Galaxie
500
・・・Luna & Demon&Naomi
Playback Singers/Damon
& Naomi(1998:Sub
Pop/RYKO)
All instruments and vocals by Damon Krukowski and Naomi Yang
Recorded at home, 1996-7
デーモン&ナオミの3rdは、前作から3年ぶり。
発売は前作同様サブ・ポップから。なお、ぼくがもってるのはRYKO盤です。
クレジットのとおり、全て自分たちで作り上げたアルバム。
とうとうクレイマーと決別したか・・・って、当時はさみしかった。
本盤はほぼ自宅録音らしい。ジャケットには楽器がいろいろ並んだ室の写真がある。
左側には本棚。広々とした部屋に数本のマイク、ギターやベースやスネアが並ぶ。
写真に写る窓の外は、緑が爽やかに広がりすがすがしい。
似たような雰囲気の部屋で、さくっと録音したのかな。
ジャケットは他に、各種楽器のどアップ写真が数枚。
明るい色合いでポップなデザインだ(ちなみにデザインは、今作もナオミが担当)
自分たちの写真は、裏ジャケに一枚のみ。二重露光で二人が重なり合って写っている。
モノクロっぽい色合いが、いかにもナオミ好み。
クレジットで"Compromising quality for the sake of
nostalgia" とある。
「懐かしさを出すために、音質はそこそこです」って訳せばいいの?
もっともそれほど、聴きづらい音質じゃない。
多少ヌケこそ悪いものの、ギャラクシーのリバーブたっぷりな音像に慣れてる耳には、かえって親しめた。
個々の楽器の音は、むしろ生々しく分離されている。
前作から時間をかけてじっくりと、自分たちの音楽を見直したのか。
素朴ながら、じわっと味のあるサウンドがつめこまれた。
デーモン&ナオミの音楽は、ルナほど吹っ切れてない。どこか後ろ髪を引かれる。
アップテンポに押す曲なんて、ひとつもない。バラードやゆったりしたテンポばかり。
ほんのりセンチメンタルで優しさの詰ったデーモン&ナオミの音楽性は、本盤できっちり固まった。
音数を少なくしたアレンジが効果的なアルバム。
過去のキャリアを総括し、さらに内省的な音楽を追及する旅の、最初の成果といえる。
気持ちがゆったりと休む。心地よいムードに満ちた好盤だ。
<各曲紹介>
1.Turn Of The Century
ベースがゆっくりメロディを重ね、アコギはリズムを刻む暖かいイントロ。
ゆっくりとデーモンが歌い始めた。
うっすらとシンバルやパーカッションはたまに鳴るが、ほぼリズムはアコギのみ。
リバーブがいっぱいかかった、ギャラクシー500直系の音。
違いは視点の率直さ。ここにはまっすぐ見上げた力強さがある。
サビで聴けるか細いファルセットへ惹きつけられた。
ヒットを意識した音作りとは思えない。
でもこの曲のアレンジやミックスはアルバム全体の中でも特にまとまっている。
シングルカットにぴったりな名曲。
惜しいことに、メロディが淡々としすぎ。強烈な印象を残さない。
聴いてる間は、すごく心地いいのに。
2.Eye Of The Storm
こんどはナオミが歌う。
ギター数本、ベースにドラムときっちりアレンジされている。
ドラムはスネアとシンバルだけの簡易セットみたい。
エレキギターがゆっくり、ふわふわ音を遊ばせる。
幻想的な雰囲気がたまらない。
中盤で聴ける、エフェクターで音を伸ばしたベースやギターのソロも面白いぞ。
メロディは繰り返しこそ多いが、「サビ」の位置づけはあまり意識してないようだ。淡々としてる。そんな散文的な曲。
3.In The Sun
アレンジは細部まで気を配られた。
ギター数本を丁寧にかぶせ、ベースがそっと音像を締める。リズム系はアコギだけかな。
何度も聴いてるうちに、好きになった。
切々とギターとボーカルが絡み合う構成が、優しくて可愛らしい。
メインボーカルはナオミ。
たどたどしい歌い方すら、魅力にしている。
4.The Navigator
デーモンが歌うこの曲は、ほんのり緊張感とさみしさがある。
散発的に打ち鳴らされるパーカッションが雨音みたい。
一番耳につくのはアコギだが、音像のキモはベースだろう。
ひっきりなしに旋律をボーカルにぶつける。
訥々と鳴るキーボードはアコーディオンかな?
アコギがかき鳴らされ、ぐうっと盛り上がる構成がいかしてる。
5.I'm Yours
どっぷりリバーヴがまぶされた。やはりベースがアレンジの主役だ。
こういう音作りはクレイマーのお家芸なはずなのに。なぜ別れてしまったんだろう。いつものようにトラブルか・・・?
メイン・ボーカルはナオミだが、サビではデーモンも裏声でハーモニーをつける。
サイケで重苦しくドスの効いたアレンジに押し付けがましさを感じないのは、果てしなく歌い継ぐナオミのボーカルのおかげだろう。
せわしなく音を紡ぐベースがいとおしい。
6.Kinetoscope
ほのぼの。
前曲とはうってかわって、明るいムード。
基本はアコギとベースのみのシンプルなアレンジで、そこへ乗っかりデーモンが歌う。
ダブル・トラックを使って、夢見がちなニュアンスをつけくわえた。
ソロ楽器はアコーディオン風な音。あえてギターを使わぬとこがいい。
サウンドを脳天気に広げず、どこか煮え切らないところがデーモン&ナオミらしい。
7.Awake In A Muddle
本盤は基本的にデーモン&ナオミの自作だが、2曲だけ他人の曲がある。
これは馬頭将器(from Ghost)の曲。このころから交流あったんだ。
Ghostは詳しくなく、書き下ろしかカバーか不明。
ご存知なかた、ご教示いただけると嬉しいです。
歌詞は英語だが、ジャケットに記載なし。版権がらみかな。
中盤で鳴るキーボードは尺八っぽい響き。日本風味を狙ったわけじゃないことを祈る。すげー違和感あり。
曲そのものは、デーモン&ナオミのカラーに沿ったメロディ。いくぶんムードが明るいかな?
パーカッションやアコーディオンなど、賑やかなアレンジに乗って、ナオミが歌う。
8.We're Not There
4拍目の裏に入るウッドブロックの響きがかわいい。
ドラムはいちおういるものの、やはりアコギのストロークがリズムを担った。
ベースは音量控えめで目立たないものの、強引に単音を連続させたりメロディに突っ込んだり。かなり大胆に弾いている。
ここまで派手なベースが続くとこを見ると、あながちクレイマーの影響とは決め付けられない。
ナオミの好みでもあるんだろう。
ボーカルはデーモン。冒頭でたっぷりとイントロがある。「この曲はインストかな?」と思わせるくらい焦らした上で、すらりと歌いだした。
リズム隊がきっちりアレンジされてるので、歌声はまるでソロ楽器。
いや、ベースが自由に動いてるから、ツイン・ソロかな。
あえて「異物」としてボーカルをアレンジしたセンスを評価する。
9.Translucent
Carriages Tom
作曲者はTom Rapp。すみません、詳細不明です。
この曲も歌詞が記載されてない。歌うのはナオミ。
シンバルの響きを有効に使ってふくよかな響きを出しているが、アコギ、ベース、シンバル。目立つ楽器はそのくらい。
素朴な編曲だ。
デーモンのさりげないハーモニーも効果的。リバーブたんまりで幻想的な雰囲気を盛り立てる。
トラッドかフォークか。サウンドの感触はそのあたり。
でも、違和感あるのは曲のビート。
決して聴き手を踊らせない。
ぺたっと足を止めて座らせ、リラックスさせようとしてるみたい。
ここまで散文的な曲へ慣れてただけに、まっとうに展開する構成に違和感を感じちゃうのが我ながら面白い。
デーモン&ナオミの音楽世界から、日常の音楽へ戻るリハビリもかねてる・・・ってかんぐるのは、想像がすぎるだろうけど。
本盤でさりげないクライマックスを務めた佳曲。