Galaxie 500
・・・Luna & Demon&Naomi

Today/Galaxie 500(1988:Rough Trade)

Produced & engineered by Kramer at Noise New York

Dean Wareham:g,vo
Damon Krukowski:ds
Naomi Yang:b

Kramer(?):harm,key

 ギャラクシー500のデビュー盤。
 88年2月と88年7月にクレイマーが所有するスタジオ、ノイズ・ニューヨークで録音された。

 演奏はきっぱりいって、へた。
 リズムは甘いし、アンサンブルもドタバタしている。さらにボーカルは線が細い。
 だけどそのたどたどしいバンド演奏に、クレイマーはたっぷりリバーブをかけ、音像を一気にロマンティックな物へ変化させた。
 
 デーモンによれば、録音したときのクレイマーは膨大なマリファナの煙の中にうずもれていたそうだ。
 そんなクレイマーは、このアルバムを作るのに大して時間をかけなかった。
 どうやら、数日で全てを録音してしまったらしい。
 しかも、ほとんどがワンテイクで。

 霧の中を漂うようなギャラクシー500の個性的な音が、既に完成されている。
 メンバーには悪いが、かなりクレイマーの才能に引っ張られて出来上がった一枚だと思う。

 もっとも彼らの最大の魅力である、ギターソロが既に確立しつつある。
 早弾きでこけおどししたりしない。
 迷いながら道を進むように、青白い音色でへろへろとフレーズをゆらめかせる。
 
 96年にでたボックスセットには、「king of Spain」のボーナストラックと、「Tugboat」のビデオCDつき。
「king of Spain」は88年2月のセッションで録音されたもので、彼らがAurora Recordからリリースしたシングル、「Tugboat」のB面曲だった。

 ちなみに88年2月録には、上記2曲のほかに「Oblivious」と「I can`t believe it`s me」が録音されている。

「Tugboat」のビデオは、粒子の粗い映像で作られていて、基本は青白い色で統一された白黒映像っぽい。
 森の中を歩くメンバーと、超アップの演奏シーンをカットアップさせていくが、ぐいんぐいん動くカメラワークが落ち着かない。
 しかもエンディングには、さまざまな爆発シーンがいくつも挿入される。
 これらがカラフルで、妙に安心感がある(笑)
 そんな感じの、妙に「アーティスティック」な作品だ。

<各曲紹介>

1.Floers


 アルバムのしょっぱなから、ギターソロが最高の曲。
 長いフレーズ回しで、舞い上がるようにギターが泳ぐ。

 サビの最後でやさしく「オウ、イェァ〜・・・」とつぶやき、リバーブがぐぐぐっとかぶさる瞬間がたまらない。
 
 はかなげな感触と、冷たい雰囲気が見事に同居した名曲。

2.Pictures

 ドラムが多少トロい。
 ティンパニのような音色のフロアタム(?)を的確に盛り込んで、リズムを刻む。
 ベースはほとんど目立たず、ドラム自身がリフを提示する。

 後でかぶせたギターは、ほぼ全編に渡ってオブリ的なメロディで遊ぶ。
 へろへろのハーモニーが、妙にシミーっぽさを感じた。

3.Parking lot

 いたってタイトなドラムだが、ベースに思い切りリバーブをかけられて、サイケ風味は健在。メロディも軽快。
 どこかひねくれた感触が最高だ。

 3分弱の小品なのに、ギターソロをたっぷり聴けるのも嬉しい。
 おぼつかなげにシンバルで絡む、デーモンのドラミングもいいぞ。

4.Dont let our youty go to the waste

 クレイマーはギャラクシーの音を初めて聞いたとき、「彼らは2コードのドローンを演奏しだして、知恵遅れかと思った」という。
 どの曲のことかわからない。でももしかしたら、この曲じゃないかな。

 冒頭から前のめりのリズムで、延々とワンコードのまま突き進む。
 わずかな変化は、オブリを入れるディーンのギターのみ。
 3分ほどこの状態を延々と続け、やっと甲高いボーカルが入ってきた。

 ふあふあと不安定にメロディをたどっていく。
 バックのリフはまったくといっていいほど変化しない。
 6分間に渡って繰り広げられる、単調な曲。
 だけどもちろん、その単調さがとても魅力的だ。

5.Temperature`s Rising

 そっとギターのストローク。
 ベースはやさしくよりそい、ドラムがチキチキ刻んで応援する。
 そしてボーカルの登場。

 夢の中みたいにふらつく曲展開は5分以上あるというのに、妙に小品っぽさを感じる。
 
 数本重ねられたギターが繊細にソロを取る。
 ソロのメロディは、すばらしく美しい。 
 というかこの曲は、どの楽器も音色が魅力的だ。

 だからこそクレイマーの、荒っぽいミックスにとまどう。
 ときおり左チャンネルで、すぽっと音が抜ける感じがするんだよね。

6.Oblivious

 この曲もあっさりしたギター・ストロークによるイントロ。
 もうちょっとイントロのリフも気にすりゃいいのに。
 かぶせられたハーモニカは誰が吹いたんだろ。クレイマーかなあ。

 なんかサビのあたりで、ピッチがふらつく。
 ちなみにこの曲、テープスピードを遅くして歌を録音したとか。

 ああ・・なんか悪口ばっかりだな。
 この曲、キュートなのに。
 サビで高音のハーモニーで雰囲気を高め、ころころっとギター・ソロになだれ込むところは、とってもいかしてる。

7.It`s getting late

 頼りないボーカルが、際立って目立つ曲。
 一方ギターはかっこいい。リズムギターとリードギターがフレーズを絡み合わせてイキイキしている。

 バックでシンセの白玉が登場。これを引いてるのはクレイマーだろうか。
 もしかしたら、ベースやギターもかなりクレイマーが差し替えていたりして。

8.Instrumental
 
 手触りはザクザクっとしてる。
 タイトルどおり、ボーカルはない。
 カッティングとメロディを交互に振り分けたアレンジが見事。

 これを聴くと、あんがい楽器演奏もうまいなと思う。
 霧の中にいるようなミックスで、音像のピントがボケてるせいもあるだろうけど。

 エンディング間近で、ツインリード状態で盛り上がるギターがいい。

9.Tugboat

 シャパシャパと刻むハイハットの音が目立つ曲。
 1stシングルになった曲だが、それほど魅力あるメロディとも思えない。
 ぼくなら「Oblivious」をA面に持ってくるけどなあ。

 ボーカルはところどころで、力任せに唸ってみせる。
 ギターは対照的に鷹揚としたそぶり。
 素直な音色で、ゆったりとソロを展開していく。

 そして、全体をリバーブが優しく包み込む・・・。

 オリジナルLPでは、ここで終わり。 
 
10.king of Spain

 ボックスセットでのCD化に際して、つけくわえられたボーナストラック。
 メロディがおそろしく単調だ。
 地べたをはいずるように、淡々と歌っていく。

 だから、サビでがらっと変わった瞬間にホッとする。
 なんとも不思議な曲だ。
 
 ギターソロは、この曲もたっぷり時間を取っている。
 ここでも二本のギターが互いにソロを受け持ち、多層的に盛り上げる。
 エンディング寸前で、スピーカー中央からギターがぐぐっと登場し、強引に曲を終わらせる。

 ギャラクシーの個性はどこまでも強烈だ。

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