり彼らの演奏シーンを見たいよ。

<各曲紹介>

1.Blue thunder


 サビでふわっと舞い上がるファルセットが心地よい、ミドルテンポの曲。
 エンディング近くでハモる高音はクレイマーかな。
 ギター・ソロはメロディを少しづつ展開する、シンプルなもの。
  
2.Tell me

 線の細いファルセットから始まった歌声は、優しくメロディを乗せていく。
 アコギの響きが、アレンジにすてきなアクセントをつけた。
 パーカッションが細かくかぶせられている。
 この曲をあたりが、1stと比較してアレンジの幅が広がったいい例だろう。 
 もちろん、ギターソロは健在。
 音をひずませながら、リバーブを効かせてゆったりと羽を広げていく。
 ファルセットで歌い上げるシング・アロングのピッチがよければ、最高だったのに。

3.Snowstorm

 引き続きミドルテンポの曲が続く。
 リズム隊は、リバーブに包み込まれてもっこもこ。
 そして、サビでどかんと前面に出てきた。

 いろいろミックスに凝ってるから最後まで聴けるけど、曲の出来はいまいち。
 ファルセットのメロディが似てるせいか、"Tell me"の習作に聴こえる。

4.Strange

 ぱっと聴きながしてると、ギャラクシーの歌はどれもこれも同じように聴こえる。
 メロディを歌い上げるパターンが好きだからだろう。

 なので、こうした下降するメロディタイプの曲がはさみこまれると、新鮮な気分。
 サウンドの出来そのものは、妙に荒っぽい。
 
5.When will you come home

 軽快な雰囲気の佳曲。
 線の細い歌声はあいかわらずだけど、サビでコーラスを幾重にもかぶせて厚みを出した。

 ギターソロもじっくり構え、カッティングとフレーズの双方でぐっとノリを高めあっていく。
 リバーブの効いたドラムで始まるイントロの清涼感に、エンディングの混沌さ。
 二種類の魅力を一曲へ、贅沢に押し込んだいい曲だ。 

6.Decomposing Trees

 ちょっとアラブっぽい雰囲気が漂う。
 サックスのフレーズのせいだろうか。
 タンバリンが効果的に使われてる。
 メロディは単調だけど、アレンジがいい。

 この文を書こうとじっくり聴いてて、丁寧に手をかけて作ってることに、初めて気がついた。
 ラルフ・コーニイのサックスは何本も重ねられ、ギターソロがいつのまにか割り込んでくる。
 ギター数本、サックス数本。
 何本もの音色が多様に絡み合い、複雑な表情を瞬間的につむぎだす。

 込み入った音像が、とにかく魅力的。
 クレイマーのミックスの勝利、とあえていいたい。

7.Another day

 かぼそくナオミが右チャンネルで、メロディをなぞる。
 地に足がつかず、ふわふわと歌声が漂っていく。
 バッキングはつたないながらも、淡々と進んでいく。
 ポイントポイントでハイハットを唸らせる、デーモンのドラミングがかっこいいぞ。

 ディーンはストイックにギターを引き続ける。
 エンディング間近でナオミの歌声を、ディーンらが支えた。
 両方のチャンネルからデーモンのドラムをはさみ、舞い上がっていく。

 ギターとボーカルとドラムのコンビネーション。
 このしごくあたりまえな三つの要素をさりげなく絡みあわせ、がっちり溶け合った一曲のできあがり。
 これもやっぱりクレイマーによる、ミックス力の手柄かな。

8.Leave the planet

 調子っぱずれにハーモニカを鳴らすのはクレイマーだろうか・・・。
 つられたのか、歌いだすボーカルのピッチもかなりあやしい。
 めずらしく荒っぽく、性急にバンドを引っ張っていく。

 ドラムもタムを多用し、せわしない雰囲気を加速させる。
 メロディの求心力はいまひとつ。正直なところ、あまり耳に残らない曲だ。

9.Plastic bird

 ギター、ベース、ドラムのからみあうアンサンブルがまず印象に残る。
 調子っぱずれに歌うメロディは、ちょっと弱いかな。
 眩暈しながらくるくると、曲が舞い上がっていく。
 きれいにひずむギターの陰に隠れそうなミックスだけど、ベースがメロディアスでかっこいいな。

10.Isn`t it a pity

 ジョージ・ハリスンのカバー。もっとも、オリジナルは聴いたことないんですけども。
 妙な小細工をせずに、ストレートにメロディをなぞっていく。
 リバーブでお化粧された音像は、けだるげに歌声を包む。
 
 ずしんと2・4拍で踏むバスドラに、数本重ねられたギター。
 いつのまにか登場してアレンジを膨らませるパーカッション群やオルガン。
 この分厚いアレンジは、スペクターも意識してるんだろうか。

 エンディング1分くらいの盛り上がりは、病みつつも華やかだ。

11.Victory garden

 レッド・クレイヨラのカバーです。ただ、オリジナルは耳にしたことありません。すみませーん。
 爪弾くギターこそ前曲と似通っているものの、ドラムはシャープになるしエレキギターは明るく響く。
 ここらへんの細かいアレンジの気配りがさすが。

 3分足らずで、あっさりと曲を演奏を終わらせる。ちょっと物足りない。

12.Ceremony

 これはニュー・オーダーのカバー。しかし、オリジナルは未聴です・・・ごかんべんを。
 
 エレキギターが前面に出て、神経質に刻んでいく。
 歌声は対照的に抑えた雰囲気。
 間奏で、小さくギターがハウリングした。
 そこから若干演奏は生気を取り戻す。

 フレーズをしたたらせるギターソロは控えめ。
 この曲では、しゃっきりと音符を弾いていく。
 
 あのハウリングがどうしても気になる。
 わざと残したのか、あまり気にしないでミックスしてしまったのか。
 クレイマーのことだ。どちらもありえそう・・・。

 きぃんと軽く一発ハウっただけで、この曲の表情があっさり変わったのに。

13.Cold night

 しょっぱなのヘロった音程の歌で、ちょっとくじけてしまうけど。
 演奏はシンプル。スローテンポでしっとりとアルバムを締めくくる。
 
 曲そのものもそれほど展開しない。
 一つのメロディを着実に、なんどもなんども繰り返す。
 
 そしておもむろに登場する、太いギター。
 ゆったりとフレーズを確かめ、泳いでいく。
 あっというまに終わってしまって残念。
 ギターソロだけで、3分くらい持たせて欲しかった。

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